21-③ 呪い
<ベリー>
糸を辿って進み、誘導されるように真っ白な室内に入って行く。
扉から入ってすぐに3段の階段を降りて、テニスコート程の広さのある部屋の中央まで歩く。
スルリッ
左の手首に巻きついていた糸は、ここがゴールだと言わんばかりに解けて消え去っていった。
この部屋には入り口が一箇所しかない。窓も無い。
入ってきた扉から出ようと、振り返った時。
「やぁ。」
扉の前に1人の男性。
褐色の肌。黒髪のコーンローをオールバックにして一つに束ね、茶色いコートを着ている。
ベリーは嫌そうな顔を彼に見せて言った。
「……誰?」
褐色の肌の男が答える。
「俺はボルドー。…………君が。ベリーちゃん。でいいよね?」
「…………。」
ベリーは答えなかったが、ボルドーが続ける。
「君の相手は俺なんだ。宜しくね。」
「…………幻覚。そーゆー能力なんでしょ?マリから聞いてるわよ。」
それにボルドーは、肩を落としたようにして答える。
「やっぱり。解析されちゃってたか。」
「じゃ。あってんのね。」
「でも、それで分かったんじゃない?君に僕が当てがわれた理由も。」
「…………。」
「治癒能力者ってのは。意外と厄介だよね。僕にも、そーゆー能力をもった叔父さんがいるけれど、回復系の能力者は、心臓や脳の機能を止めたと思って油断すると、その後に起き上がってきたりする。」
「…………。」
「それに。僕の力は、知られた所で、そこまで害は無いからね。」
「…………案外お喋りなのね。」
それにボルドーが笑顔見せて答える。
「僕も含めて、僕の家族は。意外とみんなお喋りだよ。」
「……………………家族………………ねぇ……。」
ボルドーはそのまま、扉から入ってすぐにある階段に腰掛けた。ボルドーが話す。
「実は。僕は、マシロさん達と同世代じゃないんだ。」
「聞いてないんだけど。」
「僕はその世代の人を父と母に持つ。まぁ、2世っていうやつなのかな。」
言葉を無視して話すボルドーに、ベリーは違和感を覚える。
(?!……もしかして、もう仕掛けられて………?!)
ベリーはポケットから植物の種を取り出し、ボルドーに向かって親指で弾く。
ピンッ ズルッ
ボルドーに向かって一直線に飛んだ植物の種は、途中で発芽し、太い幹が、まるで蔓のようにしなりながら、ボルドーに向かう。
ドンッ
植物は、人が手を広げた時のように幹を伸ばして壁にぶつかった。
そして、そのまま壁に根を張るようにして静止している。
「凄いね。治癒の能力じゃ無かったの?」
ベリーの背後でボルドーの声がして、驚いて振り返る。
そこでは、煙のようなものが形を成して、ボルドーの姿に変わっていく所だった。
(……?!やばい!もう既にコイツの幻覚に…………!)
