23-② 世界を滅ぼせますか
ガルダは静かな夜に包まれている。随分と遅い時間にもかかわらず、タイヨウとハナは理事長室に居た。
コンコンコン
理事長専用の机と椅子の後ろにある、大きな窓が、外側からノックされる。
「……なんや?……。」
理事長専用の椅子に腰掛けていたタイヨウは、立ち上がって音のした窓を開けた。
「クソはげっ!迎えに来たわよ。」
「………………………………ラ……ララン……。」
夜を背景にして揃ったメンバーは圧巻だった。
ララン、タトラス、ライナックス、ボルドー、マリ、ミョリ、車椅子に座ったミコ。そして、その中央にいる男性を見て、タイヨウは息を飲んだ。
「……ガ………………ガド…様……。」
「久しぶり。」
「あーもー!その反応見飽きたから、さっさと来なさいっ!」
ラランが、呆然としているタイヨウの胸ぐらを掴んで引き上げると、タイヨウも他のメンバーと同じように空中の見えない床に立ち上がる。
タイヨウはまだ理解が追いついていないのか、メンバーを見ながら固まっていた。
ラランが言う。
「ユウビ!あんたはどーするの?!」
タイヨウと同じように、理事長室にいるハナはその光景を、信じられないものでも見るようにして固まっていた。
ライナックスが言う。
「ユウビの記憶があるだけで、本人は別人でしょ?それに、その子も来ちゃったら、会社大丈夫なの?」
それにラランが答える。
「知る訳ないでしょぉお?決めんのはアンタよっ!」
ハナの方に全員の視線が向く。
ハナは固まったまま固唾を飲んでいるようだった。
少し時間が立って、自分のターンなんだと遅れて気づいたかのように、ハナは驚いたままにフルフルと首を横に振った。
「あそ。」
ラランが言い放った途端に、ハナを残して全員の姿が塵が飛散するように消えていく。
次の瞬間には夜空をバックに、街一帯が見下ろせるほどに随分と高い空まで来ていた。
下からは街の明かりが、上には星が輝いていて、単純に美しいと思える景色だった。
ライナックスがガドに向かって言う。
「私達が把握してるのは、これで全員ですけど、どこか行くんですか?」
「んー?どーしよっかなー。他にもメンバーはいるんだけど。取り敢えず帰ろっか。久しぶりにライナックスのご飯食べたいし。」
「ご準備しま…………。」ライナックス
「ほんとにガド様やんけぇぇええええええっ!!!」タイヨウ
「わぁ。おっきい声。」ガド
時間差でタイヨウの叫び声が響いた。
「うるっっっっさいわねハゲ!!!!!」ララン
「何でお前らそんな感じやねん!!叫ぶやろ普通!!!」タイヨウ
「私達は散々驚いた後よ!!!」ララン
「ラランなんかボロボロ泣いてたって。」タトラス
「いらないこと言わなくていいのよ闇医者ぁぁあ!!」ララン
「もー免許持ってっし。」タトラス
「ほんでタトラス!久しぶりにあったけど、おもいっきり女にビンタされた後やなぁ?!そんな所まで変わらんか?!」タイヨウ
「いや。誤解なんだって。」タトラス
タトラスは、ミョリを迎えに行った時に、優しくマリのことを抱き寄せている所をミョリに見られ、左頬にビンタをくらって真っ赤になっていた。
ミョリもマリも、明らかにタトラスから距離をとっている。
「誤解じゃないじゃない。現にマリさんの事狙ってるんだから。」ライナックス
「タト最低。もー別れる。決めたから。」ミョリ
「振られとるぅぅぅううううう!!!」タイヨウ
「移動していい?」ガド
「ちょ!待ってください!!俺は戸惑ってますぅぅ!!ってかマシロは?!!このメンツならユキハルは?!!」タイヨウ
「あんた!ガド様に楯突いてんじゃないわよっ!!!マシロなら死んだし、ユキハルならこないってよっ!!」ララン
