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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
33/41

天峰の剣道

「整列っ!」


「「「「「はいっ!」」」」」


子供達がボールで遊んで約30分が経った頃、天峰君が急に声を張り上げた。

それに子供達は誰一人、文句を言わず元気に従い、一列に並ぶ。


先生たちも号令に反応し、規定の位置に立つ。


全員が並ぶのに10秒も掛からなかった。


「気をつけっ!礼!」

「「「「「おはようございますっ!」」」」」


夕方なのにおはようございますとはこれいかに、とツッコむのは野暮かな。

多分これが始まりの挨拶なんだろう。


「はい、おはよう。えーっと、今日は・・・」


子供達が元気要挨拶をすると、大和さんが今日の予定を話す。


私のこれまで見た感想を言おう。

統率が取れてる。

これに関しては天峰君の偶然の運命の結果なのだろうが、従えさせてること自体が凄い。


私の天峰くんに対する評価が上がる。


「・・・いつも言っていることですが、気分が悪くなったならすぐに言って休んでください。

それでは今日も頑張りましょうっ!」

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

「天峰、宜しく。」

「竹刀を持って摺り足の隊形に整列ッ!」

「「「「「「はいっ!」」」」」」


子供達はみんな楽しそうに動く。

皆笑顔だ。


・・・ふむ、統率も取れて、皆楽しんでいる。

ここの剣道場の生徒はそれなりに実力は持っていると予想できるな。


「・・・そう言えば・・・天峰君の実力ってどのくらいなんですか?」


道場の入り口で子供達が練習するのを見守る大和さんに尋ねてみる。


「康君のことはいいのかい?」

「まぁ、康は賞状とか持って帰ってきているのでどれくらい強いのかはしれますから。」


前に仏頂面で当たり前だと言わんばかりに賞状を持ち帰ってきたことがある。

そのときに道場はどうかと聞いたのだが教えてはくれなかった。


「そっか・・・ん〜、天峰の強さかぁ〜。」


唸りながら考える大和さん。

その様子からしてもしかして弱い・・・とか?


「・・・まさか・・・弱いとかないですよね?」

「いや、それはないね。

これでも私が昔から直々に鍛えているからそれなりのところまで行ける実力はあるはずだよ。」


ならなんで・・・


「そうそれなりの強さは持ってるはずなんだけどねぇ〜。

・・・息子は結果を必要以上に残さないんだよ。」


大和さんは1つの賞状と一つの写真を持ってくる。

その写真には・・・


(ハァァァァ///!!?!?!可愛イイぃぃぃぃ!!)


