↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秀吉「俺が、天下を取る!」  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/26

【5】信長の葬儀

天正十年(1582年)に起こった 武田家の旧領を巡る争乱は、徳川家が甲斐・信濃を、北条家が上野を領有するという条件で講和に至った。この条件が、もうひと波乱 起こすことになるが…。それはまだ先の話である。

【1582年 9月上旬 山崎城にて 羽柴秀吉】


 俺は、柴田勝家を嫌いではない。若い頃はよく世話にもなった。


 勝家は元々、勘十郎(信長の弟)様の家臣だったせいで、信長様との家督争いでは敵になってしまったが、信長様に許されてからは、ひたすら実直に働いてきた。信長様も、勝家の功績の大きさを認めていた。


 勝家にとっての忠誠の対象は、信長様のみならず〈織田家〉そのものだった。だから一族内で争うのを、本当は見たくないんだ。三法師様の後見人に信孝様を推したのも、自分が織田家を守りたかったからなのだろう。信長様亡き後の織田家の行く末を、出来る限り話合いで決めようとする姿勢も その現れだったと、今になって気づいたよ。


 だが、俺は違う。


 俺には信長様がすべてだった。もしも信忠様が生きておられたら、信忠様を信長様だと思ってお仕えしただろう。信忠様は、信長様が自ら指名した後継者だったからだ。


 そのお二人がいなくなった今、俺の織田家への忠誠は消えた。


 だから、織田家を守りたい柴田勝家とは、戦うしかないんだ。そして、その準備も整った。


 柴田勝家、俺はあんたを、殺す。



【9月上旬 坂本城にて 丹羽長秀】


 勝家は、私をずっと信頼してくれていた。おそらく今でも そうなのだろう。私もあの男に悪い感情を(いだ)いたことはなかった。


 勇猛で剛直なわりに、下の者には鷹揚(おうよう)で、何より裏表がない良い男だ。だから私の気持ちの上では、勝家の力になってやりたかった。


 しかしあの男に、信長様亡き後の織田家の(かじ)取りを任せられるとは思えない。勝家も私も、頂点に立てる器ではないのだ。有能な主君の下でならば力を発揮できるが、それは信孝様ではダメだ。だから私は秀吉に付いた。近江佐和山(さわやま)を掘秀政に譲り、坂本への移封(いほう)を受け入れたのも、実は秀吉との打合せ通りだったのだ。


 あの選択が最善だったかどうかは まだ分からないが、他に方法はなかった。それに私は織田家の存亡に強い関心はない。織田信長様に仕えていたから、ここまでの地位を得られたのは事実だが、私には織田家より丹羽家の存亡のほうが重要だ。


 私はあと数年のうちに死ぬ。天下が誰のものになるかを、見ることはないはずだ。ならば尚更、誰の夢、誰の野望に賭けても同じことなのだ。勝家には悪いが、私は丹羽家が生き残る可能性が高いほうを選んだ。ただ、それだけなのだ。



【9月上旬 北之庄(きたのしょう)城にて 柴田勝家】


 信長様は、天下統一を目の前にしていた。明智光秀の謀叛がなければ、あと一年か二年で天下を取っていただろう。せめて、信忠様だけでも生きておられれば、混乱を最小限で抑えられ、大きく(とどこお)ることなく織田家の天下統一が()されていたはずだ。


 だがあの日 お二人が討たれてしまい、織田家の天下は遠のいてしまった。俺が攻めていた上杉家など、あと一ヶ月もあれば攻め滅ぼせていたのに、こちらが混乱していた間に、態勢を立て直されてしまった。さらに、三月に滅ぼした武田家の旧領にまで騒乱が広がり、信濃、甲斐、上野の領有権を手放さざるを得なくなってしまった。


 本当に惜しいことだった。だが、ここからまた何年かかっても良い。必ず織田家が三法師様のもと、天下に覇を唱えるのだ。


 この俺が生きてさえいればできる。いや、それを成し遂げるまで、俺は絶対に死なん。



【9月上旬 清洲城(きよすじょう)にて 織田信雄】


 親父と兄貴が死んだせいで、家中が色々と ややこしいことになったけど、実は誰も損せずに上手くいく方法があるんだ。簡単だよ。皆 仲間だったって思い出せば良いだけだ。


 まあ そう言う俺も、信孝と兄弟だったって、時々忘れるけどね。



【9月下旬 山崎城にて 羽柴秀吉】


 勝家は二つ、大きな思い違いをしている。


 一つ目は、未だに近江、美濃、尾張が、今後の戦略上の最重要地だと考えていることだ。だが、これからの政事、軍事、経済、文化、すべての中心は、京と大坂になる。いや、俺がそうする。そのために山城を取ったんだ。美濃と尾張は、いずれ敵になる家康との戦いの、前線になるんだよ。


