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22-② 知る

 <ニコ>

 

「♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!」

『♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!』

 

 歌声が重なり合って響く。


 空気がビリビリと震え、部屋の中にどこからともなく風が吹いて渦のようになる。


 互いに、ありとあらゆる武器を手に取り、取り返え、完璧に使いこなし、互いに致命傷を避けながら殺り合う。


 細かな傷は増えていくものの、その勢いも、歌声も、弱まることを知らない。

 

「♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!」

『♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫ ♪♪♫♪♪♫!!』

 

 それはまるでコンサートのような。


 アイドルのステージのような。


 劇場のような。


 魅せ方も完璧な2人は、互いの核エネルギーを消費し続けながら、命を削り取ろうと何度も踏み込む。


 そしてそれは、時間が経つにつれて、ニコの方が早く崩れ始めていた。


 ラランは間奏中など、歌わない間も、力のあり方を一定に保てる。しかしニコは、歌い続けなければ出力が落ちる。


 間奏中も独自のアレンジで歌い続けるニコの方が、多くのエネルギーを消費していた。


 でも、そんな2人の中に溢れる感情は。

 

((楽しい!!!!!!!))

 

 こんなにも生き生きとした殺し合いは存在しないのではと思う程に。2人は輝いていた。

 

 ズルッ

 

 ニコの足元が、ほんの僅かに崩れた瞬間。

 

 ゴンッ

 

 鎖つきの武器を手に取っていたララン。


 そのラランが投擲した鎖がニコの顎に当たり、脳を揺らす。

 

『……がっ……はっ……!』

 

 ニコは目眩と吐き気を催し、唾液を吐き出す。


 ニコの歌声も止む。


 ここまで、拮抗して殺り合っていた2人。


 それは完全な隙となる。

 

 ガガガッ

 

 ラランがニコに畳み掛ける。


 身体能力が極限にまで強化されたラランの蹴りや拳は、強烈な一打となる。

 

 ドッ

 

 ニコは吹き飛ばされ、部屋の壁に背中を強く打ち付け、ズルズルと音を立てて座り込むような形となった。

 

『……がっ…………!』

 

 ニコが口から血を吐く。


 2人の歌声がやんだ。


 ラランはゆっくりとニコに近づき、話しかける。

 

「はぁ……。はぁ……。やるじゃない……。正直。ここまで手こずるなんか思っても見なかったわ。」

 

『……。』

 

 ニコは項垂れた姿勢のまま、ラランを睨みつける。


 何故かラランは満足そうに笑っていた。


 ラランが言う。

 

「ねぇ。あんた。……私と一緒に来なさいよ。……あ。まぁ、"ガド様"が来てくれたら……。だけど。」

 

 その言葉にニコは眉を顰める。


 ラランが続ける。

 

「歌を通して、お互いの腹の内が何となく分かってんでしょ?……私もマシロの事は好きじゃ無い。あの人に会えるかもしれないから協力してるだけ。……あの人なら、あんたのその、不自由な能力も、何とかしてくれるかも知れない。ジャンクだって全部討伐できるわ。そんなことをダメだと言う人じゃ無いんだから。」

 

『……。』

 

「……あんたは自由に生きたい側の人間よ。あの人の元なら、自由を許される。あんたにとって、悪い話しじゃないわ。」

 

『……。』

 

「不服そうね。……ま。いいわ。……あの人が現れてくれるかも分かんないしね……。なんだっけ。取らぬ狸の皮算用。ってやつ?」

 

『……。』

 

 ラランはまた、マイクを構えた。

 

「…………もし。…………もし。あの人が来てくれたら。また誘ってあげるわ。……あんたの事、気に入ったから。」

 

『…………と……。』

 

 ニコが言葉を発しようとする。


 ニコは常に歌いたい衝動に駆られていた。それは、自ら言葉を発することを禁じるほどに。


 しかし、今は、その思いは、充分すぎるほどに満たされていた。


 ニコが言う。

 

『……友達……だな。』

 

 ニコの言葉に、ラランは驚いたように目を丸くした。


 そして、一拍置いた後に満足そうな笑みをみせる。

 

「…………ライバル……って言った方が、まだしっくりくるわよ。」

 

 ラランが一息吸う。


 マイクを通して歌う。

 

「〜〜♪〜〜〜♪。」

 

 それは優しく、陽だまりのような歌声。


 ニコは壁に背中を預けて座り込んだまま、ゆっくりと瞼が下がっていく。

 

「〜〜♪〜〜〜♪。」

 

 暫くすると、ニコのスースーという寝息が聞こえ始めた。


 それを確認したラランは歌を止める。

 

「あぁー!もぉ!エネルギー切れ!こんな筈じゃなかったのに!やんなっちゃうわ!!……悪いけど!!」

 

 ラランは眠っているニコを指差し、笑顔でいた。

 

「戦利品として、その優!秀!な!…ヘッドセットマイクは貰うからねっ!それで勘弁しといてあげるっ!」


 ――――――――――――

 <イーネ・マリ>

 

