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22-① 知る

 <ベリー>

 

 緑色の髪は、前下がりのボブに、ゆるりとカールがかかっている。


 緑色の瞳に、ぼーっとした表情。


 緑の少女はボルドーに向き合いながらゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げた。

 

「初めまして。」

 

「…………はい?」ボルドー

 

 緑の少女が、頭を上げて言う。

 

「あの……。つかぬことをお聞きするのですが……。ここは……。どこでしょうか……?」

 

「……真面目に言ってる……のかな?」

 

 ベリーとは、姿も様子も違う少女に、ボルドーは困惑していた。

 

(……そもそも幻覚を解いてない……!彼女は何者で……、どうやって起き上がった?!……その前に……目の前のこの子は、ベリーで合ってるのか?……。)

 

 また、緑色の少女が言う。

 

「はい……。私は、"姉妹"の中で唯一。"記憶を共有できなくて"……。」

 

「……記憶を……共有……できない?」

 

「……いつもなら、毎日付けてくれてる日記があったりするんですが……。それも見当たらないので……。……きっと、緊急事態だったのでしょうね……。」

 

 ボルドーは、緑の少女に聞く。

 

「……君は……。ベリーちゃん……でいいのかな?……二重人格か何か?……。」

 

 それに、緑の少女が答える。

 

「いえ。あの子も私も、ベリーです。私達は2つじゃない。別れ損ねた1つです。」

 

「…………何の話し……かな……?」

 

「"呪い"の話しです。」

 

 ブワッ

 

 花畑が広がる。


 ベリー足元を中心にして、おおまかな円状に、低い草花が生い茂り、花びらや綿毛のようなものがフワフワと宙に舞っている。


 それを見た、ボルドーはベリーに対して警戒姿勢を取った。

 

(何だ?!……さっきも夢の中で、植物が生えるイメージを持っていた……。治癒の能力じゃないのか……?!)

 

 姿の変わったベリーが話す。

 

「あの子が、何の説明もなく私に変わる時は、いつも緊急事態なんです。……そして、貴方から私向けて、とても嫌なイメージが流れ込んでいる。……幻覚?……のようなものですか?」

 

 それに、焦りの表情を滲ませてボルドーが答える。

 

「…………幻覚……に。犯されているようには見えないんだけれどね?」

 

 またベリーが話す。

 

「あの……。とっても……。言いにくいのですが……。」

 

「……はい?」

 

 ベリーは片手を頬に当てて、首を傾げながら言う。

 

「…………悪党…………でいらっしゃいますか?」

 

「…………。」

 

 ボルドーは思考する。

 

(ちょっと状況がよく飲み込めないけど、記憶のないベリーちゃんって扱いでいいのかな……。だったらワンチャン……。)

 

 ボルドーが言う。

 

「いや。僕達仲間だよ。」

 

「…………どうしてそんな嘘を…………。」

 

 ベリーは信じられないものを見ているかのような、引いた目をしている。

 

「少なくとも敵だと分かってたなら、そんな質問しないでくれるかな?」

 

 ボルドーがため息混じりに放った言葉に、ベリーが返す。

 

「私にとっての敵か味方は。善悪の判断にはなりません。」

 

「……ん?どーゆーことかな?」

 

「貴方は私の敵でしょう。私は貴方と戦います。けれど、貴方自身から嫌な気配はしません。……貴方を傷つけ、最悪の場合、死に至らしめてよいものか……。私には、それを判断できる情報がありません。」

 

「……つまり、僕を殺せるって話し……?」

 

「勿論。それが、この呪いの特徴でもありますから。」

 

「……特徴?」

 

「…………私達姉妹には、後から形作られた仮の姿があります。そして、今ここにいる私のように、本来の姿の方には、仮の姿では使えないような莫大な力があります。」

 

「…………。」

 

「人を死に至らしめる恐ろしい力です。私は。できればそんな力を振いたくない。」

 

「……それはどーかな。僕達。敵だしね。」

 

「………………そうですね。………………とても……。」

 

 ベリーは、ボルドーに片手を翳しながら言う。

 

「残念です。」

 

 ベリーの足元から大きな樹木が、まるで生きているかのようにクネクネと伸びてボルドーの元へ向かう。

 

 ドンッ

 

 ボルドーがそれを回避すると、樹木は壁に当たって大きな音を立て、壁に根を張らしながら、更に成長し、逃げたボルドーを追う。


 複雑な形の、立派な大樹となりながら。


 ボルドーは、茶色いコートの内側から2本の短刀を取り出す。

 

「……肉弾戦は!最低限しか出来ないんだけど?!」

 

