天峰の策略
最後の6年生同士の試合。
私達より高い身長で行われる攻防は迫力があった。
しかし実力が均衡していたのか延長線をしながらも引き分けで終わった。
そして、その瞬間・・・
「ヒィやっフォぉぉぉぉぉぉぉぉっ♪♪♪!!!」
隣りの天峰くんの体力は全回復した。
某人気ゲームのマ○オのようにジャンプする。
道場内にいる人全員『良かったね。』と思い、優しく見つめたのは言うまでもない。
ルンルンと鼻歌を歌う天峰くんは号令をかけ、みんなを整列させる。
声のトーンが上がっていることが丸わかり。
「ささっ♪お前らも早く防具取れよ♪」
手伝いなんて言われないとしなさそうなのに年下の子達の防具の脱衣を手伝い始める。
そこまでして帰りたいか。
またも全員の思いが統一されたが、これこれで害はないので放置。
それからはトントン拍子で進んだ。
稽古の終わりを示す先生への礼。
先生からの今日一日のアドバイス。
(大和先生は視野が広いのか、天峰君にあれだけ集中していても他の子たちのいいとこも悪いところもちゃんと見ていた。)
保護者への礼。
そして稽古が終わった現在・・・
「・・・早い・・・。」
天峰くんは今まで見せたことないスピードで残りの防具を外している。
その手さばきはまるでうなぎを捌くようなプロの動き。
防具袋にしまう速度も群を抜いている。
「せんぱ〜い!!試合しましょぉ〜〜〜!」
すべての防具をしまった時に、子供達が天峰君の元へとくる。
「はっ!?嫌だよ!」
「やりましょぉ〜よぉ〜!!」
「ひ、引っ張るのやめろっ!道着が崩れるだろ!
てか、そんなにやりたいなら俺の父さんに言えよ!」
「いやいや、先輩と戦いたいんですぅ〜!」
「・・・断るっ!俺はつかれたから絶対にしないっ!」
本気の嫌な顔をする天峰君。
子供たちは不満なのかぶぅ〜と頬を膨らました。
「いいじゃないですかぁ〜っ!」
「「「やろう、やろうっ!」」」
手足を引っぱられ始めた。
本当に天峰くんは信頼されているらしい。
ここまで子どもたちに引っ張りだこになる人は私でも見たことがない。
少し羨ましいな。
「別にこのあと暇なんだからいいじゃんっ!」
誰かの声に天峰君がピタリと止まる。
その時・・・くだらないことを思いついたかのような黒い笑みをした。
「ほぉ〜、お前らは俺に用事があれば諦めるんだな?」
「「「自分を陰キャぼっちと言ってる人に用事があるのっ!?」」」
「毎回思ってたがお前ら俺に敬意持ってないよな?」
天峰くんは私を見た。
それに合わせて、子どもたちも私を見る。
「・・・俺はこの後、紳士として、ここに呼んだ張本人として、あの人を家まで送り届けなければならないんだっ!」
こいつ、逃げたいがために私を使いやがった。
子供達が一斉に私の方まで駆け寄る。
「「「いらないって言ってっ!」」」
「・・・俺はお前らに労いという言葉を知ってほしいよ、本当に。」
子どもたちの一斉の抗議に天峰くんはやつれた顔をする。
「あー、ごめんね皆。予め天峰君とそう約束していたから取り消せないんだ。」
私は笑いながら頭を撫でてそう告げる。
予想通り・・・
「「「「え〜〜!」」」」
不満の声が上がった。
後ろでガッツっ!と拳を握り喜ぶ天峰くんとは真逆の表情だ。
「今日は諦めるんだなっ!愚民共っ!!」
嬉しさのあまり煽り始めた。
「「「「ぐぬぬぬぬっ!」」」」
「アーハッハッハッハッハッハッ!」
傍から見たら高笑いするその姿は悪役そのものである。
「君たち、今日は私がいるから出来ないけど、今度からはこんな理由もなくなる。
居残り練習し放題だよ?」
「はっ?」
それもそうだと騒ぐ子どもたちを尻目に、天峰くんはすっとんきょな声を上げて目を真ん丸にした。
「それに紳士である優しい男子こと天峰くんは次はちゃんと全員相手してくれるってさ。」
「「「「マジっすかっ先輩っ!」」」」
天峰くんの目は「何言ってくれてんのこの人。」と訴えていた。
『助けて』と『余計なことするな』と言う気持ちが混じり合い複雑な表情に。
・・・純粋に顔が面白い。
「ね、やってあげるんだよね?あ・ま・ね・君♪」
私がニッコリと笑顔を向けると・・・
「あ、ハイ。」
私と子どもたちの圧力により、彼の次の稽古が一段と厳しくなるのが決定した。
子供達が拳を突き上げ喜ぶ。
彼は放心状態となり、微動だにしなかった。
「じゃ、天峰君、帰ろっか?」
「・・・はい。」
目に光が灯ってはいなかった。
私は道場内を見渡し・・・
「あ、康!あんたも帰る?」
大和先生と話している康に呼びかける。
「俺はいい!もう少しやってから帰るから先帰っとけ!」
「了解っ!じゃ、先帰っとくわ!」
私は天峰君の竹刀袋を持ち上げ、背を押し道場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・なんであんなこと言ったんだよぉぉぉ!」
「まぁまぁ、そんな怒んないの。」
夜道の商店街を歩いていると復活した天峰くんが詰めよってきた。
「見てたでしょ!アイツらのあの元気さと俺の苦労の根源をっ!」
怒ったような表情だがこういうときの天峰くんは全然怖くない。
私からしたらペットが怒るのと同じぐらいだ。
「あれぐらいもう慣れっこだからいいでしょう?
