↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの世界ができるまで ~死ぬたび未来に目覚める少女と、「いつもの異世界」ができるまでの数百年~  作者: 古江 門
第八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/77

第70話 塞がれた道

 東門の外には、まだ朝の冷気が残っていた。


 レオナは門を出るなり、壁際へ身を寄せた。頭上を矢が通り、道の向こうの土へ刺さる。外側の見張り台にも兵士がいた。


 グレイホーンが腕を振る。見張り台へ風が吹きつけ、兵士たちが身を伏せた。その間にユナが、門を抜けた者を壁際へ集める。


「北へ。道を曲がった先に、馬車が待っています」


 カヤが先頭へ出た。脚を固定されたゴブリンは、同じ檻にいた者と人間の男が布で運んでいる。エリナの身体を載せた板も、その後ろに続いた。


 門の中で、トロルが低く呻いた。


 下がりかけた格子の先が、背に引っかかっている。レオナは振り返り、両手を上げた。格子へ力を当てて押し戻すと、鎖が音を立てて張った。


「そのまま、前へ」


 トロルが身を縮めて進む。その後ろから工房の男が飛び出し、手を振った。


「もういい! 離れろ!」


 最後の一人が通ったのを見て力を抜くと、格子は大きな音を立てて落ちた。


 レオナは腕を下ろした。指先が痺れ、握り直しても感覚が戻らない。


 その手の向こうを、赤い光が横切った。


 城壁の北寄りから飛んできた火球が、道を進むトロルへ向かっている。


「伏せて!」


 レオナは手を突き出した。火球を横から押すと、赤い塊は道を外れて畑へ落ち、土と炎が噴き上がった。


 城壁の上で杖が動く。


 二発目は、エリナを運ぶ二人へ向かっていた。一人が足を止めたため、板が傾く。


 レオナは腕を振った。


 火球が二人の頭上から逸れ、斜面へ落ちた。熱い風が頬へ当たり、腕の奥に鋭い痛みが走る。手を下ろそうとしても、指だけが伸びたまま動かなかった。


 そこへ、グレイホーンの風が城壁を駆け上がった。杖を持っていた兵士が姿勢を崩し、手すりへしがみつく。グレイホーンが腕を返すと風は弱まり、兵士はその場に座り込んだ。


「進め。ここに留まるな」


 レオナも後を追った。腕を身体へ寄せると痛みは少し薄れたが、歩くたびに肩の奥が引きつった。


***


 道は城壁に沿って北へ伸びていた。左は石壁、右は畑へ落ちる斜面で、負傷者を運んだまま下りられるところはない。


 切通しへ入る手前で、カヤが足を止めた。


 二台の荷車が太い板でつながれ、道を塞いでいた。車輪には楔がかませてある。カヤが足元を覗くと、二本の鉄棒が車体から敷石へ打ち込まれていた。押しただけでは動かない。板の後ろには盾と槍が並んでいる。


 カヤは引き返し、ユナへ見張り小屋の陰を示した。


「ここへ寄せて。前が塞がれてる」


 シグレが負傷した同族を下ろし、刀を抜いた。


「俺が開ける」


「一緒に行く」


 レオナが続くと、板の隙間で青い光が灯った。


 シグレの刃が、板へ届く前に止まる。刀が押し返され、踏み込んだ身体まで一歩戻された。


 直後、盾の間から矢が飛んだ。


 二人が壁際へ退いたとき、シグレの上腕には一本が刺さっていた。彼は矢柄を折り、板の向こうを睨む。


 荷車をつなぐ金属帯には、魔石が三つ埋め込まれていた。その後ろで二人の術者が帯へ手を当てている。


「もう一度、行けるか」


「待って」


 レオナが言ったとき、術者たちの横で別の杖が動いた。


 道の脇を流れていた水が、荷車の下へ広がる。


 白く変わったと思う間に、氷がこちらへ伸びてきた。


 レオナが手を向けると、先端が砕けた。だが、奥から流れ込む水が破片を巻き込み、シグレの退いた足元まで凍りついていく。砕くだけでは追いつかない。白さは、もう道幅いっぱいに広がっていた。