 ボルドーは、絡め取ろうと伸びる木の枝を切り落としながら、部屋の中を駆け回って樹木から逃げる。


 一定時間逃げ続けていると、樹木はボルドーを追うことを諦めたかのように、今度は上に向かって伸び、枝を伸ばし、葉が生い茂る。

 

 ボルドーも一度立ち止まり、雄々しく育つ樹木を警戒する。


 ベリーが言う。

 

樹香(じゅこう)冷冷(れいれい)たる大気深閑(たいきしんかん)。」

 

 深緑に足を踏み入れ、気温が1度下がり、澄み渡った空気が広がった感覚がする。涼しげで、イメージで言えば青色のような香りが立ち込める。

 

「……っつ?!!」

 

 ボルドーはその香りと空気を吸い込んだ瞬間に、体が悴むように鈍る感覚を覚える。


 ベリーが言う。

 

「まだ動けるでしょうけれど、先程のように逃げることは叶いません。どうかそのまま。……出来れば、痛いことはしたくない。」

 

 ボルドーは、焦りの表情を滲ませる。

 

(何だ?!何なんだ?!……まるで別人!……見た目、性格、……力の強さ………………!……幻覚は一度も解いていない!けれど、技にハマってくれる様子はまるでない……!………………僕じゃ勝てない………………!…………マシロさんとアンカを一対一にするのが、僕の1番の役目……。この子に合流されると………………まずい……!)

 

 ボルドーは思考を巡らせ、時間稼ぎの為にもベリーに話しかける。

 

「……えっと……。君は……。治癒能力者だと思っていたんだけれど……。この立派な木はどういう手品なのかな?……。」

 

 それにベリーは素直に答える。

 

「治癒……。そうですね。治癒にも使えます。正確には、"生命に触れ、操る"ことが、私の力の根幹です。」

 

「……生命に触れる……?」

 

「植物、生物。生きとし生けるもの全て。私はその中に流れる生命力に触れ、必要であれば増強し、時には弱めることもできる。」

 

「……………………生命力を弱める?……まるで死神だね。」

 

 ボルドーの挑発ともとれる発言に、ベリーは微塵も表情を変えずに答える。

 

「そうですね。人の命を選別できる。まるで神のまがいもの。」

 

「………………そーいえば……。タトラスさんが、似たような事を言っていたな…………。」


 ボルドーは続けて話す。

 

「さっき、君は緊急事態にしか出てこないって言ったけど、他のきょうだいもそうなのかな?」

 

 その質問にも、ベリーは素直に答える。

 

「私だけ。というのが正しいですかね。イーネも、それに付き合わせてしまっていますが。」

 

「君だけ?」

 

 すると、ベリーは少しだけ暗い表情に変わって話す。

 

「貴方は、人生の半分。もしくは、それ以上の記憶が消えて死ぬと言われたらどうですか?」

 

「…………うーん。……あまり想像できないけれど、嫌なことには間違い無いかな。」

 

「さっきお話しした通り、私は姉妹の中で唯一、記憶を共有できません。なので、人生の楽しいこと、悲しいこと。それら全部を、もう1人の私に頼んでいるのです。」

 

「あー……。なるほど。君の場合は、2つの人格?といっていいのかな?それを行ったり来たりすればするほど、記憶としては分散されてしまう訳か。でもそれじゃあ、緊急事態だけを背負う君には、楽しい思い出も何もかも、残らなくなってしまうよね?それは辛いんじゃないの?」

 

 ボルドーの言葉に、ベリーは優しい表情を崩さない。

 

「いいんです。これが私の生き方。………………ただ、私と同じようにイーネも生きてくれようとしてるのが…………心残りなだけで……。」

 

「………………なるほど。つまり、イーネくんにも、"本来の姿"というものがあるわけだ。……それを今まで拝めなかったのは、君達の絆のようなものなのかな…………?」

 

 ベリーは言葉を返さなかった。


 ボルドーが話す。

 

「つまり、アンカやリンって子にも、"本来の姿"というものがあるの?」

 

 ベリーは優しい笑みを浮かべて言う。

 

「ふふ。時間稼ぎというのも大変ですね。」

 

「………………バレてるのか。分かっていながらお喋りに付き合ってくれていた訳だ。……君は優しいんだね。」

 

 ベリーは天井に向かって片手を翳して言う。

 

樹香(じゅこう)長夜(ながよ)すがら御寝(ぎょしん)(ふう)。」

 

 パサッ

 

 少し甘く、優しい香りが立ち込めた。


 息と共にその香りを吸い込んだボルドーは、ゆっくりと目を閉じ、ゆっくりと床に倒れ込む。


 少ししてから、ボルドーからスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえる。

 

「さて…………。どうしましょう……。ここはどこなのかしら…………。」

 

 ベリーは、本当に困っているのか分からない表情をして、その場に座り込んだ。

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