 光の輪に腰掛けたまま、少女の姿になったイーネが話す。

 

「だから正直、ニコの能力下で、"こっち"の姿でしか使えないはずの力が、"男の姿の方"でも少しだけ扱えるようになったことには驚いた。あ。因みに、それを最初に提言したナユタは、私が、本当は女だってこと知ってるよ。あいつに初めて会って、あいつの能力聞いた時に、焦って考えちゃったから。でも、あいつは何も話さなかった。最初の任務の時、すっごいまどろっこしい言い方してたの覚えてない?私の事を伏せたまま、マリの能力と私の力を掛け合わせるのに、気ぃ使って喋ってやがったのよ。あいつ。」

 

 イーネの説明に、理解が追いつかないままのマリが言う。

 

「…………つまり……。貴方が……本来のイーネ……。」

 

「そーゆーことー。"アンカ以外の姉妹"は、あまり長いこと本来の姿でいると、力が落ちんのよね。そーゆー風に条件付けてるから。」

 

「……どうして?」

 

「アンカ以外は戦闘向きじゃないからよ。本来の姿になるってことは、大体緊急事態。その時に強くなくっちゃ困るでしょー?だから、普段は仮の姿で、"力"セーブしてんの。ラスターと戦った時は、こっちの姿をあんた達に見せたくなくてさぁー。明の呪い(めいのまじない)っていって、"男の姿"のまま、こっちの"本来の姿の力を引っ張ってくる"って無茶して。でっかいペナルティくらったんだよねぇ。」

 

 ガギャガグルグググググッ

 

 ジャンクの声がしてイーネが後ろを振り向く。


 光の檻に捕えられたジャンクは、その折から何とか抜け出そうともがいているようだった。


 その様子を見たイーネが言う。

 

「あ。忘れてた。」

 

 イーネが光の輪から降りると共に、光の輪はフワリと消えてなくなってしまう。


 イーネはジャンクに向き直って言う。

 

「本当はアンカの浄化の力がいいんだろうけど。……残念だっねぇ。」

 

 ガギャガグルグググググッ

 

 イーネはジャンクに向かって片手を翳して言う。

 

花菱(はなびし)。」

 

 ジャンクを中心に強い光が放たれる。


 マリは目も開けていられなくなり、思わず目を瞑って腕で視界を覆った。


 イーネだけは変わらずジャンクを真っ直ぐに見ている。

 

 ガギャガグルグググ……

 

 イーネはマリにも聞こえない声量で呟く。

 

「大丈夫……。きっと痛くも無いほどすぐだから……。」

 

 光は徐々に収縮していく。


 マリが目を開けると、そこには、光の檻に囚われたいたはずのジャンクが、ぐったりと機能を止めて、地面に横たわっていた。


 イーネが言う。

 

「はい。お終いっ。ってか、結局アン(ねぇ)なんにもしてないじゃん!!どーせ、私らが"こっち"になる気があること見越してたんだ!ほんっっっと食えない人!!」

 

 イーネは文句をたれながら振り返って、マリに近づいて言う。

 

「ねぇーえぇ。マリぃ。ヘアゴム持ってないー?髪うっとおしぃぃー。」

 

(……キャラも違いすぎて……こっちが追いつかないんだけど……。初対面感拭えないし……。)マリ

 

 戸惑いながらも、マリは言葉を返す。

 

「持ってないよ……。私、髪短いし……。……あ。……包帯……ならあるけど……。」

 

「まじ?!貸してっ!」

 

 マリはジャケットの内側から包帯を取り出してイーネに渡す。


 するとイーネは器用に、髪を二つに分け、根本からクルクルと包帯を巻いて、簡易的な二つくくりにする。

 

「後でベリーにアレンジしてもらぉーっと。」

 

(……そういえば、ベリーって、いつも可愛く髪まとめてたな……。もしかして、イーネのもやってあげてて、得意だった……?のかな……。)マリ

 

 イーネはマリの横を通り過ぎて、部屋の出口に向かう。


 マリは戸惑いが隠せず、なかなかイーネについていけないでいると、イーネが振り返って怪訝そうな顔をする。

 

「マリぃ?何してんの?」

 

「…………えっと…………。そっちの姿……で……居るの?」

 

 マリの言葉に、イーネは少し驚いた顔をした後、ニヤニヤとした表情になって言う。

 

「えぇ?なにぃ?男の方がいい訳ぇ?もしかして、男の私に惚れてたぁ?」

 

「……いや……。慣れてないだけよ。」

(…………子供っぽい…………。)

 

 すると、イーネはせっかく纏めた髪の包帯をスルスルと外す。

 

「もぉ。せっかく結んだのにぃ。別にいいけどぉ。」

 

「……あ……。」マリ

 

「……ほら。行くぞ。時間の無駄だろ。」

 

 マリの見慣れた、男の姿のイーネが、マリに声を掛けた。

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