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機械仕掛けの白昼夢  作者: 乃月
【二章】殺人鬼の晩餐
35/36

4:一件目

―――――《調査報告書》―――――


局員番号 S一ニ八三番号


氏名……早乙女さおとめすい


生年月日……連邦歴九六三年5月二十三日生 (一七歳)


本籍……連邦領第四地区日本エリアヨコハマ四区

 

現住所……連邦領第四地区日本エリアトウキョウ中央三区執行機関官舎


(一)本人の事項

(イ)経歴……生年月日は上述通り。六歳の時、先の災害により家族を失う。その後精神面のショックから入院。十五歳まで入院生活が続く。初等、中等教育学校へは行っておらず、従ってそれらの教育は受けていない。

しかし本人の頭脳が極めて明晰であるのと、長い入院期間中に多くの本を読んだことから、それらの教育は不要であるとされ、高校に編入した。その後の高校に於いても、優秀な成績を残している。


(ロ)体質容姿……体質に目立った特異は無し。容姿に関しては、類稀なる美貌を有する。


(ハ)性格素行……友人に対しては物腰柔らかで、性格も大変柔和であるが、それ以外に対しては無感情で、いい顔はしない。殊に、無能な権力者に対する非難は反社会的とも取られるが、その内容は極めて正鵠を射ている、と言える。


(ニ)趣味嗜好……目立った趣味といったものは無いが、強いて言えば長い入院生活中の読書が挙げられる。


(ホ)未婚再婚……勿論未婚である。



(2)家庭……上記の通り、すべて死没している。また、入院費及びその後の生活費は、父親の遺産によって賄われた。


(3)家柄、血統、親族関係……両親、兄、祖父母、親類一同は皆、先の災害に於いて死没している。


(4)総評……目立った悪癖は無く、素行も優良である。また人間性に関しても大変素晴らしく、頭脳明晰、眉目秀麗の類稀なる人物なり。





「類稀なる……か」


目前の机に置かれた一枚の書類。それに目を通しながら、男は笑いをこぼさずにはいられなかった。


予想通り。と言うと意地悪く聞こえるだろう。けれど予想通りだ。

やはり彼は、家族を全てあの災害で失っていた。

やはり彼は、魔術の素養など持ち合わせていなかった。


しかし。


彼は、再び家族を見出さんとしている。

彼は、膨大な魔力を貯蔵している。


まるで関連の無いように見える二つは、ある共通点が隠されている。


前者は再起を意味し、後者は矛盾を意味する。

いくつもの要素を兼ね備えた現象は、何か良からぬことを生む。

ならば、彼にもその兆候が見えてもおかしくはない。

それがいつ顕現するか、そんなこと誰にもわからない。


だが、私は望もう。

例え何が起きても、君とその物語に、様々な幸福が訪れんことを。


男は小さく微笑んだ。

カーテンの隙間を縫って漏れる幾筋かの光線のみが光源たる仄暗い部屋で。






街は春のうららかな空気に包まれて、どこか間の抜けた風景を延々と連ねていた。5月が近づくに連れて、気温は高くはなる。が、それに呼応して人と人との間はやや広くなった様な、そんな街並みだ。


そんな街中にぽつりぽつりとある、やや周りから浮いた感じの教会。

大通りに面していることは少なく、基本的には一本か二本ほど小路に入っていくとある。

しかし、大通り沿いにあるのが少ないだけで、大規模であったり、国が建てたものであったりすると、自然大通り沿いにできるのである。


その日も、やはり温かい陽差しが降り注いでいた。

けれど、少しいつもと違っていた。


本来そこにあるはずのない香りが二つ。

一つは、むせ返るような、胸を掻きむしりたくなるような、そんな香り。誰もがそれを内包していて、けれども見ることは殆ど無い。

ましてや、香りを嗅ぐことなんて稀だ。

けれど、やっぱり、持っているから知っていた。

一つは、古くから寄り添っていた香り。

或る者は好み、また或る者は崇拝する。けれども原初の時代から、それはともに居た。

―――――それらは、原初の争いの香り。







「これで四件目だ。今度は火炙り」


淡々と言葉を継ぐのは、彗の直轄の上司兼お守である綺崎修哉。今日も今日とて気怠げであるのは、彼のスタンスである。


「中に居た人たちは……」

「勿論、みんな仲良く焼かれてる」


矢継ぎ早に言葉が放たれる。

そして、資料を読め、という視線と共に、くだんの資料が手元に渡された。


事件の起きたのは、銀杏並木の有名な通りにある教会で、確かバシリカ型と呼ばれるその形式は、天頂から見下ろすと教会が十字架をかたどっている。

今回の事件で犠牲となった六人はやはり全員が住み込みのシスターである。うちの五人はこの十字架の右端に頭部を、左端に胴体を、上端に両腕を、下端に両足を串で貫かれ、そのままバーベキューよろしく焼かれた。

残った一人は、十字架に貫かれたその身を、白昼の並木道に空高く晒し、鉄製の十字架が溶けかけるほどの業火によって、火刑に処されていた。


「何かの暗号でしょうか」

「なんでそう思う」


朝早くに呼ばれ、そのまま即座に現場の検証。

そしてそれが終わってからしばらく経った後の、僅かな休憩時間での会話だ。


「無駄に目立たせすぎだから、じゃ駄目ですかね」

「さぁ、俺にはわからん。推理小説も巻末から読んじまうから」


と、肩をすくめ、おどけたように返される。


「はいはい、そういう細々したのは俺がやりますよ」


やや棘を含んだ物言いに対し、露骨に嫌な顔をして、紫煙をくゆらした。


「それはそうとお前」

「はい?」

「あそこでずっと佇んでる女、あれ誰だ」


と、小指を立てつつ綺崎は言う。


「残念ながら」

「じゃあ何だ」


不満そうに、次の煙草を眺める。


「まぁ、なんと言いますかね。新しい家族………みたいなもんですかね」

「はは、幸せなこった」


皮肉たっぷりの言葉に、苦笑いで返した。

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