 近江の長浜は、俺が持っていても構わなかったが、上手く手放せたおかげで、守る必要もなくなり身軽になれた。勝家は長浜を取り甥の勝豊に与えた。少しでも領地を拡げたがるのは、生粋の軍人の習性なのかも知れないが、良い場所を見極めなければ、大した意味はないんだ。


 そして、さらに深刻なのは、二つ目の思い違いのほうだ。


 勝家は、織田家の宿老たちが、まだ自分の味方だと思い込んでいる。滝川一益は知らんが、丹羽長秀や池田恒興は、既に勝家を見限っているんだ。三歳の三法師様はもちろん、信雄様でも信孝様でも織田家が潰れるのは目に見えているのに、いつまでも それに固執しているせいでな。


 気持ちは分からんこともない。だが、そんな甘い考えじゃ、生き残れはしないよ。


 そろそろ、それを あんたに分からせるときだ。



【9月下旬 北之庄城にて 柴田勝家】


 秀吉のやつ、信長様の葬儀を()り行うだと?お前がなぜ、そんなことを勝手に決めるのだ。



【9月下旬 清洲城にて 織田信雄】


 親父の葬儀?なんでそんなこと、秀吉が決めるの?


 よく分からんが、俺は行かないよ。位牌(いはい)抹香(まっこう)をぶっかけるほど、非常識じゃないからね。



【9月下旬 坂本城にて 丹羽長秀】


 秀吉、しばらく動きがないと思っていたら、信長様の葬儀を執り行うなどと宣言した。


 確かに信長様の葬儀は行われていないし、本来それをやるべき信雄様と信孝様は、領地の境界線がどうのと揉めている。僅かな領地の広さなど、今は重要ではないというのに、あのお二人は争わなければ気が済まないのか。


 喪主は、秀吉の養子の秀勝(信長の四男)様らしいが、葬儀の発案から実行まで取り仕切っているのが秀吉だと、分からない者はいない。これでまた、信長様の後継者は秀吉だという印象が強まる。上手いものだ。


 さらに、これだけ重要な事案を、勝家や信孝様、信雄様を一切無視して進めたことで、彼らの感情をわざと逆撫(さかな)でしたのだ。この葬儀は、信長様の百日忌だと称しているが、なぜ四十九日ではなかったのかにも、秀吉の狙いが見え隠れしている。


 秀吉は、冬を待っていたのだ。


 秀吉が長浜をあっさりと手放した理由も、そう考えれば理解できる。やはり、頭が切れる男だ。



【10月上旬 北之庄城にて 柴田勝家】


 信長様の葬儀という重大事案を、信孝様や信雄様や俺に無断で行うとは、あの清洲城の会議の決定に(そむ)く行為だ。詰問のために使者を送ったが、秀吉に会うことさえ断られたようだ。


 絶対に、そんなことを認めるわけにはいかない。やはり俺と秀吉は、相容れない関係だった。今までにも、幾度となく小さな不和はあった。その度に、信長様の家臣同士でいがみ合うのを避けて、苛立ちを抑えてきた。だが、今回は抑えられない。いや、抑えるべきではない。


 信孝様の岐阜城には、織田家の正式な当主 三法師様がおられる。三法師様の名の(もと)、羽柴秀吉を織田家の敵と見做(みな)す。



【10月16日 大徳寺にて 羽柴秀吉】


 予想通りだが、信雄様も信孝様も勝家も、昨日までの信長様の葬儀に参列しなかった。


 それは別に構わない。誰もやろうとしない葬儀を、俺が自主的にやっただけのことだからな。無視されても別に文句はないし、逆に誰かに文句を言われる筋合いもない。


 だが勝家は、俺が無断で信長様の葬儀を行なったのが、清洲城の会議の決定に反するなんて言いがかりを付けてきた。不慮の死を遂げた先々代の葬儀をしてはいけないなんて、俺は決めた覚えはないよ。


 そのうえ、三法師様を盾に取り、俺を敵だとか宣言した。俺のことが気に食わないっていうだけで、そんな理屈は通らない。


 清洲城の会議の決定に反しているのは、俺じゃなくむしろ、三法師様を安土城に帰さない勝家と信孝様だ。丹羽長秀までこっちに付いてしまったから、あの猪の勝家に道理を説ける者がいないんだろうな。


 ここまで見事に罠に(はま)るとは思っていなかったよ。これで堂々と美濃に出兵できる。


 正統な、織田家の軍としてな。




【6】岐阜城攻め に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これは・・どう転んでも、信雄が言うように”皆 仲間だったって思い出す”だけではうまくいきそうにないような・・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。