↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの世界ができるまで ~死ぬたび未来に目覚める少女と、「いつもの異世界」ができるまでの数百年~  作者: 古江 門
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/77

第11話 空にならない石

「ギド!」


 ユアンの声が空洞に響き、水の落ちる音の向こうへ消えていった。返事はなかったが、しばらくすると、遠くから石を打つような音が二度返ってきた。


「いる」


 ローデンは暗がりを見たあと、すぐにレオナの手元へ視線を戻した。


「そのまま支えられるか」


「うん」


「動かすなよ」


「分かってる」


 入口側から太い支柱を二本入れ、岩が木へ重さを預けたところで、レオナは少しずつ力を抜いた。


「平気」


「よし」


 ローデンはユアンから縄を受け取った。


「俺が見に行く。レオナも来い」


「俺も行く」


「ここがまた落ちたら誰が見る」


 ユアンは崩れた場所を見て、それ以上は言わなかった。


「何かあったら呼ぶ」


「ああ」


 ローデンが先に暗がりへ入り、レオナもそのあとを追った。


***


 さっき倒した岩蜥蜴は、まだ同じ場所に転がっていた。二人は灰色の背を避け、細い水の流れをまたいで奥へ進む。


「ギド!」


「こっちだ!」


 今度は声が返った。


 大きな鉱脈の壁まで戻ると、床に灯りとつるはしが落ちていた。その少し先で細い通路が崩れ、いくつもの岩が重なっている。


「脚が抜けん!」


 レオナが近づこうとすると、ローデンが上を指した。


 塞いでいる岩の上に、もう一枚大きな岩が斜めに乗っている。そのさらに上にも亀裂があり、細かな砂が落ち続けていた。


「上げれば抜ける? どっちから押すの」


「持ち上げるな。ずれないようにしろ」


 レオナが手を向けると、わずかに動いていた岩が止まった。


「ギド。脚は下敷きか」


「足首が穴の縁に噛んどる。引くな、先にそこを削れ」


「なら下を広げる」


 ローデンはつるはしを隙間へ差し込み、小さな石から順に外していった。やがて縄を中へ通し、ギドの腰へ回させる。


「引くぞ」


 ローデンが縄を引き、レオナも空いた手を添えた。


 腕が出る。頭、肩と続き、最後に右脚が抜けた。


 片方の靴がなくなっている。


「立てる?」


「たぶん」


 ギドは壁に手をついて身体を起こしたが、右脚へ体重を掛けた途端に顔をしかめた。


「……無理だな」


「だろうな」


 それでも岩の外へ出られたことで、その場の空気が少しだけ緩んだ。


「助かった?」


 レオナが聞く。


「脚以外はな」


「じゃあ助かった」


「雑だな」


 ギドが笑った。


 ローデンが肩を貸して歩き始めたが、右脚をほとんど使えないため、数歩進むだけでも時間がかかった。


 すぐ横の壁には、太い青黒い筋が来た道に沿うように伸びている。


 ローデンがそこを見た。


「レオナ。さっきの力、ここにも入れられるか」


「たぶん」


「入れてくれ」


「何に使うの?」


「こいつを歩かせる」


「俺?」


「他に誰がいる」


「少しだけだ。入りにくくなる前に止めろ」


「うん」


 レオナは鉱脈へ手を当て、力を入れた。


「そこまで」


 今度はローデンが壁へ触れた。自分の魔力を向けると、中に残っていた押す力が流れ出し、ギドの腰を後ろから押した。


「お」


 ギドが右脚を引きずりながら一歩進む。さらにもう一歩。


「これなら歩ける」


 レオナが横から見る。


「これなら、歩く間ずっと私が押さなくていいね」


「お前は、また岩が落ちたら止めろ」


 レオナはギドから手を離し、来た道を見た。


 三人は来た道へ向かった。


 それからは、ローデンが壁の力を使うたび、レオナが少し先の鉱脈へ補った。青黒い筋はところどころ岩の中へ消えながらも、進む先でまた姿を現す。ギドはその力に押され、ローデンに肩を支えられながら、一歩ずつ前へ進んだ。


