蘇る過去
会場は学校からわりと離れたところにあり、バスで1時間半のところにある。
基本的に僕らの部活はバス移動で、大型の学校指定のバスを利用して戦地へ赴くのだ。
ただ今回に限っては、目と鼻の先にある高校と試合するのに、わざわざ遠くまで行くことに多少の疑問も浮かんだりする。
まぁ一回戦目勝ったらそのまま二回戦も今日中にあるので、意味がないわけではないのだが。
今日は1試合目なので、コートでアップが出来る。2試合目以降の試合はあらかじめ外でアップをしておく必要があるため、1試合目の方がアップの面では都合がいいのだ。
9:30からの試合に合わせ、8:30からアップを始めた僕たちとは対照的に、秋明高校の生徒はまだ誰も体育館のフロアに降りてきていない。
「なめてんだろ!これは!」
キャプテンのボルテージがマックスまで登ってきている。
確かにわからなくもない。まだアップを始めていないのなら、チームの方針なのだろうと思う事もできるが、あろう事か奴らは観客席でふざけていたのだ。
仮にも前回大会の準優勝チームと試合をするような態度ではない。
顔がいいからって何してもいいわけじゃないからな!絶対ボコボコにしてやる!
半分嫉妬混じりの感情、いや9割嫉妬混じりの感情が沸き上がる。
そもそもイケメンがイケメンたり得る最大の要因は、『イケメンでないものがいるから』に他ならないという事をこいつらは忘れている。
物事には『違い』があるから『価値』が生まれるのである。ありふれたほかと同様のものほど価値は薄く、珍しいものほど価値が高いのだ。
ゆえに、イケメンが重宝される理由も『その他』が大勢いるからに他ならないのだ!
僕たち『フツメン』(きもち少し盛った)がいるおかげで、イケメンが成り立つ事を忘れないでほしい。
つまりイケメン達が受けている『モテ』という社会的恩恵は、ぼくら縁の下の力持ちあってこそという戒めを心に留め、常に感謝し続けてほしいという事だ。
アップに加えた、この沸々と沸き上がる怒りがいい感じに体を温めてくれた。
秋明の選手も試合開始30分前になって、観客席からフロアへ降りてきた。やはり30分前からアップならまだしも、30分前にやっとフロア入りとなると、なめてるとしか言いようがない。
きっちりとワックスで整えられた髪の毛に、かなり大きめのチームジャージ。
気だるげにフロア入りする自分の姿を、かっこいいとでも思ってるのだろうか。
『だるそうにしている俺、かっけー!』みたいに思ってるのだろうか。
いや、顔はかっこいいんだけどさ。上の女子高生たちがキャーキャー言っているんだけどさ。
やはりこの世は顔が全てか…。
「ちっ、たかだか身体上部に形成されている皮膚形成の完成度が高いくらいでなんだってんだよ。てめーの努力でもなんでもねーよ!遺伝子の塩基配列に感謝しやがれ!僕に感謝しやがれ!」
「まぁまぁ。怒る気持ちはわかるけどさ、ここは抑えなって。試合に私情は持ち込んじゃダメだよ?」
青木が僕を諭す構図がそこに形成された。
それは周りから見たら、さしずめ『相手チームのイケメンを妬んだブ男が、自分チームのイケメンになだめられ、ショックのあまりに失神寸前』というように見えているのだろう。
「お前には今日パスまわさんからな!(おう、気をつけるよ!今日は頑張ろう!)」
「セリフ逆だよ?」
くそっ。そういうの冷静に返されると余計惨めになるじゃんか!
だが確かに試合に私情は持ち込めない。チームに迷惑はかけられないし、何より僕は紳士だ。
スポーツマンシップな乗っ取り、正々堂々と正面から3次元にはびこる野生生物『リア獣』を狩り尽くし、愛しのアヤセたんと勝利の祝杯をあげるのだ。
この時の僕が『紳士』の意味を大きく履き違えていたことは言うまでもない。
「とりあえず初戦だ、青木。ハナから全力で行こ……」
どういうことだ?
「どうしたの?透。」
ありえないありえない。
こんなことあるはずがないし、あってはならないことだ。
「ど…、どうして…。どうして奴が…。」
「どうしたんだよ、透!」
秋明選手が続々とフロア入りしてくる中、最後尾に歩く最も気だるげな男に僕は見覚えがあった。
むしろあの顔を忘れたことなどなかった。
一度は水に流し、すべて過去の事にできたと思っていたあの出来事が、鮮明に脳内に再生される。
と同時に湧き上がる憎悪と嫌悪、そして怒り。
あの忌々しき顔。整った顔立ちの奥に潜む下衆と表現しても過言ではない男。
秋明選手の最後尾に歩いていた男は、紛れもなく僕の中学バスケ生活のほとんどを奪ったあいつに他ならなかった。
この試合、青木の言ったことを守れそうにない。




