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学園戦記  作者: 藁部 御門
戦挙編
33/50

鬼ごっこ 2

「ふふふ、久しぶりじゃのう。進んでワシに刃を向けた奴は」


「そうかい、鬼退治してくれる桃太郎はいなかったのかよ」


「『天帝』が最後だったな、丁度去年の今頃だ」


「ああそう、ところでさ、助けたかった九条さんも逃した今、俺が馬鹿正直にアンタと戦う義理ってあるかな?」


「逆に聞くが、ワシが簡単に逃がしてやるように見えるか?」


 ニヤリと笑いながらこちらを見てくる鬼束に俺はため息をつく。


「そうなりますか。まあいいや、それじゃあ鬼ごっこの始まりだ」


 言うか見たかに、鬼束が飛び込んで襲い掛かってくる。


 その攻撃は思わずカウンターを入れたくなるほど大振りで隙が大きいものだったが、奴相手には意味が無い。


 相手の飛び込みに合わし、バックステップする。


 鬼束の一撃は先程まで俺がいた位置の地面に撃ち込まれる。


 その一撃は地面がめくり上がり、周りの木々がざわめくほど強力だった。


 鬼束の攻撃を受け止めることは無理だな。


 まあ、アレほど大振りならそうそう当たりそうもないけれど。


 攻撃を躱された鬼束はそれを気にすることもなく、後ろに下がった俺に向かってさらなる追撃してくる。


 まずは蹴り、その一撃も後ろに飛んで躱す。が、どうやらそれは釣りだったようで、今度は俺の着地地点に正拳突きで追撃してくる。


 流石に空中で方向転換できないので、その正拳突きを刀で強引に横へずらす。


 僅かに体をかすり、そのまま俺の体が後ろに吹き飛ぶ。


「かすっただけでこれかよ」


 苦笑いしながらたたらを踏んで踏みとどまる。


「……気に入らぬな」


「何がだよ」


「おぬしどうして今の状況でそれほどヘラヘラしていられる」


「――怖くないから」


「何?」


 眼光鋭く睨みつけられる。けれど、俺の顔は張り付いたように笑みを浮かべたまま会話を繋げる。


「俺はさ、別にアンタのことけなすつもりは無いけれど、一個だけ気に入らないというか、似合わないと思う部分があるんだよ。ちなみにわかる?」


「……」


「アンタの序列さ。言っちゃ悪いけどアンタが『天帝』の次にいるのはどうも似合わない。オマエじゃ序列二位は役者不足ってやつじゃないかな」


「それがどうしたというのだ。オマエではワシには勝てん」


「アンタの強さってのは、その鎧だけなんだよ。さっき受けた攻撃も威力こそ申し分ないけれど大振りすぎで全然洗練されてない。自分の防御力に身を任せ反撃無視の攻撃しかしてこなかったからキレがなさすぎなんだよ」


「だから、なんだ。ワシの攻撃があたらなくても、オマエも攻撃が当たらないのであれば意味などない」


「……話変わるけどさ、盾と矛ならどっちのほうが向けられて怖い? 俺は断然矛なんだけどさ。それってさ、自分が危険を感じるからだと思うんだ。あって心強いのは盾でも相手に恐怖を与えるのは矛だ。そして、強者は恐怖を与えるものでなければならない。これは俺の持論だが、強者は恐者か狂者しか務まらない。そんでもって、鬼束さん。アンタはそのどっちも当てはまらないんだよ。だから、その序列は似合ってないし、俺はアンタが怖くない」


「もういい、黙れ!」


 流石に怒ったのか会話と呼べるか怪しい俺のおしゃべりを断ち切り殴りかかって来る。


 真っ直ぐ顔を狙った一撃を俺は軽く首を捻って躱す。


 そして、そのまま懐に手を当てて、足を絡めその場に転がるように投げる。


 あくまで威力重視の拳撃は体重が常に前のめりであり、あっさりと重心を崩してその場で転がる。


 俺はそのまま軽く距離を取る。


「どうしたよ、鬼束先輩。手も足も出ないじゃないか。だるまさんが転んだをやってるつもりは無かったんだぜ」


「貴様はよほど、ワシを苛つかせるのが得意らしい。五体満足で戦挙を終えれると思うなよ」


「ははは、ちょっとは迫力出せるじゃないか。そんでもって、さっきのアンタの問いの続きだ。実は怖くない理由はもう一個あるんだ。盾は攻撃を通さないから役に立つ。だけど、そんな盾を無視できる力があったならどうする? そんな奴が盾を持ってる奴を怖がる理由なんてある? 信じるか信じないかは自由だけど俺がヘラヘラしてる理由はそれだよ」