眠そうな目をしている多分小学二年生ぐらいの天峰くんが写ってた。

非常に愛らしい。

抱き枕にして一緒に寝たいまである。


「この賞状は数年前のある個人戦の賞状。

天峰の結果は2位。・・・そして康くんの結果は1位。」

「あれ?康のほうが上?」

「そうなんだよ。

康くんは初めて数年でこれだけ強くなった。

これは素直に褒めるべきところだし、彼には才能もある。」


ま、私ほどじゃないけど才能マンだからね、康は。

大学や社会では通用しないだろうけど子供の世界じゃそれなりに通用するらしい。


「これは妹さんの前で言っちゃあだめだと思うんだが・・・。」

「あぁ、別にいいですよ、私は正確な情報がほしいので。」 

「ハハハ・・・お兄さんなのに辛辣だね。

ま、そんな康くんだけど・・・流石に天峰ほど強くはないんだよ。

この時は正直に言うと天峰の方が何倍も強かった。」

「まぁ、練習し始めた時期も、その期間の質の濃さも、経験も何から何まで康のほうが劣ってますからね。」


初心者が、初めて数年の奴が、経験者に勝てるなんて普通はありえない。

勝てる状況といえば、経験者のくせに油断していたか、その初心者の肉体が出来上がっている場合だけだ。

他にもあるとするならば身体能力の一部がずば抜けているぐらいだろう。


しかし私の見た限りそこまでの身体能力に天峰君と康に差はない。

なら天峰君の方が強いというのは納得も理解もできる。


「でもなんでこの時に天峰が負けたかだけと・・・。」


あー、もうなんか予想できる。


「もしかして手を抜いたんですか?」

「そう!その通り!」


大和さんは拳を握りしめてワナワナと悔しそうに嘆く。


「憎たらしいことに、手を抜いたとわからないように康くんの実力に合わせて体を動かしたんだよ、バカ息子は。

延長戦に入って、30秒たったところで相面を装って審判に分かりやすいように打たれてさ。」

「大和さんは気づいたんですね。」

「同年代の子は騙せても私達大人の目は騙せんさ。

それにこれでもあの子の親だしね。

・・・サボってることぐらいはわかる。

あんなふざけた面、ちゃんと教えてきた中でどうやったら手に入れられるのか逆に聞きたいぐらいだよ。」


あぁ、父親として情けない、とぼやく大和さん。

いえ、大和さん。あなたは情けなくない。

ただ天峰君が予想以上にひねくれてるだけなんです。


「もしかしてその時からそうなんですか?」


私は写真を指さしてそう言う。

大和さんは苦しそうに頷いた。


「始めた頃は楽しそうに剣道をしていたんだけどね。

小学生に上がる頃には、どこかで見透かしたような生意気さを手に入れてしまったから。

この時なんて調子に乗って昨夜徹夜してこれ。

終いには自分の番になるまで練習もせず寝ることに時間を費やす。

終わった後なんて車でまた寝だす始末。

・・・呆れてものも言えなかった。」


お義父さん、本当に・・・お疲れ様です。

私もコルからの教育はビシバシ行くので安心してください。


「・・・はぁ、昔の無邪気に勝利を喜ぶ息子はどこに行ったのかな。」


悲しそうに嘆く大和さん。

この台詞を天音くんが聞けば『好きな様にさせろよ。』と文句を言うに違いない。


「・・・でもそれでよくキャプテンを任せましたね。

普通は6年生がするものなんですよね?」

「あぁ、それは・・・」


私の質問に大和さんは答えようとする。

しかしそれと同時に響いた声によりそれは遮られる。


「面を持って整列ッ!」

「「「「「「はいっ!」」」」」


子供達が練習を終えていた。

次は防具をつけての練習に入るらしい。


気づけば先生たちも特定の位置に座って防具をつけていた。


「そろそろ始まる。あ、翆さん。

さっきの質問なんだが・・・理由としては・・・」




大和さんはいい笑顔で言った。






「根性を叩き直すため・・・かな。」


天峰くんの悪寒を感じたことによるクシャミがタイミング良く、道場内に響いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ほら!もっと来いっ!」

「ふざけんなぁぁぁーーーーっ!!」


道場内にバシンッ!バシンっ!ドンドンドンっ!と踏み込みの音、竹刀のぶつかる音が響く。

普通なら『迫力あるなぁ〜!』と、誰もが思っていただろう。

そう、思えたはずなんだ・・・。


「どうしたっ!床に百円玉でも落ちてたかっ!」

「っざけんなぁ!少しは息子を労れやこの野郎っ!」


目の前の圧倒的な上下関係による理不尽の仕打ちさえ見なければ。

今は面と言う防具をつけての練習中。

子どもたちが先生たちに打ち込みに行っている。

2分終われば次の先生へと・・・それが練習内容だった。

だが天峰君には・・・


「そんな大ぶり当たるかっ!もっと腰に力入れろっ!」

「クボはっ!?お、おいっ!誰か俺の後ろ並べっ!

いや、並んてくださいっ!このままじゃ俺が死ぬっ!」

「おい、無駄口なんて・・・している暇ないぞっ!」

「お前ら恨むからなァァァァァァァっ!!」


大和さんに誰も並ばないため、交代できずにいた。

それどころか馬鹿ほど本気で相手させられてるため、天峰君が何度も床に転がされていた。

・・・流石に大人の体当たりには敵わないらしい。


しかしさすがは天峰君。

めちゃくちゃギリギリだが全部竹刀で受けて見せている。

・・・うん、天峰君の打たれ強さと、変なところで出てくる逞しさはこれが原因なんだね。


これでやっと天峰君が大和さんを苦手とする本当の理由が理解できた。


「おらぁ!どうしたどうしたっ!打ち返してみろっ!」

「馬鹿かっ!アンタと俺にどれだけ筋力に差があると思ってんだよっ!」

「頭使って勝ち筋思い浮かべろ!」

「だから経験数と技術力だって圧倒的に・・・っ!?

・・・あーもうっ!うざいっ!キレたっ!ぶっ飛ばすっ!」


あ、竹刀でバシバシ(全部防いでる)と打たれながらも生意気言ったからまた壁へと飛ばされた。

ただの体当たりで後ろに飛ばす事ができる大和さんはすごいね。

ま、天峰君が飛ばされるだけで怪我してないのは、息子を愛せる父親である大和さんの絶妙な力加減のおかげなのだろう。


傍から見て天峰くんの転げ方と言い、竹刀持っての殴り込みに行くかのような声を出すその姿はもう狂気だった。


「ちっ!くそ・・・この・・・っ!

