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秀吉「俺が、天下を取る!」  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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【32】織田信雄の改易

【1590年 7月 小田原城にて 豊臣秀吉】


 北条を降伏させ、伊達政宗も俺に臣従した。後は、何人かの大名を転封させれば、国中のやつがこの俺にひれ伏す。


 信長様の代わりに俺がやるって決めた、夢の天下統一の達成だ。


 だが それなのに……俺は、大して嬉しくもねえんだ。飽きるほど聞いた祝いの言葉は、どれも白々しいものだった。


 何なんだよ、これは。俺はこの先、どうすれば良い?どこまで行けば良い?


 おそらく、何をしても、どこまで行っても、同じなんだろう。それを分かっていても、俺はもう止まれない。


 決めたことを、やり続けるしかねえんだな……死ぬまで。



【7月 武蔵の陣中にて 真田昌幸】


 つまらん戦だったが、思ったよりは早く終わってくれて良かったよ。


 大道寺政繁は、自ら切腹を願い出たらしいな。無駄な死人を出さないためだったとはいえ、長く仕えた北条家から離反したときに、最後は自決することまで決めていたようだ。本当に清々しいほど堅物のオッサンだよ。それほどの男なら、信念を貫かせてやれば良い。


 しかし よく聞けば、秀吉はこの戦に、兵を二十二万人も動員していなかったらしいな。ちょっとは、まともに考えていたようだ。中仙道(なかせんどう)を進んでいた俺たちには、あまり関係はなかったけどな。


 それより、俺たちが落とした城に、家康が入るなんて聞いていなかった。大した戦をしたわけじゃねえが、ちょっとだけムカつくな。っていうか秀吉は、家康に与える北条領を、キレイに掃除させちゃったじゃねえか。あいつら、そんなに仲良しだったか?


 一応はこれで、秀吉の天下ってことになったが、むしろ家康のほうが、敵も作らず強かに立ち回っているように見えるな。


 この国のすべてを支配した秀吉が、次に明国を攻めるならば、主力は九州の大名だろう。関東に転封された家康は、国内に留まるかも知れない。明に兵を出すやつと、国内に留まるやつ、どっちが得なんだろうな。


 しかし、秀吉は明に勝つ気でいるんだろうが、そんなに簡単にいくとは思えない。もし家康が出兵せず、地道に力を付けていたらどうなるんだ?


 俺は、秀吉に従っているだけで良いのか。


 ……ああそうだ。良い方法があるじゃないか。



【7月 駿府城にて 徳川家康】


 真田が俺に付く?いやいや徳川家は代々 真田昌幸お断りですから。


 ええ?真田信幸?信幸って、昌幸の長男か。


 真田昌幸は信濃の上田に本拠地を移し、長男の信幸に上野の吾妻(あがつま)郡と利根(とね)郡を与えた。そして上野の大半は、俺の領地になる。


 ああそうか、ならば地理的に、信幸は俺に付くのが自然だって論法ね。


 なるほど、真田昌幸も、秀吉の天下が安泰じゃないって読んでいるのか。俺の逆転の可能性も考えて、自分は秀吉に、長男は俺にって具合に、分散して仕えておこうって魂胆だな。そういうところ、抜け目がないな。


 まあ、でも悪い気はしない。良いよ。信幸なら受け入れておこうか。



【8月 伊勢 長島城にて 織田信雄】


 俺は箱根の手前で、密かに兵と共に船で伊勢に戻り、長島城に籠もっていただけだ。つまり、何もしなかったようなもんだろう。


 だから何の沙汰(さた)もなく、この住み慣れた伊勢と尾張にいられれば良いんだ。なのに秀吉に、俺に三河・遠江・駿河をくれるから、そっちに移れとか言われたよ。


 それで領地は広くなるらしいが、別にそんなの嬉しくもない。国替えなんて、面倒くさいだけだしね。


 そんなに広い領地なら、欲しがっているやつにあげれば良いんだよ。



【8月 下野 宇都宮城にて 豊臣秀吉】


 織田信雄、小癪(こしゃく)にも領地の加増を断ってきやがった。


 そんなに領地が要らないと言うなら、伊勢と尾張も召し上げる。代わりに、この下野の山奥の一郡にでも移してしまえ。俺の許可なく、領地から出ることも禁じる。



【8月 宇都宮城にて 黒田官兵衛】


 秀吉様は、加増することで、織田信雄を畿内から遠ざけようとした。だが信雄はそれを辞退してきた。


 敵ならば、潰せば良い。しかし家康といい信雄といい、従えてしまった者は、いくら邪魔でも理由なく潰せはしない。だから加増を口実に、転封するしかなくなった。


 その狙いが外れて気に入らないのだろうが、加増を辞退しただけの信雄を、いきなり下野一郡に減封するとは、度を超えた振る舞いだ。秀吉様は、自らを万能の王とでも錯覚しているのか。


 以前の秀吉様なら、策の一つや二つ外れても、何食わぬ顔をしていられたはずだ。配下の諫言(かんげん)を聞く耳も持っていた。


 確かにあの、幻想の二十二万は良い策だった。だが、兵の実数が半分ほどなのを悟らせないため、広範囲にまで戦線を広げざるを得なかった。そのせいで北条家の残党を掃討(そうとう)する必要がなくなり、新しい領主の家康が、初めから領内を統治し易くなってしまった。


 唯一 秀吉様に対抗し得る家康の手助けになったのだから、あれは結果的には失策だったのだ。石田三成も、過剰な兵糧を移送する羽目になったと、珍しく愚痴をこぼしていた。


 俺や三成にも相談してくれていれば、こんなお粗末な結果にはしなかったはずだ。秀吉様は、自分以外を信頼できなくなってしまったのだろう。頂点に君臨すれば、そこから追い落とされることを警戒するのは分かるが……。

 

 いや……変わったのは、秀吉様だけではないな。


 あの日から、北条氏政の言葉が、頭にこびり付いて離れない。



【8月 長島城にて 織田信雄】


 俺は広い領地は辞退して、今のままで良いって言っただけなのに、秀吉のやつ、激怒していやがる。そんで、下野の那須(なす)郡に転封だとか言ってきた。


 ふざけるな。そんな横暴は認めないぞ。


 ……とでも、言うと思ったか?


 俺は別にそれでも良いよ。全く問題なしだ。


 領地は広いほど良いなんて、大間違いなんだ。広い分、面倒なことだって増えるんだよ。住み慣れた伊勢を離れるのはちょっと寂しいが、領地が一郡だけで良いんなら、それはそれで構わない。


 足るを知る…住めば都だよ。



【33】格好良い男 に続く

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