「いきなり面白いことを言うじゃないか。なら何故オマエは反撃してこない。さっきのようなその場しのぎの投げ技でワシに勝てると思っているのか」


「流石にそれほどアンタを舐めてるわけじゃないよ」


 一旦会話を切って辺りを見渡す。


 ホントは『バレットパレット』で目潰しして逃げるつもりだったんだけどここまで言って逃げるのもあれだし、周りにも誰も居ないし切り札の試し切りといこうか。


「いいよ。本気出してみようか」


 俺は右手で刀の柄を握りトリガーを引いて刀を抜き放つ。


 ずっと鞘に入っていた、赤い刀身が白昼露わになる。


「"世界が紅く燃えるのは、私が赤く濡れたから"『神装展開』目覚めろ『紅蓮』!」


 詠唱が終わると同時に『紅蓮』の刀身が熱を帯び、真っ赤な炎に変わる。


 解放したのは実に何時ぶりだろう。


 解放と同時に全身の力が吸い取られていく感覚に襲われる。


「な、何なんだ。それは! 何でそれほどの気を宿したものをオマエのような序列下位が!」


 どうやら、鬼束もこの刀の危険性はわかるらしい。


「逆だよ。弱いから強い物に頼るんだよ!」


 そのまま俺は鬼束目掛け刀を振る。 


 向こうも先ほどまでの攻撃と違うことを察知して回避行動を取ろうとしたが、それまで鎧に頼りきっていた人間が間合い管理をしっかりとできているわけもなく、あえなく剣先が向こうに届く。


 先程までこちらの攻撃を弾き返していた、鬼束の鎧はバターにナイフを突っ込んだようにあっさりと切り込まれる。


「何っ!」 


 切りつけられた部分から刀身の炎が燃え移り、相手の『具現』を燃やし尽くしていく。


「ぐぁあぁぁ」


 わめき声を上げ苦しそうにこちらを見る。


「苦しかったらどうぞ、負けを認めな。それで終了さ」


「黙れ、舐められたまま終われるか。ワシは、神武学園序列二位鬼束纏だ。貴様には負けん!」


 大声を上げ、自慢の鎧を焼きつくされながら、こちらに向かって一直線に向かってくる。


「うおオオォォお!」


 振り上げた拳は執念が篭ったからか、先程よりも疾く力強そうに見えた。


「ようやく、私も一太刀入れられるわ」


 すると、突然近くの木から鬼束目掛け九条が飛び込んでくる。


「"過ぎたる力は封じられ、全てを平等と為す"『具現』『封印指定ハンディキャップ』」


 背後から袈裟懸けに振り下ろした一撃は鬼束の捨て身の行動を止めはしなかった。だが、全身全霊の力を込め振り上げたであろう右腕が切りつけられた瞬間から力なく垂れ下がった。


 右腕に刀は一切触れてはいなかったのに。


「何ッ!!!」


 力が入らなかった右腕に鬼束が意識を割いた瞬間今度は俺が鬼束に向かって踏み込む。


 狙いは顎。


 下段から天空に向かい振り上げた刀で喉を沿うように顎を捕らえた。


 空中に軽く巨体が浮き、そのまま背中から地面に倒れる。


「ワシがこんな所で……」


「残念だったね。でもここで負けるのは似合ってるよ」


 最後までニヤニヤしながら俺は鬼束の首輪が赤く灯るのを見届けた。


「ふぅ」


 そして、すぐさま『紅蓮』を鞘へと収め地面にへたり込んだ。


 一生懸命息を整えようとするが、中々思い道理にならない。


「大丈夫?」


 九条が俺の背後から声をかける。


「ああ、すぐ収まる。っていうか、どうして逃げてないんだ?」


「気配を消すのは得意だから一旦離れた後、様子を見に戻ったのよ。まさか、アナタが勝ってると思わなかったけど」


 なるほど、そんでもって俺の切り札も見られたわけだ。


 最悪だ。


 やっぱり人助けなんてするんじゃなかった。


 『紅蓮』は解放するととんでもなく自身の気を喰われて、フラフラになるし、本当は神楽と『天帝』用の秘密兵器だったんだけどね。 


「それで、色々聞きたいことができたんだけど」


「そこは、お互いに聞かないことにしないか。九条先輩だってその『具現』の能力を説明したくはないだろ?」


 俺と九条は現在は共闘しているが、もうすぐ同盟関係は解消だ。


 そうなったら敵に回るわけである。ならば、ここで別れた方がマシである。


「というわけで、そろそろ別れようぜ。あと、個人戦に移行した時は今回の事は気にしなくていいよ。俺も気まぐれで助けただけだから」


 俺もかなり苦しい状態ではあったが、ようやく息を整え、そのまま九条とは顔も合わせずその場を後にしようとする。


「ああそう、わかったわ」


 簡単に言葉を交わし、背後を見せてその場を去ろうとした瞬間、さっきまでそこにあった気配が消えた。


 それと同時に俺が背後に振り返る。


 そこには迷わず刀をこちらに向けて振るう九条の姿があった。


スイマセン。

もう一個載せます。


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