所詮は前座
「お待ちしておりましたよ。本家のお姫様」
一堂に会し、『天帝』が口を開く。
その言葉に葵ちゃんがすぐさま反応する。
「戦挙ではただの先輩後輩として接するはずです。これから始まる戦いも手なんて抜かないで欲しい」
真剣に『天帝』に言葉をかけるが、当の本人は緩んだ顔のままゆっくりとベンチから立ち上がっている。
「――まあ、手は抜かないですよ。本家に一応連絡取ったら、真面目にやっていいって言われたんでね。まあ、傷つけるとま緋とか黒に色々言われそうだけど。それにしても、気を悪くしないで欲しいんですけど、意外でしたよ。ここまで勝ち残るなんて。見たところ、多少疲れてはいるようだけど、そこの担がれてやって来た少年よりかは元気そうだし。流石、本家の跡取り争いに手を上げたお姫様だ」
下から上まで目線を動かしながら、素直な感想を述べる『天帝』。
「運が良かっただけです」
「運も実力の内ですよ。あと、敬語使うのやめてください。本家の人間に敬語使われる立場じゃないんで、僕は」
「ここでは、生徒会長と一生徒という関係です!」
自分の家の事を強調されるのが嫌なのか、ムキになって蒼崎空と天上葵との関係をハッキリさせようとする。
「そうもいかないんですよ。あと、ここでの決まりに従うなら、序列が上位の僕の|お願い(```)を聞いてくれる方が正しいんじゃないんですか?」
「……」
妙に含みのある笑顔で語りかけ、葵ちゃんが不満気に黙りこむ。
そんな葵ちゃんを助けるように俺が口出し話題を変える。
「そんなことより、これからどうします?」
「どうしますってのは?」
「決まってます。一対一か二対二で戦うかって事ですよ」
俺が口を出したくらいにようやく、腰を下ろしていたベンチから立ち上がり、ギラリと俺を睨む。
「――どっちでもいい。好きな方で」
「なら、一対一と行きましょう」
そうだ、あくまで葵ちゃんと『天帝』を戦わせるなら一対一がいい。
それに、ボロボロの俺じゃあもう手助けも難しい。
『天帝』の言葉にすぐさま返答したあと、葵ちゃんを見る。葵ちゃんもそれでいいよと頷く。
「どっちがどっちと戦う?」
「決まってること聞かないでくださいよ。俺が副会長、双鐘恋さんと戦うに決まってるじゃないですか。誰が好んで男のケツを追っかっけますか」
「ははは、言うじゃないか。分かった、恋も別にいいよね」
当の本人は俺の下品な言い方を不快に思ったのか、いつも綺麗で滅多に動かないイメージの表情が歪んでいる。
「はい」
「それじゃあ、僕は姫様とか。どっちが先にやる?」
「さっきは俺は俺が決めたんで、そちらのお好きな様に」
俺は脱力しながら『天帝』の言葉に耳を傾ける。
「なら、恋が先にやりなよ」
その言葉がトリガーだった。
『天帝』がその言葉を発した瞬間、俺は双鐘目掛け『天剣』で飛び込んだ。
脱力した体から一瞬でトップギアまで上げて周りの全てを置き去りにして、双鐘との距離を詰める。
それは完全なる奇襲。
だが、俺が勝てるとしたら奇襲しかなかった。
恥も外聞も殴り捨て、この瞬間の勝利にかける俺は双鐘の目の前に立ち刀の柄を握りしめ、一息で鞘を走らせる。
奇襲の甲斐あって、居合になっても双鐘は動かない。
あとは、いつも通り相手の顎を払ってそれで終わりだった。
そのはずだった。
だが、鞘から飛び出た刀が相手の顎に当たる瞬間、見えない壁にぶつかる。
「えっ!?」
刀が見えない壁に阻まれた瞬間、置き去りにしていたはずの世界が時間が俺に追いつく。
目の前では驚愕の表情を浮かべた俺と双鐘がお見合いをしている。
「……悪い。一対一って話だったけど、不意打ち過ぎて手が出ちゃったよ」
その隣で、『天帝』がバツの悪そうな顔でこちらを見ている。
「どうやって!?」
俺は倒すべき敵が目の前にいるってのに、隣にいる『天帝』に疑問を投げかける。
『具現』も発動して無かったのに、どうやって俺の『天剣』を止めた? と言うより、どうして『天剣』に反応出来たんだ?
