21-⑥ 呪い
<ニコ>
ラランは右手にマイクを握ったまま、左手で肩から下げていたギターを外し、真横に置いてあったギターラックに戻した。
「あっっっけな。人質にもなんないわ。こいつ引きずって、マシロんとこに持ってく方がダルイんだけどっ…!」
イラつきながら、ラランが床に突っ伏した状態のニコに近寄ろうとした時だった。
カリリッ
ニコの手足に力が入る様子が見てとれ、ラランは動きを止める。
「はぁ?まだ動けんの。だぁーーーーるっ。」
『…………♪……♪……♪…………。』
「…………はぁ?」
ニコのヘッドマイクセットは、まだ問題なく機能していた。
ニコの口元のマイクを通して、微かな歌声が聴こえる。
「冗談よしてくれない?歌うなっつったでしょ。」
『……♪………………♪…………。』
ニコの手足に力が入る。
起きあがろうと、四つん這いの姿勢になっていく。
'ウタオウ!タノシイヨ!'
(やめろよ……。お前のせいで話せなくなった……。)
'アノコダヨ!イッショニウタオウ!'
(それでも……。ジャンクを全て討伐する……。俺みたいな……。ジャンクに家族を奪われる人を、この世から無くす為に……。その為に……。)
'ジユウニ!タノシク!ジユウニ!'
(お前達ジャンクのせいで、傷ついた人が沢山いるんだぞ……。)
'トモダチニナッテ。サミシクナイヨウニ。'
(俺は元々お喋りだし、カラオケでいい点とったことねぇし……。皆んなに音痴だって言われて来たんだよ……。できるのはサッカーくらい……。そいつらとも、こんな状態で会えなくなった……。)
'ウタハセカイヲカエルンダヨ!ザイニンノタマシイダッテ!'
(喋りすぎだろ……。お前……。やっぱ普通のジャンクと違ったんだな。何で俺なんかを選んだんだ……。)
'キミナラキット、アノコノトモダチニナッテクレル'
(…………じゃあ俺の言うこと聞きやがれ……。友達ってのはな、ちゃんとぶつかれないとなれないんだよ……。)
'……イイヨ。デモ、モウ、チカラハキミノ。コワガラナイデ。コバマナイデ。ウタハ、ウマクテモヘタデモイイノ。アノコガイッタンダヨ'
(……俺がブレーキ踏んでるってのか?)
'シンジテ。ウタハセカイヲカエルンダ'
(……言っただろ。元々音痴なんだって。これは、お前のせいで……。)
'ソンナコトナイ、ジョウズダヨ'
(……慰めんな。)
'チガウ。キミノチカラダ。ボクハキミヲトオシテタノシンデイル。シンジテ'
(……。)
'タノシイヨネ!!!!'
『♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪!!!!』
お世辞にも上手いとは言えない、怒鳴り声のような歌声。
後先の事も考えない、今だけの声。
まるで魂の叫び。
自己中心的で罵詈雑言のような歌声。
けれど、それは強烈な"力"となってラランを襲う。
「……がっ……?!」
ラランが口から血を吐く。
それは内臓が打ち付けられたような痛み。
耳からもゆっくりと血が流れる。
「………………ざっっっっっっっけんじゃ………………ざっっっっっけんじゃないわよぉぉおおおおお!!!!!」
ラランがマイクを構える。
「あの子に歌わされてるだけのお前がぁぁぁあああ!!我が物顔でステージに立つなぁぁぁあああああ!!!!」
ラランが大きく息を吸う。
「♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪!!!!!」
最高の歌姫の歌声が響く。
強烈なインパクト。
のめり込みたくなるほど魅力的。
上手だと、その言葉では表現できない上手さ。
(……シッテル……。この歌……。)
『♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪!!』
ニコがラランの歌声に歌声を重ねる。
お互いの力がぶつかり合い、部屋の中に突風が吹き荒れる。空気が、音の振動によってビリビリと震える。
「♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪!!」
『♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪!!!』
歌だけでは拮抗していた。
むしろお互いを高め合い、互いのボルテージが上がっていく。
ここはラランの為に用意された部屋。
歌によって身体能力が極限までに底上げされた2人は、部屋の壁に並べられた武器を手に取る。
ズガガガガッズガガガガッズガガガガッ
機関銃が火を吹く。
当たり前のように部屋の壁を走る2人は、遠距離武器と近接武器を手に取り、遠距離から銃撃戦を繰り広げながら接近する。
ガチンッ
剣と剣がぶつかり合って火花が上がる。
「♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪!!!」
『♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪♪!!!』
2人とも、何度も目が合う。
何度もお互いを確認し合う。
歌声は重なり、今までに聴いたこともないハーモニーとなる。
2人とも、全力の笑顔で殺り合う。




