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24-① 猶予

「よいしょ……。よ……。いしょ……。」

 

 まだ暗い時間。どこかの大きな家。


 小さな女の子が1人でキッチンに居る。


 黄色い髪を自分で2つ括りにしたのかボサボサで、子供にしては大きなリュックに、お菓子を沢山詰めている。


 誰にも内緒でやっている事らしく、たまに周りを気にしているようだった。


 そんな少女の近くに、どこからともなく、1匹の黒猫の姿を現した。


 黒猫の背中は、まるでテントウ虫のように白の斑点模様があり、尻尾の先が三つに分かれている。


 その猫は、少女に声をかけた。

 

『ルア。』

「うわぁっ!」

 

 少女は驚いて大きな声を出してしまい、慌てて両手で口を塞いでいる。


 少女は周りを確認して黒猫の方を見ると、不満そうに言った。

 

「お喋り猫さんっ。もぉ。びっくりさせないで。」

 

 少女の言葉に黒猫が返す。

 

『こんな時間に、そんな大きな荷物を持って。どこにいくんじゃ。』

 

 少女にとって、この猫が人のように話すことは当たり前らしく、少女は不満げな表情を浮かべたまま言う。

 

「お姉ちゃんの所っ!」

 

『ここで待っててと。言われたんじゃろ?』

 

「もー!猫さんまでっ!」

 

 少女は小声ながらも不満を露わにしながら言う。

 

「皆んなルアを置いてけぼりにして、ルアだけ仲間はずれっ!いつまで待ってたらいいのかも知らないもんっ!もぅ、ルアの方からお姉ちゃん達に会いに行くのっ!決めたのっ!」

 

『…………。』

 

 そう言いながら、子供の思考で遠出の準備を進める少女の様子を、黒猫は黙って見る。


 少ししてから黒猫が言う。

 

『じゃが、姉達の居場所は分かるのか?』

 

 それに、ルアと呼ばれる少女は得意げに返す。

 

「ルアね。ベリーとイーネが隠してた封筒。みちゃったんだぁ。」

 

『封筒?』

 

「そこにね。"たいようばいおかんぱにー"って書いてあったの。多分、お姉ちゃん達はそこにいるんだよっ。」

 

『…………。』(『あっとるなぁ……。』)

 

 また黒猫が言う。

 

『じゃが、その。たいようばいおかんぱにー。がどこにあるかは知らないじゃろ?』

 

「うん。だから、皆んなに聞いて行くっ!」

 

『………。遠いんじゃないか?乗り物に乗るのにお金がいるぞ?』

 

「うんっ!お小遣い貯めてたからっ!見てっ!」

 

 そう言ってルアは、ピンクの財布の中身を猫に見せる。

 

(『…………結構あるんじゃな……。』)

 

 ルアは満足そうに、また荷造りに戻る。


 お菓子ばかり詰めているルアの様子を、心配そうに黒猫は見つめていた。

 

(『……ほんとに1人で行くつもりじゃな…………。マーリアスからガルダまで……。大人でも遠い距離じゃ……。子供1人なんてとんでもない。…………仕方あるまい……。』)

 

 黒猫が言う。

 

『じゃあ、わしも一緒に行こう。』

 

 その言葉に、ルアは目を輝かせる。

 

「本当に?!」

 

『あぁ。1人じゃ心細かろう。』

 

「そうなの!でも猫さん来てくれるならルア安心!嬉しいっ!」

 

『子供1人で遠くに行くのには変わらん。気をつけるのじゃよ。』

 

「うんっ!」

 

『…………もう少し、飲み物を持っていった方がいい。』

 

「分かった!」

 

 そうして、ルアの旅の準備は完成していく。

 

(『……ガルダは港がある。本当は陸路の方が早いが、そもそもこんな夜中に電車が動いとらん。もうすぐ朝方。港の方なら人がいるじゃろ。……それに、船で寝るじゃろうしな。利用する人間も限られるから、電車よりは安全に寝れるじゃろ。あと、乗り換え云々が、まだシンプルになる。』)

 

「よし!できたっ!」

 

 そう言って、完成したリュックを背負うルアに黒猫が言う。

 

『まだ暗いしなぁ。駅に行くよりも、港の方が早く動くかもしれんぞ。』

 

「じゃあそーする!いこっ!猫さん!」

 

 ルアは施設の裏口から外に出て、黒猫と一緒にまだ暗い街の中を歩いて行った。


 ――――――――――

 ルアは船の停泊場に来ていた。


 施設を出る時には暗かった空も、子供の足で歩いているうちに朝日がのぼり、周囲は明るくなっていた。


 港にはちらほらと人がいる。


 まだ乗船場所は閉まっていて、中に入れる様子が無い。


 ルアはあたりをキョロキョロと見渡し、乗船場の職員だと思われる人を発見して、大きな声で声をかける。

 

「おはよーございまーすっ。」

 

 それに気づいた職員は手を振って「おはよう。」と返してくれる。


 まだ開いていない船着場に小さな子供1人。


 掃除中だと思われるその職員は、箒を片手にルアに近寄って来てくれた。


 しゃがんでルアと視線合わせて職員は言う。

 

「お嬢ちゃんどうしたの?」

 

 それにルアは「えっと……。」と少しモジモジとしながらも答える。

 

「"たいようばいおかんぱにー"に行きたいんです。」

 

 ルアの言葉に、職員は驚いた表情をして言葉を返す。

 

「タイヨウバイオカンパニーって……。最近ニュースでやってる……。確か、ガルダだよね?……。えっと……。お嬢ちゃん1人?お父さんやお母さんは?」

 

「お父さんお母さんは居ないの。お姉ちゃんがいるけど、その、たいようばいおかんぱにーに居るの。」

 

「そうなのか……。でも、お、お嬢ちゃん1人でガルダまで?!…………。け、結構遠いよ?……。」

 

 職員はどうしたものかと不安の表情を滲ませる。


 ルアが言う。

 

「お姉ちゃんに会いに行きたいんです!お願いします!」

 

 テレビではタイヨウバイオカンパニーについての物騒なニュースが流れている。


 そのことをルアは知らないのだが、勝手に事の背景を悟った職員は、意を決したように言う。

 

「そうか……。分かった。他の街も経由するけど、7時発でガルダに向かう船が出るよ。中の待合所で待ってて。船が出る前に声をかけるから。船に乗る職員にも、君のことは話しておくよ。ガルダにつく時には声を掛けてもらうようにするね。」

 

 それにルアは表情を明るくして答える。

 

「ありがとうございます!」

 

 そうして、職員のサポートもあり、ルアは船に乗りこむことが出来た。


 1人きりの船旅に目を輝かせ、暫くたった所で適当な場所で眠りについたルアを、ルア以外の誰の目にも触れることなく、黒猫は近くで見守っていた。

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