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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
36/50

親友として好敵手として

 九条と神楽が立ち去った後、すぐさま俺は電話をかける。


「もしもし葵ちゃん?」


「どうしたの、何度も連絡して。というより、さっきの電話はなんだったの?」


「そいつに関しては最悪で終わった。ああ、最悪だ。おかげで吹っ切れた。それで、一個頼まれて欲しいんだけど」


「何?」


「学園の林にすぐに来れる? そこで思いっきり『具現』を使って欲しい。ようは陽動で囮役」


「それ自体は出来るけど。何するつもり?」


「ちょっとだけ、頭に来てさ。学園の強豪を一人、いや、二人潰す。上手く行けば、実力者一人リタイアさせて、もう一人を精神的に追い詰められる」


 ああ、ここまで執着するのはいつぶりかなと思い返す。


 それだけ、許せなかった。


「ちょっと、声が怖いけど何かあったの?」


「出来れば聞かないでほしいな。最高にカッコ悪い話しかできない。そんでもって、俺はそれを許すこともできない」


「はぁー、わかった。じゃあ、今度、私のお願いも聞いてくれる?」


 ため息をつきながら了承してくれた。


 ありがたい。


「聞くよ。何でも言ってね。それじゃあ、早速頼むよ。コレは個人戦に移行したら意味が無いからね。タイミングに関しては俺が携帯をワンコールしたらお願いするよ」


「わかった。それじゃあ、また」


 電話を切り、拳銃に弾をリロードする。


 この戦挙は俺の理想通りに動いている。


 葵ちゃんはそれほど負傷しておらず、俺の最低目標である個人戦も見えてきた。


 俺の負傷は大きいが、最悪個人戦まで持てばいい。


 そう考えれば、じっとしてればいい。


 でも、ダメだ。


 裏切られるのはダメだ。許されない。


 九条には後悔を与えなきゃいけない。


 それに、神楽を倒せれば葵ちゃんがトップになれる可能性も増える。


 無理をするための言い訳を強引に作りながら俺は自分の気配を殺していく。


 あの連中を倒すのは、不意打ちで無ければならない。


 出なけりゃ返り討ちだ。


 落ち着いて、刀を握り九条と神楽が歩いて入った方向へ足を向ける。


 そうやって、俺は剣道部を壊滅させに行った。





 その結果がこのザマだった。


 神楽に裏をかかれ、九条は取り逃した。


 唯一の幸運は個人戦に移行しており、俺が倒されても葵ちゃんは敗北にならないことだ。


「どうしたの? 天ちゃんならてっきりこっちの目が見えない内に攻撃してくると思ったのに」


「お前が薄っすらとでも目を開けた瞬間から、こっちから仕掛けるつもりは無いよ。でも、意外だったな。仲間を犠牲にするなんて選択をお前がするなんてさ。それとも、剣道部の連中なんて仲間とも思ってなかったか?」


「剣道部のみんなは良い人ばっかりだったよ。みんな仲良くしてくれたし、この戦挙もボクのサポートに徹してくれた。剣道部は楽しい場所と時間をくれたよ。でも、ボクはそれを捨ててでも天ちゃんと戦いたい」


 目を大きく開き、真っ直ぐに俺を見つめ瞳に俺を写し、真っ直ぐな言葉を俺に投げる。


 けれど、それらは歪んで見えて歪んで聞こえる。


「どうして、そこまで俺に執着する?」


「どうしてって、決まってる。天ちゃんがあの日からずっと刀を握らなかったからじゃないか。ボクがどんだけ説得しても刀を握ってくれなかったのに、あの転校生があっさりと天ちゃんを説得したのはびっくりしたけど。この際どうでもいいや、天ちゃんと戦えるっていう結果だけあればそれでいい」


 やっぱりだ。神楽が見つめてるのは、昔の俺で、話しかけてるのは昔の俺だ。


「戦いたいって言っても、最後の戦いはオマエの勝ちだったじゃないか。神楽。まさか、あと五百回も戦えなんて言わないだろ?」


「……最後のアレは、勝ちとして認めたくない。追い詰められてたまたま発動した『放出』で勝ったアレは勝利として認めたくないんだ」


「アレはお前の勝ちだよ。文句なしでさ」


「ボクは剣術で勝ちたいんだよ! あの頃の天ちゃんは、刀を握らせたら誰にも負けなかった。ボクの仕掛けた攻撃は全て紙一重で躱わして、的確に急所を打ちぬいていく。そんな天ちゃんに憧れてボクも剣を磨いたんだ。あんな、まぐれの一勝で全て終わりにしていいわけないんだよ」


