【21】佐々成政が来た
【1587年 4月 飯野城にて 島津義弘】
やはり思った通り、俺たちの戦術など、秀吉の軍からすれば児戯に等しいようだ。兵の個々の戦闘力ではこちらが上だが、統率や戦術では、俺より黒田官兵衛が遙かに上だ。
さらに、当主である兄貴(義久)は降伏を決め、まだ戦意がある者は五千にも満たない。
だが、勝負はまだ付いていない。戦力差を覆して勝った例など、いくらでもある。それに俺たち九州の男が、関白だとか威張っているやつに膝を屈するのは、誇りが許さない。
特に、俺や歳久(義弘の弟)はそうだ。
兄貴は、島津家の領地安堵のために秀吉に降伏したが、俺は、領地より誇りのために死ぬ。
【出水城にて 羽柴秀吉】
島津義弘、説得にも頑として応じない。ますます気に入った。
兄に代わって義弘を島津家の当主にし、日向の飯野城も安堵するという条件を追加して、もう一度 説得しろ。
【飯野城にて 島津義弘】
ふざけるな。俺は当主になりたくて戦っているのではない。
【泰平寺 陣中にて 黒田官兵衛】
いくら秀吉様が気に入っていても、本人が降伏を受け入れなければ、処断するしかなくなる。
絶対に、島津義弘を死なせるわけにはいかない。俺が説得に行っても良かったが、もっと適した男がいた。
おそらく、あれで上手くいくはずだ。
【飯野城にて 島津義弘と秀吉の使者】
「また秀吉から、降伏を勧める使者が来たか。どんなに口が上手いやつを寄越しても無駄だ。
使者は、この部屋には通さなくて良い。そいつの首を掲げて、敵陣に突撃するぞ。
…あ?誰だ、お前は?
まさか、お前が秀吉の使者か。勝手に ここまで押し入って来たのか。関白の使者とは とても 思えん、滅茶苦茶なやつだな」
「滅茶苦茶なのは、お前も同じだろう。当主の島津義久が降伏したんだ。お前だけ勝手な行動は許されんぞ」
「ああ、そうだな、俺も滅茶苦茶だ。だが これは意地なんだよ。
今すぐお前の首を刎ねて、敵に突撃する。そうだ、まだ お前の名も聞いていなかったな」
「佐々成政だ」
「お前が、佐々成政…。柴田勝家が死んでも、秀吉に反抗し続けたやつか。変なやつを寄越したな」
「変なやつ?どこが?」
「面白そうだな、俺が島津義弘だ。話だけは聞いてやる」
「面白そう?何が?」
「関白の手先よ。口上を述べろ」
「関白なんか、どうでもいい。お前はこんなとこで死ぬな。兵も巻き込むな」
「どうせ秀吉に従えば、いずれ大陸に出兵させられ、知らん土地で死ぬことになる。だったら今、この九州の土になるほうが よっぽど良いだろう」
「確かに、お前なんかの指揮で大陸に行けば、兵がたくさん死ぬ。だからお前は、指揮権を黒田官兵衛にでも渡し、一兵卒として働けば良い」
「喧嘩を売りに来たのか」
「どうせ大陸で死ぬって言ったのは、お前だ」
「…なるほど。本当に面白いな。なんでお前みたいなのが来たんだ。関白なんか、どうでもいいとか言わなかったか?」
「言ったかもな。俺は、これでも正式な使者らしいから、この会話は、共の者に書き留められて秀吉に届く。
だから俺も、関白に叛意ありと見做され、殺されるかもな。お前が止めないからだぞ」
「まともに口を開いた途端に、関白なんかとか言い出したんだ。止める暇なんか、なかったじゃねえか」
「そうだっけ?とにかく このまま帰ったら、俺は秀吉に殺される。でもお前が降伏してくれれば、助かるかも知れん。人助けだと思って降伏しろ」
「お前の言っていることは、意味が全然わからん」
「じゃあ、バカなお前にも分かるように言ってやろう。
大陸に行かされるときは、お前が兵を率いろ。それで出来る限り、兵を知らん土地で死なせずに帰って来い。それも人助けだ。
バカなお前が率いれば、兵はここで死ぬか、数年後に知らん国で死ぬだけだが、もしお前がバカじゃなくなれば、お前の兵は死ななくて済む。悪い話じゃねえだろう。
俺のバカは、何をやっても治せないが、お前のバカは、治せるんだってよ。おい お前、初対面だってのに失礼なこと言うんじゃねえよ」
「言ったのは お前だ」
「島津家の本領の薩摩と、隣の大隅は安堵される。領民のためとか、兵のためとか思って、お前は降伏しておけ。関白なんか、クソどうでもいい。
…あっ また言っちまったじゃねえか。これじゃ完璧に死罪だぞ。お前が止めないせいだ。だから一緒に来てくれ」
「確かに、お前のバカは治せなさそうだ」
「そうだ。俺はバカなまま、そのうち死ぬだろう。秀吉の下で長生きするタイプじゃないからな」
「そうかもな。でも九州の男は、お前みたいなバカが好きなんだ。仕方ねえから、お前と一緒に、秀吉のとこに行ってやるよ」
「…すまんな」
「お前も、兵のために、秀吉に降伏したのか?」
「バカだから、忘れた」
「お前、兄貴より兄弟っぽく思えるぜ。次は、九州に生まれてこいよ」
「お前、それ、言ったら死ぬやつじゃねえか。なんてこと言いやがるんだ」
「お前が…止めないからだ」
【22】真田の領地問題 に続く




