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体育会系インドア派!  作者: 日なた日かげ
残念系日常
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5/21

選択ミス

部室を出て真夜の元へ行く。どんな相談なのかは大体予想ができている。


「(まぁ色恋沙汰だろうな。)」


女子からの呼び出しなのだ。普通の男子なら気分が高揚する場面だろうが、僕はそうはならない。この17年間。この手の呼び出しで告白された経験など一切なく、期待を何度裏切られたことだろう。

今回は真夜の様子がちょっとおかしかったのが気がかりだが、それでも僕に直接的に関係がある話ではあるまい。だからこそ嬉しくもなければ、これっぽっちも、期待はしていない。


「(ねぇ見て。あの人ニヤニヤしてる。スキップまでしてさ。まじきもい。)」


どこからともなく聞こえる声に辺りを見渡す。該当者が周囲に誰もいないことから推測するに、当の本人もすぐさま冷静になったのだろう。誰だよ本当。いやいや、高校生にもなって笑いながらスキップって…。顔がブスなら捕まっちまうぜ、おい。そういう行動は控えろよまったく。同じ高校に通うものとして恥ずかしいぜ。


廊下のガラスに映り込んだうすらぼけた自分が、まさしくそれそのものだった時の衝撃を僕はまだ忘れない。



ここで紗夜・真夜姉妹について触れておこう。

2人は双子で同じ高校2年生。少し栗色がかったショートヘアーに、小動物を彷彿とさせる可愛らしく小さな顔。身長は155くらいだろうか。ポジションは2人ともポイントガードである。異質なまでに顔が似ているが、2人には決定的な差がある。


言うまでもなくそれは『性格』。


2人とも活発なのに変わりはないが、紗夜の方はそれに磨きがかかっている。何にも物怖じせずハキハキとした性格だが、毒気はなく、皆から慕われている。見切り発車上等、猪突猛進なのが玉に瑕。


一方の真夜は、わりかし落ち着いている。活発なのに落ち着いていると言われるとピンとこないだろうが、本当にその通りであった。

節度を守りつつも明るい発言を出せる点、学力はともかくバカではないと思う。例えていうなら、ギャルゲーで主要キャラなのにもかかわらず、正規ルートがない女の子みたいな。こういうと聞こえは悪いが、リアルの世界においてはかなり理想系である。


周囲はこの2人をこのような違いで分けているのだ。


閑話休題、真夜の元に着いた。笑顔で迎えてくれてはいるが、どこかぎこちない。

この手の変化を見逃さないことで定評のある僕だったが、深くは言及しない。こういう風に言うとなんかイケメン。


(ちなみにこの手の能力は疑似恋愛系のゲールでは必須能力であり、少しの表情の変化で選択肢を選ばなければならない。)


能力のソースでイケメンが撤回された気がする。


「わざわざ呼び出して悪いわね。」


笑顔はやはり硬い。


「い、いや、別にどうってことはないよ。そ、それより話ってなんだったの?」


おかしい。実におかしい。コミュ力に自信があったが言葉に詰まる。まさか、未だに僕は淡い期待を持っているのか?そんなバカな。これは罠だ!きっと諸葛孔明のわーーー


「あ、あのさ…。紗夜と優也のことなんだけどさ…。」


自由落下運動以上の速度で気持ちが落ちていく。ここ周辺の重力加速度は約9.8という定説を覆しているだろうと推測する。


しかしここで異変に気付く。


真夜から放たれた"優也"という言葉に。


そもそも青木が"青木"と苗字で呼ばれているのにはちゃんとした理由がある。というのも、もう一人"優也"がいるのだ。性は"宍戸"。宍戸と青木を区別するための苗字呼びなのである。これは男子バスケ部員同士だけのことではなく、この二人を知る人は皆そう呼ぶ。

そして僕の記憶が正しければ、真夜もそう呼んでいたはず…


(まさか…)


「ちょ、ちょっと待て。そう呼ぶってことは、お前らって、そ、その、付き合ってたりするの?」


「う、うん。それを知らない紗夜が昨日いきなり今朝みたいなこと言ってきて…。本当のことなんて言えないし、どうしようと思って。」


震える声で真夜はそう言った。ありがちな話だ。呼び方を変えることは、恋人同士の第一歩。お互い最初は恥ずかしいが、その恥ずかしさが互いの愛を表現しているかのよう。周りの目を気にしながら、小声で名前を呼び合う。


がすっ、どんっ、ぐしゃっ!


すいません!運営さん!壁が足りません!

