↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの世界ができるまで ~死ぬたび未来に目覚める少女と、「いつもの異世界」ができるまでの数百年~  作者: 古江 門
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/77

第55話 測れるもの

 レオナが手を離すと、測定器の針が止まった。


 卓には、青白く光る魔石が五つ並んでいる。ドルンでも試した魔石への充填だが、今日は一つ満たすたびに、治療師がレオナの脈や呼吸を確かめていた。


「疲れた感じはありますか」


「ないよ。もっと入れられる」


 レオナが次の魔石へ手を伸ばすと、測定を担当する男が箱の蓋を閉じた。


「魔石は、ここまでにしましょう」


「もういいの?」


「ええ。ドルンの記録とも比べられました。脈も呼吸も、始める前とほとんど変わっていません。次は、身体に負担がかかるときの様子を見たいんです」


 レオナは箱から手を引いた。


「重いものを押してると、胸とか腕が重くなる。ずっとやってると痛いし。剣を使うと、少し楽だけど」


 男が窓の外を見た。中庭の端には、石の重りを引き上げるための木枠が置いてある。


「あれで試してみましょうか。重さを変えられますし、途中で止められます」


「分かった」


「痛くなる前にやめてくださいね」


 エリナが念を押すと、レオナは頷いて椅子を降りた。


***


 重りは幅のある鉄の板に載せられ、板の両端から縄が木枠へ伸びていた。


 レオナがその裏へ力をかけると、石が持ち上がり、縄が緩んだ。木枠の印に高さを合わせたところで、男が砂時計を返す。


「そのまま保ってください」


 カヤは木枠の横で高さを見ていた。フィンが砂時計を確かめ、エリナはレオナのそばに立つ。


 砂が落ちきる前に、レオナが空いた手で胸を押さえた。


「この辺、重くなってきた。腕も」


「下ろしてください」


 レオナが石を地面へ戻すと、エリナはその腕に手を添え、弱い魔力を通した。


「あれ?」


「どうしたの?」


 エリナは自分の魔力を弱めた。それでも、レオナの腕の奥では、別の流れが続いている。


「まだ魔法を使っていますか?」


「もう押してないよ」


「腕の方です。何かしていますか?」


「ううん」


 エリナは、レオナが先ほど押さえていた胸にも触れた。


「こっちにも流れていますね」


「私の魔力?」


「はい。重りを押すときとは、別の流れです」


 レオナは胸に手を当てた。


「全然分かんない」


「痛みはありませんか?」


「ないよ。ちょっと重いくらい」


 エリナはもう一度腕に触れたが、やがて手を離した。


「……収まりました」


「押すのをやめても、腕の方は流れていたんですか」


 男が尋ねると、エリナは頷いた。


「はい。いつからかは、まだ分かりません」


「もう一度やるよ。今度は、押してるところから見て」


 レオナが重りへ向き直る前に、エリナが声をかけた。


「胸が楽になってからにしませんか。私も、次は始めから診ますから」


「……うん。もう少し休む」


 レオナは庭の端に腰を下ろした。


「ねえ、次は押してるときから見てて」


「そうですね。治療師さんにも、一緒に診てもらいましょう」


 しばらく休んでから、今度は重りを石畳の上で短い距離だけ押すことになった。


 男が石畳に印をつけ、カヤは重りの横へしゃがんだ。フィンは記録用の紙を持ち、砂時計が見える場所へ立った。


 エリナはレオナの腕に、治療師は胸に手を添えた。


「押す前は、どうですか?」


 男が尋ねた。


「さっきの流れはありません」


「こちらもですね」


 治療師が答えた。


「じゃあ、押すよ」


「お願いします」


 レオナが手を向けると、重りが石畳の上を滑った。


「……流れています」


 エリナが言うと、治療師も頷いた。


「胸の方にもありますね」


「今?」


「はい。胸は重くないですか?」


「まだ平気だよ」


 重りが印へ近づいた。


「止めてください」


