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第一章 《アカシア》

第一章 《アカシア》


市場の呼び声、鉄車の轟き、子どもたちの笑い声。


人々が行き交う通りは、眠りから乱暴に引きずり起こされたように動き始めていた。下層街の繁栄は、今日という一日のために幕を開けようとしている。


通りの中央には、周囲と比べてひときわ大きな建物がそびえていた。


灰黒色の外壁は歳月と汚染に削られ、ところどころ斑に変色している。正面入口の上には巨大な鉄製の看板が掲げられ、その中央には三つの文字が刻まれていた。


先駆者。


二人の男が、その建物へ向かって足早に進んでいた。


「ローン、急げ! 隊に遅れたら仕事がなくなるぞ!」


ミロが振り返って叫んだ。


彼は肩に長い武器袋を背負い、周囲の誰よりもせわしなく歩いていた。元気が有り余っているからではない。今日仕事を取れなければ、明日の配給が少し減ることを知っているからだ。


ローンはその後ろを歩いていた。


返事はしなかった。


「……」


ただ外套のポケットに手を入れたまま、ミロの背中を追って人混みを抜けていく。


先駆者の建物の大扉は開け放たれていた。


二人が中へ足を踏み入れた瞬間、外の呼び声は厚い壁に遮られ、代わりに別の音が耳に入ってきた。


金属がぶつかる音。


弾倉がはめ込まれる音。


戦闘服が収縮するときの、湿った摩擦音。


そして任務受付の苛立った怒鳴り声。


「第七隊、装備を受け取ったらすぐ出ろ! 入口を塞ぐな!」


「元素弾は三組までだ! 何度も聞くな!」


「破損した内核皮は自分で申請しろ! 戻ってから登録してないなんて言っても補填は出ない!」


大広間は人で溢れていた。


ある者は俯いて任務票に署名し、ある者は壁際にしゃがんで弾薬を確認し、またある者は長椅子に座って、干からびた獣皮のような黒い戦闘服を身に着けていた。


それが内核皮戦闘服だった。


核獣が内核を包むために生やす皮を加工したもの。


下層街の先駆者にとって、それは命を守る護符などではない。


ただ、人が死ぬまでの時間を少しだけ延ばす薄い壁だった。


ミロはローンを引っ張り、人の間を抜けて任務壁へ向かった。


鉄板が灰白色の壁に打ちつけられ、そこには黄ばんだ任務票が何枚も吊るされていた。紙の端は湿気で丸まり、文字のいくつかは手垢で薄れている。それでも、いくつかの言葉だけはやけに鮮明に残っていた。


劣質種。


昆虫亜種。


討伐。


内核回収。


任務壁の一番下には、新しく貼られた紙があった。


東側腐林辺縁。劣質種、昆虫亜種。外見は蟻類に近い。確認個体数、一から三。報酬は内核の完整度により算出。内核皮は配給額に換算可能。


紙の最下部には、小さな文字で一行だけ追記されていた。


身体に裂け目あり。雅核花の寄生が疑われる。


ローンの視線が、その一行で止まった。


雅核花。


彼はその花を見たことがある。


赤い花だった。


美しかった。


この世界に咲いていていいはずがないほど、美しかった。


雅核花は汚染の深い場所に咲くという。あるいは、核獣の身体にも咲く。花弁は鮮やかな赤で、縁は誰かが丁寧に整えたように滑らかで、細い花蕊には淡い光が宿る。花だけを見れば、それが腐敗と感染、そして核獣の血肉から生えたものだということさえ忘れてしまいそうになる。


人間とは、つくづく救いがない。


災厄でさえ、美しければ見惚れてしまう。


「一から三匹の劣質種か」


ミロは任務票を見下ろし、口の端を引きつらせた。


「今日も生きて帰れそうな仕事だな」


ローンは答えなかった。


胸の奥が、ふいに沈んだ。


痛みではない。


身体の内側から何かの手が伸びてきて、心臓をゆっくり掴んだようだった。


喉も締まり始める。


見えない石がそこに詰まったようで、声も息も少しだけ通りにくくなる。


任務広間の音は続いていた。


誰かが笑っている。


誰かが報酬の安さに悪態をついている。


誰かがこの蟻型核獣の内核は金になるのかと聞いている。


誰かが昆虫亜種は面倒だが、所詮は劣質種だ、大したことはないと言っている。


ローンはそれらの声を聞いていた。


けれど一瞬、それらがひどく遠くに感じられた。


彼は任務票の文字を見ていた。


劣質種。


昆虫亜種。


蟻類。


そして、一つのことを思い出す。


今日、外で死ねば、腰の拳銃も、二本の元素小刀も、誰かに持っていかれる。


そのとき、彼の意思は誰にも問われない。


死者に武器は使えないからだ。


ローンの右手が、ゆっくりと握り込まれた。


拳が、心臓に触れそうになる。


「ローン?」


ミロの声が彼を引き戻した。


ローンの手が止まる。


ミロは彼を見ていたが、それ以上は何も聞かなかった。


彼らは子どものころから知っていた。聞いても仕方のないことがあるのだと。目光城の人間は、大抵いくつかの口にしたくない癖を持っている。眠るときに灯りを消せない者。食事の前に扉の鍵を三度数える者。ハインストの低い唸りを聞くと震え出す者。


ローンの場合は、拳を心臓に押し当てるだけだった。


少なくとも、今はそう見えるだけだった。


「受けるか?」


ミロが聞いた。


ローンは前へ進み、任務票の下に自分の名を書いた。


ローン。


ペン先が紙を擦る音に続いて、ミロも名を書いた。


ミロ。


その後ろには、他の先駆者たちの名前が続いた。


知っている者もいた。


知らない者もいた。


だが、それは重要ではない。


城を出れば、知り合いかどうかに関係なく、全員が同じ腐った大地に立つ。核獣は誰の名前を覚えているかなど気にしない。名前を知っていれば優しく噛んでくれるわけでもない。


受付係は古びた鉄の机の向こうに座り、彼らを一瞥した。


「三十分後に出城。先に装備を受け取れ」


二人は任務壁を離れ、奥の装備区へ向かった。


装備区の匂いはさらに濃かった。


錆、油汚れ、乾いた血。何度も修繕された内核皮から発せられる生臭さ。それらが混ざり合い、壁に染み付いて離れない腐敗した記憶のように漂っている。


「名前」


受付台の向こうにいる女が、顔も上げずに言った。


「ミロ」


ローンは自分の鉄札を机に置いた。


女は名簿をめくり、二人の名前の横に線を引くと、二枚の任務札を机の上へ投げた。


「劣質種討伐、東側腐林辺縁。装備等級は低階。任務終了後、戦闘服、武器、弾薬はすべて回収登録。死んだ場合、同行者が持ち帰れるものを持ち帰る」


彼女は淡々と言った。


まるで、昼食の塩が少し足りなかったと言っているだけのようだった。


ミロは任務札を取り、胸元に掛けた。


「同行者も死んだら?」


女はようやく目を上げた。


「次の連中が拾う」


ミロは黙った。


ローンは自分の装備棚の前まで行き、扉を開けた。


中には一着の劣質種内核皮戦闘服が掛けられていた。


新しいものではない。


胸元には修繕された裂け目が二つあり、肩の部分だけ他よりも色が濃い。何かの酸で腐食された痕のようだった。腰側から背中にかけては細い縫い目がいくつも走っている。縫製は美しくなかったが、使えるだけましだった。