「ああ、一瞬君の姿が消えた瞬間に、無意識の内に恋に対して『神風』でガードをかけちゃった」
「でも、詠唱も何もしてない」
「ああ、知らないんだ? ある程度まで鍛えたら、負担は大きくなるけど、『具現』は発動できるんだ。疲れるからめったに使わないけど」
後ろ髪を手で掻きながら、答える。
さて、どうしよう。
仕切りなおされたら勝ち目はゼロだ。
ゴメンな葵ちゃん。
「そんな風に暗そうな顔するなよ。今の勝負は君の勝ちだよ。恋、棄権しなよ」
「「えっ!?」」
俺と双鐘の驚きの声が重なる。
「どうして、棄権をしなくちゃいけ――」
「一応一対一って話だったし、俺が手を出さなきゃ今頃負けてただろ」
「でもそれは不意打ちだったし」
「それこそ言い訳にならない。何時だってどこだって狙われるもんだよ強者はな。それに不意打ちを非難すると、自分が油断してましたって宣言してるのと同じだからやめといたほうがいいよ」
『天帝』は冷たく言い放ち、そこまで言われると双鐘も言い返すこと無く、
「……負けました」
ポツリと発言し、首輪が赤く光り警告音が鳴り始める。
「会長、負けないでくださいよ」
「いつも、勝つつもりでやってるよ」
リタイアすることとなり、その場を離れる双鐘は残る天帝に声をかけ、その姿を消す。
「ラ、ラッキーと言えばいいのかな」
『天帝』の隣を離れながら、葵ちゃんに話しかける。
「……格好悪かった」
「俺もそう思ってるよ。言うなよ。不意打ち仕掛けて防がれて、勝ちを譲ってもらうなんて超ダサイよ。でも、そこは胸に閉まって、キズだらけの俺に『おめでとう』ぐらい言ってやれよ」
話しながら傷がドンドン痛む。
『天剣』も体中の筋肉を強引に動かすから、傷だらけの今の状態じゃきつい。
すぐさま腰を下ろして、次の戦いに挑もうとする葵ちゃんに声をかける。
「なにわともあれ俺は勝ったよ。……勝ちなよ」
「すぐにそこまで行くから待っててよ」
軽く笑い、そのまま葵ちゃんは『天帝』に向かって歩いて行った。
葵ちゃんは刀を抜き放ち、詠唱を行う。
「"運命は暗闇だ、、ゆえにそれを切り裂く閃光を求めた"『具現』『雷光』」
詠唱と共に葵ちゃんの刀を電気が走り、ツヤのある黒髪が輝く金髪へと変わっていく。
「……恐らく『具現』は発現してるとは思いましたが、電気ですか」
葵ちゃんを観察しながら『天帝』が呟く。
「お気に召さない?」
「いいや、力強く綺麗で本家の姫君にふさわしいと思いますよ。あとは、力を示してください。"栄光を手にするもの、その手に何も持たず。ただ、空を掴み拳を掲げる"『具現』『神風』」
『天帝』も詠唱を口にし、辺りに風が吹き荒れる。
「それじゃあ、やりましょうか」
「待ったくださいよお姫様。こういう戦いの前は名乗るものですよ。お互いに知らない中じゃなくてもね。どこかの誰かはあっさりと不意打ち仕掛けて勝ってたけど」
言いながら『天帝』がこちらをチラ見する。
視線が痛い。そんな目で見ないで。ていうか怒ってるじゃないですか、『天帝』さん。勘弁して。
「神武学園生徒会長序列一位蒼崎空」
「神武学園序列無し天上葵」
二人共構えながら名乗りを上げて、
「「勝負!」」
二人が同時に交わった。
先手は葵ちゃん。
