恋愛なんて、勘違い
"スポーツクラス"
そう名を打ってはいるが、端的に言えば普通科、工業科のように並ぶ"スポーツ科"なのである。
それは毎日授業も受けずに、部活だけをするというわけではない。高校の区分であるために最低限の学習は行う。
というわけで、一限目の数学を受けているわけではあるが、毎度のことながら酷い有様である。40人在籍のクラスでまともに授業を聞いているのは、恐らく僕を含めて5.6人がいいところだろう。話によると、数学の授業は黒魔術の呪文のように聞こえるらしい。
しかし、勘違いしないでいたただきたい。別にこのクラス、荒れているわけではない。
荒廃した教室に暴れまわる生徒。落書きだらけの教室に喧騒とした雰囲気。
なんてことはなく、現実は34.5人が睡眠学習を取っている。ホント静かなものだよ。あの黒魔術の呪文とやらの効果なのかな?
まぁ、正直わからなくもない。きつい部活を夜遅くまでやるのだ。昼間は寝ていたくなるさ。
こんな感じの"スポーツクラス"である。
と、まぁ、アニメの主人公が第1話よくやる、ある程度の周囲の様子を、あたかも誰かに問いかけている語り風に紹介してはみたが、席が窓際の一番後ろでもなければ、銀髪碧眼美少女が転校してくるわけでもない。
悲しいまでの現実。
ちなみにぼくの席は廊下側一番前だったりする。
「(さて、我がのエースである青木の処刑方法を、否、紗夜の恋愛を成就させるための策を練るか)」
青木は2年にして我が部のエースを張る男だ。
ラノベの主人公なんて、滅多に現実にいないけど、脇役にいる、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能の奴は各クラス1人くらいいたりする。この青木も、頭脳明晰とまではいかないがそこそこに頭がよく、他二つのファクターはそれに準じている。
不愉快です…。
いや、ここでの"不愉快です"は結構マジな方の不愉快です。はい。
ちなみに授業中はメガネをかけていたりするので、その点はあのキャラに合致してたりしていなかったり。
そんなくだらない某有名アニメのパロディはさて置き…。
でもさ、ほら、なんか最近お隣の国では顔にメス入れて、美しくなれるらしいじゃん?
大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない。
「(それにしても、どうしたものかなぁ。)」
なんて思ってはみたものの、正直やり方なんて決まっている。
「人間の恋愛なんて、ただの勘違いだろ。
ルート選択で際どい選択肢出されるゲームなんかより、よっぽど楽だわ。」
声に出してはみたものの、反応するものなどいない。ま、みんな寝てるからね。
そう、前述の通り、恋愛なんて勘違いの一種だと僕は感じるのである。
人間は心理学的に、「好き」と言われた相手を意識してしまうものだ。これは浮ついた気持ちからだけではなく、もっと心理の根幹に結びついている。元来、人の中に自分が存在する事、またその存在を認めてもらう事は極めて普遍的な欲求である。これはかつてのかの有名な哲学者が述べていた。
『他人からどう思われているか』とは、実際誰しもがきになるところであろう。
『人の目を気にするな。』なんていう奴もいるけど、そういう奴に限ってオシャレしていたり、毎日イケメンフェイスのお手入れをしていたりする。
つまり!何が言いたいかというと…
『青木死ねええええあああああああ。』
ではなく、いや、それも少しあるが、というか9割それではあるが、つまるところ、人間の意識形成において、『他者から評価』は重要なファクターを担っているのである。
では何をするか?
紗夜には何も言わず、紗夜の気持ちを伝えてやるのだ。僕の口から。
え、そんなこと?とか思うだろうけど、実は一番合理的。
脈ありならばそれを紗夜に伝え、なしならば遠回しに紗夜の告白を延期させる。
なしの場合は、少しずつ青木を煽ってやることで意識操作なんて簡単だ。
冗談の様に聞こえるが、皆様は経験ないだろうか。ふった相手を妙に意識してしまうあの感覚を。
『あ、あるわ。』なんて思ったやつ。ちょっとこっち来い。
いや、ないですよ?ぼく。そんな経験。
まぁでも、その感情がいわゆる"気まずさ"を生むのであって、気まずくなるくらいならずっと仲良くいたいなぁ。なんて思えるぼくだから、あまり気にしてはいないけどねぇ。ぇぇ。うぅ。ぐすん。
左後ろを向き、窓際に座る紗夜を見る。ショートカットでほんの少し栗色をした髪。絶賛爆睡中である。
一方の真夜はどこか遠くを眺めていた。授業中はあまり寝ない真夜どこか物思いにふけっている。
そうこうしてるうちにお昼になる。
あれ?数学じゃ?とか思った?いやいや、どんなアニメもたった一コマで時間とか進むじゃん?
『ー10年後ー』
とかテロップでも入れようものなら、アインシュタイン顔負けのタイムトラベルだわ。
「おい透!飯行こうぜ!」
呼びかけられ振り向くと、部員たちがいた。同学年にして8人。これが我がクラスのバスケ部の人数。40人クラスのうち、15人が野球部、8人が男子バスケ部、8人が女子バスケ部、6人の陸上部、3人の柔道部となっている。この40人はみな推薦入学であり、また部活が5つしかないのも、この5つの部活しか結果を残してないからに他ならない。
「おー。」
とりあえず青木に一瞥くれてやる。
ん?とあどけない顔でこちらを見てくる青木に、コロニー落とし級の劣等感にさいなまれる。
しかしここは大人の対応。まずは冷静になろう。もうあと少しで17になるんだ。こんなことで嫉妬を拗らせたりはしないさ。ぼくは心が広いからね。寛大だかー
ドンッ!!!!
「あ、わりぃ。」
やべ、考え事してたから青木に肩ぶつけちまったぜ。ホントごめんな?青木。ふっふっふ。
「あ、こっちこそごめんね?大丈夫?」
やめて。もうやめて。ぼくをいじめないで。その優しさは現在においての最大の攻撃力誇ってるから。ぶつかった三角筋と僧帽筋をさすりながら、「あぁ、大丈夫。」と答える。
この筋肉をさする動作だが、割と体育会系にはマジなあるあるで、やたらと筋肉を溺愛してしまう。
鍛えてる人とかならこの気持ちわかるでしょ?なんか無意識にやっちゃうよね。
さてここらで作戦を実行に移すか。
基本ご飯は部室で食べる。部室といってもそこは空き教室で席もだいたい決まっている。
幸い青木は俺と向かい合わせの席。話はスムーズに過ごすであろう。
さぁ、見とけよ青木。
今日の俺の足は、何だかご飯の途中にお前を蹴り上げそうな予感がするぜ。この封印されし左足が唸るぜ!
絶賛中二病進行中の頭を稼働させながら、部室へ向かう。
「(はやくアヤセたんにあいたいおー。こんな案件パパッと終わらせて、たっぷり遊ぼうねー。)」
と、ゲームキャラへの愛を忘れないぼく。
今思えば、実行へ移すのは早計だったのかもしれない。正直舐めていた部分はある。
恋愛自体の成就なんてものは、やはり難しくない。
ただー
ただ、恋愛をそれだけと括っていたことを、のちにぼくは後悔する。




