ぼくの家族は少しおかしい。
紗夜に3500円の食事を奢り、散々と本音を聞かされて家に帰ったのは10:00を回っていた。家には今日はご飯不要と連絡しておいたが詳しい連絡はしていなかった。というより本来今日は早く帰ると言ってあったので…。
「はぁ。」
本当なら第10部でキリが良かったから、少し話が飛ぶところだろう。おそらくみんなもそう思ってるはずだよね。でもこの物語はそんなに甘くないのですよ。
…というよりも何!物語って!第10部とか何のこと?みんなって誰?僕監視されてるの?何それ怖い。
余談はここまでにして、実際僕には超えるべき山がまだある。たぶん、いやきっと、てか絶対にヤツが暴れるはず。
家に近づくに連れて足が重くなっていく。もうほぼ止まっているかのようなスピードで僕は歩む。それでもとうとう家は見えてきてしまった。
そして…
家が見えてきたのと同時に
超えねばならない山も見えてしまった。
暗くてよく全貌は見えないが、見えてしまったそれが纏うオーラは禍々しいものであった。どうやら腕を組んで仁王立ちしているらしい。
ここからの選択は1つも間違えることが許されない。
約一カ月前に買ったゲームもそんな感じだった。レビューが『クソゲー』の嵐だったのが逆に気になってい購入してみたのだが、シナリオは普通だった。というかむしろ良かった。が、まさかのセーブ場所が一箇所しかなくて、さらに選択肢を選ぶごとに強制上書きオートセーブ。ミスの許されないゲーム。そしてバッドエンドへ。
この後の僕の行動も寸分互いなくそのような状況になるのは明らかだ。
徐々に近づくにつれ、その全貌が明らかになる。やはり予想どうりの人物だった。
「ただいま。うい。」
月明かりに照らされたういの顔は笑顔だった。おかしいな。笑ってるはずなのに顔が怖い。顔は笑ってるけど心は黒い。こういう事なのか。
「おかえり、とーにー。」
恐ろしく抑揚のない声で出迎えてくれた。いやぁ、可愛い妹が出迎えてくれるなんて兄冥利につきるな。『冥利に尽きる』ってポジティブな言葉のはずなのに、今ほど冥利の『冥』の字が死地への誘いに見えて仕方ないことはないだろう。
「こんな暗いところじゃういの可愛い顔がみえないから、中に入ろう?」
だいたいさりげなく褒めればういをなだめられる。はずなのだが今日は違うっぽい。もっとストレートに褒めればいいのかな?
「うい、かわいいよ!」
「…。」
「世界一かわいいよ!」
「お兄ちゃんの彼女にしたいくらいだ!」
「…。」
「結婚しよう!」
「…。」
ピッ
今回は本格的にヤバイらしい。これで許してくれないとか本当にやばい。だからと言ってさっきの最後の方の言葉を本気で受け取られたら、色々とそれはそれでやばかった。やっぱ身内でそういう関係っていうのはアウトだもんね。あの某アニメだってさ、2つルート用意して片方はインターネットのみの配信だったじゃん?僕的にはあのアニメ好きだったけどなぁ。面白かったし。
それにしても、ういちゃん怖いなぁ。もはやこれは
『おれの妹がこんなに怖いわけがない。』
だよ。いや別に、さっきの某アニメの話とかけているわけとかではないからね。本当に、うん。
それよりもさっきの『ピッ』ってなんだったんだろう。
「とーにー。今日はどこへ行ってたの?」
「いや、別に特別なことはしてないよ。友達とご飯食べに行ってただけだよ!」
嘘は言ってないぞ。男か女かは聞かれてなー
「女?」
これは凄まじい連続攻撃。これはスマ○ラで言うと、壁際でハリセン地獄くらってる感じだね。ダメージ小さいけどなかなか出られない。
「僕は男の子だよ?」
とりあえずとぼけてみた。同時に先日驚異的な破壊力を脳内で発揮したあの技【首を傾け人差し指を口元に当てる】を発動してみた。
カシャッ
目を覆いたくなるような閃光が炸裂した。あまりの怒りに閃光手榴弾を使ったな。やるな、うい。
「相手は、女?」
「この件については回答を控えさー