大和さんなら今日のなんて飴ちゃんぐらいの厳しさだろうし。」
「いやまぁ、今日は翆さんいたし楽な方だったけどさ・・・!
それでもきついことには変わりないんだよっ!」
「私の訓練の方はどうなの?」
「・・・全身の筋トレと技術の向上は全く別物であり、お互いのキツさがあります。
私といたしましては貴方様のほうがスペシャルキツイので手加減してくださいお願いします。」
おー、華麗なる頭下げだね。
でもそっか。
あれだけやっても稽古やってても、私の筋トレ法だけで疲れてしまうのか・・・。
「ならあの稽古を楽にしのげるようになりなさい。
そしたら私の稽古は幾分楽にしてあげる。」
「え?マジ?」
「元々訓練の目的は肉体美と体力作りと健康のためだから。」
「やります!頑張ります!やらせてください!頑張らせてください!」
食いつきいいな。
ハイハイ!と手を上げ迫ってくる天峰くん。
・・・餌を取り出したら一目散にかけてくる犬のようだ。
私の彼氏のあまりの面倒くさがり度にため息をつく。
「・・・しっかし、大和さんは天峰くんの父親なのに性格大違いだったよね。」
「お?それは俺に対する煽りだな?」
「だってそうでしょ?
気遣い出来るし、話しやすいし、格好いいし、強い。
それに比べて・・・。」
「あのさ、一応俺は貴女の彼氏ですよね?
優しくしてくれません?そろそろ泣きますよ?」
君はこう真顔で返してくるから楽しいんだよなぁ〜。
その後は必ず・・・
「あのね!一つ言っとくけど!
俺と父さんでは生きてる年数が、ケタが違うから!
それに俺だって気遣いぐらいは出来るし!
ただ周りの俺に対する当たりが強いだけだしッ!」
必死になって否定してくる。
そう、天峰くんは最初真顔になって心の傷を伝えた後、必ずその後にオーバーリアクションになる。
反応と真顔からの表情の差。
そして落ち着いた感じの雰囲気を持ちながらも、跡から見せる接しやすさを見せるギャップ。
どれも面白くて彼といると飽きないなぁ〜。
「でも初対面の人とは話せないよね。」
「・・・は、恥ずかしいもん。」
「挨拶で噛むのはなくす努力はしようね。」
「・・・はい。」
そして本当のことを言ったら俯いた悲しさを滲み出す彼の分かりやすさよ。
扱いやすいね。
「・・・ま、まぁ!俺としては!社会人になるまでにコミ力をつければいいだけですし!
まだ時間はありますし!」
「そう言い訳してる時点で多分今後もそんなにコミ力は上がないのが目に見えてるね。」
「そこ!確定した未来を言うな!
励まして!頑張れって応援して!」
「上がらないって分かっちゃってるし。」
今度二人っきりで旅行ってみよう。
そして彼のコミ症の危険性を叩き込んでやる。
「・・・ハァ~、どうやったら猫被れるようになるんだろうな〜。」
「ん?猫被る?」
彼の突然の言葉に疑問を持つ。
「ん?あぁ、そっか、翆さんは知らないんだっけ。
・・・言っとくけど父さんのあの性格は猫被ってるだけだから。」
「え?マジ?」
あんな息子想いの父親が?
