試合
「えっ・・・と・・・頑張ったね。」
目の前で床に俯向けで倒れている天峰君にそう声をかける。
彼は顔だけ、私の方に向け・・・
「・・・疲れた、慰めて。」
「・・・よしよし。」
「翆、頭なんぞ撫でなくていいぞ。
毎回こんなのやってるから流石のこいつも体力だけはついてるはずだ。」
「・・・変わるか、康?」
野太い声が聞こえてくる。
天峰君の目はマジだった。
表情もマジだった。
多分熊が獲物を狙うときと同じだ。
情けない姿なのに、巨大な図体のように錯覚させられた。
康は何も言えなくなり、そそくさと退散した。
「・・・・キツイのによく続けるね。
やめたりしないの?」
「・・・家の財力は親父の金なんだよ?
俺が逆らえるわけ無いじゃん。」
疲れているからか本音を包み隠さず彼は喋ってる。
口調が柔らかくなっているのが証拠だろう。
休憩でこの会話を聞いてるのは私と天峰君だけなのが彼にとっての救いだろう。
「大和さんはそんな事気にしないと思うんだけど。」
「気にしないと思わないは別だよ。
・・・もうこの道場に入った時に俺は逆らえないのさ。」
「・・・。」
多分これが彼の本心だ。
表面では笑っていたり、怒っていたりと反応は激しいのに・・・心奥底は寂しがりやで臆病。
「・・・でも俺も人間だから・・・辛いことからは逃げたくなる。」
床に手を付き、起き上がろうとする。
彼は疲れたような顔をして・・・
「バレないようにサボることぐらいはしてくるよ。」
私に微笑んだ。
太鼓の音がなる。
休憩の終わりの合図。
彼はフラフラになりながらも、子供達が整列している列へと戻っていく。
その姿を確認した大和さんが皆の前にたち、大声を上げる。
「えー、今日はみんなに試合をしてもらいます。」
バタリ・・・
「「「「「あ、倒れた。」」」」」
天峰君が直立の棒のように床に倒れた。
しかしすぐさま起き上がり抗議の異を唱える。
「ふざけるなっ!なんで試合なんだよっ!」
「順番まで休めるからいいだろ?」
「もっとざけんなっ!相手どうせ6年生だろっ!」
「一応実力はお前が上なんだから宜しく。」
「体力っ!もともとの身体能力っ!それを考慮しろっ!」
「さ、みんな、ホワイトボードに詳細書いてるから見て。」
「・・・もういいっ!俺は寝るっ!」
あぐらをかきふて寝した天峰君。
・・・もう、慣れっこなのか周りの人たちは気にしない。
その光景に私と親御さんは苦笑するしかなかった。
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「へぇ〜、皆勢いありますね。」
私は子どもたちの試合を見てそう感想を出した。
「お?お前でもどんなかぐらいはわかるのか?」
「喧嘩売ってんの?康くん?
そういう煽りは私に勝てるようになってから言おうね。」
「うぐ・・・っ!?」
イケメンを何も言えなくするのって気持ちいいよね。
チャンスがあればもっといじめてやろう。
「でも本当にみんな元気だね。
踏み込みの音はすごく鈍いし、ジャンプする勢いで前に出るし、竹刀は大振りだけど力強い。」
「あー・・・それは天峰の剣のマネだ。
さっきの大和先生に向かっていく剣を真似してんだよ。」
「・・・似ても似つかないけど?」
「あの丸腰はどう?」
「あぁ、納得。」
私達が感想を言い合っている最中、天峰君は面をつけたままコクリコクリと船を漕いでいた。
・・・本当に数秒で寝たな。
「おっ!綺麗な胴が決まったっ!」
「丁度2本目で赤の勝ちだな。
次は・・・。」
子供達が蹲踞をして、竹刀を懐に収める。
そして康はホワイトボードで次の試合を確認する。
「天峰と高雄だ。」
「あれ?年下相手にさせるの?」
「安心しろ、あいつは年下に甘々だから。」
「また手を抜くのか。」
優しいというか、面倒くさがりというか。
ま、さっきまでの練習見たら休ませてあげたくなるけどさ。
「て、本当に大和さんは息子に厳しいね。」
「いや、あいつが少しでも真面目だったらあんなことしないだろ。」
(やる気がないことを真面目にやれってのが無理あるけど・・・ま、これは本人が言うことだし言わないとこ。)
私が甘やかせば天峰君がもっと私を欲してくれるかな?
そう思えばもっとやってほしいまである。
「何ニヤニヤしてんの?気持ち悪い。」
おっと顔に出ていた。
「あ、分かったっ!スマンっ!謝るから顔を握りつぶそうとするなっ!しないでくれっ!」
わぁおっ!無意識って怖いね。
手が勝手に動いたんだ。許してね。
悪意はないよ?
「で、いつ始まるの?試合?」
「いたた・・・うん?始まらないのか?」
私達は天峰君の方を向いてみる。
そしたら小学生に叩き起こさせる彼の姿があった。
「・・・始まるね。」
「・・・偉いぞ、翆。ああ言うのはあいつの為に見てみぬふりをするのが一番だ。
スルースキル・・・上がったな。」
情けない彼氏ってギャップがあると思えば可愛いと思えるんだよ?
別にかっこ悪いから失望したとかではないからね?