ローンは外套を脱ぎ、内核皮戦闘服を身に着けた。


肌に触れた瞬間、それは死物のように冷たかった。


次の瞬間、戦闘服が身体に張り付き始める。


黒い内核皮が腕、胸、腰、腹へとゆっくり収縮し、薄い獣皮が再び生き返ったかのように、この身体がまだ使えるかどうかを確かめている。


ローンの胸が締めつけられた。


心臓がまた沈む。


右手が拳を作りかけた。


だがその隣で、ミロはすでに武器架から元素機銃を取り下ろしていた。


その銃は普通の元素銃よりもずっと重く、銃身には補強用の鉄板が何枚も継ぎ足されている。弾帯槽の横には、擦り切れた札がいくつも貼られていた。


氷。


土。


雷。


水。


異なる元素弾がいくつかの弾盒に分けて収められている。どの弾盒も何度も触られたせいで、表面が鈍く光っていた。


「今日もその二本の小刀を持っていくのか?」


ローンは棚の下から自分の武器を取り出した。


拳銃一丁。


元素小刀二本。


拳銃は旧式で、握りには黒い布が巻かれている。弾倉は三つ。そのうち一つには亀裂があった。


二本の小刀は左右の腰に収まる。


左は氷元素小刀。


刃は短く、刃先には淡い白青色の光が浮かび、薄霜に覆われたように見える。


右は火元素小刀。


刃の色はより深く、背に近い部分には暗赤色の紋が走っている。握ると、わずかな熱が手のひらに伝わった。


ミロはその二本の小刀を見て眉をひそめた。


「毎回思うけどさ、刀で核獣を相手にするのは、自分の手足をいじめてるようにしか見えないんだよな」


ローンは拳銃をホルスターに差し込み、答えなかった。


周囲の者たちも次々に装備を整えていく。


元素銃を背負う者。


内核皮の腕部を確認する者。


弾倉を一つずつ胸元の袋へ差し込む者。


大声で笑う者はいなかった。さきほど広間にあった喧騒は、この場所では薄くなっている。


戦闘服を着た瞬間から、彼らはもう仕事を待っているのではない。


出城を待っているのだ。


装備区の最前方で、隊の責任者が鉄扉を叩いた。


「東側腐林任務を受けた者、集合」


ミロは元素機銃を担いで数歩前へ進み、振り返ってローンを見た。


「行くぞ」


ローンは外套を棚へ戻した。


扉を閉める前、彼の視線は空っぽの棚底で止まった。


今日戻らなければ、この棚は明日開けられる。


拳銃は持っていかれる。


小刀も持っていかれる。


戦闘服がまだ使えるなら、それも剥がされる。


誰も彼に聞きはしない。


ローンは棚を閉めた。


鉄の扉が、鈍い音を立てた。


集合区は先駆者建物の裏側にあった。


窓はない。


まっすぐ伸びる灰色の廊下だけがあり、その先は外城通路に繋がっている。両側の壁には古びた照明灯が並び、白い光がカバーの隙間から漏れていた。その光に照らされると、誰の顔も病床から起き上がったばかりのように見える。


ローンとミロが到着したとき、すでに十数人がそこに立っていた。


壁にもたれて銃を磨く者。


俯いて内核皮戦闘服の留め具を確認する者。


弾倉を取り出し、戻し、また取り出し、また戻す者。そうやって確認を繰り返せば、恐怖も一緒に銃の中へ押し込められるとでも思っているようだった。


隊の責任者は、顔に火傷の痕を持つ男だった。


彼は鉄扉の前に立ち、任務札を手に、全員を見渡した。


「東側腐林辺縁、劣質種昆虫亜種討伐。外見は蟻類に近い。現在確認されている個体数は一から三。主任務は討伐。副任務は内核と内核皮の回収。雅核花を完整な状態で持ち帰れた場合、別途補填が出る」


誰かが口笛を吹いた。


「花まで金になるのかよ」


「先に自分の頭を咲かせて、研究所が買うか聞いてこい」


周囲から笑いが起きた。


その笑いは短かった。


余計な体力を使うのを恐れているかのように。


火傷の男は彼らを無視した。


「今回は正式な軍団任務ではない。後援隊はない。卓越種に遭遇した場合は撤退。不明な巣を発見した場合も撤退。汚染拡散区域に踏み込んだ場合も撤退。行動不能者が出た場合、回収するかどうかは同行者の判断に任せる」


その言葉が落ちた瞬間、廊下は少し静かになった。


誰も聞かなかった。


「回収」とは人間を回収することなのか、装備を回収することなのか。


なぜなら答えは重要ではないからだ。


アカシアでは、多くの場合、その二つに大した違いはない。


鉄扉の上の赤灯が点いた。


廊下の奥から歯車の回転音が響く。


低く、遅く、重い。


巨大な生き物が歯を軋らせているようだった。


第一の鉄扉が左右に開き、その向こうに消毒通路が現れる。


隊員たちは一人ずつ中へ入っていった。


ローンが通路に足を踏み入れると、頭上から冷たい白霧が噴き出した。


希釈された浄化液だった。


鼻を刺すような匂いがあり、戦闘服に落ちると細かな音を立てる。


消毒通路の先で、第二の扉がゆっくりと開いた。


外城通路が彼らの前に現れる。


先駆者の建物よりも広い通路だった。両側の壁は厚い金属板で覆われている。金属板には無数の傷が残っていた。獣の爪痕のようなものもあれば、人間の武器で叩きつけられたような痕もある。


通路の先に、目光城の外門があった。


見上げても頂上が見えないほど高い。


まるで山肌そのものを立てたような厚さだった。


門の前には数人の守衛が立っていた。


彼らは普通の先駆者よりも完整な内核皮戦闘服を着込み、制式元素銃を手にしていた。顔には表情がない。


そのうち一人が任務札を受け取り、ちらりと見る。


「東側腐林か?」


火傷の男が頷く。


「劣質種討伐だ」


守衛は任務札を返した。


「今朝、その付近から一隊戻ってきた。三人減っていた」


隊の中の誰かが顔を上げた。


「原因は?」


守衛はその者を見た。


「持って帰ってこなかったものを、どうやって知る?」


その者は口を閉じた。


外門前の警告灯が点滅を始める。


赤い光が何度も彼らの身体を打った。音のない秒読みのようだった。


ローンはその門を見上げた。


胸がまた少し沈む。


装備区で感じたほどはっきりしたものではなかったが、それでも確かにあった。


心臓が戦闘服越しに何かに押さえられている。


喉も乾き始める。


右手がゆっくりと握られた。


だが拳が上がる前に、ミロの手が彼の肩に置かれた。


「外に出たら、俺から離れすぎるなよ。俺の機銃、あんたの背中に撃ちたくないからな」


ローンは横目でミロを見た。


ミロは彼の手を見ていない。


外門を見ていた。


「つまり、核獣をお前の背後に立たせるなってことだ」


ローンは答えなかった。


ただ手を緩めた。


外門が上がり始める。


巨大な金属の摩擦音が地面を震わせた。


門の隙間が少しずつ広がる。


最初に差し込んだのは灰白色の光。


次に、風。


外の風は腐土と湿った植物、遠くの汚染水域の匂い、そしてごく淡い生臭く甘い匂いを運んできた。


その匂いが通路に流れ込んだ瞬間、隊の何人かがほとんど同時に息を止めた。


城内は汚い。


下層街はさらに汚い。


だがそれでも、人間の汚さだった。


城外は違う。


城外の汚さは、まるで何かが生きているようだった。


門が完全に上がる。


目光城の外の世界が、彼らの前に開いた。


灰色の荒地が遠くまで続き、地面はひび割れ、その隙間から暗赤色の細草が伸びている。さらに遠くには東側腐林が見えた。木々はねじれ、互いに押し合うように密集している。樹皮は腐った肉のように裂け、垂れ下がった枝は、遠目には腰を曲げた黒い人影の群れのようだった。