 レオナが手を下ろすと、石が止まった。男が砂時計を返し、エリナと治療師は手を添えたまま診察を続けた。


 やがて、エリナが手を離した。


「腕の方は、収まりました」


「胸も、もう感じませんね」


 治療師もレオナから手を離す。フィンは、腕と胸で流れが収まった時刻を別々に書き留めた。


 レオナは自分の胸に手を当てた。何も感じなかった。


「押すのをやめたら、全部止めたつもりだった」


「腕と胸では、そのあとも流れていました」


 エリナが二つの印を示す。レオナは重りを見てから、紙へ目を戻した。


「こっちで、何をしてたんだろう」


「まだ分かりません。でも、次はここから調べられます」


 レオナは紙の端を押さえた。


「どっちが先に流れたかも、見たい。胸かな」


 エリナはその問いを書き加えた。男は石畳の印を残し、砂時計を片づけ始めた。


***


 部屋へ戻り、治療師がレオナの腕と胸をもう一度診た。痛みや張りがないことを確かめてから、袖を戻すように言う。


「腕も胸も、張りは残っていませんね」


 レオナはエリナと治療師の記録を見比べた。二人が書いた流れの位置は同じだった。


「私も結果、持って帰っていい?」


「もちろんです」


 レオナは差し出された紙を受け取った。重りの高さと時間が書かれ、その下には腕と胸で魔力の流れを感じたときの印がある。


「これ、工房にも見せよう。剣を使ったらどうなるか、気になるし」


「そちらで試したら、記録を見せていただけますか」


 男が尋ねた。


「うん。聞いてみるね」


 レオナは腕と胸につけられた印をもう一度見た。


「ありがとう。何してたのか、分かるといいな」


 エリナは、次に診る場所が分かるよう腕の図へ印を足し、記録を揃えた。


***


 五人が帰り支度をしていると、昨日の側役が部屋へ入ってきた。


「検査は終わりましたか」


「うん。これ、もらった」


 レオナが記録を見せると、男は頷いた。


「陛下から、皆さんに依頼があります。少しお時間をいただけますか」


 ラウルが上着から手を離した。


「俺たち五人に、ですか」


「はい。魔獣の討伐と、遺跡の調査をお願いしたいのです」


 男が卓に地図を広げた。町の東から伸びる道をたどり、山裾に記された印を示す。


「初代陛下の隊が調べた場所の一つです。今も王家が調査を続けていますが、奥の旧区画に魔獣が現れました」


「調査していた人たちは、大丈夫ですか?」


 カヤが聞いた。


「退避しています。負傷者は出ましたが、取り残された者はいないと報告を受けています」


 ラウルは地図を自分の方へ向けた。


「どんな魔獣ですか」


 男はもう一枚の紙を取り出した。


 低い胴から六本の脚が伸びている。横には、通路の幅と比べた大きさが書き添えてあった。前の二本だけが太く、先が内側へ曲がっている。


「数は一体。灯りを持って入った者へ向かってきたそうです。入口に柵を設け、今は人を入れていません」


「これ、腕みたいに使うのかな」


 レオナが前脚を指す。


「人を引っかけようとした、とありますね」


 エリナが報告の文字を追った。


 カヤは地図の下から、別の写しを引き出した。


「これも、そこで見つかったんですか?」


 床へ埋め込まれた輪と、細長い台が描かれていた。輪の縁には、内側へ向いた短い線がいくつも並んでいる。


 フィンが紙を押さえた。


「この溝、昨日見た曲がった金属片に似ていませんか?」


「そう、それ。こっちの線も見て」


 カヤが荷物から昨日の写しを取り出し、横に並べる。


「昨日見せていただいたものと、関係があるかもしれないと思いまして」


 側役が言うと、レオナも身を寄せた。


「欠片じゃなくて、残ってるんだ」


 カヤは台の端まで目で追った。


「どのくらい大きいのかな」


「人が寝られるくらい?」


 レオナが尋ねる。


「長さは、そのくらいですね」


 エリナが写しに記された寸法を見て答えた。


「魔獣が現れる前に調べた、奥の部屋です。討伐後に通路の安全を確かめ、こちらの設備も見ていただきたいのです」


「動かしてみてもいいんですか?」


 フィンが聞くと、男は首を振った。