「マジマジ。
家だといつも布団の中にいて映画見るかパソコンいじって仕事するかの二択。
基本は放任主義で、俺達のやることなすことに自分が迷惑を被らなければ一切口を出さない。
だから一日のうちに聞く父さんの声は基本イビキだけ。
唯一同じなのが頼めば渋ながらもやってくれるところかな。」
・・・似てる・・・天峰くんにチョー似てる。
「指示を出さなければ何もせず一日を終える所。」
「ん?どうしたの?」
私の脈絡のない言葉に彼は疑問を持つ。・・・が無視。
「学校にいても、いつもは椅子に座って何をするでもなく、誰かを遊びに誘うわけでもなくただ知り合いが遊びに来ることを待つ所。」
「あれ?お〜い、聞こえてる?」
なんだろう、思いつくことを上げれば上げるだけ、神無月家の親子の似てる所がどんどん出てくる。
「そして頼まれたら基本余裕がある場合断れない性格。」
「俺のこと言ってる?」
・・・・そうだな、大和さんと天峰くんは・・・
「・・・親子やねぇ〜。」
「あ、そのにこやか顔めっちゃムカツク。」
天峰君は怒ったのか早歩きになる。
「確かに将来、何を言ったって結局あの人みたいに体重も増えてデブになって、そのうち老眼にもなって、ただ生産性のない怠惰な日々を送るでしょうね!
もしかしたらブサイクな俺はもっとくだらない人生となるんだろかもなっ!」
「何言ってんの、私の彼氏である限り、君がそんな人生送るわけ無いじゃん。
もっとカッコよく、そして私を支えられる男に育てるよ。」
「・・・喜んでいいのかわからない。」
喜べよ。私とともにいられるんだよ?
目を細めてそんなことを言ってくる天峰君に肘を入れといた。
「痛っ!ちょ、暴力はいけないでしょ!
あ、わ、わかった!嬉しいです!超ハッピー!
アイウォントユーーーーーーー!」
私が拳を振り上げると、私にとって嬉しい言葉を言ってくれた。
いや〜、私は愛されてるね。
満足して止めた足を進めると・・・
「ひ、ひぇ〜、幽霊とかよりバリ怖いわ。」ボソッ
「うん?なにか言ったかな?」
「もぅ、超可愛い!超美人!優しいし運動神経もいいし頭もいい!
非の打ち所がないよね!
そんな子に愛されている俺は幸せものだぜ!」
「そっかそっか、そんなに私を見てくれているのかぁ〜。
・・・次は・・・ないからね♪」
後ろに突き飛ばし、壁ドンならぬ腕ドンをする。
私のほうが身長が高いのと、顔面スペックが上により、天峰君は一瞬で顔を朱に染めた。
「・・・ハイ///。」
騒いでいた口はその一言を発っするだけだった。
テクテクと私の後をついてくる姿はさながら小動物。
天峰君をからかうのは楽しいなぁ〜。
「・・・俺って・・・弱い。」
商店街を抜けて夜空の星が煌めく中、彼は右手で口元を隠し、そう溢した。
「弱いのは変わらないとして、女の子に対しては免疫ないよね。」
「・・・免疫っていうか怖いっていうか・・・。」
「怖いの?なんで?」
「自分の行いを振り返れば分かりますよ。」
ん〜・・・興味持ったから数時間追いかけ回す。
体力づくりのために反吐が出るまで走り続けさせた。
その後も理由をつけては恥をかかせて、楽しむ。
時に煽り挑発に乗ったところを返り討ちに。
「あ、私だ。」
「理解できるほどには成長できたんでしたんですね。
・・・嬉しいよ。願わくばそれが少なくなることを願ってます。」
「・・・無くならなくていいの?」
私は彼の言葉の穴をつく。
彼はハッっと選択した言葉に後悔した。
しかしもう取り消せない。
彼はもっと顔を赤くして・・・
「・・・無くなったら・・・それそれで寂しい。」
そんな可愛らしいことを言ってくれた。
「うん。満足っ!」
「・・・・もうこれ以上上下関係叩き込まないで///。
そろそろ俺が恥ずか死ぬ///。」
了解、了解。と笑いながら答える。
街頭の少ない通りを歩く。
夜空の満月が道行く先を照らしている。
私達の会話は、話す内容がなくなったのか無に消える。
しかし気まずさは全くない。
むしろ吹き抜ける風も相まって心地が良い。
