やはりぼくの家族は少しおかしい。
小学4年生までは両親の仲は円満だと思っていた。僕らの前では喧嘩など一度もしていなかったし、むしろいつも仲睦まじく見えた。
ただ僕らが5年生になって初めて両親は僕らの前で喧嘩した。まだ10歳そこらの僕らには喧嘩の内容などわかりもしなかったが、後から聞いた話によると母の浮気が原因だったらしい。それもかなり深刻な。普通の人なら即離婚を考えるところだが、父はこの時期の離婚は子どもに悪いとして離婚を選択しなかった。
この選択が正しいかどうかはわからないが母には嬉しい選択であったに違いない。専業主婦だった母は離婚されると収入口を失うわけだから。加えて父の家はそこそこに裕福だったし。
まぁそんな生活も一年ももたなかったのだが…。
何があったかを一言で述べるなら『母が家に帰らなくなった』。小学校から二人で帰ってきても母はいなかった。最初は動揺したが夜には帰ってくるのでじきに慣れた。おそらくその頃から僕は冷めた人間だったのか、そういう現実をそういうものだと割り切っていたけれど、ういは違った。日に日に精神が不安定になり始め、急に泣き出し始めることもあった。
そんな時に起きた山での遭難事件。色々なことが重なってああいう風になっちゃったんだよな。それでも当時は今ほどではなかったのだけれど。
そんなことに追い打ちをかけるようにして両親の離婚が成立した。無理をして疲弊した父、新たな収入口を見つけた母。ある種の円満離婚だよね、もはや。
その頃のういはと言うと、無意識か意識的かはわからないが母の話をあからさまに避けるようになっていた。僕もういも何となく母が悪いのだろうと分かっていたから、自然と父に一層懐いていった。
中学に上がる頃にはすっかり母の姿も見なくなって、本格的な父と僕たちの3人暮らしが形成されていたけれど、それでも幸せだった。これが一人っ子だと辛かったけど兄妹だったし、夜には父も帰ってきたから。まぁ日に日にういのブラコンに磨きがかかっていったけど。毎日お世話していた気がする。させられていた気がする。
こんなこんなで掃除や洗濯、料理等の家事全般のスキルが鍛えられた。事実現在においても同年代をはるかに凌駕する主婦力を保有する。
オタクでスポーツマンで主婦力高いとか逆に何ができないの?むしろ完璧じゃん!あ、すみません、恋愛沙汰の能力値が皆無でしたね。いやいや、そもそも【オタク力】【スポーツ力】【主婦力】の三つにステータス全振りしたから【恋愛力】が皆無なんだよ!そうだそうだ!これは僕の生い立ち上仕方ないんだ!
ともあれ部活と家事に加えて、『ういの世話』という何とも不可解な役職まで追加されたため、本当に恋愛力を養う力はなかったのだけれど。とりあえずこの言い訳は普段から使えるな。
しかしこのまま僕らの平和は続かなかった。父が交通事故で死んだのだ。電柱に突っ込んでしまったらしい。疲労からきた居眠り運転。父の家がそこそこ裕福だったためにお金には困ってないと思っていたが、父は家からのお金を受け取っていなかったのだ。後から聞いた話によると、自分のせいで家庭を狂わせてしまったから、しっかり自分の力で家族を養いたかったそうだ。
責任感が強い反面、少しずれている意見にも聞こえなくはないな。
その時の僕ら兄妹の落ち込みようは酷かった。僕はただでさえ腕を怪我していて落ち込んでいたし、ういもいつも慕っている僕が落ち込んでいたせいでなんだかんだ下向きになっていた。
僕らはすぐに叔父夫婦に引き取られたがその際も母は現れず、葬式にも来なかった。
その事実を知ってからの立ち直りも早かった。僕は母の態度や夫婦の関係を見て『所詮そんなものか』という風に一度思ってしまってから、全てにおいて考えが冷淡になった気がする。おかげで父の死もすんなり入ってきた。僕が立ち直ると甘える相手ができたういもすぐに立ち直ったが、ブラコン具合がこの頃あたりから大気圏を突破し始める。