「まずは、形や残っている印を調べてください。無理に動かす必要はありません」


「近くで見たいな」


 レオナが台の絵に指を置く。


「私も。昨日のと比べてみたい」


 カヤは写しを重ねようとして、また横に並べ直した。


 ラウルは魔獣の報告を読み終え、地図へ戻った。


「通路は、どこまで分かっていますか。戦う場所と、下がれる場所を見ておきたいんですが」


「確認できている範囲の図があります。詳しい報告と、依頼の条件もお渡しします」


 男が扉の外へ声をかける間に、ラウルは四人へ向き直った。


「俺が条件を読む。受けるか決めるのは、それからにしよう」


 フィンは魔獣の図を見た。


「通路が狭いと、脚を狙いにくそうですね」


「図で、下がれる場所から決めよう。そこが使えなければ、戦いに入らない」


 ラウルが答えると、カヤは荷物から筆を取り出した。


***


 依頼書を受け取りに行ったラウルは、側役から道順と現地の案内人について説明を受けた。


「奥まで入れなければ、引き返してもいいんですね」


「もちろんです。確認できた範囲を報告してください」


「引き返した場合の報告も、依頼書に入れてください。俺がそこまで確認してから受けます」


 側役が筆を取る間、ラウルは左手で紙の端を押さえた。右肩を動かさずに済む位置へ、身体を寄せる。


 書き足された行を読み終えてから、紙を受け取った。


 帰り際には、探索中にレオナの体調や魔力の使い方で変わったことがあれば、教えてほしいとも頼まれた。


「本人にも聞いておきます」


 ラウルが答えると、男は連絡先を書いた紙を渡した。


***


 戻ると、四人は通路図を囲んでいた。ラウルは書類を卓へ置いた。


「現地で、地形を知ってる人が待ってるそうだ」


「よかった。ここの高さ、図だと分かんなくて」


 カヤが通路の脇を指した。


 ラウルは依頼書を開いた。


 討伐と旧区画の安全確認。その後の設備調査は、入れる範囲に限る。帰還後に報告を出すこと。


 カヤが設備の写しへ戻りかけると、ラウルは書き足してもらった行を指した。


「難しければ、そこで引き返せる。入ったから最後までやれ、という依頼じゃない」


 カヤは依頼書を引き寄せた。五人で確かめた条件を裏へ書き足し、その行も写してから、通路図の隣へ置いた。


「俺は、この条件なら行けると思う。お前たちは?」


「私は行きたい。あの台、近くで見たいし」


 レオナが言うと、カヤも手を挙げた。


「私も。まだ調べてないところもありそうだし」


「私も行きたいです」


 フィンは頷き、魔獣の写しを通路図の横へ置いた。


 ラウルは右腕を軽く上げかけ、途中で止めた。


「俺の肩はまだ使えない。前で受ける役は頼む。道と合図は俺が見る」


「分かってるよ。私が押して、フィンが足を止めればいいんでしょ?」


 レオナが答えると、フィンはもう一度通路図を見た。


「私は脚を狙います。この広い場所まで下がれることが条件です。現地で通り道を確かめましょう」


「ここまで通れるか、案内の人に聞いてみよう」


 カヤが通路を指でたどる。


「ああ。着いたら確かめて、戦う場所を決めよう」


 ラウルはエリナへ目を向けた。


「エリナは?」


 エリナはラウルの肩を見てから、荷物へ目を向けた。


「明日なら用意できます。手当てに使うものを、もう少し買っておきたいです」


「じゃあ、明日の朝にしよう」


 ラウルはレオナへ向き直った。


「身体は、もう何ともないか?」


「うん。平気」


「王宮からも、探索中の様子を気にかけてくれって言われてる。何かあったら俺にも教えてくれ」


「エリナに話してることと同じでいい?」


「ああ。それでいい」


 レオナは頷き、検査記録を畳んだ。カヤが差し出した遺跡の写しも受け取る。


「こっちも持っていっていい?」


「そのために写したんだよ」


「ありがとう」


 レオナは二枚を重ね、荷物へ入れた。


 ラウルが扉の外で待つ側役へ声をかけた。


「この依頼、五人で受けます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。