SNS(前編)
夜の9:30になって自主練を切り上げる。初めの頃は夜の体育館に1人きりなんて怖かったけれど、大音量で音楽をかけることでなんとか解決した。田舎だし学校近隣に民家がなくてよかった。
家までは徒歩10分というかなり良心的な立地なので、登下校には苦労もしない。
家路に着いた僕が
「(帰宅したらアカウント作る。帰宅したらアカウント作る。帰宅したら…)」
と、やるべき最重要事項の暗唱を続けたのは言うまでもない。いや、言うまではあるな。むしろ言わなくちゃわからないだろ。というより言う必要ない。
なんてことを考えてたらいつの間にか暗唱に変化が表れた。、
「(今日こそアヤセたんの好感度マックス。今日こそアヤセたんの好感度マックス。今日こそアヤセたんの…)」
毎日こんなくだらない空想に駆り出せるのも、ひとえに中二病のおかげに他ならない。これで疲れが吹っ飛べば完璧なんだよなぁ。
アヤセたんに顔を合わせているときは、疲れなんて微塵も感じない、というかむしろ湧き上がる元気。ただ一旦ディスプレイから目を離すと襲ってくる疲労感。なんかあれだな、麻薬だな、これ。なるほどあの手のものがやめられない理由がわかったぞ。
「これは仕方ないな。ある種の愛の形だもの。愛は地球を救うと仮定するなら、救うのは僕でつまり僕は正義だな。」
見事に自分を正当化して見せる僕。自分のクズさを身をもって体感した1日だと感じたのは言うまでもない。これは本当に。
家に帰宅すると、可愛い妹が迎えてくれる。"わけがない"という言葉が続くのだろうと、ここまで読んでくださった方は思うだろう。読むって何をだよ。これは主人公視点だから、そういうフレーズは控えろよ。
さておき実際には可愛い妹が迎えてくれるのである。僕の唯一の"ラノベ主人公っぽい特性"であったりする。
「おーかーえーりー!とーにー!」
「うん、ただいま!今日もいい子にしてたかな?」
こいつは僕の妹の"色々うい"。文面だけ見てもらうと小学生、または中学生だろうと予想つくだろうが、まさかの同い年。だから文面ってなんだよ。
同い年の理由は簡単で、単に両親が『頑張った』からだ。何をかというのはお察しください。つまり僕は4月生まれで、ういは3月生まれ。ちなみに"うい"が平仮名な理由は、天を貫くほどの低学力夫婦が"憂"という漢字を書けなかったかららしい。
本当は同じ高校に通うはずだったのだが、両親の持つ、可哀想なおバカな遺伝子が強化されて受け継がれたらしい。ここら辺では滑り止め高校としても名高い私立常陸高校に落ちた。いやいや、この高校『落ちる』って制度あるの初めて知ったようなレベルなのに。なんか、名前と受験番号を書き忘れたらしい。
というわけで地元の最底辺高校に入学することになったときは、泣くわ喚くはの大騒ぎだった。
「とーにーと離れるくらいなら、高校やめてボディガードになって24時間付きそう!」とか言い出した時には真剣に精神科に連れて行くことを考えたくらいに。
ちなみに『とーにー』とは僕のことで、小さかった頃に"る"の発音ができなかったことが、こうなった理由らしい。
「お風呂わいてるから、先に入っちゃえば?いや、先に入ってて!」
「ん?あぁ、わかったよ。ありがとね。あと"先に入っちゃえば"ならここでは意味が通じるけど、"先に入ってて"は色々とおかしいからね。」
「ほら、それは『色々家』だけにさ!」
「全然うまくないから、それ。(あとでみんなに使ってみよう。)お風呂には入ってこないでよ、絶対に。もう高校2年生になったんだからお兄ちゃん離れしなさい!」
頬を膨らますういは可愛らしい。
妹離れできない兄の姿がそこにあった。"そこ"というよりも"ここ"にあった。というかそれは僕だった。
さてさて、みんな気になっているだろうこのブラコン具合だが、これにはきちんとした理由がある。小学6年生までは普通の兄妹だったのだけれど、クラスで山登りをした際にういが遭難して、それを助けたのが僕だったから、今のようなこんな感じになった。
実を言うとういを探しに行った自分自身も遭難して、途方に暮れていたらういがいて、しれっとした顔で「助けに来たぞ。」と抜かした挙句、「一緒にいてやるからな。」と自分が帰り道を知らないからやむ無しに出した言い訳が、精神不安定だったういの心を射止めたようだった。結果30分後くらいに救助されたが、ずっとういは僕から離れなかった。そして今に至る。
ちなみにさっきの風呂の一件は、ああやって釘を刺しておかなければ普通に風呂に乱入してくる。一応この話"全年齢対象、R指定無し"でやってるから、妹の発育途中なこじんまりとした肢体の描写とか入れるとまずいのです。たぶん。いや、わからんけどね。初投稿だし。そこら辺は安全策をとるに越したことはないな。
だから何の話だって!