私の足取りはいつもより軽くなっていた。
「ねぇ・・・翆さん。」
突然、彼が後ろから私を呼ぶ。
後ろを向けば、私の惹かれた彼の包み込むような笑みをしていた。
「少しは笑えた?」
「稽古のこと?うん。爆笑したよ。」
「・・・そっか。それは良かった。
・・・連れてきたかいがあったってもんだよ。」
彼は笑いながら歩みを進める。
私を越した。
「ん?何?どうしたの、いきなり?」
「いんやぁ〜、なんでもぉ〜。」
「むぅ〜、気になるなぁ〜。」
彼の笑みの理由。
私はそれをわからなかったが、心の軽い今だからあまり気にはしなかった。
ただひたすらに彼との雑談を楽しんだ。
私達の笑い声は静かな私の夜に明かりをともしていた。
帰宅後・・・
私は自室の椅子に腰をかける。
そしていつも通り手にペンを持ち、楽譜へと走らせる。
いつも通り、思いつく音を一つづつ書き記していく。
そしてタンスから電子ピアノを取り出しヘッドフォンを繋げ確かめる。
いつも通りに、いつも通りに。
沢山の悔しさを糧に書き記していく。
自分の処女作の評価を思い出し、その悔しさも糧とする。
「・・・ふふふ・・・酷い音。」
その音を聞き、自然と笑みがこぼれた。
本当にひどい作品。
あまりにも単調で、不協和音もありダメダメな作品。
出だしがこれとはこの先が思いやられる。
「上手くなるまであと何年かかるかなぁ〜。」
私には知識がある。
たくさんの音を覚えた。
多くの楽器の引き方、指の扱いといい、コツといい多分人一倍知識はあると思う。
だからどんな楽器も、ギターもエレキもピアノもドラムも木琴も引くだけなら、自慢ではないがプロにも引けは取らないと思う。
それに体力もつけてきた。
ある程度なら徹夜も苦ではないし、やわな肉体ではないから苦行もある程度はこなせる。
そんな私に足りないもの。
それは・・・経験だ。
熟練度だ。
曲を作るのにあたって引けるだけでは意味がない。
想像力、様々な音をつなげる応用力。
私が得てきたものでは足らないものばかりだ。
また私には得るものが、得るべきものが、得なければならないもの増えた。
いつになるか。
手にするのはいつになるのやら。
「結局・・・全部が全部予想通りってのは・・・あり得ないんだ。」
正直、音楽の練習をしていたらそれらは手に入ると思っていた。
軽視していたのは否定できない。
だが使うのと生み出すのとでは1と10の差があるらしい。
やらなければ出来ないものではあるが、やれば思い通りに行くものではなかったのだ。
「・・・難しいもんだね。
私が深読みなだけかもだけど・・・手にするべきものが多すぎる。」
さすがは芸術。予想通り一筋縄では行かない。
やはり本当に人生とは複雑なものだ。
目指した目標が明確になればなるほど生きにくく茨の道となる。
「本当・・・面倒くさい。」
一人の人生分、余分な経験と知識がありながらもこうも生きづらかった。
もしかしたらと・・・思い通りに行く未来を望んでいたのに・・・。
「・・・あれ?・・・笑えてる。」
ふと、机の上にある鏡が目につく。
そこに写ってるのは・・・少し笑っている私がいた。
そして思い出す。
『少しは笑えた?』
天峰くんの言葉が頭に響いた。
その時、理解する。
「・・・はぁ〜、優しすぎでしょ。」
彼がなぜ私を稽古の見学に誘ったのか。
なぜこのタイミングなのか。
そして数時間前のあのセリフ。
彼は私が切羽詰まっていることを分かって、少しでも精神的負担を取り除こうと、必ず笑える場所へと誘った。
身を犠牲にして。
私なら恥ずかしくて、あんなのがあるとわかってるなら見せることなんてしないしね。
彼が私を元気づける為に体を張ったことに私は嬉しくなった。
「そうだね。夢ってのは笑えてないと意味ないもんね。」
私は彼からのメッセージを素直に受け取る。
別段、これを受け取って私のやり方が変わるわけじゃない。
評価で傷つく現実も多分この先変化はしない。
けど・・・
「私の心意気は・・・変わったよ。」
まだまだ翆の上達への話は続きます(他の話も交えて)。