風呂への乱入や夜這いまがいなことはもちろん(もちろんってなんだ)、今までは節度を守ってきた学校でさえブラコン具合を発揮するようになった。休み時間ごとに僕のクラスに来たり、部活終わりまで僕を待っていたりと、周りからの白い目が怖かったよ。まぁ実際は周囲が僕らの内情を少なからず耳にしていたので仕方ないと割り切ってくれてはいたが。個人的にはういの暴挙を止めて欲しかったけどなぁ。
きっと中学時代はういがいたからモテなかったんだな、そうなんだな。そうなんだよ、そう思おう。
まぁそんなこんなで今に至るわけで、今になってはたいして気にはしていない。父はいい人だったし、母もなんだかんだ途中までは育ててくれた。そう割り切れているし、今は叔父さんたちやみちこさんがいる。
ちなみに本当に何でみちこさんがああなったかは知らない。特に理由もないだろうし、きっとあの人は純粋に頭のネジが1.2本外れてるんじゃないかな、きっと。
さてここまで思い返すと、やはり僕がギャルゲーに手を出したことはまぁしょうがないことだと思う。ていうかむしろ普通。当たり前の範疇だよね。うい以外の人肌が恋しくなってギャルゲーに走るって、そこらではよく聞く話だし。いや、聞いたことないけど。でもこれって思春期男子の性っていうか、義務みたいなものだしね。この位みんな経験してるよね!口に出さないだけでさ!
ちなみに『ギャルゲーで人肌は感じられるのですか?』という疑念に関しては当局も現在調査中ですので回答を控えさせていただきます。また『妹をモテない理由に使うのは如何なものか。』という意見に関しては、こちらとしてもこれから善処していく所存ですので何卒ご理解お願いしたいところであります。なお最も寄せられた『モテないのはお前が単にカッコ悪いだけ。』という意見に関しては、現在発言主の特定に全勢力をあげております。発見次第直ちに制裁措置を取ることをご容赦くださると助かります。
「とりあえず今日は寝よう。」
あ、風呂に入ってないや。入らなくては。隣の部屋から笑い声が聞こえるので、どうやら彼女らはすでに上がったらしい。
着替えを持って再度風呂へ向かう。
「(よし!誰もいない!)」
広いお風呂を毎日貸切。至福のひと時である。はずだったのに…
ガラガラガラ
唐突に開いた扉の先にはみちこさんが立っていた。あたかも『偶然入っちゃったわ』みたいな雰囲気を醸し出しているが、騙されはしないぞ。だいたい僕が帰ってきた時にはすでに寝巻きだったはずだ。つまり、すでにこの女は風呂に一度入っているはずだ。
「きゃ、あ、あら偶然ね!ハァハァ。」
ぎこちない驚きの声と、なぜか荒ぶる吐息。僕じゃなくてみちこさんのね。大根役者顔負けの演技の下手さに脱帽です。
僕は顔をそらしつつ、冷静に笑顔で放った。ここで体を見てしまって欲情したら負けなのだ!
「あれ、みちこさん。2度目の風呂ですか?いつも二回も入ってたんですね。お風呂好きなんですね、初めて知りました。」
世の中の諸君よ、棒読みとはこうするのだよ!と言わんばかりの棒読みを放った。
「なぜ…、なぜそれを…。お前、まさか…」
「ふっ、ツメが甘いなみちこさん。さっきあなたが着ていたのは寝巻きだ。それを見抜ければ難しいトリックではないさ。」
楽しい楽しい中二病会話の始まりです。僕個人としては本当にこんなノリは大好きである。この両者裸というところ以外は。
「く、くくく、はっはっはっはー!おぬし、いつからさっき私が召していたものを【寝巻き】と錯覚していた。」
「な、なに…。まさか、おまえ!」
「いや、寝巻きだけどね!てへっ」
「何なんですか!ていうか早く出てくださいよ!どうせ2回目の風呂なんでしょ!」
マジで何なんだよこの人。いやスタイルいいけどさ、綺麗だけどさ、直視できないけどさ。かなり残念美人だよこの人。
「ふぁーい…。」
とぼとぼと背を向けて風呂場を出る背中をちらっと見た。いや、これは下心とかなくてさ、ほらなに、あれだよ、そうあれ!闇の住人とかに背中に傷つけられてないかな…とか、実は天使で羽が…とか心配になったからさ!