空は雲に低く押さえつけられていた。


今にも落ちてきそうなほど低い。


火傷の男が手を上げる。


「出城」


隊が動き始めた。


一人、また一人と城門を越えていく。


ローンが門線を越えた瞬間、足元は平らな金属から粗い灰土に変わった。


彼は振り返らなかった。


出城時に振り返ることは禁忌ではない。


ただ、多くの者は好まないだけだ。


振り返れば城門が見える。


城門を見れば、自分は本当は中に残ることもできたのだと思い出す。


そう思った瞬間、足が重くなる。


ミロは彼の右側を歩いていた。元素機銃を胸元に掛け、銃口はわずかに下を向いている。


「今日はただの劣質種だ」


彼はローンに言っているようでもあり、自分に言い聞かせているようでもあった。


ローンは遠くの腐林を見た。


風がそこから吹いてくる。


腐葉が揺れ、枝が擦れ合い、まるで多くの何かが木の下に隠れて囁いているようだった。


彼は隊に続き、東側腐林へ向かって歩き出した。


背後で目光城の外門が降り始める。


巨大な金属門が落ちる音は重く響いた。


その音が、城内の喧騒を少しずつ飲み込んでいく。


市場の呼び声は消えた。


鉄車の轟きも消えた。


子どもたちの笑い声も消えた。


最後に残ったのは風だけだった。


そして遠くの腐林から聞こえる、かすかな、ほとんど聞き取れないほど細い擦過音。


隊は灰土の道を東へ進んだ。


目光城の外壁が背後で少しずつ小さくなっていく。壮大な城門は、霧の中へ沈んでいく黒い鉄片のように見えた。誰も長く振り返らない。見続けていれば、そこには寝床があり、温水があり、市場の騒音があり、少なくとも今日は出城しなくていい人々がいることを思い出してしまうからだ。


それは良いことではない。


出城した者は、城内のことを考えないほうがいい。


火傷の男の名はグレン。


今回の臨時隊の責任者だった。彼が最も強いからではない。ただ、他の者より東側腐林任務を数回多く生き延びたからだ。


先駆者において、それは十分な資格だった。


ローンとミロは隊の中ほどを歩いていた。


ミロの元素機銃は胸元に掛けられ、銃口は下を向いている。彼は数歩進むごとに親指で銃身側面の安全装置に触れていた。まだそこにあることを確かめているようだった。


ローンはそれを見ていたが、何も言わなかった。


彼の手もまた、腰の小刀から離れていなかったからだ。


灰土道の両側から草が少なくなっていく。


代わりに、暗赤色の苔斑が広がっていた。乾いた血が地面に貼りついたようだった。ときおり、ひび割れからねじれた細草が伸びている。葉の先端は緑ではなく、灰色がかった白だった。


風が吹くと、それらは整然とは揺れなかった。


細い指のように、地面をそっと掻いている。


誰かが小さく悪態をついた。


「外に出るたび、前より気色悪くなってる気がする」


別の者が返す。


「気色悪いだけならまだいい。見えてるんだからな」


「それ、慰めになってると思ってるのか?」


「慰めてない」


ミロはそれを聞き、口元をわずかに動かした。


「頼もしい隊だな」


ローンは返事をしなかった。


隊は進み続けた。


およそ二十分後、灰土道が途切れ始めた。


前方の東側腐林が近づいてくる。


その木々は遠くから見たときよりも醜かった。


幹は太いが、通常の木が持つ生命感はない。黒褐色の樹皮が幾層にもめくれ、その内側には腐敗して裂かれた筋肉のような灰白色の繊維が覗いていた。低く垂れ下がった枝が絡まり合い、林の中の光を細かく切り刻んでいる。


腐林の縁には、踏み固められた空き地があった。


グレンが手を上げ、隊は止まった。


「武器確認」


全員がすぐにしゃがむか、近くの木の幹に寄り、最後の確認を始めた。


元素銃の安全装置が外される。


弾倉が差し直される。


内核皮戦闘服の首回りが引き上げられる。


ローンは左腰の氷元素小刀を抜き、刃を見た。


白青色の光は薄い。


良い刀ではない。


刃こぼれがあり、柄も一度交換されている。それでも使える。使えるというだけで、下層街では十分な賞賛だった。


ミロは彼の横にしゃがみ、元素機銃の弾盒を装着した。


「蟻型核獣か」


彼は任務札を見て、それから腐林を見た。


「蟻って、群れで動くもんじゃなかったか?」


その言葉が出た瞬間、横にいた痩せた背の高い先駆者が笑った。


「人の目玉と花が生えた普通の蟻を見たことがあるのか?」


ミロは彼を見た。


痩せた男は自分の元素銃を軽く叩いた。


「核獣は動物じゃない。動物みたいな形をしてるだけだ。任務票には一から三と書いてある。一から三だ。受付所の連中がどれだけ使えなくても、巣穴と散歩を間違えるほどじゃない」


「受付所をずいぶん信じてるんだな」


「俺は報酬を信じてる」


年長の女先駆者が低く言った。


「黙りな。林に入ったら地面を見ろ」


グレンは最前方で、地面の痕跡を見ていた。


ローンは二歩ほど近づいた。


腐土の上に、引きずった跡がある。


深い。


何か重いものが、林の中へずっと引きずり込まれていったような痕だった。その両側には砕けた甲殻が散っている。甲殻の縁は黒く、内側はわずかに湿った赤を帯びていた。


グレンが銃口で腐葉を払う。


その下から、半分だけ残った節肢が現れた。


昆虫の脚に似ているが、人間の腕よりも太い。外殻は幾つにも割れている。その裂け目に、丸いものがいくつも嵌まっていた。


誰かが近づいて覗き込み、すぐに後ずさった。


「目か?」


誰も答えなかった。


それは確かに目のようだったからだ。


灰白色の白目、深黒の瞳孔。死物とは思えないほど濡れていた。それらは節肢の裂け目に生え、不規則に並んでいる。いくつかは押し潰されたように歪み、瞳孔はそれぞれ違う方向を向いていた。


