22-⑤ 知る
イーネ、ベリー、マリは地下につき、壁に背を向けて眠っているニコの様子を確認していた。
周囲を見渡すが、敵の姿はどこにもない。
ベリーが柔らかい声色で言う。
「エネルギー切れみたい。……治してあげる?」
それにイーネが答える。
「いや。いいだろ。目立った外傷はねぇし、核切れなら、休めば回復する。」
「……核?」
ベリーの疑問系にイーネは答えず、しゃがみ込んでニコを背負って言う。
「とりあえず、ここ出るぞ。」
「え?アンカさんは?……加勢しなくていいの?」マリ
「建物揺れるくらいドンパチやってんだぞ?俺らが入って何が出来るんだよ。」イーネ
「それは……。分からないけど……。」マリ
「………………いいんだよ。ほっとけ。まだ元気そうなのはアンカの呪いを通して分かんだろ。」イーネ
「まぁ……。そうだけど……。」マリ
今度はベリーが言う。
「本当にいいの?私がいた方が……。」
ベリーが言い切るのを待たずに、声に被せるようにイーネが言った。
「いいんだよ!お前は…!……そんな記憶ばっか持つな…。俺が居るんだから、アンカがヤバくなったらすぐ側にはいける。そもそもあいつ、まだ2割くらいしかエネルギー使ってねぇじゃねぇか。ほっときゃいいんだよ。むしろ巻き込まれる方の心配してるよ。俺は。」
(…………あぁ。そうか……。今の姿のベリーは、本当に必要とされてる時しか出てこない……。つまり……。その殆どの記憶に、いい思い出っていうのが存在しない……のね…………。イーネが、今のベリーに極端に優しいのは、そーゆー面もあるのか……。)マリ
すると、ニコを背負ったイーネが苦い顔をする。
「………………くっそ……。転移できねぇ……………………部分的に崩落でもしたか………………?あああ…………くそがぁぁあ………………。」
「すっごいイラついてるのは分かるけど……。歩いて出るしか無いんじゃない?かわるがわる背負う?」マリ
「………………チッ………………!」
イラつくイーネが、大きな舌打ちをした後だった。
イーネの姿が変わる。
「んもぉ!!だっるい!!髪邪魔っ!!」
少女の姿をしたイーネが、ニコを背負っていた。
(……な…………慣れない……。)マリ
その様子に、何故かベリーが目を輝かせて言う。
「イーネも"そっちの姿"見せてるのね!凄い!……お友達……?お友達ってやつね!」
「あぁもぉ!帰ったらちゃんと話すからぁ!」イーネ
(…………姉妹……って感じする。)マリ
イーネとベリーがわちゃわちゃしているのを見ていると、イーネが言う。
「もぉっ!とりあえず行くよ!」
「…………行く?」マリ
――――。
次の瞬間には建物外。
夜空を背景にして、可笑しなタワーを見下ろせる位置に居た。
「……うっわ!……ちょ!うわわわわっ!!」マリ
突然、空高くに転移した事に戸惑ったこともそうだったが、普段のイーネの転移と違って、空中でバランスを取らなければ一回転してしまいそうな、グラグラとした不安定さに、マリは焦りの声を上げる。
ニコを背負ったままのイーネが、マリに言う。
「いつもの能力と違うから、ちゃんとバランスとっとかないと落ちるわよぉ。」
「え?!まって!落ちるの?!」マリ
「うっそ。落としはしないけど、バランスが必要なのは本当。比較的、自由に動けるでしょ?」イーネ
「ほ………………ほんとだ……。ちょ…………!こ、怖いんだけど!!何これ!何が違うの?!」マリ
「光の発散。情報の伝達。言っても分かんないでしょ。」イーネ
「…………わ、わっかんないんだろーけど……。」マリ
マリはグラグラと揺れながら、何とかバランスを保てる位置を探し出して安定した。
イーネとベリーはさも当たり前かのように安定した姿勢を保っている。
イーネが言う。
「………………やけに静かね。」
可笑しなタワーのどこかでは、建物が揺れ動く程の戦いが繰り広げられていた筈が、月明かりが照らす、静かな夜が広がるだけで、辺りはしんと静まり帰っていた。
――――――――――
ポツポツと、蛍のような赤い光が、タワーの屋上。アンカとマシロ周囲に舞っていた。
小さな赤い光は、まるで心拍でもあるかのように、トクトクと一定のリズムで周囲に小さな波紋を出している。
「………………が………………っ!!」
マシロが疼くまるように膝をつき、四つん這いの姿勢になって地面に唾液を吐き出す。
(……何だ……?!これは……!)マシロ
マシロは焦っていた。体の中が熱く燃えるような感覚を覚える。
驚いたのは、まだ動けるにも関わらず、何故か体が動かない事だった。
アンカが言う。
「貴方はトレースの仕方を間違えた。確かに、私は強い力を得意とするけれど、力の方向性は浄化に近い。」
「……………………トレース…………?浄化……。何を言っている…………?」
「この技は、強い力じゃない。"感情"を燃やすと言う方が正しい。貴方は、私の力を"剛"のものだと勘違いしてコピーした。それじゃ、この技は発動しない。」
「だまれよ……。コピー?……。何を言ってる……。派手な戦いだ……。もっと激しく……。あの方の目につくように……。何を言ってる……。何をやってる……。違うだろ……。そうじゃない……。こうじゃない……。もっと…………!!!」
マシロは地面を見たままブツブツと呟く。
「……がはっ……!」
そして、マシロが声を荒げようとすると、代わりに唾液を吐き出る。
自分の中の感情が大きくなればなるほど、体の中の熱が高温になり、マグマが押し込められてるような強い不快感を催す。
その熱をどこかに吐き出せないかと、体が反射的にえずくが、唾液以外に何も出てこない。
マシロは現実を受け止められないような表情で、まだ地面に向かってブツブツと呟いている。
「……違う。俺はあの人に近い……。あの人の力が使える。……あの人に近づいていいのも、あの人に成り代われるのも僕だけだ……。僕だけが……。」
「違う。」
アンカが言い放つ。
「貴方の力は、あいつの力なんてものじゃない。ただ、興味の対象をコピーするだけの力。」
「………………こ……ぴー?…………コピー?コピー?コピーだと…………?ふざけ…………っ!…………がっ…………!」
また、マシロが地面に唾液を吐き出した。
(コピー能力?そんな!そんな訳ないだろ!!…………だってそんな……!そんな……!コピー能力だなんて!……そんな力……!!)マシロ
"1人の力じゃ戦えない。ほんと、モブみたいな力。"
(……………………………………誰がそんなこと……言ったんだっけ…………。)マシロ
アンカは言葉を重ねる。
「貴方は、私の力をコピーした時点で負けている。その力は。決してオリジナルを超えられない。」
マシロの影が薄くなったように感じた。
マシロから欲望も野心も、何もかもが無くなり、生きる気力を失ったかのように、四つん這いの姿勢で静止していた。
月夜の静かな時間が流れる。アンカは思考する。
(あとはもう、姉妹に手出し出来ないように呪いを。後はこの人が決めること。)
アンカが動き出そうとした時だった。
「ましろー。」