 神楽がヒステリック気味に叫ぶ。


 どうやらアイツの中で勝ち逃げしてたのは俺だったらしい。


「それでも、勝ったのはお前さ。それに、俺が剣を止めなくてもいずれお前が俺を抜いてたさ。お前は天才だし」


「ボクは天才なんかじゃない。ただ、天ちゃんの真似をしてただけ。天ちゃんの技術と覚悟をボクは学んだだけだ。だからこそ、ボクはもう一回戦わないといけない。ボクが天ちゃんを追い抜くために」


「お前が追い抜きたいのは、お前の頭の中で刀を振るってる子供の頃の俺だろ。もうそんな奴何処にもいないよ。今の俺はあの頃の俺とは違う。情けないただの卑怯者で壊れた人間もどきだ」


 自虐的に俺が呟く。


「違わない。だって、ずっと刀を握ってなかったのにここまで残ったじゃないか。あの頃とおんなじ様に天ちゃんは強いままさ」


 刀を握って俺の前に立つ小柄な少年はまるで自分の事のように誇らしげに語る。


 そんな、神楽に向かって俺は悲しげに話しかける。


「……あの頃だって、強くなかったさ。ただ、知り合った剣道少年が馬鹿みたいに強くてさ。そいつにたまたま始めの一回勝ったら嬉しそうに俺に憧れ始めてさ。それが嬉しくて努力しただけなんだよ。でも、そいつは天才でさ、俺ができたことはすぐに出来るようになって、勝てば勝つほど、相手の実力が上がってるのがわかって。その頃には大分仲良くなってて。負けたら仲良くなった関係が崩れるんじゃないかと考えた友達の少ない俺は必死に努力したのさ」


「……何を言ってるの?」


「あの頃の俺は全てを剣に捧げてた。でも、その理由は初めてできた友達を手放したくなかっただけだったんだ。そいつを喜ばしたいだけだったんだ。俺自身が刀を好きだったわけじゃない。まあ、そのうちわりと好きになったけどね」


 そこまで言って神楽を見る。


「楽しかったよ。あの頃はさ。毎日お前が道場に来て、稽古して試合して、そんで遊びに行く。そんな毎日が楽しくて仕方なかった」


「じゃあ、どうして刀を捨てたのさ! ボクが勝ったから? 本当に楽しかったならずっと続ければよかったじゃん。ボクだって、勝ったからって態度なんて変えなかった。ずっと同じ様に友達でいたし、ライバルでいたよ」


 その言葉はもうどうしようもない過去の後悔と行き場のない怒りが篭ってた。


「がんばり過ぎてたんだよ、俺は。お前と稽古して、遊んで、飯食って、学校行って。あとはずっと稽古してたんだよ。馬鹿みたいに鍛えて鍛えて。やりすぎた。それをジジイが心配してさ。あと、俺に『放出』や『具現』が使えない。才能が無いってこともわかって、そいつを含めて、いつか俺が潰れると考え、俺から剣を取り上げた」


 俺の話をじっと聞く神楽。


 先程までの笑顔はそこにはない。


「でも、今思えばあれで、良かったよ。神楽もずっと友達でいてくれたしね」

「良くないよ。だって天ちゃん、あの頃ずっと元気無かったじゃん。そのあと、天ちゃん壊れちゃったじゃん」


 壊れた、か。


 そういや、あの頃からだったかな。俺があの病気にかかったの。


「まあ、当時は多感な時期だったからな。一応、無天流の跡継ぎだと思ってたし。剣も好きになってたし」


「……恨んでないの? ボクを」


 怯えるような目で恐る恐る俺に聞く。


「どうして恨むんだよ。何の取り柄も無くなった俺とずっと友達でいてくれたじゃん」


 あの時、お前がいてくれたから俺は普通に生活出来てるんだよ。


 壊れてても、まともなフリして生きてこれたんだよ。


 感謝しかしてないさ。


 神楽に笑いかけながら口を動かす。


「ボクが勝たなければ、ずっと天ちゃんは剣を止めずにいたんじゃないの!?」


 その言葉は、否定してほしそうで、だけど、肯定してほしそうだった。


 きっと、アイツの中に理想の答えなんて無いんだ。


 俺がどう答えても傷つく。


 過去の自分を責める。


 だって、アイツはあの日からずっと囚われてるから。


 俺が刀を捨てた事実は消えないから。


 そして、そのせいで壊れてるから。


 だから、これからは真実を話そう。その言葉は神楽を傷つけると思う。


 でも、真実を話さなきゃ、アイツは延々と過去に囚われる。


 前に進めない。


 俺はもう進む気が無いけれど、アイツはまだ頑張れる。


 強者になれる。


 ならば、話そう。


 その結果、神楽は俺を恨むかも知れない。もう二度と話をしてくれないかもしれない。最悪もっと壊れるかも知れない。


 でも、立ち直れるって信じてるから。


 何より、アイツがどう思おうと俺はアイツの親友だから。


「……神楽、本当は言うつもりは無かった真実を言ってやる。ずっと、ずっと、俺はコレだけは言いたく無かったんだけどな。居心地のいい今までの関係が壊れることを恐れてさ。だけど、お前がずっとあの日に囚われてるなら、真実を喋るよ。お前が探して、延々と見つからないあの日の答えを教えてやるよ」