そのうち一つが、ローンを正面から見ていた。


すでに死んでいるはずなのに、彼は一瞬、それがまだ自分を見ているように感じた。


ミロが眉をひそめる。


「これ、本当に劣質種なのか?」


グレンはその節肢を蹴って脇へ退けた。


「巡回隊に脚を折られている。なら劣質種だ」


その言葉で、何人かは少しだけ肩の力を抜いた。


ローンは違った。


彼の視線は、その節肢のそばに落ちていた。


腐土の中に、一輪の花が咲いている。


赤い花。


親指ほどの大きさしかない。花弁は泥から生えたものとは思えないほど清潔だった。節肢の断面に寄り添うように咲き、細白い茎は甲殻の中から伸びた血管のようだった。


雅核花。


花は美しかった。


それがこの眼球まみれの昆虫の残肢と同じものから生じたとは、認めたくないほどに。


ミロもそれを見た。


少し沈黙したあと、彼は言った。


「つまり今日俺たちは、目玉と花が生えた蟻を殺しに来たわけだ」


痩せた先駆者がまた笑った。


「群れじゃない。一から三だ」


グレンが彼らを遮った。


「隊形を広げろ。引きずり跡を踏むな。二人一組で林に入る」


全員が動き始めた。


ローンとミロは自然と組になった。


腐林へ踏み込んだ瞬間、光が暗くなった。


城外の風は枝に遮られ、林の空気は水を含んだ布のように重い。一歩進むごとに、足元の腐葉が鈍く潰れる音を立てた。


ローンは拳銃を握った。


自分の呼吸が聞こえる。


ミロの身体で弾盒が揺れる音も聞こえる。


それ以外、腐林は静かだった。


静かすぎた。


鳥はいない。


小型の野獣もいない。


虫の声もない。


彼らが探しているのは蟻型核獣のはずなのに、この林には普通の昆虫の音さえなかった。


隊は奥へ進む。


ほどなくして、前方の者が手を上げた。


全員が止まる。


グレンがしゃがみ込み、地面を見た。


ローンもそれに倣って見る。


腐土の上にいくつかの穴があった。


どれも大きくはない。


拳ほどの幅しかない。


穴の縁は整っており、自然に崩れたものではなく、何かが何度も出入りして磨いたように見えた。


一つ。


二つ。


五つ。


十数個。


穴は木の根元まで続き、さらに腐葉の奥へ消えている。


ミロは何も言わなかった。


さきほど彼を笑った痩せた先駆者も、もう笑っていなかった。


ローンはその穴を見つめた。


胸がまた沈む。


右手がゆっくりと握られる。


だが今回は、拳を心臓に押し当てなかった。


音が聞こえたからだ。


細い。


密な音。


無数の小さな刃先が、地下で石を軽く掻いているような音だった。


グレンの顔色が変わった。


「下がれ」


次の瞬間、腐土が盛り上がった。


隊の最前列から二歩も離れていない場所で、地面が裂ける。


黒い節肢が土の中から伸びた。


続いて二本目。


三本目。


割れた蟻の頭が、地中からゆっくりと持ち上がる。


頭部は中央から裂かれたように開き、その裂け目には濡れた人間の目が詰まっていた。それらの目が同時に動き、さまざまな方向から獲物を確認している。


割れた甲殻の縁には、小さな赤い花が三輪咲いていた。


花弁は清潔で。


色は鮮やかな赤。


美しすぎるほどだった。


その核獣が顎を開く。


叫び声はない。


あるのは甲殻が擦れ合う耳障りな音だけ。


グレンが銃を構えた。


「撃て!」


第一発の元素弾が蟻型核獣の頭部へ撃ち込まれた。


氷霜が炸裂する。


核獣の前肢が凍り、身体は腐土へ重く叩きつけられた。


数人の先駆者が同時に発砲する。


火光が腐林を照らした。


ミロが引き金を引き、元素機銃が唸り始める。


ローンは氷元素小刀を抜き、横へ退いた。あの核獣が隊形へ突っ込んでくるのを防ぐためだった。


最初の一匹は十数秒で制圧された。


甲殻は撃ち割られ、目玉が一つずつ弾け、赤い雅核花は弾流に裂かれて泥の中へ散った。花弁は、美しいまま泥に沈んでいく。まるで間違った祝福のようだった。


誰かが息をついた。


「ほらな、一匹だけだ」


その言葉が落ちた直後。


腐林の中の擦過音が大きくなった。


前方からではない。


左右から。


足元から。


隊の後方から。


ローンが振り返る。


少し離れた腐葉が盛り上がっていた。


一つ。


二つ。


十。


さらに多くの穴。


ミロの顔色が悪くなる。


「だから言っただろ」


地下の音が一つに繋がった。


まるで腐林全体が、突然歯を研ぎ始めたようだった。


次の瞬間、最初の先駆者の足元が裂けた。


彼は下を見る暇さえなかった。


一対の黒い節肢が腐土から伸び、彼の足首を捕らえ、一気に下へ引きずり込んだ。


「うわっ!」


身体のバランスが崩れ、背中から地面へ叩きつけられる。元素銃が手から飛び、腐葉の上を滑った。


隣の者がすぐに手を伸ばす。


「掴め!」


ローンが振り返ったとき、その先駆者の下半身はすでに土の中へ沈んでいた。


地中から密集した擦過音が聞こえる。


一匹ではない。


下に、たくさんいる。


引きずられる先駆者は両手で地面を掻いた。爪が腐土に深い跡を残す。地下の何かが彼の内核皮戦闘服を裂き、黒い外層は古い布のように破れた。


「助けて! 助——」


声が途切れた。


死んだからではない。


別の蟻型核獣が彼の背後の穴から現れ、顎で肩を咬み、上半身まで下へ引いたからだ。


割れた蟻の顔には眼球がぎっしり詰まっている。


そのうちいくつかがローンへ向いた。


ローンは撃った。


一発目は蟻の頭部側面に当たり、甲殻を一片弾き飛ばし、黒赤い液体を噴き出させた。


二発目は裂け目に入った。


眼球が一つ弾ける。


蟻型核獣の動きが一瞬止まった。


一瞬だけだった。


それでも、そいつはその先駆者を穴へ引きずり込んでいく。


最後に地面から消えたのは、その人間の手だった。


指はまだ腐葉を掴んでいた。


そして、それも引き込まれた。


地面が閉じる。


残ったのは、傍らに落ちた元素銃だけだった。


誰も拾いに行かなかった。


第二波の蟻型核獣が、すでに地面から這い出していたからだ。


「隊形を散らせ! 穴のそばに立つな!」


グレンが怒鳴った。


彼は連続して発砲し、土元素弾を地面へ撃ち込む。いくつかの穴の周囲で厚い土塊が隆起し、二つの出口を一時的に塞いだ。


だが、もっと多くの穴が裂けていく。


腐林の地面は腐った皮膚のようだった。底から何かに突き破られている。


一匹。


三匹。


五匹。


さらに。


黒い蟻身が地中から這い出す。割れた甲殻の中は濡れた人間の目で埋まっている。胸腹が裂けて、裂け目から赤い雅核花が咲いているものもいれば、頭部が歪み、長すぎる顎だけを地面に噛みつかせて前へ進むものもいる。


