SNS(後編)
例によって朝練に向かう足取りはいつもよりも数倍重く感じる。正直朝練は休もうかと思った。ただこういう自主練というのは1日で伸びる技術量よりも、休まず続ける事自体の方に大きく意味がある。試合では技術とともに自信も必要であり、またその自信はこういうところから来るのだと思う。だから僕は休まない。よし、話の出だしは好調。
まぁ例えて言うなら、ソーシャルゲームとかもそれに当てはまると思う。1日じゃないゲームも大して進まないし成長もしないけれど、【ログインボーナス】制度がある分みんなとりあえず一応やるでしょ?あれって1日でも休むと連続記録がリセットだし。
なんか少し違うけどまぁそんな感じだよ!いや、だいぶ違うな。
学校に着くと体育館の前に人影が見える。十中八九あかりだろうな。あかりもいわゆる"地元組"なので朝練に参加できるのだ。
「おはよう、あかり。」
反応がない。ただのしかばねのようだ。
おかしいな、聞こえてないのかな?
「お!は!よ!う!」
「…んで…。な……ったの。」
「え?」
何かボソボソと言っているがうまく聞き取れない。相当声が小さい。
「なんでアカウント作ったの?」
かなり小声だったが今回は聞こえた。いや、なんでと言われましてもねー。僕ってSNS運営さんからアカウント作成禁止なんて、言われてなかったはずなんだけどなぁ。
「だめだったの?なんかまずかった?」
「だめじゃないけど…。ういちゃんは!ういちゃんは何をやってたの?」
あかりとういの馴れ初めは知らないが、なぜかかなり仲がいい。たまにういが遊びに行ったりする。あかりはうちには来ないけどね。ぼくは決してやましい事などしないのに。デュフフ。じゅるり。
全く話はつかめなかったが、とりあえず昨日のういとのやり取りを伝えた。
「そっか、そんな事があったんだ。それじゃ仕方ないか…。」
さも意味ありげな事を言った気がする。けれどそれ以上問い詰めても何も答えてはくれなかった。何なのだろう。これがSNSの闇なのか?そうなのか?
いやいや待てよ。そもそも地球上で唯一僕を対等としてみてくれているであろうあの2人が、SNSの使用を止めているって事はまさか…。誰かが僕の悪口を投稿してるんだな!ふざけるな!鋼の肉体にガラスのハートの僕だぞ!すぐ割るぞ!
とりあえずどれだけ問い詰めても無駄なので、話を切り上げる。内心ドキドキが止まらない。
「(誰が僕の悪口を…。いったいどんな事を。いや、正直内容はだいたい予想はついてるけど。どうせ僕の顔がイケメンすぎる。とか全てがイケメンすぎる。とか存在がイケメンすぎる。とかだろうけど…。)」
予想よりも僕の頭はお花畑でした。
とりあえず朝練はサボる気はないので始める事にした。普段よりも集中力に欠いているため、放たれたシュートはゴールからこぼれ落ちる。
「(今日は極端に入らないな。)」
そもそも例の一件で手に後遺症が残っているので思うようにシュートは打てないのだが、それでも今日はキレが悪い。
後遺症の事だが、まずバスケットのシュートにおける最重要と言っても過言ではないポイントは、『手首のスナップ』だ。手のひらの上に乗ったボールを全身のバネを使いボールを飛ばすのだが、方向を決めるのは手首と指先。手首が綺麗に返り、中指と人差し指がゴールを向いている時、初めてシュートが入る。
この点において僕の手は肘以下の歪みと可動範囲の縮小によってうまく手首が返らない。
つまるところ、シュートが安定しないのだ。それゆえのポイントガードであり、それゆえの朝練なのである。
いまいち集中できずに朝練を終えた僕は、気分が乗らないまま教室へ向かった。
「今日は寝ちゃうかもなー。」
廊下での独り言のつもりが、あるやつらに拾われた。
「お、珍しいじゃん!眠そうだね!」
「なになに?昨晩はナニしてたのかなぁ?」
きっと"ナニ"はカタカナ表記にされていることだろう。変なニュアンス持たせるな!僕は下ネタが苦手なんだ。まぁ昨晩服を脱いだ妹が布団に入ってきていたので、否定できないあたり僕も罪な男だな。
あれが妹じゃなくてアヤセたんならなぁ。おっといけない、これは全年齢対象、ましてや僕は下ネタが苦手。のつもり。
ともあれ話しかけてきたのは身長188cmの出津夏樹とその彼女の身長178mの倉持紗江だ。ともにバスケ部で2学年におけるバスケ部男女の身長トップ同士カップルなのである。
このカップル異常にデカイんだよな。ただでさえリア充ポイントで見下されてるのに、身長的にも見下されるとかたまったもんじゃないよ。
僕はいつの日か果たす下剋上への強い思いを募らせた。ちなみにそれがいつになるかまではあえて触れないでおく。当分来ないだろうし。ぐすん。
「昨日は色々とあってさ…。」
自分の言葉に覇気がないことがわかった。いや、本当疲れてるよ。更にあやふやにさせられた朝の件も気になるし…。
いや待てよ。なんか忘れて…。
ふと浮かんだ違和感に自然と首が傾く。あ、なんかこれ絵になりそう。あとは人差し指を口元に持って行ってっと…。
よし!完璧!私、可愛い!