風呂から上がりご飯を済ませた頃には既に11:00を回っている。愛しの妹は風呂には入ってこなかったようだ。ちっ。
ここから勉強を少しやると12:00だ。だからやらない。発育上良くないもんね。夜更かしは。
「とりあえずアカウントを作るか。」
ぼそっと部屋の中で呟いた。
夜更かしはいけないから勉強はしないのに、娯楽はいいのかって?いいんだよ。若いし。
間も無くして視界が少し暗くなった。
「(電気の調子が悪いのか?)」
そう思い顔を上げるとういが仁王立をしていた。どうやらご立腹のようだ。
「うい、可愛いようい。」
効果は今ひとつのようだ。おかしいな、これでいつもは万事解決なのに。
「とーにー、今なんて?」
「『うい、可愛いようい。』」
「その前」
目が怖いです。お兄ちゃん、妹のそんな顔見たくなかったよ!
「え、えぇと、『アカウント作ろうかな』?」
「誰がそれ許したの?ねぇ。うい、そんなの許可してないよ?」
とりあえず言っておくが、血が繋がっていますのでご安心を。実は義理でした!とかはありませんので。ちっ。
さておきこれが僕がリアル垢を作らない、否、作れない理由だ。なぜかは教えてくれないけどダメらしい。
「じょ、冗談だって!気にすんなよ!」
しぶしぶ自分の部屋に帰っていくういの背中を眺める。あそこて冗談って言ってなかったら、おそらく僕は四肢を縛られ監禁コースまっしぐらだっただろうな。
あ、その手のヤンデレが出てくるゲームとかあるけど、僕あれ割と嫌いじゃない。ああいう現実では起こりえないことを体験するって貴重だしね!やっぱ2次元でしか体験できないもんね。
それよりも時々僕が何か怪しいことをしたり呟いたりすると、僕の部屋にういがいるんだよな。なんでだろ。まぁいいけど。
とりあえず今日は寝よう。
パチッ
電気を消してあたりを暗くした。布団に潜り込んだ。そして頭までかぶる。携帯の光が外に漏れないように。
考えすぎかもしれないが、どうやらういは僕の部屋の事情がなんとなくわかるらしい。たぶん。超能力とか勘とかかな。
ともあれ布団の中でアカウント作成を始める。プロフィールはとりあえず
『常陸高校2年バスケ部#11、気軽にフォローよろしくお願いします(=゜ω゜)ノ』
としておいた。まぁ無難だろうな。事前にチーム1のフォロワー数を誇る青木にアカウントが出来次第拡散するように頼んでいたので、青木に連絡し拡散してもらった。
「(今日はもう本当に寝よう。なんか疲れたし。)」
薄れゆく意識の中、携帯の通知が光るのが見えた。
ちゅんちゅん
爽やかな木漏れ日が部屋に差し込み、外では鳥たちが歌っている。とはいかなかった。
まだ暗い部屋が目につく。意識がまだ全快では無いため、状況が飲み込めない。とりあえず起き上がろうとした時に異変に気付いた。自分の四肢が縛られていた。徐々に我が身に帰ってくる意識の中、僕に重みがのしかかっていることにようやく気付いた。
「(ここが僕の部屋であることに違いは無い。そして外を見るにまだ夜中。僕が寝てからせいぜい2時間ってところだな。ってことはつまり…。)ねぇ?ういちゃん?そこをどいてくれないかな?ついでに手足も解いてくれると嬉しいんだけどな。」
カーテンから漏れたわずかな月の光が人物の顔を照らす。やはりういだった。目が怖いです。まさかこの短時間でういちゃんのこんな目が2回も見れるなんて、お兄ちゃん感激!しねぇよ。怖いわ、普通に。もしかしたらここで物語終わる可能性あるよ。もしかしたら次回から【束縛系ヤンデレ派!】になってるかも。
「ねぇ、とーにー。これは何かな?」
ういが僕の携帯の画面を僕の目の前に持ってくる。先ほどアカウントを作ったSNSのホーム画面だ。お、フォロワー200人もいる!オタ垢の10分の1くらいになったぞ!まだ登録して数時間でこれはすごい!青木ありがとう!