火光の中で、花々が揺れた。


目を逸らしたくなるほど美しい。


そして吐き気がするほど美しい。


「一から三じゃなかったのかよ!」


誰かが叫んだ。


誰も答えなかった。


答えはもう、地中から這い出していた。


ミロは引き金を離さなかった。


元素機銃から吐き出される弾流が左側を薙ぎ、一列の蟻型核獣を押し返す。氷元素弾が足肢で炸裂し、数匹の前肢をまとめて凍らせた。


「ローン! 左!」


ローンは振り返らなかった。


身体が先に動いた。


一匹の蟻型核獣が隊の側面から飛び出す。


その身体は普通の蟻をあまりにも巨大化したものだった。甲殻はローンの腰ほどの高さにあり、顎を開けば人間の太腿をそのまま噛み切れそうだった。


ローンは氷元素小刀を抜き、前へ突き出した。


刃が蟻型核獣の前肢関節へ入る。


氷霜が裂け目に沿って広がり、その前肢を硬直させた。


蟻型核獣はバランスを崩し、身体を横へ傾ける。


ローンは即座に右腰の火元素小刀を抜き、裂けた腹節へ斬り込んだ。


火光が刃に炸裂する。


焦げた臭いが鼻を突いた。


蟻型核獣の腹部が切り開かれ、中の眼球が火で収縮していく。数輪の雅核花も火光の中で急速に巻き、赤い花弁は黒灰へ変わった。


その核獣は倒れた。


だがローンが後退する間もなく、その死骸の後ろから別の一匹が飛び出した。


近すぎた。


ローンは拳銃を構えた。


引き金を引くより早く、ミロの弾流が彼の肩の横を掠め、その蟻型核獣の頭部を横へ弾いた。


「こいつらの死骸のそばに立つな!」ミロが叫ぶ。


ローンは後退した。


隊の反対側はすでに崩れていた。


さきほど任務票を信用していた痩せた先駆者はまだ悪態をついていたが、次の瞬間、木の根元から飛び出した蟻型核獣に腕を咬まれた。


彼は悲鳴を上げて発砲した。


元素弾が腐林の中へ乱射され、そのうち一発が隣の人間の脚に当たった。


その者が倒れる。


さらに多くの蟻型核獣が、すぐに彼へ向きを変えた。


「倒れるな! 立て!」


女の声が響いた。


地面に注意しろと警告した年長の先駆者だった。


彼女は駆け寄り、銃を連射し、倒れた者へ迫る二匹の核獣を撃ち退けた。だが、手を伸ばして引き起こそうとした瞬間、頭上から細い擦過音がした。


ローンは見上げた。


一匹の蟻型核獣が、枝に逆さに張り付いていた。


違う。


枝ではない。


その木の樹皮はすでに中まで食い抜かれ、内部は無数の通路になっていた。


蟻型核獣が幹の裂け目から這い出し、そのまま女の後頸へ飛びかかる。


「上だ!」


ローンは叫ぶと同時に撃った。


弾丸は蟻型核獣の腹部を掠め、甲殻を数片砕いた。


だが止められなかった。


女は振り返る暇しかなかった。


蟻型核獣が彼女へぶつかり、地面に押し倒す。


元素銃が弾き飛ばされた。


倒れていた男は叫びながら後ろへ這った。


女は叫ばなかった。


両手で蟻型核獣の顎を必死に押さえ、自分の首を噛み切らせまいとしていた。


「走れ!」


彼女が叫ぶ。


倒れた男は二歩這った。


そのとき地面がまた裂けた。


二本の黒い節肢が腰を掴み、彼を別の穴へ引きずり込んだ。


女はそれを見た。


顔から表情が抜け落ちた。


その一瞬だった。


彼女を押さえ込んでいた蟻型核獣が噛みついた。


音は短かった。


湿った木が折れるような音だった。


ローンの指が強張る。


ミロが罵り、元素機銃をそちらへ向けた。


だが遅かった。


蟻型核獣はすでに女の身体を木の根元の奥へ引きずっている。


幹の中から、密集した擦過音がした。


ローンはその場に立ち尽くした。


胸が急に沈む。


心臓を、見えない手に掴まれたようだった。


喉も詰まり始める。


拳が反射的に握られる。


だが今回は、その拳を心臓へ置くことができなかった。


前方からさらに三匹の蟻型核獣が突進してきたからだ。


「ローン!」


ミロの怒鳴り声が彼を引き戻す。


ローンは歯を食いしばり、火元素小刀を逆手に握った。


一匹目が飛びかかる。


彼は顎を避け、刃を側腹へ走らせた。


火が裂け目へ入り込む。


二匹目が左からぶつかってきた。


避ける暇はない。


ローンは氷元素小刀で顎を受け止めた。


衝撃で身体が後ろへ滑る。


内核皮戦闘服が軋む。


その蟻型核獣の眼球がすべて彼に向いた。


目が多すぎる。


近すぎる。


そのうちいくつかの目の中に、自分の顔が映っているのが見えた。


ミロは彼を助けようと銃口を回した。


だがそのとき、ミロの足元の腐葉から一匹が飛び出し、顎を彼の脚へ向けた。


ミロは銃口を下げ、至近距離で発砲するしかなかった。


元素弾が炸裂する。


氷霜と砕けた甲殻が飛び散った。


ミロはよろめいて後退し、弾盒が腰に当たって空洞の音を立てた。


「弾がもうない!」


ローンには聞こえていた。


だが動けない。


小刀を押さえ込んでいる蟻型核獣が、さらに力を込めてくる。


腕が震え始めた。


氷元素小刀の光が弱くなっていく。


核獣の裂けた頭部が、少しずつ近づいてくる。


眼球が裂け目の中で回る。


顎が少しずつ開く。


ローンは生臭く甘い匂いを嗅いだ。


血ではない。


花の香りだった。


赤い雅核花が蟻型核獣の頭部裂口から生え、花弁が眼球のそばで微かに震えている。


美しい。


彼を嘲笑っているように、美しかった。


ローンの手首が後ろへ押し曲げられる。


あと数秒で、刀が手から離れる。


その後、顎が来る。


ミロは銃を回そうとしていたが、別の二匹がすでに彼へ迫っている。


グレンはさらに遠くで怒鳴っている。


だが隊はもう散っていた。


誰もが撃っていた。


誰もが後退していた。


誰もが、さらに多くの穴に囲まれていた。


ローンは目の前の赤い雅核花を見つめた。


胸の奥の重みが、急に深くなる。


腐林全体が彼の心臓へ押し込まれたようだった。


次の瞬間、ローンは蟻型核獣の裂けた頭部の後ろから、もう一本の黒い節肢が土の中から伸びるのを見た。


二匹目。


それは彼の背後から出てこようとしていた。


ミロが気づいた。


顔色が変わる。


「ローン、後ろ!」


ローンは振り返れなかった。


背後の擦過音が近づいてくる。


前方の顎も近づいてくる。


指がほどけそうになる。


そのときだった。


腐林の奥から銃声が響いた。


普通の元素銃とは違う音。


もっと重く。


もっと遠い。


冷たい鉄槌が空気を打ち砕いたような音だった。


白青色の光が林の間を貫いた。


弾丸はローンの耳元を掠め、前方の蟻型核獣の頭部裂け目へ撃ち込まれる。


氷霜が一瞬で炸裂した。


覆うのではない。


貫く氷だった。


その蟻型核獣の頭部全体が歪んだ氷塊となり、中の眼球は動きを止め、赤い雅核花も氷の中に閉じ込められた。まるで透明な棺に封じられた花のようだった。


ローンは腕にかかっていた圧力が消えるのを感じた。


前方の核獣が倒れる。


同時に、二発目の銃声。


ローンの背後で地面から這い出そうとしていた蟻型核獣が氷弾を受け、前肢ごと地面へ凍りついた。


ミロが顔を上げ、銃声の方向を見る。


腐林の霧の中に、一つの影がゆっくりと近づいてきていた。


その男は肩に巨大な剣を担いでいる。


剣身はまだ燃えていない。


だが周囲の空気がすでに歪み始めていた。


グレンが一瞬固まった。


次の瞬間、彼の顔色が変わり、喉を裂くように叫んだ。


「全員伏せろ! 射線を塞ぐな!」


誰も「彼」が誰なのかを聞かなかった。


四発目の氷元素弾がすでに腐林を貫き、顎を開いた蟻型核獣へ撃ち込まれていたからだ。


氷霜が頭部から炸裂し、裂け目に沿って胸節まで走る。裂口に詰まっていた人間の目は白霜の中で動きを止め、赤い雅核花は最も美しく開いた瞬間のまま凍りついた。


その影が銃を下ろす。


そして、肩の巨剣を握った。


剣身の根元から火が灯る。


一気に爆ぜたのではない。


細長い赤い線が、巨剣の背骨を這うように上っていった。何かが剣の中で目覚めていくように。次の瞬間、剣全体が燃え上がった。


腐林の湿った空気が高熱に引き裂かれる。


ローンは地面に伏せたまま、頬の横の腐葉が一瞬で乾き、縁が丸まり、焦げ臭い匂いを上げるのを感じた。


ミロは身体を低くし、元素機銃を抱え込んでいた。


「なんだよ、あれ……」


誰も答えなかった。


その男はもう動いていたからだ。


彼は叫ばない。


隊の状況も確認しない。


ただ戦場へ踏み込んだ。


一匹の蟻型核獣が左側から飛びかかる。


男の歩幅は乱れない。


巨剣が横薙ぎに振るわれる。


火炎が空気に幅広い赤い光を描き、そのまま蟻型核獣の頭部と胸節をまとめて切り裂いた。甲殻が割れ、中の眼球と赤花が同時に黒く焼ける。残肢が地面に落ちる前に、高熱で縮み始めていた。


