4:血の魔術
「あ、そうそう。そういえばさ」
と、俺。
「どうしたの……?」
と茉李。
「聞き忘れてた事があってさ」
と発する声は軽やかで、かなり女子ーーただし茉李のみーーと話すのにも慣れたな、と自負してみる。
そんな自信を言葉に乗せ、聞き忘れていた事を聞く。
「あの時茉李が言ってた血印魔術ってさ、どうすれば使えるようになるの…?」
すると、その言葉を待っていたかの様に茉李はコホン、とわざとらしく咳き込み、
「教えてあげる……けど!条件があるわ」
「まぁ、俺のできる事なら………」
決して緊張する場面では無い、ただの日常的な会話の筈なのだが、何故かその安らかな日常の中に何とも言えない、形容のしようがない緊張感が含まれている。
「ええっとね………それは……ね……」
何やら恥ずかしげに、いつの間にか寝室に置かれていたソファの上でもじもじとしている。
「師匠って……………………呼んで…………欲しいな……」
「??????」
頭の中をインタロゲーションマークが駆け巡る。
暫くの間、何とも言えない沈黙が二人を包み込む。
そんな中先にその沈黙に耐え切れなくなったのは以外にも俺の方だった。
「あ、あぁ。わかった……?師匠………?」
何の考えもなしに口から飛び出る言葉は、全て脳から直接出てきた言葉だ。俺の意識や精神、等々は一切介入していない。言い直せば全く装飾されていない言葉だった。
「…………………」
破ったはずの沈黙がまた生まれてしまう。
が、今回の沈黙は案外と短命で、創り出した茉李本人に掻き消されてしまった。
「いいわ!教えてあげる!ついてきなさいっ!」
エッヘン、と言わんばかりにふくよかな胸を張りつつ感嘆符を多めに使った口調で着いてくるよう促す茉李。どうやらかなり機嫌がいいようだ。
「着いてこいってどこに、………………って聞いてないし」
スタスタと、歩調は心無しか少し早く、そんな行動から何か焦りを感じ取りつつも、黙ってついていく。
執行機関の寮を出て、暫く歩くとドーム状の建物が構えていた。
「ええっと、ここ……?」
「そう、ここ!」
と、視線を送りながら言う茉李。俺もそれに倣って建物の方を見る。
白を基調とした建物はまだ新しく、それでいてどこか威厳のある佇まいで、
いやに威厳のある建物だった。
「なぁ、ここって……」
という俺の問、かなり大きな声で言ったつもりだが、を完全に無視して前にスタスタと歩んでいく。
ちょっ、待って……、と口から吐息に混じって零しながら足早に着いて行く。
そして何事も無いまま流れるように建物の中に入る。
中にはただひたすら広い空間が広がっている。
「ここは訓練場、と言っても見たまんまよね」
軽く首を傾げながら言う。そんな仕草に可愛らしさを覚える。
「まぁ、なんとなく分からないこともないけど……。と言うかなぜ?」
「どうして来たかって事?それはね…………」
とそこまで言って、もう一度首を傾げる。
「もしかして、わかってなーーーー」
「わかってるわよ!彗に血印魔術を教えてあげようと思って来たの!」
叫ぶ声は広い空間にわんわんと響き渡る。ついでに俺の鼓膜にも。
追究しようとすればできないことも無かったが、そうすればもう教えない!と言われかねない。
それは魔術初心者の俺にとっては大打撃だ。
よって、これ以上の詮索は無意味と言う事がわかり、やめておこうと言う意思も固まった。
「そうだったんだな……、ありがと、感謝するーーーーーーー師匠」
「え、あ、そう?いや、全然怒ってないよ?ほんとに、全然。ぜんっぜん怒ってなんかないからね…?怖がらなくていいんだよー、ナデナデしてあげようか?」
そんな返答を聞いて俺は、いや、チョロいな!と大声でツッコみたくなる衝動を抑えつつ、しっかりと一言一句、主に最後の部分、を聞き逃さなかった。
このことについては後々追究するとして………。
「それじゃ、取り敢えず教えてくれ……。まずは………もしかして実戦……?」
「そんなわけ無いでしょ、ちゃんとお話からです。実戦は、その後」
と人差し指を立て、まるで子供に言い聞かせるような口調で語りかける。
子供扱いも悪くないな、と思った瞬間であった。
「りょーかいしましたっ!!」
軽く敬礼、その姿勢を数秒維持した後、さぁ早く、という気持ちを視線に乗せる。そんな俺の視線の意味を察したのか、
「もう、そんなに焦らなくても逃げないわよ」
なんて軽くジョークを挟みながら、何故か戦闘の準備に入る。
「あれ、お話は………?」
「動きながらでもできるから、軽く運動でもしましょ?」
運動…………、何故だが嫌な予感しかしない。
「やっぱお話かーーー」
「行きますよ!」
言葉が耳に届くよりも早く、鋭い衝撃が俺を貫いた。
「ーーーーーーーーーーー?」
「あ、起きた?」
「はっーーー!ここは!?訓練場………か……」
そう言いながら勢い良く起き上がり、周りを見回し確認する。
すぐ側で茉李が、心配半分申し訳無さ半分といった顔でこちらをじっと見ている。
「ごめんね、まさかそんなに弱いとは……」
「ぐっーーーーー!!」
『弱い』という言葉が刃となって俺の心を穿つ。
ダメージ甚大。そう俺の脳内て警報が鳴り響く。が、そんなことも露知らず茉李は重ねて暴言を吐く。
「それに、魔術の素質もあんまり無さそうだし」
「うっ…………………」
「魔力が飛び抜けて多いこと以外あんまり取り柄がな…………」
そこまで言葉を発してこちらを見る。
「どうした…?茉李………………」
今にも泣き出したくなるような感情を押し殺し、平静を装う。
「あ、あの………ごめんね……?」
「いや、別に。全然気にしてないから……。ぜん………ぜん…………」
語尾に行くにつれて語気はだんだんと弱くなる。
「その………お話からにする……?」
「そうしてください」
ほぼ無感情に放たれる言葉は茉李にどう聞こえているのだろうか。などと言う考えは今回ばかりは浮かんでこなかった。
「ええっと…………、血印魔術には二つ種類があって……」
そう言って正座の体勢から立ち上がり、右手をこちらに差し出す。
そして凛とした、透き通った声で
「氷瀑」
そう詠唱する。
刹那、差し出された右腕にいくつもの紋様が顕れる。
その紋様はーーーーーーーーー鮮血の色していた。
大変お待たせいたしました……m(_ _)m
なんとかテスト期間が終わりました……。
あ、いろんな意味で(笑)
急いで書いたので今回短めです。
今週から通常通り執筆していきますので、よろしくお願いいたします!!




