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red. -能力者が神様に挑む話し-  作者: テオネオ
第二十三話 やっと主人公と敵が揃った編
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23-⑤ 世界を滅ぼせますか

 <テンジョウ家>

 

 和風建築の一室。美しい中庭が見える、広い部屋の中。


 6畳ほどのスペースを半透明の青いガラスのような物が四角く覆っていた。


 それはテンジョウ ユキハルによる結界。


 その中央には、浴衣を着た女性が布団の上に座っている。


 シワのある顔だが、歳の割には若くて可愛らしい雰囲気だ。


 彼女が、テンジョウ ユキハルの第三婦人、テンジョウ ナズナ。ユウトとレンの母にあたる。


 その結界の外側で、テンジョウ ユキハルが女性と横並びになるように座っていた。


 テンジョウ ユキハルの斜め後ろにはテンジョウ レン。


 そして、その3人と向かい合って、ベリー、イーネ、ユウトが座っていた。


 ベリーは、いつも使っているという日記を膝に準備していて言う。

 

「改めて聞いてもいい?"あの子"に書き残すから。」

 

「…………ああ。」ユキハル

 

 すると、ユキハルはことの経緯を説明する。


「"異質症" 。血清適合後、想定していた能力が発言せず、元々のジャンクがもつ特質の中で、予想とは全く別の能力が発現する稀な副作用だ。ナズナはそれに当たる。


 ナズナの力に付けられた名は、"近親多児受胎(きんしんたじじゅたい)"。通称"マリア"。


 私がナズナと出会った当時、ナズナは27歳で3人目の子となるアヤセを妊娠していた。彼女の特異体質を何とかして欲しいと。タイヨウが私に頼み込んできたのが彼女との出会いだ。


 "マリア"の能力。それは、性交渉なし。単純な他者との接触のみで妊娠に至ることだ。」


 レンが僅かに息を呑んだ。ユキハルは続ける。


「この能力の恐ろしい所は、接触者を女性に限定しても妊娠する所だ。更に、皮膚と皮膚が直接触れ合わなくてもいい。近くにいるだけで、妊娠に至る。


 だが、現代を普通に生きてきた人間が、他者との触れ合いを一切無くして暮らせよと。突然そんなことが出来るものか。当時のナズナは、何度も堕胎を繰り返すか。何度も妊娠、出産を繰り返すか。その2択であった。」


(妊娠期間中は当たり前だが妊娠しない。ある意味で、妊娠期間ってゆーのは、ナズナにとって安全な期間でもあったんだろうな。)イーネ

 

 ユキハルは続ける。


「私はナズナを妻として迎えいれた。だが、マリアの力を抑制する方法としては、結界の中に閉じ込める。そんなことしか私にはできなかった。既に産まれている長男と長女、お腹の中にいるアヤセの片親は誰か分からないままだ。更には、出産直後から、マリアの脅威が迫る。子供の世話も大変だ。


 そこで、ナズナの母親と姉の協力のもと、ナズナの血縁者であることを伏せて、ナズナの母親を私の第一婦人として、長男は、私と第一婦人の子供だとし、ナズナの姉を第二婦人として、長女とアヤセは、私と第二婦人の子供だとした。」


 これによって、テンジョウ ユキハルが複数人の女性を娶ったという全容が見えてきた。ユキハルが続ける。


「結界の中に入るのは私のみとし、私自身にも、結界に入る前に更なる呪い(まじない)をかけてナズナの世話にあたった。それでもナズナは、次の子を妊娠した。それが、ユウトの姉にあたる。


 それだけ、私の力だけではナズナの力を抑えるには不十分だったということだ。


 ナズナが最も恐れていたことは何か。


 それは、自分の家族、自分の子供との子供を妊娠することだ。そこで、見出されたものが。"血清適合"だ。ナズナの能力の研究は、同時進行で行われており、その研究によって、血清適合が済んだ核師とは、ナズナの妊娠確立がぐっと抑えられることが分かった。」

 

 テンジョウ家が核師で身内を固め、子供にも血清適合を進めていった理由が見えてくる。ユキハルは続ける。


「そんな中で、ナズナと仲のよかった同期や、この家に派遣部隊として来た核師が、この家に協力すると申し出てくれるようになった。ナズナは、核師とでしか、まともに会話も出来ん。ありがたいことだった。そんな奴らが"テンゲ"などと名乗り、分家としての立場をとるようになった。モミジなどは、それに当たる。


 ………………少し話しは逸れたが、結局は、ナズナの能力の根本解決には至らず、時が過ぎ、ナズナはユウトを妊娠した。


 ユウトが産まれて暫くして、テンジョウ家で監禁していたアルバラが逃走をはかった。まだ幼かったユウトを利用してな。」


 今度はユウトが息を呑むようだった。ユキハルが続ける。


「アルバラはここを出ていく時に私に言い放った。ユウトには、私の呪い(まじない)が効かないように。ナズナとの子を妊娠するように呪い(のろい)をかけたと。そんなようなことだった。そうして、ユウトを家に置いておくことが出来なくなった。


 今思えば、アルバラはユウトに、テンジョウ家の言葉を覚えさせたくなかったんだろうな。その為の嘘だったんだろう。


 私の血縁者である、ユウトの姉、ユウト、レンは、テンジョウ家の言葉が扱える。ユウトの服従の能力の対象に、自分があることに気づいていたんだろうな。


 そのこともあって、私は、私の術式が完成されるように模索していた。そのタイミングで声をかけてきたのがマシロだ。マシロの力を借りることによって、私の術が完成されたものになり、ナズナは束の間の自由を手に入れた。そのかわり、マシロに協力することが条件だった。」