二匹目が地面の穴から出てくる。


男は左手の元素銃を持ち上げた。


狙いを定めるための間さえなかった。


砰。


氷元素弾が穴へ撃ち込まれる。


白霜が瞬時に腐土を塞ぎ、伸びかけていた蟻型核獣の前肢ごと地面に凍りつかせた。


そいつはもがいて出ようとする。


男は一歩踏み込み、巨剣を上から振り下ろした。


火が氷を切る。


そして身体も切る。


氷と火が同じ場所で弾け、白霧と焦げた甲殻片が散った。


ローンはその光景を見て、指をゆっくり握り込んだ。


同じ火元素武器だ。


彼の火元素小刀では、蟻型核獣の側腹を裂くにも、裂け目や関節、刃を通せる場所を探さなければならない。


あの男の剣は、探さない。


道そのものを切り開く。


遠くでグレンが伏せたまま叫んだ。


「立つな! 誰も立つな!」


誰かが本能的に這って逃げようとし、その声でまた地面に伏せた。


次の瞬間、巨剣が彼の頭上を通過した。


火光が掠める。


木の幹の中から這い出そうとしていた蟻型核獣が二つに断たれ、後半身は樹洞に挟まったまま、前半身だけが地面に落ち、数度痙攣して動かなくなった。


その人間の顔から血の気が引く。


もし先ほど立ち上がっていたら、断たれていたのは核獣だけではない。


男は彼を見なかった。


自分が人間一人を斬りかけたことさえ確認しない。


彼が見ているのは核獣だけだった。


あるいは、まだ動くものだけだった。


蟻型核獣たちが向きを変え始める。


散り散りになった先駆者たちではなく、数匹が同時にその男へ向いた。


裂けた甲殻の中で十数個の人眼が動く。


赤い雅核花がその身体でかすかに揺れた。


腐林全体に、這い回る花が咲いたような光景だった。


男が銃を構える。


砰。


一発目の氷元素弾が左側の穴を塞ぐ。


砰。


二発目が右側の木の根へ撃ち込まれ、這い出しかけていた蟻型核獣を半身のまま凍らせる。


砰。


三発目は核獣ではなく地面に撃ち込まれた。


氷霜が腐土の裂け目に沿って広がり、拳ほどの穴をいくつも白い凍土で繋いでいく。


地下の擦過音が一瞬止まった。


男は銃を下ろした。


両手で巨剣を握る。


ローンはそこでようやく気づいた。


その剣は普通の金属ではできていない。


剣身の中央には、大きな暗赤色の元素石が埋め込まれていた。石の内部では火が流れているように見える。男が剣を振るたび、火光はその元素石から湧き出し、刃に沿って爆ぜた。


弾殻に粉末を詰めて撃つ元素弾とは違う。


完整な元素石。


本当に手で握ることのできる火だった。


男が一歩進む。


地面は凍り。


蟻群は止まる。


火炎の巨剣が落ちる。


一太刀目で、三匹の蟻型核獣の前肢を断つ。


二太刀目で、一匹の腹部を切り開く。


三太刀目で、二匹の頭部を直接薙ぎ、火が裂け目の中へ流れ込み、内部の眼球をすべて焼き干した。


一振りごとに無駄がない。


怒号もない。


間もない。


見栄えのする姿勢もない。


あるのは判断、距離、落点。


そしてその判断を結果に変えるだけの力だった。


ミロは言葉を失っていた。


元素機銃はまだ胸に抱えられ、銃口は腐葉に触れている。


ついさっきまで、彼は全力を尽くしても片側の蟻群を押さえるので精一杯だった。


あの男は、まるで戦場を一つ一つ片付けているようだった。


ローンは自分の呼吸を聞いた。


重かった。


胸はまだ痛む。


だがそれは、先ほどの静噬がもたらした重みではない。


別のものだった。


彼は初めてはっきりと理解した。


自分と、本当に多くの任務を生き延びてきた人間との間に、どれほどの距離があるのかを。


武器の差だけではない。


装備の差だけでもない。


一歩ごとに。


一発ごとに。


一振りごとの判断が違う。


一匹の蟻型核獣が、男の背後の穴から突然這い出した。


ローンはそれを見た。


だが男の身体は、すでにそちらへ向いていた。


最初からそこに何かが出ると知っていたかのように。


巨剣が逆手に突き下ろされる。


火炎の剣先が蟻型核獣の頭部を貫き、地面へ縫いつけた。


蟻型核獣の節肢が激しく痙攣する。


男は片手を離し、元素銃を抜くと、その頭部裂け目へ追加で一発撃ち込んだ。


氷霜が炸裂する。


火はまだ燃えている。


その核獣の頭部は、氷と火のあいだで砕け散った。


男は剣を抜いた。


ローンを振り返りもしなかった。


戦場の蟻型核獣は少なくなっていく。


正確には、穴から這い出せるものが少なくなっていった。


氷封された穴が一時的に地下通路を遮り、残った蟻型核獣は巨剣に断たれるか、火を裂け目に注ぎ込まれて焼かれた。


最後の一匹が木の根元へ逃げ込もうとした。


男は銃を上げる。


砰。


氷元素弾が後肢の関節を撃ち抜く。


核獣は地面に倒れ、裂けた頭部を振り向ける。そこに詰まった眼が一斉に男を向いた。


背中には赤い雅核花が咲いている。


男が歩み寄る。


巨剣が落ちた。


花も、目も、甲殻も、内核皮も、まとめて火に切り開かれる。


腐林は静かになった。


完全な無音ではない。


腐葉が燃える音。


負傷者の押し殺した呻き声。


どこかの穴の奥から聞こえる、かすかな擦過音。


だが、もう蟻型核獣は這い出してこなかった。


男は戦場の中央に立ち、巨剣を脇へ垂らした。


火炎がゆっくりと剣身の中へ戻っていく。


周囲の空気はまだ歪み、焦げ臭さと花の香りが混ざって、胃の奥を酸っぱくさせた。


最初に立ち上がったのはグレンだった。


彼はすぐには何も言わなかった。


生き残った者たちも次々に立ち上がる。腕を押さえる者。地面に膝をついて息をする者。ついさっき仲間が引きずり込まれた場所を見つめ、言葉を失う者。


ミロもゆっくりと身体を起こした。


顔は泥まみれで、額には砕けた甲殻でできた浅い傷がある。


ローンも起き上がる。


小刀を握る手はまだ震えていた。


刀が重いからではない。


あの男があと数秒遅れていたら、自分たちには互いが生きているかを確かめる時間さえなかったと分かっていたからだ。


男はようやく振り返った。


その顔は防護ゴーグルと半分だけの面覆いに隠れ、年齢は分からない。顎のあたりに剃り残した髭が少し見えるだけだった。身にまとった内核皮戦闘服はローンたちのものよりも厚く、完整だった。肩、胸、腕には追加の甲片があり、そこには古い傷がいくつも残っていた。


彼は生存者たちを一瞥した。


怪我の具合を聞かない。


名を尋ねない。


なぜ劣質種相手にここまで追い込まれたのかさえ聞かない。


ただ身体を返し、最も近い死体へ歩いていった。


その死体は腐葉の上にうつ伏せになり、手には元素銃を握ったままだった。


男がしゃがむ。


銃を取ろうと手を伸ばした。


死体の手は離さなかった。


死の瞬間、力を入れすぎたのかもしれない。


あるいは、身体がすでに硬化し始めているのかもしれなかった。


男は一瞬止まった。


ローンは彼を見ていた。


周囲の数人も彼を見ていた。


男は何も言わなかった。


彼はその元素銃を持ち上げ、銃口を死体の硬直した手首へ向けた。


砰。


血と砕けた骨、変色した肉片が腐葉へ飛び散る。


死体の手が緩んだ。


男は銃を持ち去り、立ち上がって次の死体へ向かった。


誰も止めなかった。


生き残った数人はその場に立ったまま、彼が死者から使えるものを外していくのを見ていた。


元素銃。


予備弾倉。


腰の短刀。


まだ割れていない腕部防具。


胸元の袋に入った小型浄化片。


彼の動作は速かった。


死体を漁っているというより、戦場に落ちた道具を整理しているようだった。どれが使えるか。どれが使えないか。どれを持っていく価値があり、どれに価値がないか。彼は一目で見分けていく。


