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機械仕掛けの白昼夢  作者: 乃月
【一章】霧の伽藍
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5:王宮の騎士

氷瀑フリーレン。そう詠唱うたう声はすんなりと耳に染み入り、鮮血の色をした紋様は爛々として、記憶の奥底に植え付けられる。

少女の右腕を駆け巡る幾筋もの鮮血の龍。

何処かで見た事があったような錯覚。しかし必ず出逢った事があるという出処不明の確信。

記憶の中を巡る電気信号は依然停滞したまま、動き出すことをしない。



「ねぇ、ちょっと!聞いてるの?彗ってば、ねぇ!!」

「ーーーーー悪い、ちょっと考え事を……」

「もう!誰の為にやってると思ってるの!!彗が知りたいって言ったから付き合ってあげたんでしょ!」


そう頬を膨らませるその表情を見たのは今日で何度目だろうか。


「ごめんって、ジュース奢るからさ」

「ほんと!!」


と、子供の様に無邪気な歓喜の声を上げたと思えば、何かに気付いたように咳払いをして、


「そ、そんなに言うなら、許してあげる」


そう少し上擦った声で平静を装う。


「んでもって、もう一回説明して頂けるともう一本追加されるんだけど……」

「しょ、しょうがないわね!!ふ、不本意だけど…教えてあげる!」


満面の笑みを浮かべながら言ってもなんの説得力もないが、茉李の情報は正しい筈なので今はそれに頼るしかない。

が、ゆくゆくは茉李に頼らず、それどころか茉李に頼られる位にはなりたいと将来の展望について考え始める。


「えっと、どこから話せばいいのかな……、種類について…?」

「え?あ、あぁ、そのへんから宜しく頼む」


危うくまた聞き逃すところだった。

そんな自身を戒めるように、両の手で頬を叩く。


「血印魔術って言うのは大雑把に言えば2つあって内蔵型と、憑依型があるの。内蔵型っていうのは名前の通り体内の魔力を血印魔術に変換して行使する魔術、憑依型って言うのは自身の波長と合う武具に魔力を込めて行使する魔術」

「なるほど、人によって違うって訳だな……。茉李はどっちなんだ?」

「えっと……私は……」


そこまで言って、言葉に詰まる。

後悔が頭の中を駆け巡る数瞬。その数瞬の沈黙は俺でも茉李でも無く、他の人物、〈第三者〉によって破られた。


「おやおやぁ…?其処に居るのは執行官の方々じゃないですかぁ?」


嘲る様に発せられる声の主は漆黒の服を着た、腰に剣を携えている男だった。


「誰だお前、用があるならそっから降りてからにしてくれ」


思いもかけず出てきた言葉は、穏便に済ませる気のないものだった。


「おお?やる気かぁ?いいぜぇそういうのぉ……。タダなぁ、名前を聞くときはまず自分からって言うだろ?」

「あ、ええっと……なんかわりぃ。そういう世間の常識……?みたいなのよく分かんねぇんだ、その…そういうの教えてくれる親を早々に亡くしちまったからさ」


皮肉混じりの自虐。

割合的に言って皮肉一割、残りは自虐。そんな感じだろう。


「そいつは気の毒だ、そんなお前に免じて今回は俺から自己紹介してやる」


横柄にそう言いながら階段を降りる。


「俺はカイル・ソーケン。王宮騎士団二番隊隊員」


王宮騎士団。という単語がかなり気になるが、そこは後で茉李に聞くとして


「俺は早乙女彗。ええっと……執……」

「早乙女ぇ………?あぁ、鳴り物入りで執行機関に配属されたっていう奴か」


そんな風に思われているのか。出来る限り目立たないように生きてきた俺としては好ましくない状況だ。それだけ心に刻みこんでおく。

コイツの名前は…………忘れよう。


「それじゃあ、そんなお前を試してやるよ」

「ーーーー!?え、おい!ちょっと待っーーー!」


俺の言葉を待たずして俺の足元に突き刺さる剣。


「取れ、そして闘え」


簡潔に決闘を申し込まれる。

こいつの頭の中身は中世ヨーロッパなのだろうか。そう思わせる行動を胸中で馬鹿にしながらその剣を引き抜く。

それと同時に俺の傍らに心配そうな顔で茉李が駆け寄る。


「彗……………、戦ったらだめだからね?」

「ああ、勿論返すさ。俺、平和主義者だし」


そう言って抜いた剣を下に向けたまま、男の所まで行こうとする。


「逃げるのかお前………。本当に男かよ?」


上から見下ろしながら、本当に見下した態度と口調で俺を煽る。

煽りになんて乗るわけがない。絶対に乗らない。乗らない。乗らない乗らない乗らない乗らない乗らないーーーーー。


「いいぜ、のった。お前を速攻打ち負かしてやる」



ニヤリと笑う男。口がまるで三日月のよう。下品極まりないその笑いもその男には十分似合っていた。


「それじゃ、さっさとやろうや」


そう一言簡潔に述べた直後、男の体が宙を舞った。

ーーーーー次の瞬間、腹部に激痛が駆け巡った。

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