21-⑦ 呪い
<ベリー>
「いや……。やめて…………。やめて…………。やめて…………。」
ベリーは白い部屋の中央で丸まった姿勢のまま横たわり、悪夢を繰り返し見ているようだった。
その様子を、階段に腰掛けながらボルドーが眺めていた。
(そろそろ……。かな。)
"心"が壊れた時。最悪の場合は、心停止となって死に至る。
(……。でも、皆んなが探している"あの人"が出てくる気配は無いけど………………。このまま殺していいんだよね。)ボルドー
「…………ごめんね…………。助けて…………。」ベリー
ボルドーがそんな事を考えていた時だった。ベリーの様子に違和感を覚える。
「ん?…………。」ボルドー
ベリーはまだ、丸まった姿勢のまま横たわっている。
そのままの姿勢で、ボソボソと声が聴こえる。
「…………手が…………痛い……。」
(…………なんだ?…………様子が……。)ボルドー
「……凄く……力を入れて……握った後……。」
ボルドーはゆっくりと立ち上がって、ベリーの様子を伺う。
「…………泣いていたの………………?……体じゃない…………。心を傷つけられたの…………?」
(……あれ?…………あのこ……。あんな髪型だったか?…………タトラスさんなら覚えてるんだろうなぁ。わざんざ女の子の髪型なんて覚えてないよ……。なんか、いい感じにアレンジしてたくないか?)ボルドー
ベリーの体は、もぞもぞと動いて、ゆっくりと上半身を持ち上げた。
幻覚の夢の中にいるはずのベリーが起き上がったことに、ボルドーは驚きを隠せない。
「…………っ?!なぜだ?……!」
ベリーらしき少女は、まだボソボソと呟いている。
「…………白い部屋……。これは…………。核師の服…………。誰もいない……。」
少女は座り込んだ姿勢のまま、ゆっくりと辺りを見渡し、ボルドーと目をが合った。
少女が言う。
「…………………………どなた?」
その光景に、ボルドーの方が理解が追いついておらず、焦りの表情を浮かべて言葉を返す。
「………………君こそ……。誰かな………………?」
―――――――――――――
<イーネ・マリ>
――。
ジャンクの攻撃は空をきった。
ガギャガグルグググググッ
ジャンクはどこか不服そうに、喉を鳴らしながらゆっくりと振り返る。
そこにはマリと。白くて長い髪をした少女の姿。
「トラヴィスには曲げんなって言われたんだけどさぁ。あの時死んでたら、後悔してたんだよね。"私"。やっぱまだ死にたくないからさぁ。」
白い瞳。白い肌。白い髪は、ストレートにお尻の下まで伸びていて美しい。背丈はイーネと変わらないが、イーネよりは華奢で、着ている団服が少しだぶついている。
そして、イーネの姿はどこにも無い。
マリが少女に声をかける。
「………………誰………………。あなた………………。」
ギャガァギャァアアアアアアアアッ
ジャンクが、マリと白い少女に向かって飛びかかってくる。
「うるさいなぁ。汚いし。興味ないし。」
少女はジャンクに向かって人差し指を立てた。
「ふくら雀。」
キンッ
光でできた、丸い檻のようだった。
ジャンクはその中に捉えられている。
身動きも効かないほどに狭い檻に、うめき声のようなものをあげながら、もがいているようだった。
強力なジャンクの体。
しかし、光の檻はびくともしていない。
少女は片手を、肩から大きく回す。
その指先をなぞるように光の線が浮かび、それは綺麗な丸い円となって空中に浮かんでいる。
その光の円に、少女は腰掛けるように座った。
マリがもう一度、少女に声をかける。
「…………あ………………の………………。誰……………………なの……………………?」
それに少女は目を丸くして、驚いているようだった。
「えぇ?!この状況で分かんないの?マリって、鋭いのか鈍いのか分かんないねぇ。」
マリは、考えれる状況に戸惑って口に出せないでいた。
たが、少女の方から説明してくれる様子はなく、半分仕方なしに言葉にする。
「………………………………イー………………ネ?」
それに少女は、イタズラが成功した子供のような笑顔をマリに向けた。
「イエスかはいの。2択なんだけどっ。」
――――――――
<アンカ>
肩まで伸びた赤い髪。赤い瞳。少し華奢になってだぶついた団服。
少女はタトラスに向かって話す。
「"私"もアンカです。別人なんかじゃないですよ。これは、私達"姉妹"にかけられた呪い。"心"を分断された姿。どちらが本物かと聞かれれば、元の姿は女です。男性の姿の私も。私なんですけどね。」
「…………いやぁ。すんごい美人だねぇ……。」
少女の姿をしたアンカは、タトラスに向かって優しく微笑む。
「タトラスさんは、すぐに口説いちゃうんですよね?」
「………………口説きたい……と言いたい所だけど。」
タトラスは内容が一変したカルテに目をやりながら、冷や汗を滲ませていた。
(……力の質がさっきの姿とまるで別。……これ…………マシロでも死ぬぞ…………。それに…………。性格、特性、癖……。同じアンカだと?…………これじゃまるっきり別人だ……。………………俺も……殺される……。)
タトラスは中腰で戦闘体制を取りながらアンカを警戒する。
すると、アンカはポケットから通信端末を取り出して、少し操作して耳に当てた。
タトラスが言う。
「ここ、圏外だけど?」
「タイヨウカンパニーには、優秀な技術者が居て。圏外でも、ボイスメッセージを届けられるらしいんです。ちょっとイーネに連絡してもいいですか?」
「へぇ。どうぞ。」
すると、アンカは一拍置いて、通信端末にボイスメッセージを吹き込んだようだった。
「"クソ兄貴って言った分。ちゃんと返すわね。"」
それだけ言って、アンカは通信端末をポケットにしまった。
タトラスが言う。
「……終わりました?」
「ええ。」
ブワァッ
突然、細かな黒い粒子が部屋の中に溢れかえり、部屋の中が真っ黒になる程だった。
アンカの周囲だけは、赤い火の粉のような物が舞っていて、黒い粒子の侵入を防いでいる。
「タト!よくやったね。」
タトラスの背後の空間が歪み、黒い円盤のようなものから、顔と上半身がゆっくりと姿を表す。
「やっと出会えた。お手柄だ。やっぱり、あの方が書き損じる訳がない……!」
黒い歪みからマシロがゆっくりと出てくる。
その表情は、心底嬉しそうに歪んでいた。
「会いたかったよ!!"ガド様"の娘!!アンカちゃん!!」
それに対して、表情を変えずにアンカが答える。
「初めてまして。マシロさん。…………初めましてで申し訳ないんですが…………。それ……やめてもらえますか?」
どこか怒りのこもったアンカの声だった。
「反吐が出る。」