「だれ?」
なん…だと…。秘技『不正発覚議員の決まり文句』も通用しないのか。ならばこれなら…
「詳しいことは現在調査中でしー
「だれなの。」
なん…だと…。秘技『不正発覚企業の決まり文句』も通用しないのか。ならばこれなら…
「やってはあるんですけどー、持ってくるの忘れちゃって…。家にはあります!」
決まった!これだ!奥義『宿題を忘れた際の一応やってはある感を出しつつ忘れ物を宣告する学生の図』。やはりこれだったか、もったいぶらずにここで出しておいてー
「なんの話?」
痛恨のミス。大技を狙いすぎて完全な試合(会話)の流れを無視してしまった。これはでっかいカウンターが来るぞ…。
「ういちゃーん!どうしたのー?あ、こんばんはー!」
見知らぬ女子が三人ほど玄関から出てきた。助かった。首の皮一枚つながったよ。
そういえば今日はういの友達が泊まりに来るとか言ってたな。確かにうちは風呂も部屋も無駄にでかいからな。風呂も10人は入れるだろうし、部屋に至っては大きすぎて僕の部屋の一部にはフィギアショーケース、その傍ら大量のウエイト器具という、見事にカオスな空間を生み出せるほどだ。
「あ、こんばんは。ゆっくりしていってくださいね。」
「はーい!ういー、いこー!」
「うん!今行く!」
ここで注意していただきたい。ういは同い年。つまりあの子らも同い年。なんか気まずい。今日は音量小さくしてゲームしなきゃ。
去り際のういは僕の方を見ずにこう言った。
「あとでゆっくり聞かせてね。とーにー。」
鳥肌がたった。震えさえした。これは寒さからだよね。そうだよね、僕の体。
とにかく家に入ろう。扉を開けて玄関に入る。
「ただいまー!みちこさーん!」
「あ、おかえりー!」
「ねぇみちこさん。今すぐに防弾チョッキ欲しいんだけどどこかに売ってないかな?出来れば扉につけられるナンキン錠とかも。」
今夜のういは何をしでかすかわからんぞ。
「え?どうしたの?もしや誰かに狙われてるのね!だれなの!どんな女なの!やっぱり透君に変な虫がついちゃったか。そうよね、しょうがないわよね。でもこうなってしまったからには仕方ないわ。そう仕方ない。今晩からは私の部屋で寝なさい?え?布団がシングルだって?大丈夫よ!一緒に寝ましょう!気にしない気にしない!ほら、わたしたち血は繋がってないしさ!こんな複雑な家族構成よりもさ、透君が私のお婿さんになってくれたらもっと単純になるわよ。いや、結婚とまでは言わないわ。せめて子供だけでも…。え?順序?何を言っているのよ!愛があればそんなの関係ないわ!大丈夫、私初めてだけど脳内と夢のなかでは透君ともう毎日ラブラブだから!世間の目なんて気にならないわ!愛の前にそんなの無力だわ。波風なんて立たないわよ!むしろラブ&ピースなんていうくらいだから、私たちが結ばれてしまえば全てが平和よ。そうよ。あ、ところで恋愛において『女は上書き保存、男は名前を付けて保存』なんていうじゃない?それが本当なら、このまま私をもらってくれれば私の人生での唯一の「新規保存」になれるのよ?ましてや男はフォルダー別なんでしょ?それってまずいじゃない!透君みたいにバスケとオタクばっかやってたら、空き容量がなくなってここぞって時に【空きストレージが不足しています。】ってなっちゃうよ!ほらほら!そうなる前に私と…」
当分この話が続きそうなので説明を。この女の人は自称遠い親戚。実際本当にそうだと知ったのは最近で何やら【僕の父】の【弟】の【嫁】の【弟】の【嫁】の【妹】らしい。こう見るとかなり複雑なのだがよくよく考えたらそうでもないのだ。いわゆる僕の叔父の義弟の義妹。22歳、大学生。茶色いロングの髪の毛は毛先にパーマがかかっている。いかにもって感じの大学生だ。本名は入江みちこ。
