22-④ 知る
イーネとマリは可笑しなタワーの中を進んでいた。
アンカの呪いのおかげが、おおよその仲間の位置を感じとることが出来る。
時々、ドンッドンッ遠くのほうで激しい音が鳴りながら、タワー全体が揺れた。
マリがイーネに声をかける。
「アンカさんかな?」
「多分そーだろ。」
2人は更にタワーの中を進み、いつしか一つの部屋に繋がる扉の前まで来ていた。その扉を開けて中に入る。
テニスコート程広くて白い部屋の中。
その中では、奇怪な形をした立派な樹木が雄々しく茂っていた。
その樹木が生えている根本には花畑が広がり、緑の色のショートカットの少女が、お姉さん座りでぼーっとしていた。
「ベリー!」
イーネはその姿を見るや否や、名前を呼んでその少女の元へと走っていく。
「あ。イーネ。」ベリー
(…………あれが……。ベリーの本来の姿。……来る時に、最低限の説明は聞いたけど……。やっぱり、全然雰囲気も違うし……。そもそも……。なに……。この木……。)マリ
マリがそんな事を思いながらゆっくり歩いている間に、イーネは立ち上がったベリーと抱き合っていた。
ベリーから手を離したイーネが言う。
「やっっぱり!あのクソ姉貴きてねぇのかよ!!元々助けに回る気なんか無かったな!!あいつ!!!!!」
(…………クソ"姉貴"……。)マリ
「……イーネ。怪我してる。」ベリー
「あー……。治してくれ。」イーネ
すると、ベリーはイーネの腕や肩の傷に手を翳す。翳した部分は淡い緑色の光を放っていた。
マリがイーネとベリーの元まで来て、歩みを止めて言う。
「………………ベリー…………?」
するとベリーは、少しキョトンとした顔をした後、マリに向かって優しく微笑んで言う。
「初めまして。」
(………………聞いたけど……やっぱり記憶が無い……のか……。)マリ
マリは、どう言葉を返すか少し迷って言う。
「…………初め……まして……。マリって……いう……の。」
「マリ。…………マリも怪我してるね。イーネの治療が終わったら診るね。」
「…………あり……がと……。」
マリは周囲を見渡す。
すると、少し離れた場所に花畑の上で気持ちよさそうに眠るボルドーの姿があった。
それにはイーネも気づいたようで、イーネが言葉を口にする。
「出てきていきなりオッサン寝かしつけて。訳わかんなかったろ。」
それに、ベリーが優しい声色で答える。
「大丈夫。ただ、あの子は少し出てこれないかも。幻覚にうなされてしまって……。私の方からアプローチはしてるけれど……。少し……時間がかかりそう。」
その言葉に、イーネは怒りのような表情を滲ませる。
「お前がいなきゃ、首飛ばしてやんのに。」
「悪い人じゃなさそうだったよ?」
「どんな奴にも言うだろ。それ。」
「そんなことないのに。」
するとベリーは、イーネに翳していた手を下げる。
「終わったよ。大丈夫?」
「完璧。ありがとな。」
(…………なんか……。やけにイーネ……。素直……。いや、きょうだいには、こんなものだっけ……?って、アンカさんへの態度みたら、そーでもないか……。)マリ
マリがそんな事を思っていると、ベリーがマリの方へ歩みよる。
マリのすぐ近くで立ち止まったベリーが言う。
「手当てしますね。」
「……あ。うん……。」
ベリーがマリの体に手を翳すと、緑色の淡い光が放たれる。先
の戦いで受けた切り傷や打撲は、みるみるうちに跡形もなく消えていき、痛みもなくなる。
ベリーが手を下ろして言う。
「終わったよ。大丈夫?」
「……うん……。凄いね……。ありが……と……。」
「どういたしまして。」
ベリーがマリに向けた表情は、とても柔らかくて優しいものだった。
(…………心穏やかになれる朗らかさぁ……。かわいいぃ……。全然違う。)マリ
すると、イーネが話す。
「ベリー。あともう1人仲間がいる。そいつも動けてないみたいだから、こっちから回収しにいっていいか?」
「うん。」ベリー
そうして3人は部屋を後にし、ニコの元へと向かう。
――――――――――
アンカとマシロの戦いは激化する。
マシロの放つ黒い粒子は、まるで意思を持つかのように脈動し、形を得て群れをなしているように、一粒一粒が鋭い刃のごとく、空気を裂き、触れるものすべてを侵食しようとする。
