第38話 消沈
日が落ち、瞬く間に夜の闇が広がった。意気消沈した様子で救助活動を続けていたトリーヌ達も、止む無く手を止めざるを得ない。
全員が心身を休めるために大樹の中に入ったが、沈んだ空気の中でしっかりと休息をとれる者はいないかもしれない。
カリオスもまた、大人しく休んでいることのできない内の一人だった。大樹の外でコロニーの残骸を眺めながら、誰かの助けを求める声が聞こえてはこないか、耳を凝らしている。
しかし、夜はとてもおとなしい。
縋るべき希望を見つけることもできないまま、大樹の中へと戻ろうとした時、背後から声を掛けられる。
「カリオスさん。ちょっといいですか?」
足早に駆けて来たミノーラがカリオスの傍らにスッと座ると、間髪入れずに話し始める。
「私、トリーヌさんたちに話さなくちゃいけないことがありまして……。出来れば、カリオスさんも一緒に来て欲しいんです。……たぶん、一人じゃ勇気が出ないので。」
そんなことを言うミノーラが、いつになく小さく見える。彼女がそれほどまでに緊張している様子に、彼は一種の親近感を覚えた。
カリオスも、トリーヌ達に話さなくてはならないことがあるのだから。だが、話すことが出来るだろうか。
あるいは、ミノーラと一緒なら……。
そう考えたカリオスは、ミノーラへ深く頷いて見せる。
「良かったです。」
それだけ言うと、ミノーラはそそくさと大樹へと向かって歩き始めた。おいて行かれないように、カリオスも足早に着いて行く。
大樹の中に入り、正面の広場で項垂れているトリーヌへと、一直線に歩みを進めた二人は、トリーヌの目の前で一度足を止めた。
項垂れているトリーヌは、未だに二人に気が付いていないようだ。
カリオスが何と声を掛けようか考え始めると同時に、ミノーラが声を掛けた。
「トリーヌさん。お話があります。こんな時に申し訳ないのですが、少し良いですか?」
「……手短に頼む。」
そう告げたトリーヌは、依然として顔を上げない。
その様子に一瞬だけ間を置いたミノーラは、一度小さな深呼吸をして話し始めた。
「まず、コロニーが切り離されたのは、影の女王の仕業でした。彼女は私たちの話を聞いて、コロニーの切り離しを決行したみたいです。ドグルさんのお陰で何とかやっつけることは出来ました。」
「……そうか、やはり聞かれていたのだな。」
「……それについてですが、その……私のせいなんです。」
突然歯切れの悪くなったミノーラの言葉に、その場の全員が動きを止める。そんな中、トリーヌだけが動きを見せた。
重く落としていた頭をゆっくりと持ち上げ、鋭い視線をミノーラへと向ける。
「……これ以上混乱させないでくれ。ただでさえ、今は……。衝動を止められないかもしれない。……誤解が無いように、詳細を話せ。」
怒る気力も残っていないはずのトリーヌが凄む。言葉だけを見れば、凄みなど感じない文言ではあるのだが、彼の放つ雰囲気が、彼の現在の心を現していた。
「はい。レイラが、私の毛皮に……毛皮の下に出来ている影の中に潜んでいたんです。私が一番に気が付くべきだったのに。言われるまで気づけませんでした。ごめんなさい。もっと早くに気が付いていれば……。できるだけのことはやります!私、影の女王を倒した時に、女王の力の一部を受け継いだみたいで、その力があれば埋まっている方の場所を……」
「止めてくれ!」
突然声を張り上げたトリーヌが、首を横に振りながら、絞り出すように言葉を続ける。
「……そんな力を、我らを前に出さないでくれ……。二人には悪いが、明日の朝、ここから出て行ってくれ。そして、二度と戻って来るな。」
それだけ告げたトリーヌは、それ以降一言も発する事は無かった。
カリオスはと言うと、トリーヌに言うべきことを言うことが出来ないまま、しょんぼりとしているミノーラを連れて再び大樹の外へと向かう。
正直、自分たちの居場所はない。周りから向けられる視線からそれを感じ取った彼は、大樹の外で腰を下ろし、隣に座るミノーラの背中を撫でる。
助けになると思っていたことが、余計に傷つけてしまう結果になったことを悔やんでいるのだろう。あからさまに落ち込んでいる。
「あの言い方は流石に酷かったですね。いえ、トリーヌの事ですよ?ミノーラは本当に勇気があると私は思いますけどね?」
そんなことを言いながら二人を見下ろしているバートンが、何やら一枚の紙片を差し出してきた。
訝しみながらも、それを受け取るカリオス。そこには「ボルン・テール」と言う文字が書かれていた。
「ボルン・テール?って、何ですか?」
紙片を覗き込んだミノーラがバートンに尋ねる。それに対し、バートンは簡潔に答える。
「お二人の次の目的地です。」




