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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
47/50

別れと出発

 大急ぎで校門まで駈け出した俺はその視界の端に弐宮神楽を見つける。


「ちょっと待てよ神楽!」


 その背中に大声で叫びながら、俺は弐宮に駆け寄る。


「……はぁー、本当は誰にも会わずに行くはずだったんだけどな」


 ポツリと呟き、神楽は振り返る。


 相変わらず華奢な体で、戦挙の後だというのに、大した怪我も無く、綺麗なままだった。


「オイ、いきなり転校だなんてどうゆうことだよ! 聞いてないぞ俺は」


「言ってないもん。当然だよ」


 悲しげな笑いを浮かべ、俺の目を見つめる。


「どうゆうことだよ。説明しろよ。……昨日の戦挙が原因か?」


「……どうかな、関係はあるだろうけど」


「剣道部に居られなくなったからか? もしそうなら、一緒に生徒会やろうぜ。俺も面倒臭い事に巻き込まれたんだ。お前の力を貸して欲しい」


 大まじめに俺は親友にお願いする。


 だが、その憂いを帯びた表情は変わらない。


「剣道部をやめたことは今回の転校を決めたことに関係無いよ。そうだね、一番関係あるのは、天ちゃんとの勝負かな」


 脳裏に蘇る、昨日の戦い。完全なる勝利を神楽が掴みかかり、葵ちゃんの乱入で一転、敗北した。


 けれど、


「あれは、お前の勝ちだろ。それは俺も認めてる」


「違うよ、天ちゃん。あれはボクの負けだよ。天ちゃんとの勝負に集中しすぎて周りを警戒するのを怠ってた。あの戦いは別に天ちゃんとの一騎打ちってわけでもなかった。あくまで戦挙での戦いだったのに。それなのにボクは自分の仲間を強引にリタイアさせてまで、天ちゃんとの一騎打ちにこだわった。途中で、天ちゃんを倒せる機会もあったのにそれをしなかった」


「そうしなきゃ、お前の中で納得できる勝利じゃ無かったんだろ?」


「そう思ってたよ。でも、あの日、天ちゃんと話してる中で気づいたよ。天ちゃんの言った通りだ。ボクは昔の天ちゃんと勝負がしたかっただけだったんだ。そして、負けたかったし勝ちたかった。一騎打ちとしての結果は確かにボクが勝ったかも知れない。でも、あれは、過去の天ちゃんに勝っただけに過ぎない。今の天ちゃん、どんな手でも使って、勝利をつかもうとする天ちゃんには負けたよ。だけどまあ、あれはあれで、一つの区切りにできたよ。ボクの中で、あの勝負は(過去とは)、決着できた」


 懐かしそうに言う神楽。


「なら、何で転校するんだよ。あの勝負に納得したなら、いいじゃないか。一緒に仲良く学園生活を送ろうぜ」


「ダメだよ天ちゃん。まだ、まだ終ってないんだよ天ちゃん。昔の天ちゃんとの戦いの結果はあれでいいけど、ボクは今の天ちゃんと戦いたい。戦挙の時のボクは天ちゃんと単純に戦いたいだけだった。でも、天ちゃんは、ボクとの勝敗じゃなくて、その先を戦挙での勝利を見てた。だから、ボクもそうする。そして、ボクは天ちゃんが求める勝利を阻む敵になりたい。ボクはもう一度だけ、今の天ちゃんと戦いたい」


「何を言ってる?」


「ボクの転校する先知ってる?」


 幼さの残る顔を小悪魔っぽく微笑ませながら神楽が聞いてくる。


「知らないけど」


「綏靖学園なんだ。これがどういうことだかわかる?」


「お、お前!」


「そうだよ、天ちゃん。ボクは天ちゃんの敵として、学園交流戦に出るよ。そこで、もう一度戦おう。今度は、剣術だけになんてこだわらない。天ちゃんと直接対決することだけにこだわらない。神武学園の勝利を阻むための敵として参加するよ。それが、最後だよ。もうボクは過去に囚われない。だけど、ボクはまだ、天ちゃんの親友には戻らない。あの日から一歩を進んだ事を確かめるため、もう一回だけ天ちゃんの好敵手ライバルになる。過去の天ちゃんには勝ったけど、今の天ちゃんに負けたボクの最後のリベンジだ」


 その表情は決意に満ち溢れていた。


 その瞳は、昨日までのように過去の俺を写すためのフィルターは無く、純粋に俺を見ていた。


 俺がどんな言葉をかけても、神楽を引き止める事は無理だと判断する。


 なら、俺はなんて言えばいい?


