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機械仕掛けの白昼夢  作者: 乃月
【一章】霧の伽藍
19/36

10:揺れ動く木漏れ日

「…………………………………。………………………。ーーーーー!!!!」


自分を包み込む圧倒的な自然に気圧されていた時、後ろに気配を感じる。

獣の気配、確実に知性を持ち合わせてはいない物の気配が背中越しにも伝わってくる。


「人が気持ち良く自然とお話してる最中だってのに、全く間がわりぃな。女子にモテ………って危ぶね!」


俺の言葉など意に介さず、と言うより介するような知性も持っていないのだろう。目が合ってほんの数秒の間もなく獣の様な生物は、俺の方に飛び込んでくる。

が、その動きはかなり緩慢で、これまで出会ってきた人達にに比べればスローモーションに見える。避けられない事はない。が、避けられたとしても人の話を聞かないやつは嫌いだ。まぁ、俺もその一人なのだが。

それだけにあまり公言できないが、ここではあいにく俺一人だ。思う存分言ってやろう。


「人の話聞かないやつなんて、ほんっっっっっとに!!最低なやつだな!!」


自分で言っていて傷つく。そして、最低だとも思う。


「まぁ、俺の高尚な言葉を理解するような知性もないんだろうけどな!!だからこそ!!だからこそ言ってやる!!」


なんだか俺の方が嫌な奴みたいになっている気がする。いや、きっと気のせいだろう。


「この大馬鹿ド阿呆おたんこなすめ!!!」


ふっ、と勝ち誇ったような笑みを目の前の獣にぶつける。

勝った………………。というのは、獣相手に何をやっているんだと思うかもしれないが、これぐらいやっていないとストレスで脳が爆発すると思う。なんなら小規模な爆発がすでに起きているんじゃなかろうか。


「つーかまずはその容姿をだ……なっ!!!」


説教はなおも続く。と思われたが、神様はそれを許していないようで、その前に異変に気づかせた。


「は………は……、困ったら仲間を呼ぶって、お前はスライムか!!」


渾身のツッコミも虚しく、いつの間にか俺を囲むようにして現れた獣達は今にも俺に噛みついてきそうだ。

よく見ると一匹一匹の顔に特徴があって、しばらくはそれで恐怖心を和らげることはできたが、持って数秒というところだった。


「えっと………話し合いのテーブルってあります??」


返答はない。もちろん獣なんだから返答ができないのは重々知っている。が、それでも確認したくなるような絶望的な状況だ。周りには口から涎をぼたぼた垂らし、目をギラつかせる犬っぽい獣。決して可愛くはない。


