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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
42/50

全員集合

「恋、向こうで派手にやってるのは誰?」


「恐らく、伊野真瑠珠いのまるす水屋零治みずやれいじじゃないですか?」


「なるほど、『狂言実行』なら戦挙中にギター引いてても不思議じゃないね」


 『天帝』こと蒼崎空は現在グラウンドのベンチに座り、傍らで戦闘中の双鐘恋を全く気にすること無く、普段と変わらない感じで双鐘に話しかける。


 双鐘も別に対戦相手のことなど気にもかけず蒼崎の問いにすぐさま答える。


「このあと、そちらに向かいますか?」


「いいや、終ったら少し休憩でもしようか? もう大詰めだし、次に戦うのが最後の決戦でいいんじゃない?」


「最後の相手が伊野ですか?」


「わからないよ? 案外ダークホースがいるかもしれない」


「そうなってほしそうな言い方ですね」


 双鐘は目の前の敵が必死の表情で放った『具現』、光のレーザーを自身の『具現』である『ゲート』に吸い込ませる。


 渾身の力で放った技をあっさりと防がれ、対戦者の表情が絶望に歪む。


「そうだね。結局、天上家のお姫様にも結局鉢合わせなかったし、戦えるなら戦いたいしね」


「私は嫌ですけどね。本家のお嬢様に怪我なんてさせたら大変ですよ」


 双鐘は作り出した門に自分から手を突っ込む、それと同時に対戦者の首元に門が現れそこから双鐘の手が伸び対戦者の首を掴む。


「でも、本家に姫様の扱い方を問い合わせたら、『葵に勝て』って命令されたし一応自分で手を下したいんだけどね」


「本家からの命令なんて、あんまり気にしてないくせに」


「そんなこと無いよ。御大には恩があるし、命令はきちんと聞く気だよ」


 蒼崎の返答をあまり信用してなさそうに聞き流し、目の前の戦ってる相手の首をゆっくりと締め、相手の意識を奪う。


 ぐるりと瞳が裏返り白目を向くと双鐘は手を離す。


 首輪の警告音が辺りに響き、開放された敵が力なく倒れる。


「恋。前から思ってたんだけど、その倒し方エグくない?」


「会長には言われたくないです」


 自分の手を門から引き抜き、自分の手をハンカチで拭う。


 心外だという表情を浮かべつつ、目の前に敵がいなくなると、有言実行ダラダラとリラックスしていき、表情までだらし無く崩れていく。


「まだ終ってないんだから気を抜き過ぎないでくださいね」


 双鐘も蒼崎の座ってるベンチに近づき、隣に腰を下ろす。


 とほぼ同時に学園内に設置されたスピーカーから声が響く。


「皆さん。ついに終わりが見えました。現在残り参加者四人です。いわゆる準決勝ですね。じゃあ、参加者の現在地お伝えします。部活棟に二名、グラウンドに二名です。恐らく二人共個人戦になっても仲良く行動してる組だとは思いますが、今すぐその場で戦うか、まずは残りを倒すかはお任せします。それでは、引き続き頑張ってください。あと、移動の際に禁止区域に踏み込まないようにしてくださいね」


 そう言って、放送は途切れた。


 それを聞き終わると、蒼崎は多少考えこみ、そのまま双鐘に話しかける。


「恋、携帯で戦挙本部に電話かけて」


「何するんですか?」


「いや、残ってる人に提案だけしようと思ってさ」





◇◇◇

 

 スピーカーから流れる声を聴き終わり、傷だらけの体を見ながら感慨深く振り返る。


 よくもまあ、ここまで残れたものだ。


 一言、運が良かったと言わざるを得ない結果ではあったが、ここまで残れたことを素直に喜びたい。


「さて葵ちゃん? 恐らく次がラスボスの『天帝』だよ」


「ここまで、来たんだね」


 葵ちゃんを見る。


 葵ちゃんも俺ほどでは無いが、体中ボロボロだ。


 でも、ここまで来た以上、棄権なんてありえない。最後の最後まで勝ちを狙うほかない。


「どうする? 向こうが来るのを待つ? それともこっちから行く?」


 葵ちゃんに聞きつつ俺自身も考える。


 どっちが得だ?


