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マナリウム ~私、狼だけど神様を目指しても良いでしょうか?~  作者: 内村一樹
第4章 狼と海の神

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第125話 果報

 ザムス達との険悪な空気は改善されることなく、その日の夜を迎えた。


 日が落ちるにつれて風も雨も強くなり、誰もが集会所に集まって、夜と嵐が過ぎ去ることを待っている。


 オルタとカリオスも、例外では無かった。


 集落の人々と会話をするような雰囲気では無く、昨晩を過ごした部屋に籠りきりだ。かといって、オルタはカリオスと仲良くお喋りできるとは到底思っていない。


 ミノーラとタシェルという女性陣が居たからこそ、間接的に、同じグループに所属する仲間として会話をしていた。


 そんな要である二人が抜けた今、オルタにとってカリオスは謎の男である。


「……な、なぁ。カリオス。」


 部屋に籠っているだけでも気分が滅入るのに、黙り込んだ沈黙まで籠って行くのは流石に耐えきれなかった。


 カリオスは、椅子に座って窓の外を眺めていたのを中断し、ベッドに腰かけているオルタに目を向ける。


「あー、えっと、その。前から気になってたんだけどよ。アンタ、なんで旅をしてるんだ?あ、いや、クロムとか、その辺の話は分かってるんだが、その、家族とかをほっぽりだしてまでするような旅なのかと思ってな。」


 尋ねた後になって、いきなり失礼な話題だったかもと気づいたオルタだったが、既に遅い。


 カリオスは質問の内容を吟味するように考えた後、メモを取り出して何やら書き始め、オルタに向けて投げつける。


 当然、飛距離など出るわけも無く、投げられたメモはカリオスの足元にひらひらと落下した。


 自然と視線がメモと共に床に落ちてゆき、微動だにしないことを確認した二人は目を合わせる。


 面倒くさいのか、カリオスはメモを拾うような素振りは見せない。仕方がないので、オルタは立ち上がり、落ちたメモを拾い上げた。


 そこには、意外と端正な文字で、こう書かれていた。


「『家族はいない。というか、今はいない。自由気ままな独り者だ。』……。そうか。故郷はどこなんだ?って、俺はボルン・テールくらいしか知らないから、言われても分かんねぇけどよ。」


 これ以上話を深く掘り下げるのはどうかとも思ったオルタだったが、沈黙に耐えるよりはマシだ。


 カリオスも面倒に思っている様子もないので、問題ないだろう。


 次は手渡しで受け取ったメモに目を落とす。


「『名前も無いような小さな村だ。本当に何も無い村だったよ。だからこそ、思い入れも無かったけどな。俺みたいな平凡な人間か、都会から流れてきた変人しかいなかった。近くにクラミウム鉱石の鉱脈があったから住んでただけだしな。仕事が出来なきゃ、食っていけないだろ?』……そうか、技鉱士?だったか?技鉱士って、何をする仕事なんだ?」


 カリオスのメモを待つ間、オルタは窓の外を伺う。暗やみに包まれた集落に、強烈な風と雨が降りかかり、鮮明に見えるものはあまりなかった。


 建物の影を幾つかの人影が通り過ぎたような気がしたのも、きっと気のせいなのだろう。


 差しだされたメモを手にする直前に見えた動く影に注意を払うことなく、読み始める。


「『技鉱士ってのは、俺の場合、生活の中の便利屋みたいなもんだ。基本は着火用の鉱石にエネルギーを蓄積したりすることが多い。暖炉に火を灯そうとして、家そのものが焼けるなんて嫌だろ?火力の調整とかは蓄積してるエネルギーの量で決まるからな。俺がその調整とかをやってたんだ。人によっては、全然違うことしてるけどな。』……そうなのか。」


 カリオスは自身の籠手を撫でながら、再び窓の外に視線を移す。そんな彼の様子を見ながら、オルタはメモを束ねると、ベッド脇の小さな棚の上に置く。


 別に必要なものでは無いが、今すぐに捨てるのもはばかられる。そんな結果の行動だ。


 なんとなく話を切り上げる雰囲気を感じていたオルタは、一つため息を吐いてベッドへと戻ろうとした時、カリオスが何かを書き始めた。


 何事かと待っていると、メモを渡される。


「『そういえば、お前はクロムとどういう知り合いなんだ?』……子供の頃の友人だ。」


 しばし深い沈黙が訪れる。


 オルタにとって、クロムは幼い時に何度か遊んだことのある友人だった。


 大人しくてあまり活発では無かったが、好奇心は旺盛で、いつも何かを調べていた気がする。オルタはその調べ物を手伝わされていたのだ。


 ボルン・テールの亀裂の下には何があるのか、坑道の奥で迷子になって救助されたときは、三人でこっぴどく叱られた。


 そんなことを思い出した彼は、こみあげてくる思いを抑えつけながら、独白する。


「……王都に行って、何があったんだよ。なんであんなことしたんだ。サチは知ってるのか?」


 言葉を吐くことで自身を落ち着かせようとしていたオルタは、突然の物音に気を取られる。


 椅子を跳ねのけて突然立ち上がったカリオスが、こちらを凝視している。


 背後に何かあるのかと確認してみたものの、何もない。視線は完全に自分に向けられているようだ。


「いきなりどうしたんだ?」


 そんなオルタを余所に、カリオスはメモを書き殴ったかと思うと、乱暴に渡してきた。


「『サチって誰だ?どんな女だ?』……誰って、クロムの妹だ。どんな女?とか言われてもなぁ、もう何年も前のサチしか知らないぞ?そうだな、良く笑う、明るい女の子だった。そうだ、クロムとは正反対だって、皆が言ってたのを覚えてるぞ。」


 要望通りに応えたオルタは、少しがっかりしている様子のカリオスをみて、何か憮然とする。なぜ、それほどまでにサチに反応するのか。


 そこまで考えて、オルタはようやく思い至った。


「もしかして、サチにあったのか?元気にしてたか?どんな感じだった?クロムのことについて、何か言ってなかったか?」


 矢継ぎ早に尋ねてみるが、カリオスは首を横に振ると、短く書かれた返事を見せてくる。


「『多分別人だ。』」


 オルタの伝えた特徴が、カリオスの知っているそれとあまりにも違ったのだろうか。


 不意に見えた光明が一気に立ち消えた気分に陥ったオルタは、「そうか」と一つ呟くと、ベッドに腰を下ろし、横たわる。


 オルタの身長に対して小さすぎるベッドのため、頭は枕に乗っているが、足の裏は床に着いている。


 そんな状態で瞼を閉じた彼は、カリオスに聞こえるように声を出した。


「悪い、先に寝る。」


 カリオスが何か返事をしたのか分からない。迫りくる眠気の中で、昔のことを夢に見ながら、彼は眠りに落ちていった。

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