ベリーがそう思った瞬間だった。
ドガァァァアアアアアアンッ
ベリーが向いていた左側の壁が大破し、それと同時に巨大なジャンクがベリーの目の前に突っ込んできた。
その衝撃と瓦礫と風圧にベリーは思わずよろけながら、ジャンクから距離を取る為に下がる。
「なに?!何なの?!!」
「ベリー!!!」
ジャンクと共に、雪崩れ込むかのように部屋に入ってきたイーネの声。
――。
イーネの能力が発動して、ベリーとイーネが一緒になって、ジャンクと距離をとるように部屋の隅に移動する。
「無事か?!」イーネ
「う、うん!なによ!これ!」ベリー
「寿命屋にいた店主がジャンクにされたんだよ。巨大化して襲ってきてる。俺とマリの能力じゃ太刀打ちできねぇからアンカ待ちだよ!」イーネ
グギャギャギャギャギャッ
ジャンクが、けたたましい音をあげて暴れ始める。
「これ………………。もしかして、これから、あの大きな化け物みたいになるわけ?!……」ベリー
ジャンクは背中に肌色の羽のような、人の手のようなものを生やしていて、それがイーネとベリーに向かって伸びてくる。
ドンッ
それを、イーネとベリーがそれぞれ回避する。
ジャンクから伸びたそれは、部屋の壁に当たって大きな音と衝撃を放った。
「ベリー!」
ベリーが回避した先でマリの声がした。
マリはケイトの血液を摂取しているようで、自分の体を空中に留めながら移動している。
マリが言う。
「アンカさんは?!一緒じゃない?!」
「いや……。まだ!」ベリー
グギャギャギャギャギャッ
ジャンクの体の全身に水疱のような膨らみがあり、それは次第に膨張していく。
更には、ジャンクの体からは触手のような、槍のようなものが生えようとしている。
(まずい!あれ!アエツのときにも!!)ベリー
グギャギャギャギャギャッ
ジャンクが咆哮を上げる。
それは思わず耳を覆うほどに不快で煩い。
ジャンクの全身の水疱が弾けて、それと同時に細かな肉が散らばった。
ジュッ
肉の破片は壁や床に当たると、焼けるような匂いと音がする。
「まずい!離れろ!」イーネ
まるでジャンク自身が、大きな爆弾になったようだった。
ジャンクの体の水疱は、次々に生まれては大きくなり、限界を迎えて弾けていく。この部屋の中では、その肉片を回避する方が難しいほどに。
「ベリー!こっちだ!!」イーネ
「う、うん!」ベリー
――。
ジャンクは、もがき苦しむように暴れている。
そのジャンクから、出来るだけ距離を取れるような位置にイーネの能力で、2人一緒に移動する。
「マリ?!どこだ?!」
イーネが声を上げた。
2人でマリの位置を探る。
「え?!なんで……?!あそこ!」ベリー
マリは逃げ遅れたのか、ジャンクの位置に近い所にいた。
「……っ!馬鹿っ……!」イーネ
イーネが能力を発動させようとした、その一瞬だった。
ドッ
「………………まって…………。嘘でしょ。」
あの時の、アエツの姿とマリの姿が重なる。
マリの背後からジャンクの触手が槍の様に伸びて、マリの心臓を貫いていた。
「…………マリ!!!!!!!」ベリー
「ベリー!!行くな!!!」イーネ
ベリーは思わず、マリの元に向かって走りだしていた。
(まだ間に合う!アエツの時みたいに!!!)ベリー
その時、ベリーの頭にはジャンクの事が完全に抜け落ちていた。
トンッ
ベリーの体が弾き飛ばされて、地面に倒れ込む。
「……痛っ……!」ベリー
ベリーは床に手をつきながら、突き飛ばされた方向に視線をやった。
「…………………………………………………………………………うそ……。」
「………………っ!!」
ベリーを突き飛ばしたイーネの腹部にジャンクの触手が突き刺さっていた。
「……イーネ!!」ベリー
「馬鹿っ!逃げ……!!」イーネ
ドッドッドッ
「……………………!!!…………。」
ベリーは衝撃で声も出ない。
更に、三本。
立て続けに。
ジャンクの触手が背後からイーネの体を貫いた。
イーネの瞳から光が消えていく。
「………………………………嫌…………。いや…………。」ベリー
グギャギャギャギャギャッ
ジャンクのけたたましい咆哮が鳴り響く。
――――――――――
ボルドーは階段に座ったまま、部屋の中央で丸まった姿勢で横になっているベリーの様子を眺めていた。
ベリーは小さな声で、同じ言葉を何度も反復している。
「………………マリ………………。イーネ…………………………。嫌……………………。やめて…………………………。」
まるで、夢にうなされているようなベリーの様子に、ボルドーは満足そうに頬杖をつく。
「治癒能力者はね。心を壊すのがいいんだってさ。タトラスさん曰くね。体を壊しても、治されちゃうからさ。」
ベリーは夢にうなされている。
ボルドーが言う。
「さ。君の心はいつ壊れるかな。」




