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長い冬の終わり 【完結】

してついに、小学校の卒業式の日がやってきた。

私の通っていた地域では、小学校の卒業式には、進学先の中学校の制服を着て出席することになっていた。


式の当日の朝、私は一年以上慣れ親しんだ白いランニングシャツと紺色の半ズボンを脱ぎ捨て、黒い詰襟の学ランと、長いズボンに袖を通した。


生地が肌に触れた瞬間、何とも言えない奇妙な感覚が全身を駆け巡った。

厚いウールの布地が、三月の早春の冷気を完全に遮断してくれる。


(……温かい)


それは、当たり前の、けれど私が四百日以上も遠ざけてきた、圧倒的な拒絶のない世界の温もりだった。


靴下を履き、黒い革靴に足を収める。

裸足に直接スニーカーの冷たさを感じないその足元は、どこか浮き足立つほどに頑丈に守られている気がした。


鏡の前に立つと、そこにはいつの間にか少し背の伸びた、学ラン姿の自分がいた。

髪の毛は相変わらず短い丸刈りのままだったけれど、その服装は、どこからどう見ても「普通の中学生」だった。


その瞬間、私の体と心を一年以上にわたって縛り付け、突き動かしてきたあの奇妙な呪縛が、音を立ててすっと解けていくのが分かった。


卒業式という厳かな儀式と、新しい制服の重みが、私の「小学校時代の頑なな日常」に、強制的に、そしてあまりにも綺麗に区切りをつけてくれたのだ。


◇


実は、心の中のどこかには、「中学生になっても、このランニング姿を続けてやろうか」という、あまのじゃくな火種が完全に消えずに残ってもいた。

しかし、現実という冷徹な波が、その火種をあっさりと消し去った。


(中学校で、こんな変な格好を続けていたら……確実に上級生に目をつけられる。絶対に、いじめられる。それは、怖い)


それは、十代の入り口に立った少年としての、ごく当たり前で、ごく健全な「社会的な恐怖」だった。


小学生の狭い世界、見知った仲間と優しい先生に守られた箱庭の中だからこそ許されていた私の「狂気」は、中学校という新しく、そして少し荒っぽい未知の社会の門を叩いた瞬間に、存続の余地を失ったのだった。


「いじめ」をきっかけに始まったランニングシャツ半ズボンが、「いじめ」を恐れて終わりになった、ある種皮肉なものであった。


春休み中には、まだ名残惜しさから、時折ランニングシャツと半ズボンになって過ごす日もあった。

けれど、中学校の入学式を迎え、毎日制服を着て通うようになると、私はごく普通の、どこにでもいる中学生の日常へと完全に埋没していった。


◇


あれから、長い年月が流れた。


今、大人になった私が、あの小学五年生の一月から始まった奇妙で過酷な一年余りを振り返るとき、胸の奥に去来するのは、なんとも言えない複雑な感情だ。


「もう一度、あの生活をやれと言われたら、やるか?」


そう問われれば、答えは間違いなく「絶対にやりたくない」である。

あの雨の火曜日の凍えるような寒さ、夕方の腹を引き裂くような空腹感、生乾きの服を身にまとった瞬間の絶望的な冷たさ。

あんな苦行を、今の私が耐えられるはずがない。


しかし同時に、「あの経験をして、楽しかったか?」と問われれば、それもまた「本当に楽しかった」というのが、偽らざる本音なのだ。


誰も成し遂げられない極限の苦痛を、自分自身の強靭な意志だけでコントロールし、一日も欠かさず完遂し続けたという記憶。

それは、歪んではいたけれど、私の幼少期における確かな一本の骨筋となっていた。


呆れながらも最後には根負けして付き合ってくれた先生の優しさ。

言葉にせずとも濡れた服を黙って洗い続けてくれた両親の深い包容力。

それら大人の温かい眼差しに支えられていたからこそ、私はあの狂気を「楽しむ」ことができたのだと、今なら分かる。


もちろん、全てのきっかけは、私が友達を深く傷つけた「いじめ」という、決して許されない過ちにある。

だからこそ、どれほど過酷なメニューをやり遂げたからといって、それを他人に誇るつもりなど毛頭ないし、誇れるような美しい美談でもない。


それでも、あの一月の冷たい空気、中庭から見上げた灰色の空、あるいは何も言わずただ一緒に遊んでくれた彼の姿は、今も私の記憶の中で、昭和のノスタルジーと共に鮮明に息づいている。


恥ずかしさと、誇らしさと、ほろ苦さ。

その全てが混ざり合った、私だけの、かけがえのない大切な思い出である。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました! 「いじめ」で始まった狂気が、「いじめられる恐怖」で終わるという、なんとも格好のつかない、しかしあまりにもリアルな結末でした。 大人になった今でも、あの冬の空気や中庭の灰色の空は、私の一本の骨筋として残っています。

もしこの不器用な少年の400日に少しでも心を動かされたり、昭和の空気を懐かしんでいただけましたら、【評価】や【ブックマーク】をいただけますと、執筆の大きな励みになります! また別の物語でお会いしましょう。


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