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機械仕掛けの白昼夢  作者: 乃月
【一章】霧の伽藍
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7:白銀の獅子

「ちっ、まだ尽きてなかったな。鳴り物」


と、舌打ちを交えながら俺に向けて毒づく男。

落ちていた剣の柄を足で蹴り、キャッチした後茉李に向かって、


「協力感謝する」 


と、無感情のままそう伝えると足早にその声の主のもと、男が登場した時に居た観客席の所に戻る。


「はじめまして、君が噂の鳴り物くんか……」


そう告げる男はフードを深く被っている。そんな風貌を訝しげに見つめる俺の視線に気づいたのか男はフードの端を掴み


「いや、失礼。あまり顔を公に出すと面倒な身分故、外ではこの様にしているんだが、ここではその必要も無い。不快な思いをさせてしまったのなら謝罪する」


丁寧な言葉遣いで答える。その言葉一つ一つに優美さと高貴さが滲み出ている。


「あ、いや。全然そんな事は………」


あまりに唐突な事に驚きを隠せず、言葉遣いも辿々しくなる。


「そうか、それなら良かった」


そう言ってフードをとる。

するとまず現れたのは美しい白銀の髪だった。肩にかかるほど長い髪はまだ誰にも踏み荒らされていない初雪のように美しく、遠くから見ても繊細。その繊細さと対を成すように髪型はなんとも男らしく粗雑なオールバックだが、そんな相反する二つの要素見事に両立させる男の雰囲気。

そんな雰囲気はきっと男の端正すぎると言ってもいいほどの顔立ちから来ているのものだろう。

形のいい眉は男が穏やかな人間であると大声で証明するように緩やかに傾斜

している。その下にはつり目がかった切れ長な、もっと視力が高ければ細部まで見れたのにと残念がるほど美しい形をした目があり、その双眸は草原を駆け巡る猛々しい金獅子を体現しているような色。

その二つの瞳を分断するのはスラリと通った、美しいづくしの顔の中央にあるに恥じない鼻。

一文字に結んだ唇は控え目に佇んでいるが、それでもその存在を隠し切れないほどしっかりと、印象に残る美しい形だ。

そこから発せられる声もオペラ歌手のように響く、低めの男らしい声で、まさしく完璧を描いたような男だった。

これでエリート官僚だったりすると、もう向かうところ敵無しだろう。

そんな考えを巡らせていると、


「私は、ロード・M・グローリア。今しがた君と闘った者の上司、王宮騎士団、団長を務めている。よろしく」

「えっと、俺は早………」

「早乙女彗、だろ?知っているとも。君は今、随分と有名だからね」

「ゆ、有名……ですか?」


あぁ。と爽やかな笑顔を向けながら短く答えるクローリア。動作の一つ一つが洗練され、見る者に一切の不快感を与えさせない。

人から高感度を得ることに関して、天性の才能を持っている。そう印象を受ける。

なんて、相手の長所をひねくれた観点からしか見られない自分がなんだか恥ずかしく思えてくる。

これ以上は悲しくなるだけだと思考を中断させ、思考を別の方向へ向ける。


「でも、一体どうして俺なんかがそんな騒ぎに?」

「それについてだが、この騒動の発端については凡そ検討がついている」


そう言ってちらと、茉李の方に目をやる。茉李は、何故自分なのかわからない、といった顔で俺の顔とクローリアの顔を交互に見る。


「凰咲李厳…………私の友人なのだが、もう会っているだろう?」

「あいつか………」


そう言った呆れた自分の声が聞こえると同時に、まぁあのやろうならやりかねないな、と納得してしまう自分がいる。

これは一種の病気だろうか。きっとそうだろう。


「そんなに怒らんでやってくれ、あいつだって悪気はないのだから」

「そこが余計に、いや何でもないです。良い人なのは俺も知ってますから」

「そうか、君もそう思うか。うん、やはりあの男は凄まじいな」


控えめな笑い声とと共に上品な笑みで顔を染める。

そんな意味深な言動の真意が一体何なのか、俺にはよくわからない。が、少なくともその真意がろくなものでは無い、と言う事だけは分かった。

それでも、答えが気になるのは人間の性だ。


「ーーー??ーーーそれってどうゆーーー」

「おや、もうこんな時間か。それではな少年。達者でな」


そう言って話を終わらせないまま、というより答えを教えないまま訓練場の出口の闇へと消えて行く。後に残ったのは寂寥感だった。


「てめえ、次は殺す」


そう言ってもう一人の男も同じように消える。残ったのは…………何も無い。

驚くほどに。自分でもこれはあまりに冷酷すぎると思ってしまうほど。


へんちくりんな五月蝿い奴と爽やか完璧イケメンが消えた訓練場には暫く音がなかった。

そんな沈黙に耐え兼ね茉李の方を向くと、


「ねぇ、彗。どうしてあんな無茶したの?」


いつになく真剣な眼差しで、こちらを射るように見つめる。今までに無かったその反応に俺はかなり困惑する。胸中では、こういうときの女子への対応を延々模索していた。結果、辿り着いた答え、それは