 話しかけられた神楽は喉を鳴らし、頬に汗を垂らしながら俺の話に耳を貸す。


 俺も緊張してるのか、俺の喉はカラカラだ。


 頭の中で喋るなって警報がワンワンなってる。


「実はさ、ジジイに剣をやめろって言われた日。俺はやめる気がなかったんだよ。ジジイの言い分は『放出』が使えないからやめろって言ってたんだ。だから、俺は道場の蔵を掘り返してさ、『神装』を探してたんだよ。擬似的でも、道具に頼っても『具現』みたいなことが出来ればいいんだろって、幼心に思っててさ。そこで、この『紅蓮』を見つけたんだ。最初のうちは全然解放もできなくてさ」


 懐かしい思い出を語っていく。


 手に持った『紅蓮』の初めての出会いも今思えば懐かしい。


「それでもさ、次の日には何とか出来たんだ。まあ、解放した瞬間にぶっ倒れたけどね。だから、お前に負けたあの日の次の日に学校休んでただろ。でも、俺は早くお前に会いたくて仕方なかったよ。それでさ、お前と次の日に学校で会った時、俺になんて言ったか覚えてる?」


 出来れば、忘れてて欲しいな。


 覚えていたらしばらくあの時のことばかり思い出すと思うから。


「覚えてるよ。『天ちゃん、おはよう。……あのさ、一昨日はゴメン。なんかわけの分からないまま勝っちゃったけど、あんなのボク認めてないから』って言ったはずだよ」


 しっかり覚えていた。


 一言一句間違えずに。


「……その言葉なんだ」


「えっ!?」


「俺が刀を捨てる気になったのはその瞬間なんだよ。もし、お前が俺に剣術を続けて欲しかったならば、俺にライバルでいて欲しいかったならば、お前が勝つこと自体は何の問題も無かった。どんな負け方でも、たとえ、純粋なる剣術で負けたとしてもそう簡単にはやめなかった。でも、ただ一つ、"謝るという行為"だけはしちゃいけなかった」


 俺と神楽の間に冷たい風が吹く。


 神楽は言葉を失って、目の光が一瞬陰る。


 そんな神楽に追い打ちのように俺は言葉を被せる。


「別段怒ったわけでもない。事実、俺としてはお前と友達のままいられると思って嬉しかった。でも、同時にお前にはもう勝てないと思った。あれだけ、欲しがってた勝利を謝って、無かったことにしようとした時から、今までの勝ちが全部信じられなくなった。それまでの勝利を全て譲られてた気分になったし、お前自身の器のでかさも感じてさ、俺が敵わない奴だって思えた。だから、あっさりと刀を置けたんだ」


 口から出た言葉は全て真実だ。


 あとは、神楽がどう受け止めるかだ。


「……ははは、天ちゃん。さすがだね。そうやって、精神的に追い込んでボクの刀を鈍らせるつもりなんだね。その手には乗らないよ」


 不気味な笑いと曇った目で話しかけてくる神楽。


「……全部真実だよ。俺が刀を捨てたのは、お前の偶然目覚めた『放出』による勝利でも無ければ、俺の家のジジイの方針でもない。ただ一言。神楽、お前のたった一言なんだよ」


「嘘だ!」


 喉から血が出そうなほどの大声で叫ぶ。


 きっと、アイツは信じたくないだろう。


 アイツが求めていた、好敵手を失った原因が全て自分にあるなどと。


 アイツとしては偶然の勝利か、家の理由であって欲しかったんだろう。


 だが、真実は神楽自身の行動で引き起こされていた。


 そんな真実を真正面からいきなり受け止められるわけがない。


「そうだ! ついに、ボクも壊すつもりなんだね。そうだよ。天ちゃんが今回の戦挙でいきなりやる気出したのも誰かを壊したくなったからでしょ。あの頃みたいに、破壊願望が戻ったんだ。さっきだって、九条先輩を壊そうとしてたし。だから、ボクを精神的に追い詰めようと――」