嗚呼アァぁあァァァァぁッっ!!

少しは手加減しろっ!大事な息子だろっ!」

「娘には優しく息子には厳しくって決めたんだよ。」

「男女差別だろ!?」


ふむ、さすが親子。

息ぴったり。

けどね・・・周り見なさい。

あんたらがあまりに激しいスキンシップしてるから回りが気圧されてるよ。


「・・・阿呆だ、阿呆がいる。」


多分大和さんは、自分の息子を強くするためにやっている。

それに天峰君の体力耐久力持久力を知っているのか、私から見れば天峰くんにはちょうどいい厳しさを保ってる。


それに煽りも使って、天峰くんを全力にさせている。


さすが父親だ。息子のことをわかってる。


でも、なぜこんな道場と言うか公共の場でこんな激しくやっているのかは理解できない。

天峰君は我武者羅にやってる分、周りを気にする余裕が無いのだろう。

私達の哀れみを込めた視線に気づいてない。


「・・・何度も聞きますけどいつもこれで?」


再度、親御さんに聞く。

そしたら親御さんは爆笑しながら・・・


「引いた?」

「まぁ、若干引いてます。」


こんなのを見て引かないやつはいないよ。

それほど二人の打ち合いは、多分スポーツマンシップをガン無視していた。


「正直に言うと天峰君の実力になると、ここにいる同年代と先輩たちの子だと相手にならないんだよね。

だから先生達と練習させる、って、大和先生は言ってた。」

「・・・他の子たちも天峰君のように練習すれば獣のように強くなれますよ?」

「あれは天峰君しかできないことだから。

私達の息子は適度な練習で充分よ。」


周りの親御さんたちもウンウンと頷く。


「・・・例外なくあの練習をしたら強くなれそうですけど、何か失ってますね。」

「・・・あれはいい見本よね。

私達もそう思ってた節はあったけどあんな天峰くんを見ちゃうと・・・・高望みとか過度な期待なんてしなくなるわ。」

「・・・あんな風にはなってほしくないですもんね。」


天峰君は純粋に適応力が高いと思う。

辛い、キツい、苦しい目にあってもそれに余裕を持てる根性。

こんな厳しさでも、苦手にするだけで嫌わない性格。


・・・天峰くんぐらいしかできない芸当だろう。


ドンっ!


2分の終わりの太鼓が鳴り響く。

その合図で大和さんが止まった。


「・・・や、やっと終わったっ!」

「・・・良かったな、次に行ってこい。」

「休ませてっ!?」

「お前より下の子達は休んでないぞ?」

「疲労の総量っ!あんなの誰もしないわっ!」

「次行ってこい。」

「嗚呼アァぁああぁアァぁ!!」


何を言っても無駄だと理解した天峰君は、発狂しながら、次の先生の前へと移動する。

地団駄を踏んでいるのであろうが、疲れているからかあまり音は出ていなかった。


「・・・寝たい、帰って眠りたい、ベットで安らかに永眠したい。」


確か私の特訓のあとも、こうして願望を口に出してたっけ?

ま、いくら疲れていようが、文句を垂れることができるなら余裕はあるだろう。


「・・・お疲れ様、天峰君。」

「・・・先生・・・俺は疲れています。」


次の相手となるおじいちゃん先生が天峰くんを慰める。


「なので休ませてください。」

「・・・。」


もう願望を正直に口にしていた。

おじいちゃん先生は少し悩み・・・


「・・・さ。やろうか。」


竹刀を構えた。


「聞いてる!?話聞いてくれてますっ!?」


ドンっ!


開始の太鼓が鳴り響く。


「さ、始めようか。」

「聞いてない!?完全に聞いてないっ!?

って、危ねえぇぇぇぇ!?」


おじいちゃん先生の竹刀を紙一重で避ける天峰くん。


「・・・あ、危ないっ!?ヒぇっ!?ぐぼへぇっ!?」


受け流し、足を曲げ交わし、突き飛ばされる。

・・・なんかコントでも見てるのかな?私は?


「・・・は・・・ハハハ・・・。」


仰向けになった体を、手を付き起き上がらせる。

ゾンビのように這うように立ち上がる。

乾いた笑い声は、さながら働き過ぎのサラリーマン。


「こうなったらとことんやっちゃるわァァァァァァ!」


自暴自棄に突っ込む彼は・・・まるで猪のようだった。



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