「死んだ?!!んで、よぉ断れるなぁ!あの無神経天然男ぉぉおお!!んで待てぇぇ!!何で俺より先にマリ?!マリ・リルベラ?!ええ??!!!」タイヨウ
「あ。えっと…………。なりゆきで……。」マリ
「なりゆきで俺の待ち望んでた人の隣に立ってるぅぅぅううううう!!!!」タイヨウ
「賑やかだねぇ。」ガド
「んでボルドー!!めっちゃ青年になってるぅぅう!!赤ちゃんやったのにぃぃぃいいい!!!」タイヨウ
「あ。あぁ。……どうも。」ボルドー
「マジうるっっっさいコイツ!歌っていい?!!」ララン
「あぁ?!やんのかこのクソ音痴!!」タイヨウ
「あ゙ぁ゙?!」ララン
「やめなさいよ……。あんた達。」ライナックス
そんなやり取りの横で、ガドは隣にミコを置いて、ミコの両手をとって何かを伝えている。
(触手話……ってやつかな。聞いたことはあるけど、見たのは初めて……。相手の手を取って、触れ合いながら伝えるのよね。)マリ
ミコは優しい表情をしながら、時々頷いたりしている。
感情の無い筈のミコが微笑んでいるように見えた。
タイヨウやララン達のやり取りはまだ続いていて、それを他所に、ボルドーがガドに話しかけた。
「……ガドさん……。」
「ん?」
ボルドーは、少し思い詰めるような表情で続けた。
「僕は、皆さんのように、貴方に信仰心のようなものは持ち合わせていない。あるのは…………。母が自らの命を断つ程に愛した男性が、どんな人か…………。知りたいだけです……。」
(………………?)マリ
ガドは何も表情を変えずに聞いていた。
ボルドーが話す。
「…………母は………………。貴方との子だと思って僕を産み………………。この褐色の肌を見て絶望し………………最後には命を断ったそうです…………。」
いつの間にか、タイヨウ達のやり取りが止んで、全員がボルドーの話しに耳を傾けていた。
「………………貴方を恨んでいる訳じゃない……。でも…………。母が…………。変わりに僕を育ててくれた母さん……ライナックスさんが……。皆さんが……。敬う貴方を知りたいだけです………………。だから……。」
「…………。」
「……僕は、貴方の味方でも何でも無い……。世話になった人には協力しますが、貴方に協力する気は……。現時点ではありません。」
「…………。」
「貴方が危険だと……。僕が貴方のことを認められなければ……。僕は貴方を裏切ります。…………それでも……。」
ボルドーが続きを言いかけた時だった。
ガドが言う。
「好きにしな。」
ボルドーは少し驚いたようにガドを見る。
ガドは表情を変えずに言う。
「何をしてもいい。恨んでも裏切っても殺しても。ここにいる全員が選んだことを、俺は否定しない。干渉もしない。」
全員が黙ってガドの言葉を聞く。
「もし、君らに何か手が必要なら。俺で良ければ手を貸すよ。でも、君達が俺に手を貸す必要は無い。貸してくれるなら借りるけど。それは命令でも何でもない。君達が決めればいい。逆に言えば、俺の選択に、君らが口を出す権利もない。」
「…………。」
「君達は君達で。俺は俺。たまたま一緒にいるなら、どーせなら楽しい方がいいでしょ。だから意見を聞くし、仲裁をとる。良いなら居なよ。嫌なら出て行けばいい。」
「…………。」
「君達は自由だ。」
ガドの言葉は、何故か心の隙間から奥まで入ってくるかのようだった。
昔からの面々は、これだこれだと言わんばかりに誇らしそうな顔をしている。
「…………あ……………………の…………。」
そう言ったのはマリだった。
マリに全員がの視線が向いて、マリは戸惑いと躊躇いを覚えながらも、ゆっくりと言葉を口にした。
「…………そ…………の……………………。しょ、初対面でごめんなさい…………。その…………。自由だって……。私には…………それがわからなくて…………。」
「あらー。マリさんっぽい。」