ローンは数歩離れた場所に立ち、動かなかった。


ミロも動かない。


今、自分たちが戦利品に触れていい時ではないと、二人とも分かっていた。


蟻型核獣を殺したのはあの男だ。


彼は彼らを救った。


だから彼が去るまで、この戦場で回収できるものの優先権は彼にある。


それは感謝ではない。


規則だ。


若い先駆者の一人が耐え切れなかったのか、足元に落ちた元素銃を見下ろした。


その銃の持ち主はもういない。


穴へ引きずり込まれた者の死体はない。


銃だけが残っている。


若い先駆者が手を伸ばしかけた瞬間、グレンがその手首を掴んだ。


「待て」


若い先駆者が顔を上げる。


グレンは彼を見ず、ただあの男を見ていた。


「まだ行っていない」


若い先駆者の顔色が変わり、ゆっくりと手を引っ込めた。


あの男は聞いていないようだった。


あるいは聞こえていても、気にしていないのかもしれない。


彼は蟻型核獣の死骸のそばへ行き、しゃがみ込むと、短い鉤刀で焦げた甲殻をこじ開けた。


蟻型核獣の身体は火で切り裂かれ、原形をあまり留めていない。裂け目の中の人眼はほとんど弾け、赤い雅核花も黒灰になっていた。ただ数輪だけが、まだ花の形を保っている。


男はまだ完整な花を根元ごと切り取り、腰の金属箱へ放り込んだ。


それから蟻型核獣の胸腹の境目へ手を差し入れる。


濡れた音がした。


ローンは、彼がそこから暗赤色のものを引き出すのを見た。


劣獣核。


その内核は大きくはない。表面には黒い繊維がいくつも絡みついている。男の手の中で、わずかに光っていた。まだ冷えきっていない心臓のようだった。


男は一目見て、袋へしまった。


次の一匹。


さらに次の一匹。


彼は完整なものだけを取る。


割れたもの、火で焼けたもの、汚染が深すぎるものには目もくれない。


彼にとって、それらは時間を費やす価値がない。


ローンたちにとっては、それが今日唯一配給に換えられるものかもしれないのに。


ミロが低く言った。


「綺麗に持っていくな」


ローンは答えなかった。


男はまた別の死体へ向かった。


その死体は木の根元に倒れていた。半身は蟻型核獣に引きずられて崩れ、内核皮戦闘服の胸部だけはまだ使えそうだった。


男はしゃがみ、刀を抜く。


戦闘服の縁に沿って切り開く。


血を避けない。


死体の損壊した部分も避けない。


刃が内核皮を裂くと、濡れた布を切るような音がした。


そばの誰かが顔を背けた。


男は使える胸甲部分を外し、付着した肉片と腐葉を振り落とすと、巻いて背中の装備袋へ押し込んだ。


その間、一言も発しない。


死者に名前もない。


少なくとも彼の手の中では。


ローンはその死体を見ていた。


その人間がさきほど隊の左側に立っていたことを覚えていた。


出城前に一言、こう言っていたことも覚えていた。


花も金になるのか?


今、その内核皮も金になる。


ローンの喉がまた少し締まる。


彼は手を握ったが、拳を心臓へ押し当てることはしなかった。


ここではしたくなかった。


あの男の前では。


男は最後に戦場の中央へ戻り、腐葉の中に落ちていた元素銃を拾った。


弾倉を確認し、まだ使えると判断すると、肩に掛ける。


それから周囲を見た。


誰も動かない。


誰も話さない。


グレンでさえ。


男は巨剣を担ぎ、腐林の別方向へ歩いていった。


その背中はすぐに霧と木々の影に飲まれていく。


足音が完全に消えてから、グレンは若い先駆者の手首を離した。


「残りは自分で取れ」


その言葉が合図になった。


生存者たちはようやく動き始めた。


奪い合いではない。


誰も奪い合う勇気はなかった。


彼らはただ素早く散り、残されたものを拾い始める。


欠けた劣獣核。


半分破れた内核皮。


火で歪んだが材料にはなる蟻脚。


泥に落ちた弾倉。


折れた短刀。


銃身に亀裂のある元素銃。


それらは、さきほどの男が要らないと判断したものだった。


だが彼らにとって、本当に要らないものなどほとんどない。


ミロは蟻型核獣の死骸のそばへ行き、しゃがみ込んで割れた劣獣核を拾った。


その内核は一角が欠け、光も弱い。


彼は少し見てから、それでも袋へ入れた。


「これなら半額くらいにはなるだろ」


ローンは別の場所へ向かった。


腐葉の下から銃身が覗いていた。


しゃがんで腐葉を払う。


元素銃だった。


銃身は死体の下に挟まれ、半分だけ見えている。銃把のそばには手があった。


死者の手。


その手は銃帯を固く握っていた。指節は黒ずみ、内核皮の手袋は破れ、露出した皮膚は硬くなり始めている。


ローンはその死体を知っていた。


さきほど、地面に注意しろと皆に言った年長の女だった。


倒れた者を助けに走った女でもあった。


今、彼女は腐葉にうつ伏せになり、半分の顔を泥に埋めたまま、自分の銃を握っている。


ローンはその手を見つめた。


遠くでミロが呼んだ。


「ローン、そっちに何かあるか?」


ローンはすぐには答えなかった。


彼は銃を引いてみた。


動かない。


死者の手は固く握り込まれている。


死ぬ直前まで、その銃を離すつもりがなかったようだった。


ローンの手は宙で止まった。


さきほどの男を思い出す。


銃口。


音。


砕けた手。


ローンは自分の腰を見下ろした。


彼はすぐには拳銃を抜かなかった。


代わりに、右腰の小刀を抜いた。


火元素小刀は手の中でわずかに熱を帯びている。


だがローンは元素を起動しなかった。


ただ刃を、死者の硬直した手首へ当てた。


刃先が皮膚に触れる。


彼は一瞬止まった。


それから切った。


刃が手袋を裂き、冷えた肉へ食い込む。


柄を通じて、手のひらに感触が返ってきた。


腐葉を切っているのではない。


核獣を切っているのでもない。


人の手だった。


ローンの呼吸が一瞬止まった。


それでも刃を押し込む。


少し。


さらに少し。


手が震え始める。


胸の奥の重みが、一気に湧き上がった。


心臓が内側から何かに掴まれる。


喉が詰まる。


彼は俯き、自分の刀を見た。


死者の手を見た。


まだ使える元素銃を見た。


この銃を持ち帰れば、配給に換えられる。


修理もできる。


命を救うこともある。


死者に銃は使えない。


単純な言葉だった。


反論の余地などないほど単純だった。


それでも、彼の刀は止まった。


ミロが近づいてきて、その光景を見て足を止めた。


何も言わない。


ローンの右手は刀を握っている。


左手がゆっくりと拳を作る。


その拳は、今にも心臓へ向かいそうだった。


だが、最後まで上がらなかった。


彼は刀の柄から手を離した。


火元素小刀が腐葉の上に落ちる。


音はなかった。


ローンは拳銃を抜いた。


ミロが彼を見ていた。


「ローン……」


砰。


銃声が腐林に響いた。


死者の硬直した手が開く。


元素銃が死体のそばから外れ、腐葉の上へ滑った。


ローンは拳銃を握ったままだった。


手首がまだ震えている。


ミロはその銃を見た。


そしてローンを見た。


最後に、彼は身を屈め、地面に落ちていた火元素小刀を拾って差し出した。


ローンは受け取った。


礼は言わなかった。


ミロも礼を求めなかった。


二人で、その元素銃を死体のそばから引き抜く。


銃身には少し傷があったが、まだ使える。


ミロが弾倉を確認した。


「二発残ってる」


ローンはその死体を見つめた。


女の手はもう何も握っていなかった。


自分が何を言えばいいのか分からなかった。


ありがとう?