それにそう・・・私が鍛えるって決めたからさ。
本当に・・・蔑みの視線を送るだけで特に思うことはないよ。
天峰君と、背の小さい少年はお互いに礼をする。
そして、3歩出て竹刀を構え蹲踞し・・・
「始めっ!!」
年下の少年が飛び込んだ。
竹刀を大きく振りかぶり天峰君の脳天めがけて、振り下ろす。
油断していたなら反応できない速度。(私は余裕)
「はぁ〜。」
流石は天峰君。
ため息を付きながら体をずらし避けた。
避け方がもうプロ。
私と大和さんの訓練の賜物だな。
「やぁァァァァァァっ!!」
「・・・。」
少年がもっとスピードを上げ、たくさん打つが、それをすべて天峰くんは受け流す。
「こう、試合になってわかるけど、天峰くんってそれなりに強いね。」
「ま、あんな鍛え方して強くならないのは逆におかしい。」
「ま、それもそっか。」
天峰くんは怠そうに試合をする。
端から見たらやる気がないのが丸わかり。
「・・・少年は悔しいだろうなぁ〜。」
「・・・俺も否定はできないな。
あんな無様な姿見せといて、いざ相手になれば軽くあしらって来るんだから。」
「康は本気でやった天峰くんに勝てる?」
「・・・勝ったぞ?」
「この前の試合のこと言ってるんだったら私は言うぞ。
お前はそれで満足か?」
「・・・妹なんだから兄には優しくしろ。」
「そんな兄貴でいいのか?」
「・・・。」
よし、涙目になった。
これで許してやろう。別になにかされたんけでもないけど。
「やめっ!」
私が安の反応に満足していると、審判の時間終了の合図が鳴り響く。
少年と天峰くんは一定の距離を保ち互いに竹刀を構え直す。
審判がそれを確認し・・・
「延長戦、始めっ!」
また適当にあしらうお兄さんと、バカ真面目に勝ちに行く少年。
多分天峰くんはまた時間だけ稼いで引き分けに持ち込むだろう。
勝たないってのが天峰君らしい。
「おいおい、天峰先輩は年下に勝てねぇ〜のかよ。」
私がはははと笑っていると誰かの声が道場内に響く。
それと同時に、天峰くんの体がピクリと反応した。
他の子たちもそれに気づき、ニヤッと笑う。
「「「せ〜んぱいのっ!かっこいい姿っ!みってみったい♪」」」
「・・・。」
「こら、お前たち。こんなことは天峰先輩だから許されることなんだぞ。
他の人は駄目だからな。」
「・・・。」
康もついに煽り始めた。
天峰くんはピクリピクリと体を反応させる。
試合じゃなかったら文句を言ったことだろう。
というより、彼を知っている私だからわかるが、あれは相当怒りが溜まってる。
向き合ってる少年しか彼の表情をわからないが、少年は彼が怖いのか後ずさっている。
だが少年も負けていない。
少しでも勝とうと前に進んでいる。
「・・・っ!」
天峰君が煽りに乗せられ、打とうとやっと前に出た。
足を前に出し、腰から前に出ようとする。
そして・・・
「「「「「あ。」」」」」
「ニュぐぅッっ!!?!!?!?!!?!!?!」
同じように疲れたせいで竹刀を下から上へ振り上げる少年。
同時に前に出てしまったため、少年の竹刀が天峰君の金的へと招かれた。
天峰くんはその場で内股になり、床に倒れる。
「「「アハハハハハハハハハハハハハハハっ!!」」」
爆笑が道場内に響き渡る。
子供たちはもちろん親御さんも爆笑していた。
「・・・ま、マジ・・・?
・・・ふ、不憫すぎるでしょ・・・っ!」
彼は非常にかっこ悪い。
少しでもカッコつけようとしたら、それは恥として自分に返ってくる。
それが続いたからか、反応も人一倍面白い。
道場にいる人は負けた子にアドバイスをしていた大和さんを除いて誰もが笑っていた。
審判ですら笑ってたし。
「や、やめっ!」
主審は笑いをこらえながら止めの合図をかける。
少年は申し訳なさそうに戻り、天峰くんは内股でプルプルしながら定位置に戻る。
「は、始めっ!」
そして再度始まる。
天峰君にはもう挑もうとかそんな気概は存在しなかった。
逆に年下の男の子に恐怖を感じて、避けるのとだけに集中していた。
そのせいで一分なんの変化もなく、過ぎ去る。
天峰くんは終わると同時に、大和さんの元へと早歩きでいき、事情を説明。
「・・・休んで・・・いいぞ。」
流石の涙目の訴えでは大和さんも拒否することはできなかった。
彼は光の速さで防具を脱ぎ去り、休憩所となる私の畳のところへと来た。
体育座りをする彼の目には光はと持っていなかった。
「・・・えぇっと、お疲れ?」
「その一言で済まされるなら俺の苦労は報われるべき。」
もう返しすらネガティブ発言になっている。
「なんか君の図太さの理由がわかった気がするよ。」
「良ければ経験します?お望みどおり図太さが手に入りますよ?
黒歴史とトラウマが代償としてきますけど。」
「私には無理だぁ〜。」
「そうですかぁ〜。」
彼の顔は笑ってはいなかった。
「・・・平和って・・・なんでしょうね。」
彼の独り言は誰にも届かなかった。




