表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
PR
37/50

蛇の足

 振りかぶられた刀が迫り、神乃天下はその刃を受け止めるように刀を抜く。


 今までのように鞘のままで受けるのでは無く、自身の得意とする居合で防御にまわる。


 ガチン!


 互いに鍛えられた鋼がぶつかり合い薄暗い林に火花が散る。


 上段からの一撃を受け止めた俺は一瞬の間を開けること無く、神楽に向かい蹴りを繰り出す。が、あっさりと一足飛びで後ろに飛び退き空振る。


 そのステップはそこだけ重力が働いていないのかと思うほど軽快であり、逆に空振った俺の足は鈍重に地面へと下ろされた。


 一瞬のやり取りのあと、神楽を見ながら息を吐く。


 互いに距離を取り、俺は再び刀を鞘に収め、神楽は今度は正眼に刀を構える。


 神楽は基本的に構えは常に正眼だ。先程のように、上段から攻めかかって来ることはほとんど無い。


 先程のはきっと、感情の爆発による一撃だったのであろう。


 一旦、距離を取ることで、多少冷静になったのか、神楽はいつもの構えに戻る。


 まずい、神楽が冷静になることよりも、神楽相手に長期戦を挑むのが一番ヤバイ。


 普通にやればジリ貧で負けていくのだ。多少無理してでも、リターンを取りに行かなければならない。


 そう考えれば、先ほどの一撃は相打ち覚悟のカウンターを狙ったほうが良かったかも知れない。


 確かに受けるのが精一杯ではあったが、ダラダラと長引かせてもしょうがない。


「『初撃必殺』」


 距離を取った神楽がぽつりと呟く。


「何だよ。次で俺を倒す宣言かよ」


 茶化すように俺が話しかけるが、全く動じず、冷たく言葉を返す。


「さっきのを含めて四回までのやり取りで勝てなきゃ終わりだよ。あと、三回だ。そこから先のボクは弐宮神楽と思わない方がいい」


「……どういう意味だ?」


「そのままの意味だよ。それじゃあ、行くよ!『弐撃決殺』」


 正眼の構えのまま突っ込んでくる。


 元々、刀を振るうスピードは神楽の方が上だ。


 俺の得意の居合でようやく、受けに回れるくらいの実力差がある。


 受け流して隙を突くのは、神楽レベルだとほぼ無理。

 

 だから、さっき思ったとおりカウンター狙いで相打ちが一番いいように思える。


 だが、神楽の言葉が気になる。


 取り敢えず、様子見で受けるか。


 腰に鞘に収めたままの刀を構え、右手でしっかりと柄を握り、相手の一撃に合わせようとする。


 近づく神楽がお互いの射程距離に躊躇い無く足を踏み入れる。


 軽く剣先が上に上がるのを確認し、自分の頭上を守るように俺が刀を振り上げる。


 ガチン!


 お互いの刀がぶつかった瞬間、思った以上に手応えの無さを感じる。


 慌てて神楽の手元を見ると、先程まで上段から切りつけていた刀は弾かれた反動そのままにぐるりと一周させて下段から切り上げてきている。


 間に合え!


 祈るように、左手の鞘を神楽の下段からの軌道に割り込ませる。


 ガン!