じゃなくて、なぜういが僕の携帯を開けている。僕の携帯は三重ロックをかけているんだぞ。4桁の数字を入力し、次に8桁の数字、最後はアルファベット6文字。
なぜ当てられた。確率にして3垓891京5776兆分の1。もはや天文学的確率だろこれ。
「あ、それ?お兄ちゃんも年頃の男子だからさ、こういうのにも興味がわいたのさ!」
開き直ってみた。案外乗り越えられるんじゃ無いかな?と思った。いや、無駄だったけど。
「こういうの必要無いって前言ってたよね?誰だっけ?あ、あやせ?だっけ?あの子がいればいいんじゃ無いの?」
「ぐ、ぐぐ。ち、違うんだよ。別にSNSで女の人と仲良くなりたいとか、彼女欲しいとかそういうんじゃなくて。いや、ちょっぴりあるけど…。ほら!情報入手的な!そうそう!若い者たちのトレンドを知らなくてはならないだろ!こんなんじゃ僕、みんなからはぶられちゃうよ!」
これは正論だ。年頃の若い奴らにとってSNSはかなり大きな役割を果たしている。勝った。論破した。
「毎日教室で美少女ゲームやってるのにはぶられてないんだなら、SNSやってない事くらいどうってことないじゃん。」
ぐう正論。返す言葉もありません。負けました。論破されました。ただここで引き下がれない。負けてはならないのだ!そしてこう言い放った。
「ならいいよ!もうお前とは口をきかない。そんなに口出しされる覚えはないぞ!もう部屋に戻れよ!アカウントも消してやるよ!」
強行にして恐慌な策。いい案に見えるだろうが、四肢を縛られている僕がこんなこと言ったら火に油を注いでいるのと同じになるかもしれない。下手したら本格的に妹の部屋に連れてかれて、【監禁系ヤンデレ派!】にシフトチェンジするかもしれない…。
ただ予想とは裏腹に
「う、うぅ…。うわああああああああん。」
大号泣した。鼻水と涙が顔に滴り落ちてくる。さすがに勘弁してくれよ。流石のお兄ちゃんもそこまでの趣味はないんだけれど…。いや、それよりも泣かしちゃったのは非常にまずい。
「嘘だって!嘘嘘!口きかないなんてないから!な?安心してよ!」
アカウントの存亡を許してくれたら。とぼやいた。
「わかった。ぐすん。ごめんなさい…。ぐすん。今日はもう寝るね。おやすみ、とーにー。」
「うん、おやすみ。」
素直に謝れるのはいいことだな。うんうん。
ってちょっとまてえええええ!
手足はこのままですか?いや、それ以前にあなたはなぜここで寝ようとしてるの?
「ちょっとういさん?ねぇ、ちょっと?」
可愛らしい寝息が耳をくすぐる。このシチュエーションでなかったら、きっと絵になったはず。
寝る前に考えてた、『現実に起きないからああいうプレイもいい!』というのは撤回します。現実になりました。怖いです痛いです死にそうです。なにしっかり伏線回収してんだよ。いらんからこんな伏線回収。
モゾモゾと動き出したういはパジャマを脱ぎだす。ちょ、これ以上はマジで運営さんからR指定の御通達きちゃうよ!
てなわけで朝ちゅんに期待します。おやすみなさい。
翌朝、結局一睡もできなかった僕は睡眠不足で登校する。もはや携帯すら見ていない。アヤセたんにすら合ってもいない。それくらいに疲弊している。
首筋にできたういによって吸われたキスマーク、を通り越した青あざはなんて説明しよう。
きっとこれだけたくさんの事があった昨日1日の出来事は僕の人生史に深く刻まれることだろう。
おぼつかない足取りで学校を目指す。