「レオナ、後ろにも!」


 カヤの声に振り返ると、氷が壁際の溝を伝い、見張り小屋の陰へ回り込もうとしていた。負傷者を抱えた者たちは、それ以上下がれずにいる。


 レオナは手を低く向けた。


 壁際の溝から畑へ向け、道を横切るように敷石を押し割った。水が畑側へ流れ始める。だが、氷は砕けた石を覆い、再びこちらへ伸びてきた。


 レオナは奥歯を噛み、荷車側の敷石を押し上げた。めくれた石が水の通り道を塞ぎ、氷の先端が止まる。最後に伸びてきた氷を砕き、ようやく力を緩めた。


 手を下ろした途端、胸の奥が痛んだ。


 息を吸うと背中まで引きつる。壁へ手をついたが、その腕にも力が入らず、肩から石へもたれた。


「レオナ?」


 カヤが駆け寄ってくる。


「止まったよ」


「押したものは止まった。でも、レオナの息が変。さっきより浅くなってるよ」


 答えようとしたところで、南側から兵士の声がした。


 別の門から盾兵が出てきた。その後ろには弓兵が続き、杖を持った男たちも見える。


 グレイホーンが両腕を上げると、カヤが顔を向けた。


「その腕、もう治ったの?」


 負傷していた左腕が、右腕と変わらず動いていた。


「見ての通りだ」


 グレイホーンは逃がした者たちの後ろへ進んだ。


「わしが後ろを抑える。シグレ、レオナ。前は任せた」


 弓兵たちが矢を放つ。グレイホーンが片手を振ると、矢は誰もいない路肩へ落ちた。もう一方の手で盾の列を押し返し、その奥から飛んできた火球も上空へ逸らす。


 兵士の一人が城壁へぶつかりかけたところで、風の向きが変わった。男は道の中央へ倒れ、後続が足を止める。


 それでも、門から出てくる兵は途切れなかった。


 カヤは荷車へ目を戻した。


「あれごと、畑へ落とせる?」


 レオナも、荷車を固定している二本の鉄棒へ目を向けた。


「下が留まってる。あそこを切れば」


「私が見る。無理に近づかないで」


 カヤは壁際を低く進んだ。


***


 切通しの先で、フィンは鐘の音を聞いていた。


 坂の上へ様子を見に行ったゴブリンが、道を駆け戻ってくる。


「来た。止まる。兵、いる」


 フィンは荷台の縁をつかんだ。前にはセイルが立ち、馬の手綱を押さえている。


「見えるところまで、お願いします」


「道が塞がってるんだぞ」


「こちらからなら、何かできるかもしれません」


 セイルは一度坂を見上げ、手綱を引いた。


 曲がり角の手前で馬車が止まった。二台目から弓を持ったエルフが下り、ゴブリンとともに前へ出る。フィンも荷台で身を起こした。


 板を重ねた二台の荷車が見えた。そのこちら側で、二人の術者が金属帯を押さえている。盾を持った兵も、その横の杖を持つ男も、向こう側へ顔を向けていた。


 大柄なオーガの刀が、板の隙間から一瞬見える。


「あの二人を止められれば、通れます」


 フィンが金属帯のそばの術者を示すと、エルフが弓へ矢をつがえた。


「何ができる?」


「水が届くまで待ってください。届けば、私が二人の足元を凍らせます」


 エルフが頷く。ゴブリンは石を拾い、畑側の斜面へ下りた。


 フィンは足元の桶へ目を落とした。退路を凍らせるために用意した水が、揺れている。


「馬を押さえていてください」


 杖を上げると手が震えた。荷台の縁へ肘を置き、息を整える。


「流れよ。地を這い、その足元へ。届きしとき、冷たく固まれ」


 水が桶の縁を越え、細く道へ落ちた。敷石の継ぎ目を伝い、荷車の下へ消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。