タトラスの呟きは誰に向けられたものでもないらしく、マリが言葉を続ける。
「…………貴方は…………。仲間が、たとえ何をしようとも見守るのが…………自由だと…………。仲間の、どんな願いでも叶えるのが…………自由だと………………。そーゆーことですか?」
「ちょっとアンタ。」
ラランが怪訝にマリに声をかけようとした時だった。
ガドが言う。
「君がそう望むなら、そーなんじゃない?」
「え?あ?私…………が………………?…………いや…………、そーじゃ…………。」
「もし今、君が世界を滅ぼしたいというなら協力するよ?」ガド
「…………え?」マリ
「でも、一応ね。身の丈に合う欲望の方がいいと説明はする。自分の器に収まらない結果は、後で困るだけだから。自由とは言ったけど、その方向性を間違うと束縛される。メンバーの誰かが、あんまりだなぁ。って発言をした時は、大体皆んなで話してたかなぁ。あぁ。昔はね。そしたら自然と収集がついたから、君の言うことは、あんまり良くわかんないかな。ごめんね。」ガド
「………………あ。……いえ……。」マリ
「自由が分からないなら一緒に考えようよ。正直、言ってる俺も分かんないんだから。」ガド
「…………。」
(…………あぁ。この人は……。人を惹きつける何かがあるんだ……。)マリ
この先の言葉は、マリは半分以上、興味本位でガドに聞いた。
「…………貴方は……。世界を滅ぼせますか?……。」
するとガドは「ははっ。」と笑って答える。
「勿論。」
「…………。」(……勿論…………って……。)マリ
「確かに俺は世界を滅ぼせるけど、それは俺だけの特権じゃないけどね?」ガド
「………………え?」マリ
「なぁ?みんな。」ガド
ダンッ
ラランが片足を踏み鳴らせた音がした。
マリがラランの方を見ると、ラランは不機嫌そうな顔をして言う。
「あんたさっきから!ガド様に失礼にも程があんのよ!!」
ラランが強い剣幕で言う。
「今の今に加入したぽっと出のくせに!!核師って、ほんとアタシらのこと舐めてるわよね?!!ここにいるメンバーが、みんな"平和主義者だから"って!!!」
ラランに聞こえないように、「ラランが言うたら説得力ないわ。」「それな。」なんて、タイヨウとタトラスのやり取りがある。
ラランが続けて言う。
「私、タト、ミコ、ハゲ。」
「なんっで俺だけハゲやねんっ!!!!!」タイヨウ
「世界を滅ぼす?どんな形でもいいなら簡単よ。やんないだけ。だからって、私達は、自分が強いだなんて思ってない。あんたら核師。だけじゃないわ。みんな発想が幼稚なのよ。」ララン
「…………。」
「マリっつったかしら?」ララン
「あ。……はい。」マリ
「私。あんた嫌い。」ララン
「…………え。」マリ
「死にたいだぁ?自由が分からないだぁ?あんたはモブきどって、結局、世界の中心に居るのは自分じゃない!あんたの基準で物事ベラベラベラベラベラベラベラしゃべってんじゃないわよ!!!」ララン
マリはラランの言葉に圧倒されていた。
ラランはマリから視線を外して、ガドの隣の一歩後ろまで歩みを進め、街を見下ろして言う。
「あんたに!分からせてあげる!!!」ララン
マリは、ニコから奪ったベッドセットマイクを準備した。
ガドが言う。
「手伝おうか?」
「はい。お願いします。」ララン
すると、ガドが手のひらを蕾のように合わせて開くと、中から小さなコウモリのような生き物が飛び出した。
そして、その数は夥しい量となり、ガドの手の平から世界へと次々に羽ばたいていく。
世界中の空が均一に薄暗くなるほどに。
ガドが両手を下ろした瞬間。
ラランは大きく一息吸った。
「♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!!!」