いやぁこの言い訳苦しいな。それにしても綺麗な身体だな。
何とか風呂を済ませて部屋に帰ってきた。机の上には妹モノのギャルゲーが並べてある。
「(やべ、だしっぱだったか?)」
あの子達に見られてないか心配だったが、まぁ人の部屋に勝手に入ったりはしないだろう。
すぐベットの下に隠そうとベットに目を移すと、今度はベットの上には妹モノの同人誌が列挙されていた。基本僕はエロ本を買わない。いやいや、同人誌はエロ本と違うから!ストーリーもあるし、いやほぼないに等しいやつもあるけど…。
「これは本格的に見られてないか心配になってきた。」
とりあえずそれらをしまい、隣の部屋に行く。ノックをすると入室の許可が下りたので開けてみると、ういとは違う女の子の匂いがした。攻撃力高いなぁ、これ。
「いきなりごめんね?うい達さ、僕の部屋とか入ったりした?」
「私たちは入ってないよ?」
不思議そうにういの友人が言った。どうやらあの様子だと本当だろう。それにしても『私たちは』に引っかかるな。『私たち』ってここにいるみんなだよね、ういもちゃんとそこに入ってるよね。
「そっかそっか、いきなりごめんね。じゃ、おやすみ。」
「あ、待って待ってお兄さん!お兄さんもお話ししようよ!」
友人から放たれた『お兄さん』というワードが出てきた時のういの顔といったら、目も当てられないような鬼の形相だったけれど、一瞬で笑顔に戻った。
「そうだよ、とーにー!明日は祝日だし、大丈夫でしょ?」
笑顔が冷たい!
「いや、僕は明日午前中練習だから…。」
嘘である。明日は午後練です。
「あ、お兄さんって常陸高のバスケ部なんだっけ!かっこいい!」
おそらく褒め言葉定型文をコピーしてはっつけただけの言葉だから、いやいや、とこちらもまた喧騒の定型文をはっつけるにとどめたが、やはりういの顔は一瞬鬼になっていた。桃太郎さん桃太郎さん!至急猿とキジと犬の招集を!きびだんご?いや、最近の若い奴らはそんなちょろくありません。エッチな本かお金で!
「あした午後練じゃなかったっけ?とーにー。」
いやいやいや、教えてないんですけどー。
「あ、え?あぁ、そうだ!そういえばそうだった!」
夜も深くなり始めそろそろ寝ようと思っていた矢先、妹たちに拘束された。夜のテンションになった彼女たちにパンツ一丁にさせられてかなり過激にからかわれたまでの記憶はある。
朝起きてみるとういの友人の一人が僕のパンツを掴んでいて、ほぼ全裸状態の僕の周りには寝巻きのはだけた女子たちが転がっていて、終いにはすでに全裸の妹が僕の上で寝ている。きっとこれがラノベならここで挿絵が入ること間違いなし。きっとこれが現実ならここで逮捕されること間違いなし。よかった、これが夢で。
ういが、寝ぼけて僕の首筋を噛んだ。痛い。
ん?痛い?夢じゃないじゃん!やばいじゃん!
脱兎の如く部屋から飛び出た時の僕の瞬発力は生物界随一と言われるクモのそれをも凌駕し、生物界随一のスピードと言われるチーターのそれをも優に超えていた。
そういえば僕は妹モノのギャルゲーも同人誌も持ってないはずなのに…。あれはなんだ?
ともあれ、やはりぼくの家族は少しおかしいな。




