22-⑥ 知る
2人にとっては聞き覚えのある、陽気な声が響く。
マシロは目を輝かせて顔を上げ、アンカは絶望の表情に変わった。
屋上は、縦に長い台形の壁で覆われている。
その一枚の壁の上に男が座っていた。
ダル着に、ピンクのニット帽。帽子の下からは金髪の癖毛が見える。十代そこらの子供のような幼い顔。真っ黒で吸い込まれそうな瞳。
マシロが、心の底からの笑顔を見せて言う。
「………………が………………ガド様ぁあっ!!!」
バタッ
「…………カはッ………………!!」アンカ
アンカが四つん這いの姿勢になって、地面に血を吐く。
(吸い込んだ……!いつの間に……!体の中から引き裂かれる……!………………焼けろっ……!)
アンカはしゃがれた声で言う。
「結べ 紅の焔を 繋げ 陽の熱を 忍び寄る影に お前の炎が触れて刺すように 私は拒絶する 赤霧の楔…………!!」(…………来ちゃだめ………………!)アンカ
アンカ達の今居るタワー全体が、半透明の赤い光に囲まれた。
ピンクのニット帽を被った童顔の男は、アンカとマシロの間に音もなく降りてきて、アンカの方を向いて言う。
「ごめ……。マシロだけのつもりが、範囲しくって……。最近ちから使ってなかったんだよねぇ………………。中、焼いたの?…………想像しただけで痛い……。治したのに…。」
「……………………。」
アンカは四つん這いの姿勢のまま、片手で、血を吐き出しそうな口元を押さえて男を睨みつけた。
マシロは地面にうつ伏せの状態で倒れており、そしてどうやら、既にこと切れているようだった。
童顔の男は天を仰ぐようにして様子を見ている。
男が言う。
「このタワー全体を覆ったの?……やりすぎじゃない?」
「…………なんで……!殺……っ!がはっ!ごほっ…………!!」
アンカが声を出そうとすれば、内側の傷口が開いて血が溢れ返りそうだった。
男が言う。
「俺に会えた瞬間、結局、アンカ達のこと殺そうと考えてたよ?それに、マシロ。ここの下に原爆埋めてんだよ。感情を殺しても、衝動までは消せないでしょ?…………あ。殺すって言い方はあれか。……浄化……ね。」
「………………。」
アンカは男を睨み続ける。
そのアンカの表情に、男は困った顔をしてみせた。
「……アンカに頼みたいことあって来たんだけど………………。ダメそだよねぇ。そーだよねぇ…………。はぁーあー……。」
――――――――――
イーネとベリーとマリは、可笑しなタワーから少し距離をとった森の中に居て、イーネはゆっくりとニコを地面に下ろして寝かせた。
木々の隙間からは、十分に可笑しなタワーの様子が伺える。
イーネが言う。
「何かあったら、マリが残ってニコの様子を見てて。危なそうなら全力で逃げるのよ?私とベリーで対象するから。」
「……分かったわ。」
そんな話しをした直後だった。
イーネ、ベリー、マリ、3人共が、全身に悪寒が走ったような不快感を覚える。
さらには、ほんの直前まで問題なかったアンカが、突如として生命の危機に侵されていることを直感的に感じ取る。
バッ
3人共が同時に、反射的に木々の隙間から見える可笑しなタワーの方向へ視線を向けた。
イーネが焦りの声を漏らす。
「……何?!急に?!……とにかく…………!」
おそらく、イーネが能力を発動してアンカの元へ駆けつけてようとした時だった。
「…………っ!!」イーネ
ある中位のタワー全体を包み込むように、赤色をした幕のようなものが張られた。
ベリーが言う。
「…………!赤霧の楔……!私達じゃ、もう入れない………………っ!」
「あんの馬鹿………………っ!!!」イーネ
3人に焦りの表情が滲む。
――――――――
「けほっ!けほっ!これ、なんか知らないけど、急にやられたらムセるんだよなぁ。転送する時は一言あるか、なんか合図してくれって、いつも言ってんじゃんかぁ。マシロぉぉ。」タトラス
「ごめん。」
「いや。いいけ……………………ど……………………。」タトラス
中位のタワーの屋上。
黒い歪みから現れたタトラスは、ピンクのニット帽に童顔の男の姿を見て言葉を失った。
少し離れた所には、疼くまったままの、少女の姿をしたアンカがいる。
タトラスは信じられないものを見るような表情で、半分独り言のように言う。
「………………ガ……ド…………。」
「久しぶりぃ。」
「………………は?………………。え………………?」
タトラスの横にもう一つ、黒い歪みが出現して、そこからラランの姿がゆっくりと出現する。
「けほっ!けほっ!勝手に転送させてんじゃないわよ!マシロぉぉ!!一曲ぶちかますわ…………よ……………………。」
まるでデジャブのように、ラランも、童顔の男を見るなり驚きの表現にかわり、信じられないものを見るかのように固まる。
少し時間がたち、ラランが言う。
目から大粒の涙を流しながら。
「…………ガド……様?…………ガド様………………。ガド様。ガド様。ガド様………………っっっ!」
「久しぶりぃララン。」
「……………………………………っっっっはいっ…………!!!」
ラランは、拭っても拭っても溢れ出てくる涙に息をひきつらせる。
驚いた表情のままのタトラスが言う。
「…………ほんとに…………。出てきたん…………っすか…………。って?え?マシロは……?」
「殺した。」
「………………なんで……?」
「マシロのやつ、ここの下に原爆埋めてんだよ?知ってた?」
「まじっ?!…………いや……知らなかった……っすけど……。」
「ねぇ。怖いよねぇ。」
すると、ガドと呼ばれる男の後ろで「かはっ……!」という音と共にアンカが地面に血を吐いている。
それを見たタトラスが言う。
「………………いや。まじ。……どーゆー状況…………?」
「マシロにかけたんだけど、操作ミスって。」
「………………そんなことあります?」
アンカは、ガドを睨みつけたまま思考する。
(戦うだけ無駄。…………私がここで生きるか死ぬかは"あいつ"の気分次第……。せめて……。他の皆んなに逃げて欲しい…………。どうすれば…………。)
ほんの一瞬だけ、ガドはアンカの方に目をやって、タトラスに言う。
「全員回収して帰ろっか。」
「………………え?」
「ライナックス、テステオーレ、ユキハル……。他にもミコとか。」
「………………。」
「まぁ。来てくれる奴だけで。タトとラランは来てくれる?」
「……も!!勿論です!!!」ララン
「…………はい。そりゃ…………。」タトラス
「"ガド"………………っ!!」アンカ
アンカがしゃがれた声で叫んだ。
ガドがゆっくりとアンカの方に目をやる。アンカは気管にゴロゴロと血が溜まりながら、叫ぶように言う。
「…………なにを…………するつもり………………っ!!」
その問いに、ガドは少し考える素振りをして答える。
「えぇ?…………えー……。SFごっこ…………?」
(………………"また"……無茶苦茶にするつもり……………!!………………。)アンカ
ガドが言葉を続ける。
「アンカ達の力が必要なんだけど……。絶対お願いするのは今じゃないよね。それは分かる。」
「…………聞き入れるとでも…………?!」
「まぁー…………。ちょっと考えるよ。」
ガドとタトラスとラランの体が、フワリと浮かびあがる。
ガドが言う。
「またね。アンカ。」
黒い塵が飛散するように。
3人の姿は消え、アンカだけが残った。
アンカはタワーを包んでいた赤い幕を解除する。




