春が運ぶ
向かい合わせの席で青木と見つめ合いながら食べる弁当。熱いまなざしが交差し、どこかよそよそしくなる。
首を斜め約45度傾かせて、頬を染めながら
「こ、これ、たべる??」
と青木が問いかける。箸につままれている卵焼きは、本来のそれを大きく超えた輝きを放っている。
「お、おう。いつも悪いな。」
青木にアーンしてもらう。
そう。ぼくは恋に落ちた。
なんてことはありません。女の子大好きです。特に会話途中に選択肢を出してくれて、まさかのやり直しまでさせてくれる、液晶の中に入っている子が。
なんて茶番を毎日続けているぼくと青木ではあるが、今日はもっと大切な用事がある。
「ねぇ、青木。お前って彼女とかいんの?」
「え?あ、いや…。というよりもなんで?」
少し言葉を詰まらせる青木に多少の違和感を覚える。しかし、そんなことは気にもとめず会話を続ける。
「いや、あのさ…」
青木の顔を引き寄せ、また自分の顔も寄せて、紗夜が青木に好意を寄せている旨を小声で伝えた。
「え、うそ。あ、あぁ。いや、そ、そんな。」
その反応は、予想されていたものとは大きく異なっていた。徐々に声が消えていく。
相手が誰にせよ、余程の嫌悪感が存在しない限り、好意を抱かれて全く嬉しくないわけはあるまい。事実、わたくし色々透が同様な体験をすれば、人目をはばからず飛び上がり、もしかしたら朝までパーティー路線まである。
嘘だと思うなら試してみなよ。
女性の方々!ぼくはいつでもウェルカム!レッツパーティー!
すみません。はい。
さておき、しかし青木のそれは嫌悪とはまた違うが、喜びとも違っていた。例えるならそれは"戦慄"、はたまたそれは"震駭"。
動揺と恐怖、不安と後悔の入り混じった顔をした青木。
いつも温厚冷静な青木がなぜこんな顔を?
その時メッセージ交換を主としたSNSに通知があった。
差出人は真夜。相談があるから外に出てこいという旨の文章。
「悪い、青木!ちょっと用事が…」
ここでの青木は普段通りに戻っていた。
「あ、ああ!この案件は一度家に持ち帰り再考した上で前向きに検討できないものであるために、一度保留にします!」
そう笑いながら冗談交じりに言った青木に、先ほどまでの不安は消え去る。
「(ん?前向きに検討できない?なんだそれ。)」
立ち上がりながらふと思ったが、次の相談があるためかそんな疑問はすぐに無くなる。
「(真夜の相談事も恋愛絡みなら、そろそろフラストレーションマックスなんだけど…)」
まじ思春期ハンパねぇっす。これが高校生の本気か。
新手の精神干渉攻撃と見間違っちゃうよ。
ーー春の始め。出会いを運ぶ季節。
春はそんな僕にとんでもないものを運んできたーーー。