【26】松井田城攻め
【1590年2月 中仙道を進軍中 真田昌幸】
やっと戦が始まるな。去年の名胡桃城の件で戦の口実を作れたんだから、あの時さっさと数万の兵で攻めていれば、今ごろ北条は降伏していたはずなのによ。
無駄な大軍を出そうとするから、出兵も進軍も遅くなるんだ。その間に敵だって戦の準備を整えちまうだろ。どっちにしろ勝つのは同じなんだが、だったらパパッと終わらしたほうが良いとは思わないのかね。
関白の威光だの何だの、どうでもいいんだ。どうせすぐ忘れられるんだからな。
しかも、せめて俺だけで攻め込みたいのに、上杉景勝と前田利家と合流して、中仙道を仲良く一列で進軍しろなんて最悪だ。
ホントに嫌なんですけど。上杉景勝が怖い顔で睨んできたんですけど。前田利家なんかより、奥方のおまつ様に会いたかったんですけど。
それに、このまま中仙道を進んで武蔵に侵攻したって、敵兵がロクにいないところを占拠するだけじゃねえのか。北条は、箱根と小田原城に兵を多く配置したからな。
俺と上杉と前田、合わせて兵は三万を超える。北条はこの先の碓氷峠に一万、その先の各城には数百から千くらいの兵しか置いていない。こんな弱い者いじめなんか、やりたくねえ。
ああ…嫌すぎて、蕁麻疹が出そうだぜ。
【2月 聚楽第にて 豊臣秀吉】
北条を討つのに、二十二万の兵なんて必要じゃねえよ。そんなことは俺も分かっている。
北条からこっちに付いた国衆もかなりいる。これで北条は、どんなに掻き集めても七万が限度だろう。こっちの兵が十万でも、まず間違いなく勝てる。
でもな、まず間違いなくじゃダメなんだ。この戦は完璧に圧勝しなけりゃならん。北条だけじゃなくて、全国のやつらが、俺に逆らうなんて一切 考えられなくするための戦なんだ。兵が多すぎるなんて、完璧に勝つための戦っていうのを知らねえ、甘ったれの考えなんだ。
なんか文句があるなら、俺に一度でも勝ってから言えよ。
【2月 東海道を進軍中 黒田官兵衛】
秀吉様が言う、完璧に勝たなければならない戦というのも分かる。
しかし現実には、戦には完璧も絶対もないのだ。兵が多いほうが有利なのは間違いないが、どれほど多くしたとしても、絶対に勝つとは限らない。
勝つために、適正な兵数と配置があるのだ。この戦で東北まで臣従させるとしても、やはり二十二万は多すぎる。兵数に差があり過ぎて、北条は数万もの兵で、小田原城に籠もることを前提に戦うだろう。
昨年 より増強された小田原城の惣構えを突破するのは容易ではない。
さらに、必要以上に兵が多いと、動きが鈍るし気も緩む。そんな大軍が敗れた例など、いくらでもある。そして大軍が敗れたときの衝撃は、必ず甚大なものになる。
要はこの戦で兵を必要以上に増やしても、良いことはほとんどない。秀吉様は、そのくらいは分かっていたはずだ。判断力が衰えてきているのか…。俺や石田三成の言うことにも、聞く耳を持たないことが多くなってしまった。
本当に、このままで良いのだろうか…。
【2月 碓氷峠にて 真田昌幸】
予想通り、北条はこの碓氷峠でこちらを迎え撃つ作戦だった。一万の兵を指揮しているのは、大道寺政繁だ。
あいつは手強い男だが、一万では少なすぎて話にならん。戦は兵数だけで決まるもんじゃないが、碓氷の地形を利用して互角に戦うには、少なくともあと一万はここに配置するべきだ。
指揮が大道寺政繁で、兵が二万だったら、ちょっと厳しい戦になったかも知れない。まあ、そもそも北条の兵が少ないんじゃなくて、こっちの兵が多すぎるだけなんだよな。
東海道を進んだやつらも、箱根を越える頃だろう。あとは、つまらない城攻めをやって終わりだな。
【3月 伊豆 山中城にて 徳川家康】
箱根では、さほど激しい戦にはならなかった。やはり北条は、大半の兵で小田原城に籠もる作戦だな。あの小田原城で粘られれば、こちらも攻めあぐねるかも知れない。
そうなれば、半分近い兵を遊ばせることになる。そいつらに食わせる兵糧もかなりの量だが、秀吉からすれば大した出費でもないのだろうか。
【3月 松井田城外にて 真田昌幸】
大道寺政繁も、碓氷峠では勝てないと分かっていたようだ。大きな犠牲を出す前に兵を退き、松井田城に籠もった。良い判断だと思うよ。
この城を落としておかないと、兵糧の輸送が難しくなる。だからこちらは、ここを素通りして進むことはできない。
だがやはり、この兵数差は致命的だ。よく戦ってはいるが、いずれ落ちる。
昨日の夜、女と子供を何人かを、城外に密かに逃がしていたのを見た。つまり残った将兵は、死を覚悟で戦う気なんだろう。逃げた子供は、おそらく大道寺政繁や他の将たちの親族だろうな。捕らえることもできたけど、子供を盾に取って戦うなんて恥ずかしいから、見逃してやった。
城さえ落とせば、別に問題はないよな。
【3月 小田原城にて 北条氏政】
松井田城はかなりの激戦になったが、ついに大道寺政繁が敵に降伏した。最後は鉄砲の弾薬が尽きたようだ。
兵数だけではなく、物量にも大きな差がある。
小田原城ならば、たとえ一年でも耐えられるが、永久に落ちない城などは存在しない。
やはり、城を包囲した敵の補給がいつまで続くのかが、勝敗の分かれ目になるな。秀吉の財力がどれほどなのかは知らんが、必ず耐え抜いて見せる。
【27】幻想の兵 に続く




