勝者は敗者に抗えず 2
屋上へと向かい、ドアを開ける。
そこでは、ベンチで『天帝』が双鐘恋に膝枕されていた。
俺はその光景を見て、とりあえず開いたドアをそっと閉じた。
……何アレ。何学園で式典サボって膝枕されて寝てるんだよ。
ふざけんなよ。
しかもそんな状態で人を呼び出すかよ。
気まずいよ。
「あのー」
突如屋上のドアが開く。
そこから、双鐘先輩が顔を覗かしている。
「いや、お邪魔しました。失礼します。俺は何にも見ていません」
「いや、神乃天下くんでしょ。せっかく来てくれたのにごめんなさい。もう、蒼崎くんも起きたんで、こっちに」
そう言って、ドアが開かれる。確かにベンチの上では眠そうに『天帝』が目を擦っていた。
「ごめんごめん。もう少し遅く来ると思ってて寝ちゃってた」
「こちらこそ、お邪魔したみたいでスイマセンでした」
平謝りしながら、『天帝』に近づく。
「それで、どういったご用件で俺を呼び出したんですか『天帝』?」
「ああ、その『天帝』って呼び名は返上するよ。キミにも負けたし、そもそも、気に入ってなかったし。だから、普通に蒼崎って呼んでくれ」
「そんじゃあ、蒼崎先輩、どういったご用件で?」
そう俺が問うと、向こうは意外そうな顔でこっちを見る。
「あれ? どっちかというと、聞きたい事があるのはキミの方じゃ無いのかな?」
なるほど、どうやら昨日の勝ちを譲ってくれたことについて説明してくれるらしい。
「じゃあ、早速聞きますけど、どうして昨日俺に勝ちを譲ってくれたんですか?」
「ははは、やっぱりそこからか。別段、僕はキミに勝ちを譲ったつもりも無かったんだけどね。キミの一撃であの時鎖骨折れちゃってたし」
笑いながら言うけど、俺は納得出来るはずもない。
「だけど、あのあと、すぐに俺の意識飛ばしたのは蒼崎先輩じゃないですか。自分からリタイアしなかったら絶対勝ってたじゃないですか」
「ああ、だってすぐさま医者に見せなきゃキミ死にそうだったし、それにそんなに生徒会長になりたいわけでも無かったんだよね。だから、あの勝利はキミの物だ。純粋に喜んでおきなよ」
相変わらず笑っている。
だけど、その笑いには裏がある気がして仕方ない。
だから、俺はその笑いを崩してやることにした。
「残念でしたね蒼崎先輩。せっかくくれた勝利でしたけど、あれは俺も葵ちゃんに譲ってきました。今頃、葵ちゃんが新生徒会長として、式典をやってますよ」
それを聞くと、蒼崎先輩は一瞬キョトンとした表情をして、そのまま腹を抱えて笑い出す。
「ははは、キミ馬鹿だろ! あんなに頑張って死にかけて掴んだ勝利を他人に譲るか普通? 絶対馬鹿だ。でなきゃアホだ」
あ、あれ? 笑いを崩すつもりだったのに、逆に笑わしてしまってる。
「いやいや、こんなに笑ったのは久しぶりだ」
「そんなに笑わなくてもいいでしょ。と言うより、そんなに笑う余裕なんて無いはずだ」
「どういう事?」
先程までの馬鹿笑いから一転、目つきが急に鋭くなる。
「ねえ、『戦挙』での勝利って何を指すと思う?」
「……それは、勝って序列一位になって、生徒会長になることだろ」
「それじゃあ、今回の戦挙で生徒会長になったのは誰?」
「キミの話が本当なら、本家の姫様だろ」
「なら、この戦挙の勝者は葵ちゃんだ。そんでもって、葵ちゃんが今回の戦挙に出た目的は本家の跡取り争いに参加することで、その条件は『戦挙に勝つこと』だ」
言葉を連ねていくごとに蒼崎先輩の目がキツくなり睨まれる。
「……キミは本当に面白いね。つまり、本家の跡取り争いにお姫様の参加を認めろって事か」
「そういうこと」
だが、怯まず交渉を続ける。
「知ってる? そういうのを屁理屈って言うんだよ」
「そうだとしても、あの時俺は葵ちゃんの代わりのつもりで戦ってた。そして、俺が勝ったなら、それは葵ちゃんの勝利だ。頼むよ蒼崎先輩」
断られたら仕方ない。
でも、葵ちゃんのために出来ることはしておきたかった。
「はぁー、面倒だけど、まあ了承してあげるよ。色々揉めそうだけどね。僕としてはキミの言葉を本家の皆様に伝えておくよ。ただ、条件が一つある」
俺の提案が通ってホッとしたが、すぐさま、条件をつきつけられ、息を呑む。
「条件って?」
「綏靖学園って知ってる?」
「ああ、西の方の神武学園みたいなところでしょ」
「そこと、半年後に戦う事になる。ルールとかはまだ決まってないけど、それに勝てば何が何でもお姫様を参加させてあげるよ」
頭の中でハテナが浮かぶ。
「どういう事?」