『天帝』目掛け袈裟斬りに斬りかかるが、その刀は『天帝』に届く前に見えない壁、『天帝』の『具現』によって阻まれる。
そこから電撃も流そうとするが、『天帝』の体の表面を沿うように電気が流れるだけで肝心の本人には届かない。
……葵ちゃんの『具現』じゃあ、『天帝』の『具現』のガードを崩せないのか。
戦闘が始まる前までは、何とか『天帝』のガードを崩せるなら、葵ちゃんが勝てる可能性もあるかなと思ったが、その希望はあっさりと打ち砕かれた。
そんな葵ちゃんの攻撃を受け、自分まで葵ちゃんの攻撃が届かないことを確認した『天帝』は葵ちゃん目掛け拳を繰り出す。
けれど、攻撃がはじかれた段階で素早く回避行動に移っていた葵ちゃんは苦も無く拳を後ろに飛んで躱す。
『天帝』の拳は空を切り、葵ちゃんと『天帝』との間に距離が離れ仕切りなおす。
「どういうつもりですか!」
先ほどの一瞬の対峙を終え、葵ちゃんが怒鳴る。
「どうして、『具現』で攻撃してこなかったんですか!」
一方怒鳴られた『天帝』は後ろ髪をポリポリと掻きながら、さほど気にしてないように言う。
「……本家のお姫様。こんな事はあんまり言いたくないけれど、この戦いはここで終わりでいいんじゃないですか?」
「なっ! 何を!」
「言わずともわかるでしょ。姫様の『具現』の一撃では、僕の『具現』を壊せない。姫様がいくら攻撃しても、僕は倒せない」
確かに、『天帝』の言う通りだ。
あの、風の壁を崩せない以上、葵ちゃん側に勝利は無い。
「そんなのまだわからない!」
「……一応、僕の立場はあなたの家の分家だ。傷をつけると色々まずいんですよ」
「そんなの関係ない」
怒りのボルテージが上がっているのか、葵ちゃんの髪の毛からも、放電が始まりバチバチと派手な音を立てながら、髪の毛が逆立ち始めている。
「……どうしてもやると。言っときますけど、手加減は得意じゃないんでね。そこだけはよろしくお願いしますよ」
「手加減なんてさせない!」
挑発とも取られかねない『天帝』の言葉を真に受け、葵ちゃんは刀を握りしめ刀を振り下ろす。
バチィン!
電化製品がショートしたかのような音が鳴り、辺りが一瞬閃光に包まれる。
しかし、葵ちゃんの刀はやはり、『天帝』に届く前に阻まれており、電撃は辺りに飛び散る。
「それじゃあ、今度は真面目に反撃しますよ!」
先ほどまでと同じように拳を葵ちゃん目掛け拳を突き出す。が、その程度の攻撃が簡単に当たる程度の葵ちゃんでは無い、後ろに飛んで躱すが、それを確認した『天帝』は残念そうに葵ちゃんを見る。
「――甘い」
後ろに飛んだ葵ちゃんがそのまま誰かに突き飛ばされたかのように吹き飛び、着地もできずに地面に無様に転がる。
恐らく、風を操って葵ちゃんをそのまま殴るように吹き飛ばしたのであろう。
そして、今度は自らの周りに風の刃をまとわせる。
その刃を今まさに起き上がろうとしている葵ちゃん目掛け放つ。
その無数の風の刃を確認すると、葵ちゃんは刀をその刃目掛け突き出す。
「雷陣」
クモの巣状に広がる雷撃が『天帝』の風の刃を絡めとる。
「はぁああ!!」
そのまま刀を大上段に構え、『天帝』へと一足飛びで襲いかかり、脳天へと振り下ろす。
その攻撃を『天帝』は受け止めずにひらりと躱し、攻撃を空振ってがら空きになった横っ腹に思いっ切り殴りかかる。
ゴフ!