「……どうしても行くのか?」


「行くよ。もう決めたから。『天帝』もあっさりと許可してくれたし」


 無駄だとわかっていても引き止める言葉が出る。


 俺の唯一の親友がこの手から離れて行こうとする。


 それが辛くて、思わず神楽を抱きしめる。


「ちょ、ちょっと天ちゃん!?」


 慌てた神楽はバタバタと俺の腕の中で暴れる。


「なあ、神楽。俺は正直お前の好敵手ライバルになんてなれる気なんてしない。お前は天才で、最強の剣士だ。それに比べて、俺は剣術そこそこで『具現』も『放出』も使えない出来損ないだ。でも、そんなお前が俺の敵として戦いたいっていうんなら、俺もお前に勝ちたい。卑怯でも、かっこ悪くても、勝ちたい。凡人が願うのはいつだって天才への勝利だ。だから、俺も頑張って勝つよ。お前の全力に俺も全力でぶつかるよ」


 決意を言葉に変える。


 それは、凡人が天才に対する宣戦布告。


 そうだ、神楽。


 俺もお前に勝ちたい。 


 天才ってやつに、勝利したい。


「ありがとう、天ちゃん」


 腕の中で神楽が呟く。


 それでもって、俺がもう一方で思っていた事を言葉にする。


「だけど、忘れるなよ神楽。俺の事を『天ちゃん』って恥ずかしい呼び方をしていいのは俺の親友だけなんだ。お前が俺の敵になったとしてもそれは変わらないよ」


「……うん」


 腕の中で神楽が頷く。


 そして、神楽は俺の腕から離れる。


「ありがとう。いってくるよ、天ちゃん」


「いってらっしゃい、神楽」


 ゆっくりと、神楽は校門の外へと歩いて行く。


 その背中を俺は眺める。


 剣を習っていた時、誰よりも憧れた親友の背中は華奢な体以上に大きく見えた。


「あ、そうだ。コレだけは言っとかなきゃ」


「おっ、そうだこれは言わなきゃな」


「天ちゃん」


「神楽」


「「次会う時は」」


「ボクが勝つ!」


「俺が勝つ!」







 親友を見送り、振り返って学園に足を向けるとそこには怒った顔の葵ちゃんが立っていた。


「どうしたの? そんなに怒って」


「どうしたのじゃないでしょ!」


 辺りに轟く大声で怒鳴られる。


「どういう事。あんなのいきなり言われて納得できると思う? ちゃんと説明してよ」


「あー、なんか色々説明するの大変で、面倒だから今度でいい?」


「いいわけあると思う?」


 怒ってらっしゃる。


 怖いです。


「まあ、生徒会長になってもらったのにはわけがあるから、とりあえず納得してよ。今は、幼馴染の親友との別れを悲しんでいたいんだよ」


「……ちゃんと説明してよ」


「わかってるよ」


 悲しげに俺が言うと、俺の今の心情が伝わったのか、葵ちゃんも渋々納得してくれた。


「ねえ、今日の夜は帰ってこれるの」


「別段棺先生になんにも言われてないから大丈夫だと思うけど?」


「なら、今日学校終ったら付き合ってね!」


 何故か勝手に俺の今日の放課後のスケジュールが決まっていく。


「なんか、あるの?」


 何があるのか検討もつかない俺は葵ちゃんに聞く。


 葵ちゃんはその瞬間心外だという表情を浮かべる。


「ちょっと、覚えてないの? 祝勝会をしようって言ったじゃない!」


 ……そう言えばそんなことを言われてたようなこともあったような? 無かったような?


「ありました! 何で、そんなこと言ってたっけみたいな顔してるの」


 怒られる。この怒り具合から見て、恐らくホントだろ。


「ゴメンゴメン。それで? 放課後は祝勝会のためのお買い物?」


「その通り」


「スーパーの場所教えたじゃん。今日ぐらいゆっくりさせてよ」


「だーめ。言ったでしょ、『私の右腕になって』って。まだ右腕が痛むの」


 それを言ったら絶対俺の方が重傷だよ。


 そう思いながらも、葵ちゃんの隣を校舎に向かって歩く。


 そして、校舎に入る時、思い出したように葵ちゃんが俺に声をかける。


「あ、そう言えばまだ言ってなかったね」


「……何が?」


「戦挙優勝おめでとう」


 その勝利を一番欲しがっていた人物から笑顔で俺の勝利を祝われる。


 だけど、その言葉に嫌味は無く。その笑顔は純粋に俺の勝利を祝ってくれていた。


「ありがとう、生徒会長様」


 だから、その言葉を俺は素直に受け止める。


 葵ちゃんは笑顔で頷き、一足早く校舎へ入っていく。


「さーて、これから、めんどくさいね、しかし」


 これから迫り来る山積みの問題を嘆きながら、とりあえず今日だけは放課後の祝勝会のことを楽しみにして、午後のホームルームを受けるために校舎へ入っていった。

祝、戦挙編終了でございます。


皆様お気に入り登録及び評価ありがとうございます。


これにて、第一部戦挙編終了したいと思います。


とりあえずは、今まで投稿した部分の誤字脱字を直そうと思います。


報告などをしてくれると嬉しいです。


ちなみに、第二部としては、生徒会のメンバー集めをしようと思います。戦挙編よりは短く終わると思います。


ご意見ご感想アドバイスいただけると幸いです。


質問なんかにも答えるます


あと、気に入ったキャラなんかいれば教えてくれると嬉しいです。


それでは、本当にありがとうございました。

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