すまない?


これで生き延びる?


どの言葉も、あまりに清潔だった。


この場所には似合わないほどに。


最後にローンは、その銃を背嚢に入れた。


ミロがそばで低く言う。


「行こう。血の匂いで別のものが来る」


ローンは頷いた。


二人はもう、その死体を見なかった。


気にしていないからではない。


アカシアでは、多くの場合、気にしている時間が長すぎると死ぬ。


長く立ち止まっても死ぬ。


腐林を離れるとき、隊の人数は大きく減っていた。


誰もそのことを口にしなかった。


人数は言葉を必要としない。


空いた位置が、自分でそこに立っているからだ。


グレンが最前を歩いていた。出城前より顔色は険しい。左腕には蟻型核獣に裂かれた傷があり、内核皮戦闘服には一筋の裂け目が入っていた。血がそこから滲み、灰土の上に落ちていく。


彼は処置しなかった。


痛くないわけではない。


ただ、まだ歩けるだけだ。


歩けるなら、まず歩く。


ミロはローンの隣を歩いていた。元素機銃は再び肩に掛けられ、銃身には焦げた蟲液と腐葉が付着している。腰の弾盒は二つ空になり、残る一つも半分を切っていた。


ローンは回収袋を背負っていた。


袋は大きくない。


だが重い。


中には欠けた劣獣核、破損した内核皮、金になる蟻脚の甲殻が数本、そしてあの女の手から取った元素銃が入っている。


その銃は一番底にあった。


ローンが一歩進むたび、それが背中にぶつかる。


一度。


また一度。


また一度。


音のない提醒のように。


ミロは何度かローンを見た。


けれど最後まで何も言わなかった。


腐林は背後で少しずつ遠ざかる。


歪んだ木影はゆっくり霧の中へ戻り、まるで再び口を閉じたようだった。だがローンには分かっている。あの中にはまだ穴がある。地下通路がある。彼らが見ていない蟻型核獣がいる。


最初から、一から三匹ではなかったのかもしれない。


任務票が間違っていたわけではなく、任務票を書いた者が何を見落としたのか知らなかっただけかもしれない。


あるいは全員が、蟻型の生物が数匹だけであるはずがないと知っていながら、それでも紙に書かれた安心しやすい数字を信じることを選んだのかもしれない。


一から三。


短い。


清潔だ。


清潔すぎる嘘だった。


目光城の外門へ戻ったとき、すでに空は暗くなり始めていた。


城壁の探照灯が彼らを照らす。


刺すような白い光が全員の顔を照らし、背後に伸びる影も照らした。


守衛は彼らの人数を見ても、表情を変えなかった。


ただ手を上げ、待機区に立つよう示した。


「汚染検査」


誰も文句を言わなかった。


生存者たちは一人ずつ検査通路へ入る。


浄化液が頭上から降り注ぐ。


氷水のように冷たい。


ローンは目を閉じた。


白霧が髪に、戦闘服に、手の甲に落ちる。


身体にこびりついた血、蟲液、泥は洗い流され、床の溝へ流れていった。


だが洗い落とせないものもある。


たとえば手のひらに残った感触。


たとえば、刃が死者の手首に入ったときに返ってきた抵抗。


たとえば、あの銃声。


砰。


ローンは目を開けた。


ミロは反対側に立ち、顔に付いた浄化液を手で拭っていた。


彼の顔色も良くはなかった。


「回収物を登録に出せ」


守衛が言った。


「怪我人は処置へ。歩ける者は自分で歩け。歩けない者は後ろに並べ」


それが目光城の面倒の見方だった。


少なくとも、彼らはまだ列に並ぶことを許されている。


先駆者建物の登録窓口は、朝よりずっと静かだった。


出城前に騒いでいた人々は消え、残っているのは数個の薄暗い灯りと、受付係がめくる紙の音だけだった。


ローンは回収袋を鉄の机の上に置いた。


袋口を開く。


欠けた劣獣核が転がり出る。


破損した内核皮。


蟻脚甲殻。


弾倉。


あの元素銃。


受付係は元素銃を手に取り、一目見た。


「銃身に亀裂。弾倉残弾二発。換算可能」


声に起伏はなかった。


まるで、この銃が死者の手から外されたものではなく、今日持ち帰られたただの物品の一つでしかないようだった。


ミロも自分の袋を机に空けた。


「破核三つ、内核皮片七枚、甲殻四本」受付係は記録しながら言った。「雅核花は?」


「燃えた」ミロが答える。


受付係は彼を見た。


「惜しいね」


ミロの口元が動いた。


笑おうとしたのかもしれない。


だが結局、笑わなかった。


受付係は報酬札を押し出した。


「明日の正午までに配給へ換えろ。過ぎたら補填はない」


ミロは報酬札を取り、一枚をローンに渡した。


ローンはそれを受け取った。


鉄札は軽かった。


今日死んだ人間の数と釣り合わないほど軽い。


彼はそれをポケットへしまった。


先駆者建物を出るころには、下層街の通りに灯りが点っていた。


市場はまだ完全には閉じていない。


熱いスープを売る者がいる。


破れた靴を修繕する者がいる。


何人かの子どもが潰れかけた球を追いかけ、街角を走っていく。笑い声が湿った夜風に散った。


朝と同じ音が戻っていた。


呼び声。


鉄車の音。


人々の声。


けれどローンには、それらが遠く感じられた。


厚い水の層を隔てているように。


分かれ道でミロが立ち止まった。


「明日、配給に換えに行くか?」


ローンは答えず、ただ頷いた。


ミロは彼を見ていた。


まだ何か言いたそうだった。


けれど最後に、ローンの肩を軽く叩いただけだった。


「寝ろよ。寝られるならな」


ローンは答えなかった。


ミロは背を向けて去っていった。


その背中はすぐに下層街の人波に飲まれる。


ローンはしばらくその場に立ち、ミロの姿が見えなくなってから、自分の住処へ向かった。


彼の部屋は下層街西側にある古い集合住宅の三階だった。


階段は狭く、壁の塗装は剥がれ、廊下にはずっと壊れたままの灯りが一つある。そこを通るたび、ローンは足を少し遅める。


今夜もそうだった。


扉の前まで来て、鍵を取り出す。


開ける。


入る。


閉める。


部屋は狭い。


寝台が一つ。


小さな床棚が一つ。


服と武器を入れる鉄棚が一つ。


隅には水桶が置かれていて、中の水はもう冷えていた。


ローンは背嚢を寝台のそばに置いた。


寝台の縁に座り、しばらく動かなかった。


外の音が少しずつ低くなってから、彼はようやく今日持ち帰ったものを一つずつ取り出した。


欠けた劣獣核。


破損した内核皮。


報酬鉄札。


あの元素銃。


火元素小刀。


氷元素小刀。


それらを床棚の上へ置いた。


多くはない。


豊作と呼べるほどでもない。


それでも下層街では、明日を少しだけ前へ進ませるには十分だった。


ローンは自分の手を見下ろした。


洗った後の手だった。


血はない。


泥もない。


腐葉もない。


それでも、手のひらには何かが残っているように感じた。


彼はゆっくり拳を握った。


拳は空中で止まる。


心臓に触れる寸前だった。


だが最後に、彼は手を下ろした。


ローンは寝台に仰向けに倒れ込んだ。


床板が古い軋みを上げる。


空はもう完全に暗い。


窓の外から下層街の灯りが古びたカーテンの隙間を抜け、床棚の戦利品に落ちていた。


割れた劣獣核が、暗赤色の微かな光を反射している。


消えかけた目のようだった。


ローンはそれを見た。


長いあいだ見ていた。


そして、ようやく息を吐いた。


「ふう……やっと一日が終わった」


部屋の中で答える者はいない。


答える必要もない。


ローンは目を閉じた。

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