 

(タイヨウからは、ナズナの能力の研究と、血清の提供。マシロからは、術式の補完。ユキハルは、それぞれに貸しがあった。文字通りの板挟み。だな。)イーネ

 

「たが、マシロが死んだ今。ナズナを再び結界の中に閉じ込めることしか出来ない。ナズナも、もう60歳になる。堕胎・妊娠・出産。どれもリスクでしかない。」


 ゆっくりとユキハルは頭を下げた。それに続いて、結界の中のナズナも頭を下げる。


 ユキハルが言う。


「君達姉妹のことをマシロ達に話したのは私だ。恨みはあっても義理などないだろう。…………だが。…………頼む。ナズナを。助けてやってくれ。」


 ベリーは日記に走らせていたペンを止めていた。


 ベリーが答える。

 

「そんなに詳しく話してくれなくても良かったんだけど。」

 

「そ。そうか。すまない。」

 

 誰かより弱い立場にいるユキハルを見慣れていないのか、レンは戸惑いの表情を浮かべ、ユウトは少し面白そうにしていた。


 ベリーが言う。

 

「血清適合。私達は、そのことに詳しくないけれど。もしかしたら、遺伝子情報に影響している可能性があるわ。」

 

 ユキハルとナズナは頭を上げていた。ユキハルが聞く。

 

「……遺伝子情報……?」

 

 ベリーが答える。

 

「テンジョウ ユキハル。あんたもガドに力を貰ったくちでしょ?あんたの能力は何よ。」

 

「…………。」

 

 ユキハルが答える。

 

「私は、"ガド様が扱う言葉と文字"が扱えるようになることを願った。その言葉が、どこのものかは知らない。ガド様が居なくなってしまわれた後、私だけが扱える言葉と文字だとして"テンジョウ家の言葉"だなんて言われるようになった。……私の能力。それは、"ガド様が使っていた言葉と文字が使え、それらの力が引き出せる"。それだけのことだ。」

 

「あっそ。それはどーでもいいのよ。」ベリー

 

「………………どーでもいいのか。」ユキハル

 

 レンの戸惑いの表情が強くなり、ユウトの面白がっている表情が強くなっていた。


 ベリーが言う。

 

「問題は、その力が、あんたの子供に遺伝していることよ。」

 

「……遺伝……。」ユキハル

 

「普通、生まれ持ってじゃない、後から獲得したもの。特に他人から授けられた物なんて遺伝しない。後から容姿を整形したって、それが子供に遺伝しないようにね。けれど、私はボルドーとか言う奴にもあったけど、そいつは2世で能力者だった。血清適合にも、その性質があるのだとしたら。それは遺伝子情報に影響を及ぼしていることになる。」ベリー


「………治せない……可能性があるのか……?」ユキハル

 

「"あの子"なら治せるわよ。…………逆に言えば、"あの子"にしか治せない。…あの子であっても、大掛かりな作業になるだろう。って話し。…………あの子は何も言わないだろうから。私が言っとくわね。」ベリー

 

「…………。」

 

 ベリーはゆっくりと日記を閉じながら、視線を下げる。

 

「じゃ。"変わる"から。」ベリー

 

「……。」

 

 ベリーがゆっくりと瞳を閉じる。


 ベリーの体を僅かな淡い光が過ぎたかと思えば容姿が変わる。


 緑色の髪は、二つくくりのお団子ヘアにアレンジしていたのが、前下がりのボブに、ゆるりとカールがかかっている。緑色の瞳に、ぼーっとした表情。


 "彼女"はユキハル、ナズナ、レンの顔を確認し、そのままゆっくりと周囲を見渡して、後ろに居たイーネとユウトを確認した。そして、イーネに視線を止めて言う。

 

「"おはよう"。」

 

 それにイーネが優しく言葉を返す。

 

「おはよう。」

 

 彼女は視線をユキハルに戻して言う。

 

「"初めまして"。」

 

「……あ……。ああ。」

 

 彼女の視線は、今度は膝に置かれた日記に移り、何も言わずににパラパラと中を確認しだした。彼女が日勤を確認する間、ただただ沈黙の静かな時間が流れる。


 彼女。もとい、本来の姿をしたベリーは、日記を閉じて傍に置いた。ベリーが言う。

 

「……その結界の中に入っても?」

 

 その言葉に、ユキハルは戸惑いながら答える。

 

「あ…………。ああ。」

 

 するとベリーは立ち上がって、ナズナを囲う結界に近づく。


 結界の直前で一度足を止めたが、ベリーはまた進み、半透明の青いガラスのようなものを透過して中に入った。


 そして、正座で座るナズナの目の前に、同じように正座して座る。


 ナズナはただただ、自分の能力のことが心配なのだろう。不安げな表情を浮かべていた。


 ベリーはナズナに向かって、両手の平を上に向けた状態で差し出す。

 

「手を。」ベリー

 

 ナズナは困惑しているようだった。結界の中に他人が入ることも、他人と手を触れ合うことも、ナズナにとっても危険極まりないものであり、血清適合後、避けて通ってきたこと。


 そんなナズナの不安を察したように、ベリーが言う。

 

「大丈夫。」

 

 その言葉で、ナズナは不安げな表情を浮かべながらも、ベリーの両手に自分の両手の平を重ねるようにして置いた。

 

「…………生命の繭(せいめいのまゆ)。」ベリー

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