「これ、荷運びにも欲しいな」


「まず脚治せ」


「それはそうだな」


***


「ローデン!」


 やがてユアンの声が聞こえてきた。


「いた!」


「生きてる?」


「元気だぞ!」


 ギドが返すと、向こうから笑い声が上がった。


 支柱を入れた場所まで戻り、まずギドを隙間の向こうへ通す。


「脚どうした」


 ユアンが聞いた。


「穴に落ちた」


「何してんだよ」


「石拾おうとした」


「拾った?」


「落とした」


 ユアンは一瞬黙った。


「何しに行ったんだよ」


「脚は持って帰ってきた」


「怪我してるけどな」


 ギドのあとを鉱夫たちが通り、ローデン、レオナと続いた。


 全員が同じ側へ揃うと、すぐに入口へ向かう。


 ギドの両側にはローデンと鉱夫がつき、ユアンが後ろから身体を支えた。レオナは最後から、壁に現れる青黒い筋へ力を足しながら歩いていく。


 来るときにまたいだ亀裂が見えてきた。その向こうには、空洞へ下りるときに使った縄もある。


 あそこまで行けば、あとは上へ戻るだけだった。


「もうちょっとだな」


 ギドが言う。


「喋る元気あるなら歩け」


「歩いてるだろ」


 そのとき、岩の奥を低い音が長く走った。


 ローデンは足を止めない。


「そのまま行くぞ」


 レオナも次の鉱脈へ手を置いた。


 力を入れる。


 そこで、感触が変わった。


「……あれ」


「どうした」


「急に入りにくくなった」


 レオナはすぐに手を離した。


「止めた」


「分かってる。行くぞ」


 一行はそのまま進んだ。


 数歩遅れて、奥で岩が崩れる音がした。


 レオナが振り返る。


 さっきまで触れていた青黒い筋が、以前より明るくなっている。


「ローデン」


「ああ」


 歩みは止めない。


 さらに進むうち、青白い光は少しずつ強まり、やがて周囲の黒い岩肌まで照らし始めた。


「急ぐぞ」


 ギドも歯を食いしばって足を進める。


 どん。


 空気が強く押された。


 壁から大きな石が剥がれ、床へ叩きつけられる。その衝撃でさらに奥の岩が崩れ、長い音が暗闇へ走っていった。


 その先で、別の青黒い筋が光り始める。


 ローデンの顔が変わった。


「走るぞ!」


***


 ローデンと鉱夫がギドを両側から抱え、ユアンが後ろから押した。レオナは最後を走る。


 背後では岩の音が途切れず、足元が何度も揺れた。天井から降る砂に混じって大きな石が一つ落ちてきたときだけ、レオナは振り返って横へ弾き、すぐに前を追った。


 また遠くで、どん、と鳴った。


 ようやく穴へたどり着く。


「ギドから!」


 縄を腰へ回して上から引き、ローデンたちが下から押した。ギドが穴の向こうへ消えると、鉱夫が一人、また一人と続く。


 ユアンも上がった。


 残った鉱夫が縄へ手を掛けたところで、ローデンが壁を見る。


「もう少し使えるか」


「うん」


 レオナが鉱脈へ力を入れ、ローデンがそれを使って鉱夫を押し上げる。


「上がった!」


「もういい!」


「うん」


 レオナはすぐに壁から手を離した。


 ローデンが縄を登る。


 そのあとを、レオナも間を置かずに追った。


 上からユアンが腹ばいになって腕を伸ばしている。


「もう少し!」


 レオナも右手を伸ばす。


 指先が触れた。


 その瞬間だった。


 どん。


 穴の縁が崩れた。


 足元から岩が消え、レオナの身体が下へ落ちる。ユアンが掴み直そうとしたが、指先が滑った。


「レオナ!」


 途中の岩へ肩をぶつけ、そのまま下へ落ちた。


 直後、大きな岩が穴へ滑り込み、上から差していた光を塞いだ。


「レオナ!」


「いる!」


「そこ動くな! 今どける!」


「待って!」


「何で!」


 すぐ横の壁に、青黒い筋が浮かんでいた。


 淡かった光が強くなっていく。


「離れて!」


 岩の向こうが静かになった。


 どん。


 壁が押し出され、レオナは咄嗟に押し返した。肩に痛みが走ったが、岩は止まり、青白い光もやがて消えた。


 暗くなる。


 その奥で、小さな光が灯った。


 少し離れて、もう一つ。


 さっき暗くなったはずの筋にも、淡い青白さが戻ってくる。


「……また」


 壁の奥で何かが割れた。


 光が一気に強くなる。


 レオナが振り向いた。


 どん。


 身体が岩壁へ叩きつけられ、そのまま地面へ落ちた。


 レオナは死んだ。


 やがて身体は淡い光へほどけ、服も、流れた血も残さず消えた。


***


「レオナ!」


 岩の向こうから返事はなかった。


 ユアンが穴へ戻ろうとしたところで、ローデンが腕を掴んだ。


「出るぞ」


「レオナが下にいる」


「分かってる。ここも落ちる」


 また岩の奥が鳴った。


 ローデンはギドたちへ振り返る。


「外まで出るぞ。止まるな」


 ユアンは塞がれた穴を見た。細かな砂が、まだ岩の隙間から落ち続けている。


「ユアン」


 ローデンが呼ぶ。


 少し間を置いて、ユアンは穴から目を離した。


 一行は坑道を離れた。


***


 人のいなくなった山の中で、しばらく岩の音が続いた。


 やがて静かになった。


 一度暗くなった青黒い筋に、また淡い光が戻った。


 岩の中へ消えたその先でも、青白い光が灯る。


 さらに奥で、もう一つ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。