とっさに葵ちゃんも体をひねるって衝撃を逃がそうとするが、タイヤをバットで殴ったような音と共に葵ちゃんが地面に膝をつく。
「そろそろ、諦めてもらえませんか?」
殴った手が感電でもしたのか、手をブンブンと振りながら、膝をついた葵ちゃんを見下し、投了を促す声をかける。
そんな『天帝』を葵ちゃんは睨む。
「あきらめるわけないでしょ。最後まで勝ちを諦めない。私はあなたを倒して、天下くんを倒して、天上家の後継者全員倒さなきゃいけないの。こんな所で終われない!」
言い終わるかみたかで、葵ちゃんは目の前の『天帝』に立ち上がりながら切り上げる、が、避けること無く『天帝』を守る風の壁に受け止められる。
葵ちゃんも攻撃を受け止められることを確認すると一旦後ろに下がる。
「姫様、あんまりにも諦めが悪いんで、一つアドバイスです。『神風』による防御は『具現』による攻撃ならある段階から壊す事ができます。でも、姫様の実力だと威力的に大分厳しいです。じゃあ、威力を上げるにはどうすればいいか、単純に言えば日々の鍛錬で地力を上げるのが一番なんですけど、そんな時間は無いので、裏ワザを教えましょう」
突然『天帝』からの講座が始まる。
実際俺じゃあ、『具現』に関するアドバイスはできないので、素直に聞いて欲しい所である。
「……」
葵ちゃんは刀を構えたまま無言。
「簡単なことです。余分な所の気の放出を抑えればいいんです。単純に言えばホースの口を締めて水圧を上げるのに近い。放出する箇所を極端に限定し、一瞬で爆発させる。言ってみれば、後ろの彼の居合に近いものがある。大事なのはリラックス。力を抜くことです」
敬語を喋りながら『天帝』が再び拳を構える。
「では、実戦です。ただ、こっちも本気でやるんで、最後までガードを崩せなかった時はごめんなさい」
「謝らないで、コレは稽古じゃないんだから」
大きく息を吸い込む葵ちゃん。
そして、吸い込んだ息をゆっくりと吐いていく。
それに応じて、刀からほとばしっていた電撃が落ち着いていく。
「そう、そうゆう感じで抑えていくのが第一歩」
褒める『天帝』を無視し、もう一回深呼吸をしていく。
次は、体からパチパチと放出されていた電気が消えていく。
更に息を繰り返すと、今度は所々跳ねていた髪の毛がいつものストレートに戻り、色も金髪から黒髪に戻っていく。それこそ『具現』を解いたのかと思うほどだ。
「……流石本家のお姫様。いつ、『具現』を使えるようになったのか存じませんけど、すごいセンスです。言われてすぐ出来ることでも無いんですけどね」
「やらなきゃ勝てないっていうなら、やるしか無いでしょ」
「ごもっとも!」
今度は『天帝』が先に動く、流れるように軽やかなステップで葵ちゃんの前に立ち、左手で真っ直ぐに正拳を放つ!
その攻撃を躱すこと無く、葵ちゃんは横薙ぎに『天帝』の頭目掛けて刀を振る。
先手は『天帝』だったが、刀のスピードは葵ちゃんも負けてはいない。
踏み込みも十分。
問題は、『天帝』の風の壁を切り裂けるか否か。
「いっけえー!」
思わず声を出し、応援する。
バッチィィィィン!
近くに落雷でも落ちたのかという轟音が響き、日が傾き薄暗くなり始めたグラウンドを閃光が包む。
閃光で思わずまぶたがこれから先の光景をシャットダウンさせそうになるが、強引に目をこじ開け、眩ゆい光の中で行われる光景を目に焼き付けていく。
葵ちゃんの刀は確かに『天帝』の風の壁にぶつかる。が、先ほどと違ってはじかれるのではなく、眩い光を放ちながら刀は進んでいく。
「はぁああ!!」
「……本当に、本当に大した姫様だ。素直に尊敬します。だからこそ、本気で勝たせて貰います」
葵ちゃんが全力を込めた刀はついに『天帝』の風の壁を突き破り、『天帝』本人へとその刃が迫る。
普段から常に武器を持たない『天帝』はその刃を自身の右腕を犠牲にし止める。
バチバチと葵ちゃんの全力の電撃が『天帝』を襲うが、『天帝』は構わず正拳を打ち抜く。
「"烈空"」
『天帝』はその場でたたらを踏むように地面を踏み鳴らす。
それと重なるように、鈍い音が鳴る。
そして、その音が辺り一帯に響くと先ほどまで辺りを照らし、やかましくパチパチと当たりを賑わしていた放電現象は終わりを告げ、葵ちゃんが『天帝』に抱えられるように倒れた。
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