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秀吉「俺が、天下を取る!」  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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【29】小田原城包囲

【5月 早雲寺にて 豊臣秀吉】


 小田原城は、聞きしに勝る名城だよ。


 ただ防御力に優れているだけではない。城の周辺の領民の、生命と安全まで守る城だ。これには恐れ入ったよ。


 だが、絶対に落ちない城なんてないんだ。物理的にも心理的にもな。


 特に、心理面で攻められると、ほとんどの城が意外にあっさり落ちるもんだ。俺もかつては、城を物理的に攻めてばかりいたが、最も脆(もろ)いのが人の心だと、やっと分かったんだ。


 北条氏政、お前は性根が優しい男なんだろう。平時ならおそらく名君だったよ。だが、これは戦なんだ。悪く思うなよ。


 さあ、仕上げにかかろうか。小田原城に、降伏を勧告しろ。



【5月 小田原の陣中にて 黒田官兵衛】


 秀吉様は、八王子城で討ち取った将兵の首を城外に並べ、その一部はわざわざ、城内に届けさせたようだ。


 悪趣味 極まりないが、効果は覿面(てきめん)だろうね。


 さらに、こちらに降伏したやつらにも、小田原城内に頻(しき)りに声をかけさせている。城を力攻め、兵糧攻め、火攻め、水攻めと、色々やってきた人だが、ついに心を攻めることを覚えたか。明国でも同じことが通用すれば良いんだがな。


 まあ そもそも、明への出兵をやめる、もしくは延期してくれるのが一番なんだが…きっと すぐやる気なんだろうね。


 俺や石田三成の言うことにも、耳を貸さなくなってきたし、不相応な権力を持ってしまったお猿は、誰にも止められないんだろう。



【5月 小田原城にて 北条氏政】


 伊達政宗が動かなかったのは、秀吉に従うか従わないかで、家中が二つに割れていたからだ。


 政宗は、秀吉に従うと決めていたが、それを拒む者たちは、政宗の弟を担ごうとした。だが政宗は弟を謀反人として殺し、秀吉に付く意志を明らかにした。


 これで北条家には、完全に味方がいなくなった。


 八王子城の者は惨殺され、この城から見える場所に首を晒(さら)されている。あれで戦意をなくす者もいれば、いきり立って城から打って出ようとする者もいる。心を乱されない者は、一人もいない。


 心を乱されたのは、俺も同じだ。秀吉を八つ裂きにしてやりたい。


 だが、それはできない。俺が無謀なことをすれば、無意味な犠牲が増えるだけだ。


 最後の最後には、俺と氏直が命を差し出せばいい。小田原の領民と領地にだけは、絶対に手出しはさせない。



【6月 小田原の陣中にて 徳川家康】


 伊達政宗も秀吉に臣従を決め、こちらに向かっているようだ。


 当然、もう北条に打つ手はない。あとは、降伏の条件の交渉だけだろうね。良くても、伊豆あたりに改易、悪ければ、北条家は取り潰しだ。


 俺は、身を守るために秀吉に付いたが、気持ちのうえでは、北条家に存続してもらいたいと思っている。北条家とは一度だけ甲斐で戦ったが、それほど悪い感情は持っていないんだ。


 北条氏政も氏直も死なずに済むなら、それに越したことはないよ。


 ああ でも、領地は俺が頂くけどね。



【6月 武蔵の陣中にて 真田昌幸】


 この戦も、終わったようなもんだな。降伏の条件とか、交渉とかには、俺はまったく興味がない。


 それより、大道寺政繁(だいどうじまさしげ)が切腹させられるなんて噂を聞いたが、何かの間違いだよな。秀吉は、あの男を赦(ゆる)した上で、自陣営に加えたんだ。そんで、約束通りの働きをしたじゃねえか。


 一体、どういうことだ?



【6月 早雲寺にて 豊臣秀吉】


 北条氏政は、自らと氏直(氏政の長男)の切腹と引き換えに、小田原を含む相模一国を、北条家に安堵することを要求してきた。


 妥当な条件だとも思えるが、それは絶対に認めることはできない。北条家には小田原から…いや、関東からも離れてもらう必要がある。それくらいしないと、いつ再び北条家の影響力が強まるか、分かったもんじゃないんだ。


 家康と結託する可能性もあるしな。


 もう一度、北条氏政と条件の交渉をさせる。この戦で大して働いていない、官兵衛にやらせろ。



【6月 小田原城外にて 黒田官兵衛】


 ああ、面倒くさいな。その上、命の保証はねえし、報酬も多分ねえんだろう。


 秀吉様は、俺に損な役目ばかり やらせるようになったな。あまり信用されなくなっているんだろうね。俺は別に、秀吉様に疑われるようなことは、してねえんだけどな。


 それにしても、北条家に小田原を捨ててまで降伏させろなんて、まず無理だと思うよ。


 北条が ここまで意地を張ったのも、小田原だけは守りたいからなんだ。あちらの劣性は明らかだが、まだ十分に戦う力は残っているんだしな。とりあえず、小田原を含めた相模一国を安堵(あんど)しておいて、じわじわと力を削(そ)いでいくのが現実的じゃないのかな。


 それをしないってことは、秀吉様の目は、もう大陸の明国攻めに向いているんだろうな。


 嫌だねえ…。とにかく色々…。


 俺はもう隠居して、豊前で釣りでもしながら、水の如く暮らしたいんだがね。



【30】小田原城に赴く黒田官兵衛 に続く

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