「俺はお前にだけは、破壊願望を抱いたことは無いよ」


 俺は、丁度刀を捨てた頃に起こったもう一個の事件のせいで、ある、病気に罹った。破壊願望と勝手に俺が名付けた。


 ある特定の性格の人物と裏切られるという行為に関して発動する。


 発動した時、そいつの人格そのものを壊したくなる。


 俺のそれを知っているのはそういないが、信頼している幼馴染である神楽には話していた。


「俺が破壊願望を抱く対象と行為は言っただろ。明確な約束を能動的に破ることと俺が憧れる性格の持ち主だと」


 そうだ、俺自身も本能的にその感覚に陥るので、対象となる人物についてはかなり曖昧だが、大体この傾向が強い。


 例えるなら綺麗なものや無垢なものををどうしようもなく汚したくなる感覚に近い。


 綺麗な海に唾を吐きかけるように。


 サンタクロースを信じている子供に唐突に真実を突付けるように。


 コウノトリを信じてる子供に無修正のポルノを見せるように。


 俺が憧れる奴の心をどうしようもなく壊したくなる。


 そして、壊れてる姿を見て、安心とそいつに対する期待はずれな気持ちを感じて一瞬だけ俺が救われてる気持ちになる。


 どうしてか、わからない。でも、どうしようもなく壊したくなる。


 だから、病気なんだと言われた。 


「でも、お前にだけは抱いたことは無いんだ。だって、神楽、お前は俺がこの病気に罹った時もう壊れてたから」


 もう、嘘はつかない。真実を隠しはしない。


 俺たちは戻れない場所まで踏み込んでるかもしれないけど、振り返りはしない。全部伝える。


「お前は俺に勝ったあの日から延々と後悔に取り憑かれて壊れてるんだよ。だから、俺はお前に大して一度も破壊願望なんて抱いたことは無い。俺の憧れる、理想とした、弐宮神楽はあの日に囚われて足なんて止めてない! 俺なんか歯牙にもかけず、ただ強さを求める修羅だから」


「黙れ!」


 叫ぶと同時に刀を地面へと叩きつける。


 刀が折れるのではないかというくらい、思いっ切りよく叩きつけられた刀は地面に突き刺さる。


「もういいよ。黙ってよ。神乃天下。ただボクは、あの日の続きがやりたいだけなんだ。だから、早く刀を抜いてよ神乃天下」


 俺のことをフルネームで呼び始める。もう、愛称では呼んでくれないのかな。


 天ちゃんって呼び方はずっと嫌いだったけど、呼ばれないと寂しいもんだな。


「どれだけ、あの日の続きを望んでも、結果なんて見えてるだろ。お前が『放出』を使わず、俺が『神装』を使わなければ、ただの純粋な剣術勝負になれば勝つのはお前だよ」


「違う。ボクの知ってる天ちゃんはそれでも勝つんだよ。神乃天下!」


「お前の空想の中の天ちゃんだろ。きっと、お前の知ってる目の前の神乃天下じゃ負けることわかってるだろ」


「……」


 黙りこむ神楽。


 ふう、ゆっくりと現状を確認する。


 このまま逃げるのは厳しい。追いつかれてゲームオーバーが目に見えてる。


 かと言って、戦って勝つのも厳しい。『紅蓮』を使えば勝算はあるかもだけれども……。


 目の前の泣き出しそうな親友を見る。


 もしかしたら、アイツはこのまま完全に壊れるかも知れない。


 その時、アイツの望みを叶えずこの戦いを終わらせていいのか? それに俺は納得できるのか?


 …………ゴメンな葵ちゃん。


 多分俺はここで終わりだ。


 本当は個人戦の最後まで見届けたかったけど、あとは頑張れ。


「わかったよ。弐宮神楽。ちょっと、話が長くなりすぎたが、戦いをはじめよう」


 とりあえず、俺は神楽にそう言いながら、ポケットから『バレットパレット』を取り出して地面に置いた。


「そんでもって、お前が望んだ通り、剣術のみでの勝負だ」


 刀を左手で握り締める。


「かかって来いよ。心配しなくても全力でやってやる!」


 構えを取ると、神楽が刀を地面から抜く。


「うぁぁああああああああああああああああああ」


 雄叫びというよりも悲鳴を上げながら神楽は刀を振りかぶり襲いかかった。

 

新年初更新やったね。


天下くんと神楽ちゃんの戦いツイに次から刀をあわせます。


まぁ、天下くんが負けても、もう個人戦に移行してるからいいよね。


主人公なんてあってないようなものだよね。


……何とかしなくちゃいけないか。


ご意見ご感想アドバイス。

切実にお待ちしております。

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