「というのも、そこの学園の序列一位は九条家っていう天上家と並ぶぐらいでかい名家の娘なんだ。ちなみに、天上家の当主が若いころに喧嘩売ったせいで仲悪いんだけどね。そこと毎年交流戦ってことで戦ってたんだよ、序列上位だけでね。でもさ、本家のお姫様が代表で戦うことになったなら、それは、天上家と九条家の代理戦争にほかならない。そこで、もし敗北したのなら天上家の顔が潰される。そうなると本家としては、所詮彼女は跡取りではないから、っていう風に言い訳するしか無い。そうなっちゃうと跡取り争いに出場するなんて不可能だ」
「だから、何とかして勝利に導けってこと?」
「そういうことだ」
「……そこまで俺が面倒見る必要は無いんじゃないかな?」
「言っとくけど、キミがお姫様に協力するのは決定事項だよ」
「なんで!」
「キミは、天上家のお姫様を戦挙中に壊れるかどうか試したよね。それは、僕からすればとんでもない不敬罪だ。今すぐにでもキミを叩きのめさなくちゃいけない程にね」
「……戦挙については見過ごしてやるから、協力しろって言うことか。……面倒だね、しかし。でも、拒否権は無いんでしょ?」
「当然だよ。神乃くん」
仕方ない。所詮俺は弱者だ。
目の前の強者には抗えない。
おかしいな。この人に勝ったはずなのに。
「わかりましたよ、蒼崎先輩」
「それじゃあ、今日のところはゆっくりと休んでね。これから、色々と話すことがあるけど、とりあえずは休息が必要さ」
「はいはい。わかりましたよ」
終始この人にペースを握られている感覚を受けながら俺は会話を断ち切り、屋上から出て行こうとする。
「あっ、そういや忘れてた。神野くんてさ、弐宮神楽と仲いいんだっけ?」
背を向けた俺に今思い出したとばかりに蒼崎先輩が声をかける。
「何で、それを?」
「ああ、恋はそういうの詳しいからさ。そうじゃなくて、弐宮神楽くんさ、今日付けで転校するんだって。話聞いてた?」
「えっ!?」
「その様子だと聞いてなかったみたいだね。なら、今から急いで校門に行くといいよ。運が良ければ会えるよ」
急な展開に全くついていけない俺だったが、とりあえず蒼崎先輩が嘘を言ってるようには見えなかった。
「ありがとうございます」
簡単にお礼を言うと、俺は急いで校門に向かって駈け出した。
◇◇◇
神乃が居なくなった屋上で、再び蒼崎がベンチで横になる。
「空くんの言った通りになりましたね」
「まあ、神乃くんも本家のお姫様のために戦ってたのは知ってたし、ああいう行動を取るかも知れないとは思ってたよ」
「とりあえずは、空くんの思い通りになったというわけですね」
「そう、九条の氷華と戦う下準備は何とか用意したよ。あとは、リベンジのチャンスを待つのみだ」
「別に、空くんが会長しても良かった気がしますけどね」
多少不満そうに双鐘が呟く。
「それじゃあ去年の二の舞さ。氷華に勝つためには僕の力じゃ無理だった。と言うより、強い奴が集まっただけなら勝てない。アイツ等みんな強いしね。少しずれた感性が必要なんだよああいう連中に勝つためには。例えば、不意打ちを何も躊躇いも無く出来る奴とか、一見弱そうな能力を有効利用出来る方法を考える力とかな」
去年の事を思い出したのか苦々しそうな表情を浮かべる蒼崎。
「でも、そのために、本家の意向に逆らうなんて大胆な行動に出ましたね」
「僕は本家からは『葵を倒せ』って言われただけだよ。そんでもって、その命令はきちんと守った。それに、一応、蒼崎の今後についても考えてるよ。もし、当主が交代したら、分家の中で格は低いのに大きな力を持ってる蒼崎は分家の中で目の敵にされる。御大が亡くなられでもしたら、大事だ。蒼崎が潰される可能性もある。だから、お姫様には頑張ってもらうつもりだよ。一応、跡取り争いは分家が候補者の後ろ盾になるのが普通だ。今回戦って天上葵様は十分、天上家の当主になれる人だと判断した。だから、跡取り争いの時は蒼崎が後ろ盾になる。そして、葵様が勝ってくれれば、一族安泰だ。とは言っても蒼崎は俺一人だけだけどね」
横になった蒼崎の顔を双鐘が覗き込む。
「何?」
「いや、思った以上に考えててビックリしました」
「そいつは、心外だな。……一応、僕は、自分と恋を守ることについては真剣に考えてるよ。はぁ、恋と自分を守るために強くなったはずなのに、その強さが今度は色々な危機を招くんだから大変だよ」
横になった蒼崎の隣に双鐘が座る。
「恋」
「なんですか?」
「膝枕。疲れたよ。色々と」
そう言うと、頭を双鐘の太ももに乗せ、深い空を眺めながら、蒼崎は再び目を閉じた。
エピローグその一です。
蒼崎くんの行動の理由の説明です。
全ては蒼崎くんの思惑通りに物事が動いているみたいです。
これから、葵ちゃんと天下くんで生徒会運営しながら、来るべき決戦に備えるのが基本ストーリーになりそうです。
ご意見ご感想お待ちしております。
あと、お気に入りが一気に増えてびっくりしてます。
ありがとうございます。