「交渉の余地でもいいんですけど………」


無言は肯定と受け取っていいのは人間だけなのだろうか。もしかしたらこいつらだってーーーーーーー。


そう思った矢先、最初に俺と出会ったやつが洞窟全体に響き渡るほど大きな鳴き声を上げる。

すると、周りの奴らもそれに同調するように鳴き出す。

鼓膜にとっての正念場が訪れた直後、目の前の獣集団は一切のブレもなくこちらに向かって走り出す。


逃げる。

逃げる。

逃げる。


自身の有する体力を全て絞りきって逃げる。

後ろからは無数の足音がするがどうなっているかは絶対に見ない。

主人公っぽく言ってみれば"後ろは振り返らない"、俺の気持ちとしては"早く援軍こい"だ。


「くっそぉぉぉお!なんでまた逃げなきゃなんねぇんだ!」


何処を走っても同じような構造の洞窟は方向感覚を狂わせる。

しかし、迷ってはいられない。一瞬でも立ち止まれば後ろにいる獣共に食い散らかされるだろう。

こんなにも死が明確に視えるような状況でも周りの景色は依然冷静な面持ちでただ俺の現状を俯瞰するだけ。に敵しかいない世界だ。

諦めを振り切りながら、俺の逃走劇は続く。






大樹の前に広がる空間はいつの間にか広々とした空洞、自然の神秘を余さず出し切った洞窟のような場所へと変わっていた。


「ここ………は…………」


小さな声で呟いた言葉さえも、その空間では唯一の音であるだけにわんわんとこだまする。


「彗ーーーーーー。彗ーーーーーー」


いくら呼び掛けても返事はない。あるのは繰り返し跳ね返る言葉に尽くし難い寂寥感だけ。

心を吹き抜ける荒々しい風が、心の在り方を揺らがせる。

寂しさを隠しきれずに、つい通信機に手を伸ばす。

が、ふいに後ろから何者かの足音がする。

人ではない、四つの足を地面につけている音が。


「この気配ーーーーー」


後ろを振り返ると同時に飛び掛かる獣型の理外者デリッターに向け、瞬時に空間に顕れた氷の刃。


迫りくる獣の牙。

が、それが届くよりも早く八つ裂きにする。


黒黒とした赤の曼珠沙華が空中に咲き、地面へその形を崩しながら落ちていく。

一瞬の出来事に呼応するように古い記憶が思い起こされようとする。

しかしそれを阻害するように獣は次々と現れる。

獣達の幾重にも重なる叫び声は、殺された一匹への弔いにも、失敗した者への罵倒にも聞こえた。


「全部倒すしか……ないのよね……」


誰に言うわけでもなく寂しげに呟いた言葉は、この中の一匹にでも聞こえていたらいいなと、少女は僅かに微笑んだ。





「はぁ…………もぅ………死ぬぅ…………」


情けない声は、もはや聞き取るのすら困難だ。が、そんな俺でも収穫はあった。

先ずはじめに隠れる場所を見つけた事。そしてもう一つはあの獣集団は犬のように鼻が効く訳ではないということ。

しばらくここにいても気付かれていないのがその証拠だろう。


「はぁ…………とにかく………ここを抜け出さんと………いつか死ぬぞ……俺……」


とは言っても、ずっと走り続けたせいで体の隅々までもれなく痛いし、何より体力が底を尽きた。


「作戦………と言えるようなのは……パッとは思いつかねぇ………な………」


意識が朦朧とする。極度の緊張と極度の疲労のせいだろうか。

どちらにせよ、ここで意識を失うのはーーーーまずい。


「頑張れ……俺………、がん………ばれ………」


瞼が重く目に覆いかぶさり、世界は人工的な闇に包まれた。





叫びと共に飛び掛かる獣。

次の瞬間にはただの細切れの肉塊と化す。

何分かこんなことを機械的に続けると、いつの間にか周りには獣ではなく、紅い大地が広がっていた。


「ハァーーーーハァーーーーハァーーーー」


息が上がる。

気付けば白かった制服は赤黒い血にまみれ、緑だった地面には生臭い彼岸花が咲き誇っていた。



暫くの放心のあと、またひとつ、僅かな魔力、とても弱々しく、今にも消えてしまいそうなものを見つける。


「まだ生き残りが………………」


自分でも気付かないうちに殺気のこもった言葉を呟く。

ただその魔力源に向かって、ほとんど無感情に、ただ殺気のみを持って向かう。

その途中、静かに地面に落ちる小さな滝にほんの一瞬だけ自分の顔が映った。その時の顔は一体どんなものだっただろうかーーーー。


「ーーーーーーーーーー」


僅かな魔力を辿り、洞窟を奥へ奥へと進む。

ゴツゴツとした岩や、時々落ちてくる雫。しかし、そんなものも一切気にせずに少女はその黒髪を靡かせながらコツコツと歩をすすめる。


「ーーーーーーー!!」


僅かな魔力は一人の横たわっていた少年から発せられていたものだった。

もちろん、その少年というのは早乙女彗だ。


「ーーーー彗っ!!!」


刹那、今までそこにあった殺気やその他諸々の負の感情は何処かへ消え去る。


「す、彗っ!!」


急いで駆け寄り、安否を確認する為に呼吸を聞く。

すぅすぅと、わずかながら音を立てているのはきっと寝息だろう。

心臓の鼓動も脈拍も正常、魔力系統にも異常は見られない。

ならば。なぜ少年はこんなところで寝ていたのか。

疑問は絶え間なく浮かぶが、答えが出るよりも早く少年が手を醒ます。


「んっ…………あれっ………ここは…………」


そう言って重そうな瞼をなんとか開きながら、猫のように目をこする彗。

周りを見渡す彗と、目が合う。


暫くの沈黙。


「天…………使……?」

「嬉しいけど、違うかな。私だよ?」

「なんだ……やっぱり、天使か………」


そう言って力なく笑う彗。その目には寂寥とも取れる悲哀が篭っていた。


「もう少し……休んでてもいいよ?」

「いや、でも、ここは……」

「私が居るから。それとも心配?」


少し意地悪な聞き方だと、自分ではわかっている。

それでも、今の彗の痛ましい姿は見ていられない。たとえ自分が悪者になろうとも、今だけは構わない。今だけは。



期末考査+携帯の機種変更+パソコンの買い替え+家の整理+その他諸々……=投稿の大幅な遅れ。



言い訳ですね、申し訳ない。m(_ _)m

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