24-② 猶予
"治験1型:ハーネス"。特殊合金で出来た首輪型の機器。
テンジョウ ナズナの"近親多児受胎"への策としてジーベルによって考案されていた試作品。
このハーネスには、"色色岩"が利用されている。
色色岩は、核師達が能力を使用する時に無意識下で消耗している"核エネルギー"を吸収し、発散する性質があった。
これを利用し、ハーネスを着用した核師の力は、本来の50%程度にまで出力が落ちる。ただし、大きな欠点があり、常に"核"を吸収し、放散するハーネスは、着用者に強い倦怠感をもたらす。
その為、実際に人に施行されることはなかったが、今回の統治主総大令により強行されることなった。
ハーネスを着用しても、能力が使えない訳ではない。ただし、能力の使用はハーネスに記録され、核師監督器官の"イージス"の許可無しに能力を使用すれば、厳しい罰則が課せられる。
つまり事実上、ジャンクを狩るその時の。イージスの許可の下でしか、能力を使用することは出来なくなった。
そのハーネスの欠点をジーベルは明かした。「色色岩は、一定以上の核エネルギーの蓄積によって色付き、さらに一定以上の核エネルギーが流れた時に破損する。色色岩が破損すれば、このハーネスは機能を完全に停止する。」
しかし、核師は、殆どの者が"無意識下"で目に見えない核エネルギーを使用している。核エネルギーを知覚し、色色岩という決まった一点に核を流し込み、破損に至らせるという行為は、実に高度なものだった。
更に、問題はそこだけでない。ジーベルは続けた。「色色岩が破損することで、ハーネスの機能が停止すると分かれば、イージスはハーネスの改良を求めてくる。新型のハーネスが出来るまで、能力の使用は禁止されるだろう。ハーネスを破損する方法は上には隠したまま、ここぞという時に利用すべきだ。」
つまりそれは、信頼できる仲間で、尚且つ、核エネルギーを緻密に制御できる強者でなければならない。ということだった。
理事長室のソファに座るナユタは困っていた。
テーブルを挟んだ向いにはリン。リンの膝に乗るアルバラ。
自分の右隣には、現在ナユタが所属する部隊のリーダー。感覚種序列1位のレオラフ・ネグリラント。切れ長の目にツーブロックの髪は、ピョンピョンと跳ね上がり、まだ30代だが目立つ若白髪は、少し混じるを通り越し、束になって黒髪と斑ら状になっている。
レオラフの更に隣に座り、ナユタから見たら横向きになって座る女性は、組織種序列2位のコヨリ・ハープネス。ボリュームのある黄土色の髪は胸の辺りまであり、前髪はセンター分け。ずっとアルバラに視線を向けて「めんこいなぁ。」なんて言いながら恍惚とした表情で眺めている。
ナユタの左隣に、こちらもナユタから見れば横向きになって座る男性は、組織種序列3位のダリオ・フェルモント。黒髪をオールバックにカチカチに固め、口周りには丁寧に整えられた髭を生やした、ダンディなおじ様。
「……。」
「……。」
「……。」
「…………。」
誰も何も話さず時間が過ぎていた。
一通りの挨拶や紹介を済ませ、今はトラヴィスが来るのを待っていた。理事長室によくいるハナも不在だ。
(き……。気まずいんだよ!僕だけしか感じてないけど!僕だけなんだけどさっ……!この沈黙を気にしてるのは……!)
ナユタはそんな事を思いながらトラヴィスが早く来ないかとソワソワする。
(そもそも!!ユウトのお母さん治しに行くのに皆んな連れて行かなくてよくない?!テンジョウ家の核師と皆んなに、核のコントロールの修行つけるのに、指導者として既に色色灯をともすことが出来る人間が必要ってことも……!他の核師は修行に時間をさく分、色色灯がつけられる人間だけでベリーの護衛をまわさなくちゃいけないのも……!分かったけど……!!僕、リンさんとまともに話した事ないし……!そもそも、信頼できて強い核師の選定を僕に丸投げ………………!凄いプレッシャーなんだよぉぉ!!)
