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秀吉「俺が、天下を取る!」  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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【23】名胡桃城事件

【1588年7月 聚楽第(じゅらくてい)にて 豊臣秀吉】


 真田昌幸を俺に従わせておいて、やはり正解だった。


 北条・上杉・徳川に囲まれながら、信濃と上野の領地を守っていたあいつは、どこかで使えると思ったんだ。今まさに、真田昌幸の上野の二郡を、北条攻めの口実を作るために利用できそうだ。


 かつて家康は、完全に真田昌幸の扱いを誤ったよ。


 甲斐・信濃は徳川領で、上野は北条領という取決めは分かるが、真田昌幸が上野の二郡をただで手放せば、領地が半分以下になる。その代わりに、信濃に替え地を与えておけば、丸く収まったはずだ。


 あのときは家康も、領地が疲弊して焦っていたのかも知れないが、家康と敵対し上杉家に(はし)ってくれて、本当に良かったよ。まだ若い上杉景勝には、真田昌幸みたいに癖が強いタイプを飼い慣らすのは、とても無理だったんだ。


 おかげで あいつは、簡単に俺の誘いに乗ってきた。真田家の領地も、そのままになっている。俺に臣従した真田昌幸を攻めることは、家康にも上杉景勝にもできない。


 真田昌幸は、小さくても独立勢力として扱ってやったほうが良いんだ。あいつは、武田遺臣の生き残りで最高の頭脳と胆力を持っているが、大名家の統治組織に馴染(なじ)むタイプではない。


 俺がそう考えているってことも、本人はお見通しだろう。


 おそらく真田昌幸なら、今の俺の狙いも見抜いているはずだ。



【1589年9月 上野 岩櫃(いわびつ)城にて 真田昌幸】


 秀吉は、意外に回りくどいやり方を好むのか?


 それとも、関白になったせいで、自分も好き勝手に動けなくなったのか。農民から関白に成り上がるほどの男なんだから、他人(ひと)に厳しく自分に甘く、二枚舌を使えば良いのによ。


 北条家と俺は、上野の領地を巡って、今も対立している。武田の家臣の頃から俺の領地だった吾妻(あがつま)郡は、事実上 俺のもので落ち着いたが、利根(とね)郡は、北条家も領有権を主張し続けている。


 秀吉は、その対立に介入してきた。利根郡の約七割を北条領として認め、名胡桃(なぐるみ)城周辺の三割を俺の領地にしろだってよ。


 その代わり、信濃の伊那(いな)郡をくれるから、俺に不満はない。だが、利根郡全域を欲しがっていた北条家は、名胡桃城周辺が俺の領地として残るのには、抵抗があるだろう。


 やはり、回りくどい。


 まあ 秀吉のやりたいことも、分からんことはない。北条家が、全域を自領だと主張している利根郡に、俺の領地がほんの(わず)かに残っている。こういうの、気持ち悪いんだ。


 真っ白に塗ったはずの壁の、一角にだけ塗り残しがある感覚だ。絶対に、そこも塗りたくなるもんなんだよ。俺は、北条がそこを、塗り易いようにしておいてやれってことだな。あくまで、北条側に先に手を出させようとしているんだ。


 だが、面倒くさいことしてねえで、適当にちょっかい出して、戦に持ち込めば良いだけなのによ。



【9月 小田原城にて 北条氏政】


 秀吉、利根郡の約七割を、北条家の領地として認めるなんて、勝手なことを言い出した。


 それで譲歩したつもりなのか。


 それに、三割を真田家に残す理由は、名胡桃城の近くに真田家の先祖の墓があるからだと?


 先祖の墓があるからなんて、言い訳にもならん。それを理由にしていたら、領地の奪い合いなんて起きてねえだろう。秀吉は、他人の墓がある土地を、攻めたことがないとでも言うのか。


 しかし……こんな挑発に、易々(やすやす)と乗せられるわけにはいかない。利根郡の僅かな領地くらいで、秀吉に戦の口実を与えるほど、俺を愚かだと思うなよ。



【1589年11月 浜松城にて 徳川家康】


 利根郡の沼田城に入った、北条家の猪俣邦憲(いのまたくにのり)が、名胡桃城を攻め取った。


 真田昌幸が、大した用もないのに京に行っていたのは、誘いだったんだろう。秀吉は、北条との戦の口実が、何よりも欲しかったんだ。


 あれが北条氏政の指示か、猪俣邦憲の独断かは分からないが、まんまと引っ掛かってしまったよ。


 名胡桃城なんて小さな城を奪ったせいで、北条家はあの広大な領地を、すべて失うことになるかも知れない。


 厄介なことになった。北条家と同盟している俺まで巻き込まれるのは、絶対に御免こうむるよ。


 俺も急いで京に行って、秀吉に叛意(ほんい)がないことを示しておいたほうが良い。


 戦になっても、俺は北条家には付かないからな。



【24】先を読み過ぎる家臣 に続く

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