12:度々聞こえるのは凡そ悲鳴である
爆音とは、爆発によって生じる音である。
轟音とは、轟き渡る音である。
鳴動とは、大きな音を立てて動くことである。
どの言葉もすべて大きな音という意味がある。つまり、そのすべてを只一人、いや、正しくは一匹で体現するという事はかなりの大きな生物であるか、もしくは相当の苦労者である。
「因みに今回は前者だな!!!」
「す、彗ーーーー?どうしたの!!今なんて??」
「えっと、茉李?今なんて………って多分お互い同じ状況だな……」
途中まで言いかけて、ジェスチャーに切り替える。まぁ、これでどれだけ相手に伝わるかは置いておくとして。
「ええっと……ジェスチャーでってことかな……。うん、わかった!!……じゃなくて、こうか!!」
「あのサムズアップはきっと相手に伝わっんだと信じて……」
とにかく二手に分かれようと、しきりにピースサインをする。
「ピ、ピース??ええっと………どういう事だろう……。もしかして楽しいのかな……」
「あの顔は多分伝わってないな……、若しくは勘違い……」
暫く考えていたが結局伝える方法はなく、この時ほどテレパシーが欲しいと思う事は今後一切無いだろう。
「くっそっ!!!相思相愛だから心は通じ合ってる筈なのに!!」
いや、心が通じ合っているから相思相愛?まて、この際その順序はいいとして本当にどうしたものか。
『........ぃ』
「今、考え事してるから!!!!」
『すぃ.......』
「いや、今作戦を練って.......」
おかしい。
誰かの声が聞こえる。こんな爆音の狭間で。
しかも聞き覚えのある、優しげな鈴のような声。
「ま、茉李ッ.....!」
『よかった、聞こえたみたい!』
「ど、何処からそんな声を...。もしかして昔応援団とかやってた?」
『もう、今はふざけてる場合じゃないでしょ!!』
なるほど、確かにその通りだ。が、突然少女が自分の十倍以上はあろう怪物よりも大きな声を出せば誰だって.....。
「でも、まさか茉李がこんなに大きな声を...」
『彗.....、もしかして本気?これ、意識に直接言葉を飛ばしてるんだけど.....』
「えっと......つまり、テレパシーってこと?」
『似たような感じかな』
「じゃあ、出来るんだな!会話」
『うん!!でも、あまり離れると繋がなくなっちゃうからね?』
意識を飛ばすのにも限界距離がある、つまり電波と似たようなものか。と一人で勝手に納得しつつ、
「茉李、二手に分かれよう。この洞窟にはたくさん分かれ道があるだろ?そこを別々に行こう...」
『でも、それでもし彗の方に行ったら...』
「考えるだけでゾッとするぜ...。でも、やるしかない。んで、狙われなかった片方は.....と言うか俺の作戦では茉李なんだけどさ」
『彗、今なんて?』
「狙われるのは俺、って言っただけだよ」
「な、なんで....?」
隣にいるからこそよくわかる、本当に悲しい顔で、悲しい声で。
少女の問いかけはなんとも聖者的だ。
「そりゃあ茉李は通信機持ってるから」
まぁ、お察しの通りそれだけが理由じゃないが。
『で、でも...』
「俺が危険って?大丈夫!!!!絶対死なない!!..................筈.....」
語尾に小さく保険をかけたのは、死んだ時の言い訳のためだ。
もしかしたら何処かで死にたがっているのかもしれない。
『そ、そんなの...』
悲しげな瞳にはほんの少しばかりの涙。もうしばらくその瞳を味わいたかった。が、目の前20メートル程の所には幾つか枝分かれした道が待ち構えている。
「だから、茉李....、さっさと応援呼んでくれよ!!!」
『すーーーーーーーー』
頭に言葉が響き渡るよりも早く、動くほうの左手でもう一度、魔力を撃ち放つ。
いつぞやのような暴走と言うほどでもないが、それでも相当に膨大な魔力の塊が火球となって怪物の顎を焼く。
が、大したダメージにはならなかったようで、精々一瞬怯ませるのがやっとだった。
「だが、このままうまくいけば....」
気を引けるはずだ。
顎に火の玉をぶつけられれば誰だって怒る、というなんとも単純かつ、当たり前な作戦は案の定うまくいった。予想以上に。
「あれ、意外と怒ってる......」
獣はその大黒柱のように太い足を全てこちらに向け、顔の半分程ある口を更に大きく開け、体の割に小さな、といっても俺の頭よりは大きい、めを血走らせて絶叫した。
「ーーーーッ!!!」
先ほどまでの轟音とは比べ物にならない絶叫。
思わず目を閉じ、耳を塞ぐ。
たった一人の孤独な精神で、思考がクリアになる。その瞬間、唐突にいつか聞いたことがあったような事を思い出す。誰にだったか、闘争本能は時に戦略になりうると。
誰に言われたか分からない言葉が思い浮かんだ時、最悪の予測が頭の中を支配する。
もし、あの怪物が獣の本能としての戦略を持っていたとしたらーーー。
全身を砕く様な痛みが襲う。遅れて衝撃も。
最悪の予測は、その次の瞬間に予測ではなく真実へと変化した。
其れがもたらす答えは、即ちーーーー
「あ、ぁぁ、……あ……が………」
声が出ない。現状が理解出来ない。身体中が痛い。全身が、熱い。
ワカラナイ。コワイ。ヰタイ。
視界にあるのは空虚、しかしその中に気配は人のものではない。
全身を強打した痛みが延々脳を蝕み、精神を蹂躙する。
目からは涙なのか血なのか分からない何かが流れ、動かなかった右手はもはや機能することをやめた。
何も考えられない世界で、たった一つ明確にわかることがあった。
こちらに近づく巨大な振動。あの大顎が体を噛み砕く瞬間が容易に想像できる。
あまりにも克明な、すぎると言ってもいい死の映像が頭の中に流れる。
「氷瀑より出でし万刀よ、一切を切り裂け!!!」
意識が朦朧とする中、声が聞こえる。
助けられてばかりだな、と一人胸中で呟く。
が、今できるのはそれがやっとで、ただただ自分の無力さを口から流れる血の筋が慰めることなく地面に吸い込まれた。
前々から考えていたのですがこの後書きにはキャラの設定、例えば身長とか体重とかそういったものを書いていこうと思います。