父が死んで母がどっかに消えてから、僕たちは叔父にお世話になっていた。とてもいい人で良くしてくれたが、夫婦の邪魔をしている気がして僕たちは何だか毎日申し訳なかった。叔父たちは何も気にしなくていいと言ってくれていたが、死んだ祖父がやっていた旅館を手入れする人がいないという話が転がり込んできたのを機に、僕たちは叔父の家を離れて今に至る。
僕らが叔父の家に14歳で預けられた時に叔父は30歳で奥さんは28歳だった。その頃には叔父の奥さんの弟も結婚していて、その弟は夫婦はともに24歳。そしてその奥さんの妹が当時19歳のみちこさんだ。
【叔父夫婦】と【弟夫婦】は家が近所だったので、僕らは叔父のお世話になり始めてすぐの頃からみちこさんとの交流がある。そして旅館の話が出た時になぜかみちこさんも付いて来た。たしか大学に近いからとか。
ちなみに何故こんな性格になったのかは知らない。知りたくもない。
「みちこさん、僕おふろ入ってくるね!」
「え?あ、わかったわ。」
無理矢理話をごまかして部屋に荷物を置くと風呂場へ向かう。元旅館なのでもちろん風呂は2つあるのだけれど、維持が大変という理由で男湯の方は今は使っていない。
風呂場にたどり着き更衣室だった場所に入ると、すぐ奥の風呂場からキャッキャウフフと騒ぎ声が聞こえてきた。
「(なんだ、あの子達入ってるのか。)」
半透明でモザイク質なガラス越しに肌色の影が動いている。これはなんともけしからん!まだまだ3次元も捨てたもんじゃないな!実に素晴らしい!
しかし、アニメ、ライトノベル、ギャルゲーの全てにおいて、こういうシチュエーションでは【ラッキースケベ】が発動するのに。具体的には僕がうっかりつまずいて、友人または妹の下着に顔を埋めている時に彼女らが風呂から出てくるとか。
だがしかしここは現実。辺りを見回したところでバナナの皮や不可思議なほど異常に滑る水たまりはない。ちっ、やっぱり3次元はクソだ。
しかしあれだな。扉一枚挟んだ向こう側には女の子の園が広がっているなんて…。ここで覗かないのは失礼なのでは?ヨーロッパでは、綺麗な女の人に声をかけないのは失礼にあたいすると聞く。ましてや今はグローバル社会。様々な文化が混ざり合いながら国境を越える。そう考えるとヨーロッパの【綺麗な人には話しかけないと失礼】という文化と日本の【裸の付き合い】という文化が合わさって、【女の子の裸を覗かないのは失礼】という文化があっても不思議ではないだろう。いやむしろこれは常識だ。そしてぼくはヨーロッパと日本をつなぐ架け橋だ!ぼくは正しい!
いやまて、この中には血縁者もいるんだぞ。
そう【この中に一人、妹がいる!】だぞ!
とりあえず、理性と本能との戦いに勝利したぼくは部屋に引き返してきた。すると廊下に何かの紙が落ちていた。見てみるとどうやらういのテストの結果らしい。
【全国模試ー色々うい 900点中900点】
【偏差値:98】
【T京大学ーA】
【K都大学ーA】
【KO大学ーA】...etc
「なに…これ…。」
全国で1番難しいと言われるこの模試で満点を取ったらしい。この1年間、なにがあったんだ。いや、何かの間違いだ。そうだよね。きっとそう。
僕はその紙をそっと元の位置に戻し部屋に入った。ベットに寝そべり携帯を見る。紗夜からの大量のメッセージが来ていたが、フルシカトをかます。どうせまた愚痴だろう。
それよりもぼくはSNSを開いた。フォロワー数が400になっていた。青木さんの宣伝効果マジパナイっす。
「(とりあえず初ツイートでもしてみるか)」
【色々透です。アカウント作ってみました。よろしくです。】
まぁ無難な文だな。イマイチ面白みがないが初めてはこんな感じだろう。しかしツイートしてからもう1つどうしてもツイートしたくなった事柄が浮上し、それもツイートした。
【ぼくの家族がいつものことながら頭がおかしい((((;゜Д゜)))))))】
家族。そう、家族。その言葉に多少の嫌悪感を感じる。
ぼくは目を閉じて生物学的のみの母にあたる人物のことを思い返した。そうあの女のことを。