 再び鋼が林の中で響き合う。


 間一髪で鞘が間に合った瞬間右手に握っている刀を神楽に向かって振るうが、神楽はあっさりと後ろに飛び退く。


 空振った刀を握りつつ、距離を取る神楽を見る。


 あちらはかなり涼しそうな顔をしている。


 眼こそ先ほどのやり取りで暗い影を落としたままだが、汗もかかず、息も乱れていない。


 片やこちらは息は乱れて汗はかき、体中が痛い。


「『参撃完殺』」


 けれど、向こうはそんな俺をいたわる気持ちは無いようで、すぐさまこちらの攻撃に移る。


 俺はそれを確認して取り敢えず、刀を収める。


 恐らくは、次は三連撃なのだろう。


 それを受けてやってもいいけれど、勝ち目が無いってわかってるならば突っ込んで相打ち狙いの方が賢いだろう。


 覚悟を決めろ。


 この戦いに俺の勝機は端から無い。というより捨てただろ。


 なら、相打ちでいい、最後は派手に散れ。


「『天地人』」


 体の力を抜き、先程までのように神楽の動きを見てからではなく、神楽が間合いに入った瞬間から相打ち上等の横薙ぎの居合を放つ。


 気合の込めた一撃は先手を取り、先程まで攻めていた神楽がガードにまわる。横薙ぎの一閃を神楽は刀で受け止める。


 薄暗い林の中で再び火花が散る。それと呼応して、木々から葉っぱが散る。


「まだだ!」


 全力の一撃を止められたが、すぐさま左手で逆手に持っている鞘で下からすくい上げるように撃ちこむ。


 だが、神楽は大して慌てもせず冷静に俺の右手の刀を弾き、鞘での一撃を止める。


 そして、神楽が反撃のためにか、定位置である正眼にもう一度構え直す。


 俺は神楽が構え直している間に体を大きく捻り、右手の刀を後方へ引く。


 お互いに密着した中で、お互いが悠長とも言えるほど冷静に次の一撃の準備をした。


 互いの落ち着いた動作に時間がゆっくりと流れているかのような錯覚を感じる。


 が、それは一瞬で壊れる。


「はぁあああ!」


 静かな時間を俺の咆哮がぶち壊し。気合と覚悟を込めた突きを放つ。


 軌道は真っ直ぐ。狙いは胸。


 防御は何も考えない。


 全力でただ一直線に突く。


 キン!


 神楽はそんな俺の一撃に刀を割りこませる。


 が、胸を狙ったのが良かったのか、完全に俺の突きを逸らすことはできず、俺の突きは肩に当たる。俺の全力と体重が乗った一撃は神楽の制服を裂いて肩から赤くミミズ腫れの皮膚が覗く。一瞬神楽の顔が苦痛に歪む。


 けれど、それ以上に俺がまずい状態だった。


 全身全霊の一撃を放った代償は大きく、体が完全に流れてしまっている。


 相手から見たら反撃を入れ放題である。


 そんな状態で神楽と目が合う。


 俺が終わったと思いながら、最後の一撃を待つと何故か有利なはずの神楽が後ろに飛び退いた。


 何で?


 頭の中にハテナが飛び回る。


 確実に今決着をつけれたはずだ。最低でも一撃は入れれると思う。


 神楽の肩に一撃入ったなんて別に関係無いはずだ。


「どういうつもりだよ!」


 少し距離を取った神楽に怒鳴る。


「別に。今のやり取りでボクは三度しか刀を振るえないから、引いただけだよ」


「何だよそれ」


「この技は儀式みたいなものなんだ。決められた回数しか刀を振るえない。その回数は徐々に増えていき、四回目のやり取りまでに決着がつかなければ、ボクは修羅になれる。言っとくけど、気絶させるっていうこの戦挙のルールなら次のやり取りまでに終わらせられなきゃ終わりだよ」


 静かに喋る、神楽。


「なるほどね。じゃあ勿体ぶらずにさっさとかかって来い」


「……そのつもりだよ。『肆撃滅殺しげきめっさつ』」


 気配が変わる。


 ビリビリと肌に神楽の剣気が突き刺さる。


 俺は手元を見つめる。


 右手に刀、左手に鞘。


 目の前の親友を倒すための強力な武器は無い。実力も無い。


 さあ、いよいよ敗北が目に見える。


 こっちはさっきの三連撃が限界だ。


 そんでもって向こうは今度は四連撃してくる。


 ……手詰まり。


 右手の刀を鞘に収める。


 俺に出来るのは奇跡を祈ることのみか。


 まあ起こらないから奇跡っていうんだろうけどね。


「さあ終わりだ。綺麗に散らしてくれよ」


 諦めの境地にいたり、薄い笑いを浮かべる。


 そんな俺に向かい、神楽が突っ込む。


 さっきと同じように俺は居合で迎え撃とうとする。


 そんな俺の刀を見飽きたとでも言わんばかりにあっさりと払いのける。


 次に鞘で殴りかかるがそれも神楽は止める。


 そして、先程と同じように体を捻って突きを放つ。


 が、コレは神楽が一旦後ろに飛んで躱す。


 射程を完全に見切って、体勢を崩した俺へしっかりと踏み込んで俺の腹へ刀を叩き込む。


 ゴボ!