すると、隣に座るレオラフがナユタに声をかけた。
「ナユタ。体調悪いなら休め。」
するとコヨリが言う。
「なんねぇ。しんどいんー?無理しったらいけんよぉ?」
さらにダリオが言葉を重ねる。
「自分のことを、自分の大切な人のことのように抱擁する。そんな時も必要だよ。Mr.ナユタ。」
ナユタは、全員が裏表無く言っていることに、ありがたさと困惑を感じながら言葉を返す。
「………………大丈夫です……。体調不良とかでは……。ないので……。」
それにレオラフが間髪入れずに返す。
「なら、もうちょっと落ち着け。」
(レオラフの耳がいいせいでっ……!正論なんだけど……!ほっといてほしい……!)ナユタ
「…………はい。」ナユタ
そんな会話をした時だった。
バンッ
理事長室のドアが勢いよく開け放たれる。
「おっまたぁぁあーー!!!」
トラヴィスが大きな声を出しながら入って来た。
それにコヨリとダリオが言葉を返す。
「わぁ。元気そうじゃねぇ。体調も大丈夫そうじゃぁ。久しぶりじゃねぇ。」コヨリ
「素晴らしい太陽光だね。気持ちが晴れ晴れとするよ。」ダリオ
それにトラヴィスは「コヨリー!ダリオー!レオラフー!ナユター!アルバラー!お久さー!!リンさんこんにちわー!」なんて言いながら、リンの隣に元気よく腰掛けた。
「…………。」レオラフ
(…………。あぁ……。レオラフさんのがでる……。)ナユタ
トラヴィスは座ってからも言葉を続ける。
「聞いて!血清適合問題無しっ!!今のところ、副作用も無し!!ジーベルが唖然としてたっ!!もー戦っていいって聞いたらダメっていうんだぜ?!くうっそぉぉー!!」
すると、レオラフはすっと片手を上げて、発言の許可を待っているかのようだった。それを見たトラヴィスが、「あっ!レオラフ!どうぞっ!」と言って元気よく指名し、レオラフが口を開く。
「先輩に対して、失礼を承知でいいます。」
「なになに?!」トラヴィス
「扉を開く前に、まずはノックをするべきや。」レオラフ
「………………あ。………………はい。」トラヴィス
レオラフが続ける。
「扉は優しく開けて、腰掛ける前に、隣の者に一声かけるべきです。そんな勢いよく座ったら驚かれるでしょう。」
「………………はい。」トラヴィス
レオラフの言葉は続く。
「少なくとも僕らは、貴方が2回目の血清適合を行うと聞いて心配してました。いつもの元気な姿が見られたのは嬉しいことですが、もっと落ち着いて、丁寧に説明するのが、仲間への礼儀でしょう。それに、ジーベルさんも心配してらした。ほんとに、心身削る思いやったと思います。あまりに軽率な態度はどないなもんかと。」
「………………け、…………けいそつ?…………あ。いや………………。はい。…………すみません。」トラヴィス
「…………。」
トラヴィスが塩らしくなると共に、部屋が急激に静かになった。
(…………。レオラフ…………。真面目すぎるんだよね……。いや……。貴重な真面目な人材なんだけど……。)ナユタ
するとコヨリが口を開く。
「まぁ。まぁ。レオラフ。ええじゃんかぁ。元気が一番じゃけぇ。あんまり言い過ぎたら堅苦しゅうなってしまうけぇ。それに時間もないしぃ。私らも修行に入らんといけんけぇね。」
ダリオが言う。
「事実と正しさよりも、彼の光りは僕らの活力になり得る。彼らしさも。時にはいいものだよ。レオラフ。」
2人の言葉に、トラヴィスは半泣きになりながら「コヨリぃぃ。ダリオぉぉ。」と言っている。
すると、少し考えたレオラフは、今度は頭を下げた。
「すみませんでした。それが貴方であることを、僕は考えに入れらてませんでした。僕の落ち度です。」
「もぉいいよぉぉおお。大丈夫だからぁぁああ。久々にレオラフと話して思い出したよぉぉおおお……。謝らないでぇぇええ。」トラヴィス