 どのみち戦わざるを得ないなら、この場で戦う方が特のような気もする。


 ここなら葵ちゃんがさっきやったみたいに、水たまりを使った攻撃もできる。


 こっちから向こうに出向く場合は俺が『天剣』で奇襲をかけるって選択肢もあるけれど、場所がグラウンドじゃあ無理そうだし。


 そうやって、考えていると、またスピーカーから声が聞こえ始める。


「ゴメンなさい、もう一回連絡です。ええ、現在勝ち残ってる蒼崎空さんからの提案で、グラウンドで待ってるから来るなら来い。二十分待って来なかったらこっちから行くとのことらしいです。残ってる人はよく考えて動いてくださいね」


 そう言ってまた放送が終わる。


「だってさ。どうする? 俺は葵ちゃんに合わせるよ」


 あくまで、主役は葵ちゃんだ。だから葵ちゃんに合わせよう。


「それなら、こっちから行きたいんだけどいい?」


「もちろん」


 すぐさま、意見はまとまり、俺と葵ちゃんは立ち上がってグラウンドを目指す。


 が、ボロボロだった俺は数歩歩いた所でよろける。


「おっととと」


 そんな俺を葵ちゃんが慌てて受け止める。


「ホントに大丈夫?」


「……多分ダメだと思うよ。でも、最後まで見届けたいし頑張りたい。少なくとも自分で棄権はしたくない」


「……わかった」


 そう言うと、葵ちゃんは俺に肩を貸してくれる。


「どうせなら、おんぶか抱っこが良かったな」


「……男の子ってそういうの嫌がるんじゃないの?」


「自分より背の小さい人に肩を貸してもらってる時点で格好なんてつかないさ。それなら、もっと楽な体勢になりたい」


「変なの。……おんぶくらいならしてあげようか?」


 困惑した表情で俺に提案してくる葵ちゃん。


 その問いに対して、


「お願いします」


 即答した。


 



「天下くん。下手に動かないでね。あと、手は肩だからね。っていうか重たい」


「育ってるんでね。っていうか楽だな」


 葵ちゃんの背中で丸くなる。


 正直歩くのも辛かったので嬉しい。


 背中の黒髪から漂うシャンプーとも少し違う匂いを浴びながら、リラックスして葵ちゃんにしがみつく。


 もし、コレが怪我なんてしてなかったら葵ちゃんを弄ったりしてもっと楽しむんだろうけど、流石に俺も余裕が無い。


「いよいよだね」


「ねえ、天下くん」


「何?」


「天下くんは、『天帝』がラスボスだって言ったけど私はそう思ってないから」


「?? どういう事?」


「私は最後に天下くんと戦って終わりだと思ってるから。だから、二人で勝ち抜こう」


 おんぶされていて葵ちゃんの表情は見えない。


 だから、この言葉が単なる社交辞令なのか、それとも希望的観測を語っているのか、現実に起こりえる未来だと信じているのか、俺にはわからない。


 でも、俺はその言葉を素直に受け取った。


 そして、ポッケから飴玉を取り出す。


「葵ちゃん口開けて」


「え、な、何!?」


「ほい!」


 多少強引に飴玉を葵ちゃんの口に放り込む。


「あ、飴?」


「そうだよ。葵ちゃんが、『天帝』と戦った先の事も考えてるならエネルギーを補給しとかないとね」


 笑いながらお互い飴を舐める。


 ゆっくりと俺たちはグラウンドに向かっていたが、飴が無くなる頃、グラウンドのベンチにリラックスして座っていた『天帝』たちが見え始める。


「ねえ、葵ちゃん」


「何?」


「……ありがとう」


 そのお礼は何に対してか。


 でも、感謝を言いたくなった気持ちは確かだった。


「どういたしまして」


 きっと葵ちゃんは俺をおんぶしてたことに対するお礼だと思ったのだろう。


 気にしてないよ、って表情をこちらに返し、二人して『天帝』と向き合った。




◇◇◇

「なあ恋。本家のお姫様が、どこの馬の骨かもわからん男に馬にされてるんだけど、忠誠心溢れる分家の当主としてはどう対応したらいいのかな?」


「おんぶされてる相手は一応、有名な家名ですよ? 神乃の家といえば、現当主の神乃息吹じんのいぶきがかなりの有名人であり、本家ともつながりがありますよ。あと会長が忠誠心溢れてるとは思いません」


「だからって、お姫様がさ、会って数日程度の男と仲良くしてたらヤバくない?」


「……そういうことに対しては何にも言わない人だと思ってました」


 意外そうな顔して双鐘が蒼崎を見つめる。


「いや、別にいいんだけどね。御大が何も言わないなら。あと、良かったよ。本家の姫様が残ってくれて、あと、神乃天下だったかな。一応実力を知りたいと思ってた奴が残ってくれて最高じゃないか」


「そう思うんなら、そろそろ表情を引き締めてくださいね」


 ニヤニヤしている蒼崎をたしなめながら、双鐘もメガネをかけ直し相手を見る。


 一応本家のお嬢様も神乃天下も調べては来たが、どう考えてもここまで残れる実力では無いはずだった。


 少なくとも戦挙が始まる前までは。


「事前情報よりもきっと、二人とも強いですよ」


「そうだから、笑いが止まらないんだよ」


 日もかなり傾きかけたころ、それまでの戦いでアチコチに穴が空いたグラウンドの真ん中で最後を締めくくる四人が集まった。

ご意見ご感想お待ちしております。



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