「えっと、君をまも」

「ふざけないで!!」


半分言い終わらない内に、俺の戯けは茉李のやや上擦った悲痛な叫びにかき消される。

唐突に挙げられたその叫びはただただ空間に空虚な響きとなって歩き回る。


「お願いだから今は、本当のことを言って?強がらなくてもいい、無理しなくてもいい。だから、本当のことを言って?それとも、私じゃ………駄目……?」


バツの悪さからか、いたたまれなさなのか、判別はできないが俺はいつの間にか茉李から目を背けてしまう。

彼女が眩しいからだろうか。自分自身を客観的に見た時の、自分の余りにも暗すぎる人格と比べて、彼女のそれはまさしく神のような輝きだからだろうか。神々しいものだから、それは恐ろしい物になってしまうのだろうか。

わからない。俺にはわからない。きっと一生分からないまま、この人生を終えるだろうと、そういう未来が俺には視える。俺には……。


「わからない………。本当の事って………一体何なんだ。言葉通りでいいなら……半分は本当だよ。もう半分は、そうだな……なんというか」


言葉に詰まる。

何が答えなのか分からない。わかるはずもない。きっと答えなんて無いのだから。

無いものを見つけ出せるのは神様だけだ。俺は、早乙女彗は決して神ではない。早乙女彗は人間だ。

人間のにはできる事も、知れる事も、見る事も聞く事も、全てにおいて範囲が決まっている。

そこからは抜け出せない。よって早乙女彗には答えのない答えを見つけることは敵わない。


「もう半分もきっとそうだ。茉李の前でかっこいいところを見せたかった。ただそれだけ」

「それってほーーーー」

「本当。嘘なんて一厘たりともっ……………」

「……………彗…………………??」

「いや………ちょっと腕が……な……」


火球を放った右腕に走る激痛。今日だけで何度目だ。

と、胸中では自身の右腕に対して非難轟々だか、そんな感情は一切表には出さない。なぜか?かっこ悪いのは嫌だから。

それに、俺はこの痛みを知っている。いや、この痛みは知っている。


「待って彗、これ………」

「無理やりだったしな………」

「え?」


悶え苦しむ程の痛みを受けながらもそれをほとんど表に出さずにそういう俺の態度を不審に思ったのか、それともまた強がりだと取ったのか、どちらにせよ俺にとっていいことではない。


「この痛みは、知ってる。こいつとは随分長いからな……」


そう言って自身の右の手の甲を見せる。

そこにあるのは茉李の腕に浮かび上がった紋章と同じもの、色が鮮血ではなく春の草原のような、エメラルドグリーンに似た色という違いはあるが。


「血印……魔術……?でも、色が……」

「これは昔から。希少種なのかもしれないし、もしかしたら天才かもしれない。こればっかりは長い付き合いの俺もさっぱりだ」

「そ……そう……。でもこれは……」


そう言っておもむろに俺の右手を掴み、手の甲に浮き出た紋章をまじまじと見る。


「そ、そんなに見られると、恥ずーーーー」

「ねぇ、今から本部に戻らない?渡したいものもあるし、それにこれもーー」

「今から……はちょっとな……。その………」

「疲れちゃった?」


優しく微笑みながら語りかける声は、まるで赤ん坊を寝かしつけるかの様な、どこまでも果てしなく優しい声だった。


「あぁ、そうだな………。今日はちょっとつ………か……れ………た…」


唐突に意識が朦朧とする。

魔術を使った反動だろうか。それとも、茉李の優しさに触れたからか。

原因は不明のまま、俺の意識がまどろみの中へと沈んでゆく。

ゆっくり。ゆっくり。静謐の中を進む雲のように。


「今はおやすみ」


そう小さくつぶやいた声は、きっと俺には届かなかった。

なんとか、書き終わりましたよ!!

一週間って長いようで短いですね…………

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