 生々しい音と共に口の中に胃液と鉄の味が広がる。


 もう随分と味わっていなかった苦々しい味を口いっぱいにしながら、俺は膝を着く。


「終わりだよ」


「ああ、やっぱり強いな神楽」


 立って刀を向ける神楽を見上げながら投げられる言葉を受け入れる。


 葵ちゃんのためにも相打ちぐらい目指したかったけど、ここらが限界らしい。


 今日一日を思い返す。


 家を出る時は逃げたくて吐いてたけど、よくもまあここまでカッコ悪い勝ち方とはいえ生き残れた。


 あとは、葵ちゃんの結果が気になるけど、仕方ないか。


 目が覚めるまで葵ちゃんが残ってるといいな。


 神楽は完全に諦めた俺の顔を少し悲しそうに見ると神楽は刀を振るう。


 目の前に迫ってくる刀を冷静に見つめていると、がさりと頭上から音がした。


「勝手にあきらめないでよ!」


 突然の声と共に天上葵が神楽の真後ろに飛び降りた。あまりにも突然過ぎて、幻かと思った。でも、確かに神楽の後ろに葵ちゃんは立っており、刀を抜いて斬りかかっていた。


 この瞬間、神楽は驚いてすぐさま振り向いて葵ちゃんに対応する。


 完全に後手だったのに神楽はギリギリで葵ちゃんの刀を避け、横に薙いで葵ちゃんの右腕に撃ちこむ。


 肉が潰れ骨まで衝撃が伝わりそうな音が聞こえる。


 今の一撃で葵ちゃんが気絶したわけじゃないけれど、明らかな痛手を受けたことがわかる。


 だが、神楽も制限の四撃を撃ち切り、一旦その場を離れようとする。その行動は一対一なら絶対に咎められることは無かった。だが、この場にはすでに死にかけとはいえ俺がいて、神楽が安易に距離を取ろうとした瞬間を俺が『天剣』で追いかけた。


 脱力が上手く出来るほど万全の状態では無かったけれど、勝機があるならこの瞬間しか無かった。


 神楽が『天剣』で追いかけてくる俺を見て、そのまま残念そうな顔をする。


「……ズルいよ。やっとボクが……勝てたのに」


「悪い。でも、勝ちは拾っとく主義なんで」


 神楽も必死で俺の居合を止めようと刀を動かすが、今回ばっかりは俺の刀が速い。


 神楽の顎を撫でるように刀が通り過ぎ、そのあと、力なく神楽の刀が俺の体に触れ、神楽はそのまま俺に向かって倒れかかる。


 そんな神楽を受け止めて、


「悪い。勝負は間違いなくお前の勝ちだよ。ゴメンな」


 神楽にだけ聞こえるように小さく呟いた。


「彼、気絶したの?」


 気絶した神楽をその場に横にならしている俺に向かって葵ちゃんが話しかける。


「ああ。それで何しに来たの」


 精一杯、感情を抑えたつもりだった。


 だが、葵ちゃんが痛々しく右腕を押さえている瞬間、諦めと怒りが湧いてくる。


「何しに来たのって、私は天下くんを助け――」


「そのために、大事な利き腕痛めてどうするつもりだよ! まだ、個人戦に入ったばっかりで、葵ちゃん自身の怪我は大したこと無くて十分に勝利が狙えたのに。そんな状態じゃ、もう……。俺はさっきの戦いは別に負けても良かったのに、葵ちゃんが怪我するぐらいなら――」


 パシ! 


 乾いた音が響く。


 泣きそうな顔で葵ちゃんに向かって叫んでた俺を葵ちゃんがビンタした。


 驚いて葵ちゃんの方を見ると肩を震わせ、髪の毛が逆立たせ、怒っていた。


「負けて良かった。なんて馬鹿なこと言わないでよ! 最後まで勝ちを狙うんじゃ無かったの? さっきの戦い途中から見てたけど、ずっと諦めてたでしょ。負ける瞬間をずっと探してただけじゃない。潔い負けより惨めな勝ちの方が似合ってるよ。天下くんは。だから、助けたの。そこの彼となんか因縁があるのはわかったけど、今は私がパートナー。最後まで戦挙の間は助け合おうよ」


 最後は優しげにこちらに向かって手を差し伸べる。


 だけど、


「そのために、右腕怪我してどうすんだよ。馬鹿はそっちだよ。ほっとけば良かったのに」


 パシ!


 差し伸べられていた手がもう一度俺の頬を叩く。


 葵ちゃんは笑顔で俺を殴ってた。


「じゃあ、右腕の代わりになってよ。それならいいでしょ」


 葵ちゃんは俺を助けたことを悪いことだと思ってない。


 自分が怪我をしたっていうのに。


 逆に俺は一度負けた所を拾われたわけだ。望んだわけじゃないけれど。


 さて、これからどうしようか。当初の自分の思惑もドンドンずれて、俺の求めた戦挙の結果はどうにも起こりそうもない。


 だから、ここからは純粋に目の前のお嬢さんのお手伝いをしようか。


 お互い満身創痍で、何処まで足掻けるか。


 わりと結果は見えてるけど、今度も予想がずれてくれると面白いな。


「全く……俺の思い通りにならない人の筆頭だね。葵ちゃんはさ。出来るなら最後までそうあることを願うよ」

神楽くんも敗れました。


良い感じだね。ちょっとださい勝ち方でしたけど。


それではもうすぐ戦挙終了です。


あと、ちょっとです。


うん。


頑張ります。


感想いただけると嬉しいです。


ご意見ご感想アドバイすお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