23-③ 世界を滅ぼせますか
「♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!!!」
強烈な歌声。
それは小さなコウモリを介して世界へと広がる。
この歌声に耳を傾けないなんてありえない。
全ての者を魅了する歌声を、世界の全ての者が聞いた。
ラランはオーディエンスを選べる。
仲間内にとっては、それはただの素敵な歌声。たが、世界にとっては、まるでゆっくりと肺を満たす黒い煙のようだった。
その旋律は、聴く者の心の、いちばん脆い場所を震わせた。
希望を歌っているはずなのに、なぜか胸の奥の空洞を拡げていく。
孤独は増幅し、群衆の中でひとり、またひとりと、静かに命を断つ者が現れた。
やがて怒りの感情を増幅させた者は、歌に別の意味を見出し、それが目覚めの合図のかのように、誰かの正義が誰かの命を奪い始めた。
さらには、まるで生き急ぐかのように、重大な決断に踏み切る権力者が次々と現れる。
世界がひとつの旋律に支配される。
誰もが同じ歌を知り、誰もが違う絶望を抱えながら、崩れかけた秩序の上で揺れる。
「♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!!!」
この歌声のヤバさに最初に気づいたのはニコだった。
ニコは焦りの表情を浮かべて天を仰ぐが、彼に出来ることは何もない。
「♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!!!」
「距離が近いからなぁ。すぐに来るよ。正義のヒーローが。」
ガドがそんなことを呟いた直後だった。
バッ
「……………………ガドっ……。」アンカ
女性の姿をしたアンカ、ベリー、イーネ。さらに見慣れない、青い髪に青い瞳をした少女を加え、4人は突然姿を現し、ガド達の四方を囲った。
「蒼天の審判―」
「翠嵐の審判―」
「白光の審判―」
「紅焔の審判―」
彼女達がそれぞれ口にする。
ガドが言う。
「うちの歌姫の単独コンサートだ。邪魔しちゃダメだよ。」
「―降臨。」
「―創生。」
「―浄界。」
「―断罪。」
ドッ
何が起こったかは、おそらく技を仕掛け、技を受けた者にしか分からない。
深い蒼の光は空を染め、翠の風が周囲に吹き荒れる。一瞬の閃光と、気づいた時には周囲は紅蓮の炎に覆われていた。
おそらく対象を根絶やしにできるその力は、何者の命を狩ることも出来ずに、ただガド達の周囲を渦巻いていた。
4人の姉妹は僅かに苦い顔をしている。
余裕のある表情を見せるガド。
彼によって、彼女達の攻撃から、ここにいる全員が守られているようだった。
少ししてから、アンカが呟くように言う。
「審槍。」
ビリリリリリッ
それは、突如として姿を現した。
空気が揺らめく。
あまりにも巨大な、炎を纏った槍。
刃先が、ガドの眉間から数センチ離れた所で止まりながら、煌々と燃え盛っていた。
「あぶなぁ。」
ガドは何でもないかのように言っている。
その槍から放たれている高温だけで、周りの人間は灰になりそうだった。
きっと、これでもガドに守られている。
「♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!!!」
何の躊躇いもなく、ラランは歌い続ける。
歌声は世界に響いている。
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ドッ
上から光。
光芒という気象現象のような。
雲の無い、空高くのこの場所に
更に上空から光が注いだ。
明るい光が、姉妹達とガド達を照らす。
まるで、天使が降りてくる為に、梯子をかけたように。
その現象に対して、4人の姉妹と、ガドが、驚きの表情を浮かべていた。
その光は、"どちらのものでも無い"らしかった。
ガドは、光が降り注ぐ天を仰ぐ。何故か面白そうに。
「マジかっ!……見かねて送り込んできやがった。」
その光から、本当に天使が降りて来たようだった。
一つの眼球に沢山の翼が生えた化け物。
薄いピンクから白色をしたそれは、人の3倍は大きった。
その数、十数体。
「な…………?!なんですか……?!あれ!!」マリ
マリだけが知らない事なのかと思ったが、ガドを除いた全員が知らない物らしかった。
全員が困惑した表情を浮かべる。
ラランの歌声も止まってしまった。
ガドが言う。
「あははっ!宇宙人だよっ!」
ガドは天を仰いだまま、片手を拳銃のようにして空から舞い降りる化け物に向けた。
「バレット。」
ドッ
ギィィイイイイヤァァアアアアツ
一体の化け物の目を、何かが貫通してグチャグチャにした途端に、口という器官が無さそうな化け物が、耳を劈くほど叫び声を上げた。
ガドを除く全員が思わず耳を塞ぐ。
「この声………………?!……片時の紡ぎ 聖華の息吹……!」ベリー
「全員俺から離れちゃダメだよ。まともに声を聞いただけで脳が爆散するよ。」ガド
ギィィイイイイヤァァアアアアツ
目を破壊された化け物以外の体が、淡く光を纏いだした。
「あははっ!アンカ。あっちの方がやばいよ。」ガド
「……………………っ……。」
化け物達は、ゆっくりと拡散しながら、空から降りて近づいてくる。ガド達と姉妹の向く方向は、完全に化け物に向いた。
ギィィイイイイヤァァアアアアツ
化け物が纏う光は徐々に強くなる。まるで自爆でもするかのように。
ガドとアンカが、指を拳銃のようにして化け物に向ける。
ガドとアンカの言葉が重なる。
「「レベッタ。3.2.1……。」」
ドドドドドドドドッ
ギィィイイイイヤァァアアアアツ
全ての化け物の目玉を、何か弾丸のような物が貫いた。
化け物の叫び声がこだまする。
途端に一瞬の静けさ。その直後。
ド
全ての化け物が自爆したかのように飛散し、空が真っ白になるほどの閃光が放たれる。
近くにいる人物の姿さえも見えなくなるほど。真っ白に。
そんな中でも、アンカはガドに向かって指を拳銃のようにして突きつけた。
「バレット。」
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完全な真っ白に覆われる。
誰の姿も自分の姿も見えなくなる。
少しすると、その白さは無くなっていった。
空中には、4人の姉妹の姿。だけ。
ガド達の姿もなく、化け物の姿もなく、静かな空が広がっていた。
「………………。」
アンカは、ガド達がいたはずの場所を一点に見つめる。
ガドが姿を現してから、ものの数分。
核師を取り巻く運命が。
姉妹の未来を左右する命運が。
この世界の情勢、その他の一切が。
大きな変貌をとげてしまった。