(……ここはここで、いいバランスなんだよなぁ……。イーネ達と混じったらどーなるのやら…………。胃が痛い……。)ナユタ
半泣きのトラヴィスはさて置かれ、リンは傍に置いていた袋の中から色色灯を取り出した。その数6つ。
リンは5つをテーブルに置き、一つをトラヴィスに差し出した。
トラヴィスが言う。
「ん?あ。俺?」
それにリンが返す。
「貴方元々、明かりをつけることが出来たんでしょ?今も出来るか。やってみない?」
「おっ!いいぜぇっ!」
トラヴィスはリンの手の平にある色色灯を取り、自分の手の平に乗せる。
「えーっと。こんな感じっ!」
色色灯が黄色く光る。
暫くすると、光りを失い、無色に戻った。
リンが言う。
「そのまま、力を込める出力を上げて、石を割ることが出来る?」
「んーっ。やってみる!」
再び色色灯が黄色く光る。
そのまま暫く光り続け、トラヴィスは「ぐぬぬぬぬぬ。」と力んでいる様子だが、一向に色色灯が割れる気配は無い。
暫くして、「ぷはぁっ!」とトラヴィスは力を抜いたようだった。
色色灯は、今度は無色に戻らず、黄色い石となって存在している。
トラヴィスが言う。
「うわっ!黄色い石になった!けど、こんなもん割れるの?!割るまで力込めるってヤベーっ!」
するとリンが言う。
「色付くまで出来るだけで上出来よ。それは、そのまま長い時間放置すれば、核エネルギーが放散されて、また無色に戻るわ。」
そう言いながら、リンはテーブルに置いた色色灯を一つ手に取る。
それは青い光りを放ち始めた。
どうやら、リンが色色灯に力を込めているらしい。
そして暫くして、色色灯はピシッという音と共に表面に亀裂が入った。
少しして、青い光りが落ち着いてくると、色色灯は亀裂の入った青い石となる。
リンが言う。
「こんな感じ。これ以上力を込めれば、バラバラに砕けるわ。掃除が面倒くさいから。」
そう言って、青い色色灯をリンはテーブルの上に戻した。
逆に、ナユタ、レオラフ、コヨリ、ダリオの4人は、テーブルの上の無色の色色灯を手にする。
そして、それぞれが、色色灯に力を込める事を試したようだった。
だが、誰1人として、光りが灯る気配もない。
コヨリが言う。
「うそじゃろ?こんなん光るん?私にはこれっぽっちも出来る気ぃせんわぁ。」
ダリオが言う。
「そもそもの、"核"を流し込む。それ事態を僕達は知覚出来ていない。いやぁ。これは。シビれる難しさだ。ワクワクするねぇ。」
レオラフが言う。
「トラヴィス先輩。何かコツのようなものを教えて頂けませんか?」
それにトラヴィスが答える。
「んっとねぇ!こうっ!ぼわぁっと!じゅじゅじゅーっと!」
「……………………。」
レオラフが言う。
「僕の落ち度です。リンさん。何かコツなどはありませんか?」
「なんでぇ?!!レオラフぅぅううううっ!」
半泣きのトラヴィスに誰も触れずに、リンが言葉を返す。
「悪けれど。"核"というものを知覚せずに能力を使ってる貴方達の方が信じられないわ。それは力の根源よ。まるで貴方達は、幹が無いのに枝葉を振っているようだわ。一体どうやっているのかしら?」
「……。」
「んんー。手痛い指摘じゃあねぇ。」コヨリ
リンが続ける。
「だからこそ、アドバイスできるとしたら、貴方達が"核"と呼ぶものは、血液や神経のように、確かに体を流れるものよ。"色色灯を光らせよう"と意識しないことね。それはあくまでも目安のようなもの。もっと大きな流れを掴むべきだわ。」
「……なるほど。」レオラフ
リンのアドバイスをもとに、それぞれが核のコントロールの修行に入る。
それはテンジョウ家でも同様に繰り広げられいる。
残された時間は、もう3日と無い。