しかし今は脳内で壁を殴り続けている場合ではない。


それよりもこの状況はまずい。大変まずい。


整理しよう。

【紗夜と真夜は双子】

【紗夜は青木が好き】

【青木と真夜は付き合っている】

【紗夜は二人の関係を知らない】

【真夜は紗夜の気持ちを知っている】


そしてなにより

【青木は紗夜の気持ちを知っている】


正確には

【僕が青木に教えた】


よし、決めた。逃げよう。大丈夫大丈夫!確か人生オートセーブ機能付だし、またやり直せば問題ないな。うん。とりあえずタイトルに戻……れない。


「(クソゲーがああああああああ)」


ログアウトボタンないとかなんなの?あれなの?バーチャル空間に閉じ込めちゃうの?ここからデスゲーム始まるの?まじふざけるなよ。なんだよこれ。アクティブユーザー70億人もいて、アバターは完全ランダムで、ステータス振り及び初期値までランダム。一時停止も無ければログアウトボタンもない。ゲームオーバーはあるのにゲームクリアはないとか。人類始まってから一度もクソゲーオブザイヤー逃してないだろ。このゲーム。

人生なんでクソゲーだ、という名言を残したあの天才ゲーマー兄妹の言うことが今なら理解できるよ。


「あの、大丈夫?」


真夜の言葉で我に帰る。


「うん。少し考え事をしてて…。」


どうする。正直問題解決の糸口が全くもって見当たらない。

おそらくこのままだと第一の依頼人である紗夜は報われないであろう。その結果自体はこの際しょうがない。

しかし問題はそこではなく、その後だ。真夜と青木の関係を知ったら、きっと紗夜は真夜に怒るだろう。それはもうこの上なく。

これがただの姉妹喧嘩なら話は早いのだが、今回は違う。


2人は女子バスケ部でポジションはポイントガード。スタメンではないにせよ、レギュラーで試合にもよく絡む。そしてこの2人は、きまって2人揃って試合に出るのだ。

目まぐるしいトランジションが展開され、視認できないところのプレーを予測しながら行うバスケットは、面積あたりの人口密度が高く、全体を見れそうで見えないのである。そんな状況では、双子の織りなすプレーは協力な武器になる。

強いチームほど身長は高く、点数の取れるフォワードやセンターが多くなりがちなスポーツで彼女らがレギュラーの座にいる所以はそれだ。

さらに言えば彼女らはポイントガードなのだ。それはチームの"司令塔"。そんなポジションで不仲が発生したら、ゲームが崩れるのは目に見えている。

事実、良い選手を揃えながらも、司令塔の身勝手さで負けるチームはよく見る。逆もそうで、特に実力の均衡した地区大会を勝ち上がるチームは、身長の大きいやつがいるか、優れた司令塔がいるかだ。

それほどにポイントガードは重要なのである。


2人の関係を隠し続けることも考えなかったわけではない。しかし、ぼくらは"スポーツクラス"。これが何を意味するか。

それは"そのコミュニティの狭さ"を意味する。

チームメイトとの信頼関係は深く、また普通科の生徒とも少し隔たりがあるために、このクラスは狭く、情報伝達の速さは尋常ではない。

そう思うと、やはり隠し通すのは難しい。

そして今回最大のミスは、僕が青木に紗夜の気持ちを伝えたことだ。


青木のポジションはシューティングガード、またはスモールフォワード。いわゆる動き回って点を取る役だ。

ただ、ついこの前まで、正確には卒業生が引退するまでは、ポイントガードをやっていた。卒業生に得点力と高さがあったために、青木は、司令塔の座についていた。

つまり青木はポイントガードの重要性を理解している。

それで青木はでこう考えるはずだ。


『紗夜と真夜の仲を崩してはならない。』と。


その結果、青木は真夜と別れることを決意するだろう。だがしかし、こうすることによって真夜はショックに陥り試合に集中できないだろう。下手したら、紗夜を恨んでしまうかもしれない。


総括すると、バッドエンドしかみえない。とりあえず僕が今取るべき最良の選択は


「この件は僕に一任してくれるかな?紗夜の方にはお前らのことをバラさずに、うまく丸めておくよ。」


全てを伏せて、真夜にこの件に対してよ不干渉を遠回しに刷り込む。


「あ、あと。わかっているだろうけど目立った行動は控えてね。いちゃつかれたら僕もたまったもんじゃないしね。下手したら君たちの崩壊を目論んじゃうかもよ?」


笑って言えただけ褒めて欲しい。そしてその笑顔が功を奏したのか、真夜の顔も和らいだ。


「わかった!よろしくね!」


そう言った真夜の顔は、安堵に包まれた無邪気で清々しい笑顔だった。


「(あんな顔を見せられたら、何もしないわけにはいかないな。)」


真夜と別れてすぐに青木にメッセージを送る。


『さっきの話、紗夜だと思ったら真夜だったww。だからさっきのは気にしないでくれ!というよりもお前ら付き合ってたんだな!末長くお幸せに!そんでもって当分は誰にもばらすなよ。』


おそらく真夜と青木の口ぶりから、この2人の関係を知っているものは僕だけだ。そうだとすると、このメッセージの信憑性は跳ね上がる。

おまけに誰もが見間違う双子だ。これでひとまずは一時休戦。

さて、どうするか。この状況を脱するいい手立てはないだろうか。



この日初めて僕は、2人の顔が似ていてよかったと思った。


そしてその後、これほどにまでないくらいに2人の顔が似ていることを恨んだのであった。


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