完成形を自分の脳内に投射したところ、『閲覧注意』のテロップとモザイクがかかっていて見れなかった。
ここまで自分の深層意識が自分を下等なものと見ていたとは…。本格的にお金貯めようかな。
なんのかって?そりゃもう、隣国への飛行機代及び、お顔にメスを入れて超絶イケメンに生まれ変わる魔術のお代をだよ!
じゃなくて!何か忘れている…。
なんだったか。
「どうした?透?」
出津が心配そうに話しかけてくる。
そうこうしてるうちに教室に到着した。奥の方に紗夜と真夜が見えた。
「(あああああああああああああああ!)」
相談事あったんだ。やばい、完全に消えてた。SNSどうこうとかそんな場合じゃねぇよ!
「なんでもないぞ!出津!大丈夫だ!オールオッケー!」
まだ大丈夫だよな。うん。とりあえずあかりがどうにかカマかけて行くって話だったし。
とりあえず教室に入りビッグマンカップルと別れてから席に着いた。
あとは潤の気持ちをうまく誘導すれば…。そう、これ以上厄介ごとが起きなければ…
「なぁ、透!聞いてよ!おれさ、彼女!できた!」
疲れてるのかな。空耳が聞こえるな。なんか後ろからっぽいな、この空耳。
「おい、聞いてるか?なぁ!なぁってば!」
どうやら本格的に疲れてるらしい。幻聴の類いが聞こえるってことはもう相当だよ。今日は授業寝ちゃおう。おう、寝ちゃお寝ちゃお〜。
「聞いてるの?透!」
「だあああああああああ!なんだよ!潤!」
「だーかーらー!俺、彼女出来たんだって!」
隣でこの話を聞いていたあかりはすでに顔面蒼白。おそらく僕もそうだろう。もはやこの前提段階でつまずくとは。
普段ならここで潤とともに喜びの声をあげて、自分のことのように嬉しくなるはずのこの状況なのだが、いやぶっちゃけそれはないけど、むしろ徹底的に妬むけどな。たがしかし今回はもうそれどころじゃない。
「ソ、ソッカー。、ヨカッタナー。」
「おう!ありがとな!じゃ!zzz」
まさかの爆睡。今度ギネスに連絡しておくから記録立てな?もはやそれ世界レベルだから。
「お、おい、あかり。どうするんだよ。これ。」
「紗夜ちゃんと真夜ちゃん、それに青木君が動き出す前に何かを考えなきゃだね…。双子の以心伝心かはわからないけど、紗夜ちゃんも薄々何かを勘付いてるっぽいし。」
それはやばいですわ。もう手詰まり感あるよね?これ。どうするよ本当に。まずいな。青木が調子落とす可能性が0ならほっておくけどさ…。もう無理なのか。こうなったら正直に話すしか…。紗夜に本当のことを伝えて、その上で諦めてもらうしかないんじゃないかな。大丈夫だよね。きっと。
「(どうせ青木の事が好きな気持ちも、紗夜の勘違いだろう。きっとそうだ。恋愛なんてそんなものだろ。)」
「んー…」
頭を抱えるあかりに告げた。
「僕から紗夜に全部話すよ!」
「え、でも…。それじゃ透君が…。いや、そ、そうだね。もうそれしかないね。」
うそーん。もうちょっと渋ってくれてもいいんじゃない?この策って裏で全部知ってた僕に責任くるじゃん?紗夜の気持ちも青木に言っちゃってるし。せめて社交辞令程度に止めてくれても…。まさか『それしかない』とくるとは。侮れない、あかりも。
「うん、この相談を請け負ったのは僕だし僕から言うよ。」
「わかった。また何かできることがあるなら言ってね。力になるから。」
さっそく『じゃあよろしく』とまで言ってしまいそうな心を必死に抑え、あかりのありがたい言葉に礼をしつつ、僕はこれからの段取りを考え始める。ただなかなか頭は働かない。まぁなるようにしかならないか。当たって砕けろだ。
ことは急を要する。今日中にどうにかしよう。
この解決策で僕の青春は回りだした。