対してアンカの炎は、火柱が渦を巻き、獣の咆哮のようなものを伴って天へと伸びる。
黒と赤がぶつかり、幾度となく轟音が鳴り響く。
黒い粒子は炎に包まれながらも消えず、逆に炎の隙間へと潜り込み、内部から喰らい尽くそうとする。炎はそれを拒むようにさらに温度を上げる。
空気が焼け焦げる匂い。
高温が皮膚を刺す。
黒い粒子は集合し、夜空をバックに、巨大な槍となってタワーの屋上へと打ち下ろされた。
その先では炎が弧を描き、巨大な火輪を形成する。
火輪は回転しながら迫る槍を迎え撃ち、接触した瞬間、空間そのものから甲高い音がした。
マシロはニヤニヤと笑っている。
アンカは端正な顔立ちの無表情のまま。
次の瞬間、爆発。
黒い粒子が四散する。炎は火の粉となって夜空に降り注ぐ。
まだ戦いは終わらない。
次の一手へと変わる。
そんな中、マシロは昔を思い出していた。脳裏によぎるのは、幼い頃の自分。ガド様に憧れ、ガド様と同じ力を願い、ガド様のようになれるようにと祈っていた。
「僕の力はガド様と同じなんだよ!!!最もあの方に近いのは僕だ!!!!!」
マシロはいつから声に出していたのか分からないまま叫んでいた。
それをアンカは、心底どうでもよさそうに聞いている。
アンカはマシロ聞こえないような声量で言う。
「……これで、あいつと同じだなんて。……可愛らしい人ね。」
炎が燃え上がる。回転しながら拡大し、周囲の空気を巻き込み、すべてを焼き尽くす勢いで広がる。
黒い粒子は逆に一点へと凝縮する。黒い塊は刹那の静寂の中で鼓動を打ち、次の瞬間、炎と混じり合って爆散した。
黒い粒子と火の粉が、雨のように降り注いで、キラキラと幻想的に輝く。
アンカとマシロは、タワーの屋上で向かい合っていた。
マシロが言う。怒りのこもった表情で。
「ガド様は突然いなくなってしまわれた。僕達に何も告げず。君達のような小娘にご執心だっと……?考えたくもない……!!あの方の崇高さも何も分かっていない毒婦が…………!!せめて、あの方と僕を繋ぐ糧となれよ…………。お前自身には微塵の興味もないんだよ…………!」
マシロの言葉に、アンカは眉一つ動かさないまま言葉を返す。
「好きな人に振られてると気づいていないストーカーさん。あぁ。ごめんなさい。ストーキングすらも出来てない除け者さん。彼の記憶にすら残っていない数多ある死体の1人だとご理解されたらどうかしら?」
マリが見ていれば、イーネの暴言はアンカ譲りなんだなと。そんな感想を抱いたかもしれない。マシロは怒り心頭に発していた。
「………………き……さ……ま…………!!!」
「あんまり感情的になると。また花が咲きますよ。」
ブワッ
再びマシロの全身の切り傷から真っ赤な花が咲き誇る。
花の根本の体の内部が、熱く燃え盛り、引き裂かれるような痛みがする。
「………………ははっ………………!ははははっ!!!」
マシロは笑ってアンカを見た。
「……………………君もね。」
ブワッ
「…………?!」アンカ
アンカの体中の切り傷からも、同じ真っ赤な花が咲き誇った。
アンカは状況を理解でにずに驚いた表情をしている。
マシロがニヤニヤと笑いながら言った。
「たまーになんだけどね。戦った相手の能力を"喰えちゃう"んだよね。僕にも、どういう原理か分かんないんだけど。」
マシロは勝ち誇った顔をして言う。
「君の能力。僕は理解も出来たし扱えもした。もぉ君に勝ち目なんて無い。」
ボウッ
アンカの周囲。だけでなく、マシロの周囲にも、激しい炎が立ち込め、逆巻き、炎同士がぶつかりあって、更に大きな火となっていった。
炎の明かりで周囲は真っ昼間のように明るくなり、常人なら立ってもいられない程の高温となる。
マシロが言う。
「何だっけ?……炎華ニノ葩―焦心乱華……だっけ?」
ブワッ
アンカの体に咲き誇る花が更に肥大化する。花は肥大化と共に、アンカの内なる感情を膨らませ、激情へと変化させていく。
美しく咲く花は、花弁が外へ外へと開く度に、花びらを散らし、身を裂くような痛みをもたらす。
花に全身を侵される感覚を覚えながら。アンカはふと笑った。
「……可哀想な人。」
アンカの言葉とマシロの言葉が重なる。
「「緋月燈」……!」




